冬は寒いから

青埜澄

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6話 

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 見慣れた部屋はいつもと同じだった。
九条さんの好きな香りと、整えられた生活感と、落ち着いた間接照明。
でも、心が違っていた。
静かに流れる音楽。九条さんが用意してくれたほんのり甘いココアの匂い。
横に座る九条さんの肩が、前より近く感じたのは、きっと俺の気持ちのせいだ。
「なんか……この部屋、落ち着くようになってきました」
「最初は逃げ腰だったもんね、司」
「……そうかもしれません」
 俺はソファの肘掛けにもたれながら、そっと九条さんの方へ目を向けた。
この距離が、妙に心地いい。
「でも今日、帰り道で話して、やっとちゃんと向き合えた気がします。浜本のことも、自分のことも……九条さんのことも」
「……うん」
 九条さんが小さく頷いて、そっと俺の手を握った。
「なんでこんなにあったかいんですかね、九条さんの手」
「司が冷えすぎてるだけでしょ」
「寒がりなんです。だから……温めてください」
 一瞬、間があって、九条さんがふっと笑った。
「笑わないでくださいよ」
「ごめん、可愛かったから」
 笑いながら髪を撫でる九条さんに、思わず顔を近づけキスをした。
触れた瞬間、九条さんの肩が少しだけ揺れる。けれど、離れようとはしなかった。
重ねた唇は、静かなまま熱を持っていく。呼吸を合わせるように、そっと、何度も唇を重ねた。
「……九条さん」
「ん」
「こうしてると、もっともっと九条さんのこと知りたくなる」
「……俺もだよ」
 九条さんがそっと俺の頬に手を添えた。そのまま髪を撫でる指が、耳の裏をゆっくりなぞる。
「ふ…」と声が漏れる。
くすぐったいような、くせになりそうな感触だった。
俺はそっと九条さんの胸元に顔を埋めた。柔らかくて、あたたかい。心臓の音が近くにある。
「心臓の音、早い」
「……好きな人がこんなに近くにいるからね」
 九条さんの声は少し低くて、やわらかくて、俺の中のどこかを震わせた。
唇がもう一度、ゆっくりと重なった。
互いを知ろうとするように、静かに、深く。
俺の背にまわされた腕の力が強くなるたびに、心の中の何かがほぐれていった。
俺は九条さんの手を握った。あたたかい。ずっとこうしていたい。もっと一緒にいたい。
「ねぇ、九条さん、冬は寒いから…またここに来てもいいですか」
 九条さんは、俺の手を少し強く握り返した。
「……来るの、理由いらないよ。いつでもおいで、司」
 


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