冬は寒いから

青埜澄

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5話 

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 終電が近い時間。人気のない歩道を、九条さんと二人で並んで歩いていた。
駅前のイルミネーションがどこか頼りなく光っている。だけど、どこか温かい光だった。
何かを言わなきゃ、と思っていた。だけど、何をどう言えばいいのかがわからない。
ただ、心のどこかで、ずっと“引っかかっているもの”を、誰かに預けたかった。
「……九条さん」
「ん?」
 いつものように振り返るその声が、今日はやけにやさしく感じた。
「俺、浜本のこと……ずっと好きでした」
「……うん」
「たぶん今も、少しだけ……。完全に気持ちが消えたとは言えない。……俺、ずっと中途半端で……」
 自分で言いながら、なんて情けないんだって思う。
でも、それが嘘じゃないから、本気で向き合いたいと思ったから、言わなきゃと思った。
「……でも、九条さんが言った“二番目でいい”って言葉を聞いて、それが、すげぇ苦しくて……。ああ、自分もそうだったんだって、思ったんです」
 一番じゃないって、わかってるのに、それでも誰かを想い続けてしまう気持ち。それを口にしたときの、九条さんの顔が忘れられなかった。
「俺、今までずっと誰かに流されて生きてた。自分の本当の気持ちは隠して。それが俺の生き方で、それで十分だと思ってた。でも最近、違って‥‥‥」
 だって今までこんな風に他人に内面を晒したことなんてなかった。もっと知りたいとか、もっと知ってほしいとか……そんな気持ちが、どんどん増えてくる。
それはいつも九条さんといる時だ。
恥ずかしいくらいに自分の欲に忠実な今まで知らなかった自分。
でもーー
「……なんていうか、九条さんと一緒にいる時の自分の方が、好きかもしれないんです」
 隠し事をしないで無理をしないでいられる時間。それをくれる人のことを、大事に思わずにはいられなかった。
「俺、ずっと“誰かに好きになってもらう”ことばっか考えてた。でも、たぶん今は……俺が誰を好きかのほうが、大事な気がしてます」
 その「誰か」は、もう、はっきりしていた。そして、ちゃんと自分の口で言いたかった。
「九条さんのことが好きです。だからもっと俺に時間をください」
 九条さんは数秒、何も言わなかった。
やがて、ふっと息を吐いて、俺の方をまっすぐに見た。
「……そっか。ありがとう」
 俺は震えていた。それは寒さのせいじゃなかった。九条さんはふっと微笑んだ。
「……じゃあ、俺のこと、もっと好きになる準備しといて」

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