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テーマパークと風船と後日談2
しおりを挟むーー俺が最初に風船をあげたかった。
俺のシフトをこっそりと確認していたのは知っていた。だけど、まさか、俺以外の着ぐるみに相談するなんて、それは予想していない。
ごめんね、と会話を終わらせた彼の腕を、大きくなった手で掴んで、引っ張るようにぐいぐいと歩き出す。
ーーびっくりした顔も可愛いなんて、卑怯だ。
必死に抵抗する彼をバックヤードに引っ張って押し込むと、びっくりした顔と目が合った。
「…ど、どうして?」
震えた声で問う広瀬を無視して鍵を閉める。
「ぼく、なんか悪いことした…?」
まだ握りしめたままの彼の腕から大きな手を外すと広瀬が後ずさるのが見える。
彼が嬉しいと喜んだ黄色い風船はもう俺の手にはない。彼を引っ張っている道でいつの間にか空へ浮かんでいた。
「…広瀬」
自由になった手をゆっくり顎へ持って行く。
今から俺がしようとしていることが分かったのか、彼がしきりに扉へ目を向けている。
「逃げないで」
「え…」
さっきより鮮明になった視界で、広瀬とようやく本当に目が合う。
口をぱくぱくとさせて、みるみるうちに赤くなっていく顔は、さっき広瀬が言っていたピクニックの前日よりずっと赤かった。
「俺」
「ばかっ!!」
恥ずかしさで逃げようとする広瀬の腕を掴む。
そのまま急いで胸の中に閉じ込めたけど、大きすぎる体のせいで、広瀬の体温をまったく感じられなくて物足りない。
「なんでいるの!」
”なんで”と”ばか”を繰り返す広瀬は、涙目になって唇を噛んでいた。恥ずかしさと怒りでぐちゃぐちゃになって叫ぶ彼を宥めるように、抱きしめ続ける。
ピンクのうさぎじゃない、黄色い犬の体で。
「今日はシフト入ってなかったじゃん…!」
「…広瀬が悪い!」
俺のシフトを確認していたのは知っていた。
そして、さりげなく、俺のいない日の予定を聞いてきたのも気付いていた。
「僕が悪いの?」
「悪い」
「…僕が悪いから、この着ぐるみ着てるの?」
「うん」
意味が分からないという広瀬にイライラする。
だって、ついさっきまであんなに…、あんなに!
「広瀬が悪いよ!あんなに可愛い顔で相談なんかして!」
「えっ?」
「俺にだけ見せてよ」
「ん?」
「今日だって俺以外がこの着ぐるみに入っていたらどうするわけ?」
「…どうもしないけど」
「もっと自覚を持ってよ!」
「…なんの?」
「可愛い自覚!今日は俺だったからこれくらいで済んだんだよ」
「いや、むしろ本田くんだからこうなったんじゃ」
「とにかく、広瀬が悪い」
「…」
「…」
「……」
「…広瀬?」
黙ってしまった広瀬に不安になる。
肩も震えている気がして少しだけ我に返った。
「…広瀬…俺…」
「くっ…ふふふっ」
「広瀬?」
「ほんと、ばか」
顔をあげた広瀬は綺麗な笑顔で俺に告げた。
「だけど、好き」
なんで今、着ぐるみなんて着てるんだろう。
思いっきり彼を抱きしめたいのに、どれだけ強く抱きしめても、彼を抱きしめるには大きすぎる体が邪魔だった。
「俺も好き…っ!」
「ふふ、ごめんね。他の子に浮気しちゃって」
「そうだよ、許さない」
「…ふふふっ、気を付けるね」
「ほんとに気をつけてよ。ただでさえ、広瀬は綺麗で可愛いんだから」
ころころと笑う広瀬可愛らしくて、本当に誰にも見せたくない。着ぐるみのバイトだって、すぐ辞めるつもりだったのに、恋人の俺と、着ぐるみの俺に向ける顔が少しだけ違うせいで、こうしてずるずると続いてしまっている。
「僕のこと、好き?」
どれだけ俺を翻弄したら気が済むんだろう。
今日、こうして違う着ぐるみを着ていることだって、無理矢理、半同棲にさせた部屋だって、講義の度に迎えに行く大学生活だって、全部、全部、俺が独占したいだけだって分かっているけど、彼がこうして無邪気に笑うから止められない。
「…広瀬は意地悪だ」
「ね、好き?」
「………………好きだよ」
「じゃあ許してくれるよね?」
「……うん…」
お世辞にも綺麗とは言えない狭いバックヤードで、本田くんと一緒にお礼言うだけならいいでしょ?と笑う広瀬に、俺は絶対にダメと答える。
一人でも一緒でも、まだころころと笑っている広瀬を、誰かの瞳に映すなんて耐えられない。
「あと1時間で今日のバイト終わるから…」
「うん、部屋で待ってるね」
「…絶対待ってて」
本当は一緒にいたいのを我慢して広瀬を見送る。
あと1時間。彼を独占するために着た、着ぐるみを被り直して、俺はまた風船を配り始めた。きっと、彼は俺の言う通り、部屋で可愛らしく俺を待っててくれるから。
「あ、いたいた!」
「久しぶり。僕、彼と恋人になれたよ、あのときは黄色い風船ありがと!…うん、そう、隣の彼が僕の恋人だよ」
隣で自慢げに笑う広瀬はやっぱり憎たらしいほど綺麗だった。
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