冬は寒いから

青埜澄

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3話 

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 駅近くのもんじゃが美味しい居酒屋に九条さんを連れて入った。ここは立地が良く味も良い割に若い客が少ない。九条さんと二人で外に出かけるのは初めてだった。
本当は美味しいお店をいくつか探していたのだが、九条さんが「司の行きつけに連れてってよ」というので、いつも地元の爺さん婆さんで賑わっているこの古びた居酒屋に来た。
「へぇ、ここが司の行きつけか」と九条さんはどこか嬉しそうに店内を見回した。
「すみません、九条さんの雰囲気にはあんまり合わないですよね」
「そう?司はなんでここに通ってるの?」
「晩飯は浜本と食うか大体一人なんで、ここなら一人でも入りやすくて周りもガヤガヤしてるから寂しくないっていうか、周りの声を聞いていると一人で食べてる感じがしないっていうか」
「確かにそれいいかもしれない」
九条さんはそう言って、少し遠い目をした。まるで、その“寂しくない方法”をどこかで自分も探していたことがあるかのような表情だった。
おばちゃんに声をかけ、ビールとカルピスを頼むと、「なんだ、司は今日飲まないの?」と少し残念そうに言った。確かに先輩にだけ飲ませるのは後輩として如何なものかと思う。いつもの俺なら相手に合わせる。でもーー
「実は俺、酒よりジュース派です」
「そうなんだ」
 九条さんは微笑んだ。なんでも受け入れてくれるような優しい顔だ。
 飲み物が届き、チーズもんじゃと海鮮もんじゃ、その他にもいくつか注文して乾杯をした。
九条さんがこらえきれなくなったように笑った。
「ていうか酒飲まないにしてもなんでカルピス?」
「いいでしょ。濃い食べ物にはカルピスが一番合うんですよ。知らなかったですか?」
「うん、初めて知った。可愛い」
「…別に可愛かないでしょ。俺のこと可愛いとか言うの九条さんだけですよ」
「そう?皆思っても言わないだけでしょ。田口さんが司に構うのも反応が可愛いからでしょ」
 なんだか九条さんといると自分が乙女になったような気になる。そんな部分1ミリも持っていなかったはずなのに。
おばちゃんがテーブルの鉄板でもんじゃを作るのを待っている間、九条さんはその手際の良さに感心した様子でじっと鉄板の上を見ていた。そんな九条さんを見ているともんじゃを作り終えたおばちゃんが「イイ男連れてきたね」と俺の背中を肘で小突いて厨房の方へ戻っていった。やっぱり誰が見てもイイ男だよな、と思う。

 俺はカルピスをぐいっと飲んで本題へ入った。
「九条さん、俺たちの関係って何なんですかね?」
「あぁ、なんで?」
「あ、いや、今日の朝事務の女性たちに囲まれちゃって。最近九条さんと仲いいの?って…」
「で、司はなんて言った?」
「方角が一緒だからたまに一緒に帰ってるだけだって言いました」
「一緒に帰ってるだけね」
九条さんは微笑を浮かべてビールを飲んだ。ビールジョッキに視線を落としたその表情が少し暗く見えたがほんの一瞬で次の瞬間には笑っていた。
「そんなに深く捉えなくていいと思うぜ」
「……そうですよね。じゃあ他にも聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「いいよ。何聞きたいの?」
 九条さんはもんじゃを口に入れると「アチッ」と声を出した。
「あ、えっと九条さんって俺のことどう思ってます?」
「どうって…?可愛いと思ってるよ」
「それだけ?」
「面白いやつだなとも思ってる」
 そうじゃなくて俺のこと好きなのかってことが知りたいのに上手く聞き出せない。もしかして好きってわけじゃないのかな。そんなことに今更気がついた。さっきだって俺たちの関係について聞いたのになぜかはぐらかされた。
「じゃあ、その、俺以外とも家でああいうことしたりするんですか?」
「今まではね。そりゃ色々あったよ。…でも今は何もないかな」
「なんでですか?」
 九条さんは鉄板の上でもんじゃが焦げないようにヘラを動かしながら、ぽつりとつぶやいた。
「うーん、なんかさ。どうせ最後は選ばれないんだよね、俺って」
「は?」
「いや、別に重い意味じゃないよ。ただ、昔からそうだった気がする。付き合っても、一番になったことってないんだよ。誰かにとっての、“本気で向き合いたい人”になれたことって、ない」
 言いながらも笑っている。でも、笑いの中にほんの少しだけ、寂しさが混じっているような気がした。
「ふふ。司は俺に好きって言わせたいの?」
「違うんですか?」
「そうだね。でも別に司に同じ気持ちでいてほしいわけじゃないよ。俺は――二番目でいいから」

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