大工のおっさん、王様の側室になる

くろねこや

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『お茶会にいらっしゃい』


さよなら、どこかにいる母。

さよなら、隣国の兄さま。

王妃様から届いた“呼び出しの手紙”を読んだ瞬間、オレは『ついに殺されるのか』と背筋を凍らせた。


ところが。


「セブルトが後宮に来てくれて助かったわ」

微笑むその美しい瞳と言葉に嘘はないようだった。

「リア様との子は、もう十分」


なるほど。

確か、王妃様との間には1人の王子、1人の姫。

第1側室との間には2人の姫、第2側室との間には1人の王子、1人の姫…だったか?

オレは男だから、これ以上の子どもは生まれない、という訳だ。後継者争いの火種になる心配もなく、王様の性欲を満たせる。


「あの人、あなたに一目惚れしたのですって」

「は…?」

いっけね。つい素が出ちまった。

くすくすと口元を扇で隠して上品に笑う王妃様。

「王都の教会…と言えば分かるかしら?」

あぁ、教会の修繕工事か。天井が高くて足場を組むのが大変だった…という記憶しか。

そういえば、視察しに来てたらしいんだよな…王様。

『一目惚れ』…かぁ。

筋肉と、髪と瞳の色と?

そんなものに惚れられたのか?

「リア様ね、『太陽神の化身とお会いした』ってとても興奮されていましたのよ」

『太陽神』…?

ん? 

あ…なんか…思い出してきたぞ。

確か、

『美しい方…太陽神様。あなた様の御足に口付けを…』とか言って、いきなり跪いたヤツがいたな。フードを目深に被ってたから顔は見てないんだけど。

まさかあの変態…げふげふ、あの男がリアスティード様だというのか?


じゃあしょうがない…、のか?

茶会を終え、自分の宮に帰ってきてからも頭の中がぐるぐるしていた。

正直『惚れられた』なんて、嬉しくない筈がない。

でも、あの頃はようやく現場を回せる立場になれて、

その日の飯に困らないどころか、美味い酒まで飲めるような小金持ちになってきたところだったのだ(一晩でほとんど使っちまうけど)。

家賃は一年分先払いだから、安心の我が家だったし(風に吹かれたら飛ばされそうなほどボロかったけど)。


一方で今のオレはというと…。

王様との性交が『仕事だ』と言われれば、『働いてる』といえるのだろう。

だが。こんな生活、まるでただの男娼じゃないか。…いや、“まるで”じゃない。“そのもの”だ。


母に連れられてこの国に来た。

新しい男を作った母に捨てられたものの、すぐ親方に拾ってもらえたから、そういった店・・・・・・からのスカウトを断って健全に暮らしてこられたんだ。

それなのに…兄さまに合わせる顔がないな。

母親が違っても、小さい頃からすごく可愛がってくれた兄。

この国で側室として暮らしていれば、いずれ夜会にも出なくてはならないだろう。外国からのお客様をもてなすのも仕事だからな。

いつかはあの兄とも会う日が来るかもしれない。

そっか。仕事、あったわ。

王様が兄さまに殺されないよう、オレが守らないと。戦争なんてイヤだからな。


あと出来ることといえば?

上下水道の整備とか、橋の建設とか詳しいし、多少は王様の役に立てることもあるかな。

崩れやすい崖とか、氾濫しやすい川とか、王様の力でなんとかしてもらえないだろうか。

お世話になった親方の故郷が危ない場所に近いんだよな。


そういえば親方にちゃんと挨拶できてねぇし。

王様が使いを出してくれて、オレの手紙を届けてくれたらしいけど、直接お礼を言いたかった。

『おう、ガキのくせに算術ができるのか!』

親方に拾ってもらえたのは、そのおかげだった。道端に空腹を抱えて座っていたらさ、建材を運ぶ荷馬車から紙がひらりと落ちてきたんだ。

ぼんやり眺めてたら計算が間違ってて、

『おじさん、これ、3408025だよ』

って紙を拾いに来た親方に言ったら、そのままオレも拾われたって訳。

つまり、オレに算術の先生を与えてくれた兄さまのおかげでもあるな。

強度計算とかだけでも任せてもらえないかな。ヒマだし。計算が苦手な親方が心配だし。

手紙出してみようかな。
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