冬は寒いから

青埜澄

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「俺は――二番目でいいから」

 その言葉に、返す言葉が見つからなかった。
軽い冗談みたいに聞こえたけど、笑いながら言うには少しだけ、声が掠れていた。
その一言に、誰にも気づかれずに過ごしてきた寂しさとか、愛されることに対する自信のなさとか、そういうのが滲んでいたように思う。
なんだよ、それ。
そう思ったのに、口には出せなかった。
だってそれは、俺がずっと思ってたことだったから。
誰かの一番にはなれないって、諦めるように思ってたのは、俺のほうだったはずなのに。
……九条さんも、そうだったのか。
人気者で、なんでも器用にこなして、モテて、いつも余裕そうで。俺なんかとは違う世界の人だって、勝手に決めつけてたけど。そうじゃなかったんだ。ほんの少しだけ、胸の奥が痛くなった。
 もんじゃの香ばしい匂いが漂う中、九条さんはまた何事もなかったように「おいしいね」と笑って、次のもんじゃにヘラを伸ばした。いつものように、明るくて、余裕があって、隙がないふりをして。でも俺は、もう知ってしまった。九条さんのその笑顔の奥に、俺と同じような孤独があるってことを。

 家に帰る道すがら、ふと考える。
……俺は今、誰の一番になりたいって思っているんだろう。
気づいたら、電車の窓に映った自分が、いつもより少しだけ考え込んだ顔をしていた。

*

 昼休み、給湯室でカップ麺にお湯を注いでいると、隣にいた浜本が声をかけてきた。そういえば飲み会以来、彼とは顔を合わせていなかった。
「なんであの日、二次会来なかったんだよ。あの後めっちゃ楽しかったんだぞ」
 なんてことない調子の言葉に、俺はカップの蓋をそっと押さえながら答える。
「疲れてたんだよ、年末進行で。さすがにあのテンションに付き合う元気はなかった」
「ふーん。……お前も、来たらよかったのに」
 湯気越しに聞こえたその声は、ほんの少しだけ寂しそうで、ほんの少しだけ優しかった。
一瞬だけ胸がちくりとした。
たぶん前の俺だったら、それだけで救われてた。浜本が、俺のことを気にかけてくれてる。それだけで、充分だったはずなのに。
だけど――もう、違うのかもしれない。

 昨夜、九条さんが言った「俺は二番目でいいから」って言葉が、まだ頭に残ってる。
あの時、俺は何も言えなかった。でもあれはたぶん、冗談でも甘えでもない。俺が今までずっと言えなかった本音を、九条さんが先に口にしただけなんだ。
俺もずっと、誰かの一番にはなれないって思ってた。
でもそれを、そんなふうに――笑って済ませる九条さんが、少しだけ悲しく見えた。
そしてたぶん、俺は。
そんなふうに、自分の気持ちを隠して笑う人を、放っておけない人間だった。

「そうだな……来年は、ちゃんと参加するよ」
俺はそう言って、少し遅れて自分でも驚くような穏やかな笑みを浮かべた。
でもそれは浜本に向けた笑顔というより、自分に、ちゃんと向き合おうって決めた笑顔だったのかもしれない。

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