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5.禁書庫~第二王子が珍しく本を読む
しおりを挟む「…カトリーヌ様」
「マリア、遅かったわね」
先ほどと変わらず図書室の閲覧室で一人本を読んでいたカトリーヌ様に掛物を渡し、先ほどまでアルヴァート様が座っていた椅子に腰かける。
「…何かあったの?」
どうやら少し挙動不審になっていたようで、カトリーヌ様から心配された。
「実は、先ほどダイナム様から呼び出されまして…」
「えっ!?
大丈夫? なにもされなかった?」
さすがのカトリーヌ様も慌てる。
「…されておりま…いや、されました…ええ、バレーナ様が魅了魔法をかけてこようとしました」
「…なんですって…!?」
カトリーヌ様が言葉を失う。
「…そして、この瓶を…」
「…これは?」
さすがにカトリーヌ様にはその小瓶の意味が分からないようだ。
「…アルヴァート様の紅茶にこれを入れて毒殺しろと命令されました」
「…!?」
ついにカトリーヌ様は失神寸前。
「…まったくあのバカ兄様は何を考えているのかしら!?
しかもマリアの手で!?
本当に…」
ブツブツとダイナム様の文句をカトリーヌ様が独り言ちていると、アルヴァート様が戻られ、「どうかしたのかい?」と聞いてくれた。
「実は…」
そういってダイナム様とバレーナ様に先ほど言われたことをアルヴァート様にも説明する。
「…ふむ…魅了魔法か…なるほどな。
ハンナはそれにやられたと…おい、カトリーヌ」
「…ダイナムお兄様は…は、はい、あ、アルヴァートお兄様、お戻りでしたのね。
実はダイナムお兄様が…」
「ああ…マリアから聞いたよ。
まったく困ったもんだな…」
「…アルヴァート様、カトリーヌ様、こちらを」
「ん? なんだ、ラジオかな?」
ラジオはこの世界でも作られており、電池や電機の代わりに魔法を使ってニュースが聞ける。
「…これは、盗聴の魔法具です。
先ほど、ダイナム様の部屋に仕掛けてきました。
このラジオが受信機になっております」
「…マリア…素晴らしいわ!」
「…あまり危ないことはするんじゃないよ、本当に…」
賞賛してくれたカトリーヌ様に対し、アルヴァート様は頭を抱えているが、私を部屋に招いたダイナム様側がうかつだったといわざるを得ないだろう。
「…今は誰もいないようだな」
とりあえず受信機を起動して聞いてみたが、二人はダイナム様の部屋にはいないようだ。
「…そしてこちらですね」
「…だから危ないことをするな、マリア…」
そして掛物の中に忍ばせたもう一つの魔法具…録音魔法具を取り出す。
アルヴァート様はさらに顔を曇らせた。
「…魅了魔法によっぽどの自信があるんでしょうね…なんの警戒もせずに録音もできましたわ」
実際に先ほどのやり取りをアルヴァート様、カトリーヌ様とともに聞く。
「…うーむ…間違いないな、バレーナの声はほとんど入っていない…あぁ、最後に【こちらをご覧なさい】と言っている部分くらいか」
アルヴァート様はそれでも険しい目で魔法具を見た。
「…十分な証拠になるね…マリア、お手柄だ…しかしこれからは危ないことはやめるんだ、わかったね」
「お気遣いありがとうございます」
「…そして、俺の方も分かったことがあるんだ」
「そういえばお兄様、禁書庫で何を?」
私の報告に集中していたため遅くなったが、そういえばアルヴァート様は禁書庫で何やら探していた。
「…いや、今のマリア嬢の話を聞いて…すべてがつながったんだよ…」
「今の話?」
何やら深刻な話でありそうだ。
「ああ…君が話していたことと総合すると…間違いない、ダイナムもしくはバレーナが禁書による禁断の魔法を使っている」
「…そんな…」
カトリーヌ様はさすがに信じられないという顔をする。
「…父上の瘴気、ハンナの瘴気のかけら、バレーナの豹変…そしてマリアへの魅了魔法…すべてが一つにつながる禁断魔法がある」
「…それは…?」
カトリーヌ様が息をのんだ。
「悪魔召喚魔法だ…間違いない」
「悪魔…」
「召喚…?」
カトリーヌ様も私も言葉を失った。
「ああ…そして禁書庫にあった悪魔召喚魔法の本がなくなっていた。
記録上では俺くらいしか禁書庫には最近は行ってないし、この本は俺は持って行っていない。
そして禁書庫に入れるのは、父上、母上、俺、ダイナム、カトリーヌの5人だけ…」
「私は禁書庫に入れますが、一度アルヴァートお兄様と一緒に入って以来、入ったことはありませんわ」
「…とすると…」
「悪魔を召喚したのはダイナムで、バレーナが悪魔憑きになっていることは間違いない」
バレーナ様が昔のイメージと豹変していた理由もおそらくそれが理由だろう。
ダイナム様は国王の地位と兄の婚約者・バレーナ様を手に入れるため、悪魔召喚に手を染めたのだろう。
…にもかかわらず前世では聖女の私が婚約者になってしまったので、邪魔者が増えたのか…なるほど。
「…マリア?」
「…え、あ、ああ、失礼しました。
しかし悪魔憑きといえば…」
前世のダイナム様と今世のダイナム様の私への態度の違いを考えていた私にカトリーヌ様が声をかけた。
「…マリアの力が必要だね。
大丈夫かい、マリア」
「もちろんです…しかしこの瓶を持っている以上、アルヴァート様に何か変化がないと…」
「ねぇ、それって…お父様と同じ方法ではだめなの?」
アルヴァート様と私が今後について考えていると、カトリーヌ様がいたずらっぽい顔で口をはさんだ。
「…と、言いますと?」
「お兄様がこの毒で倒れた、体にすればよろしいのでは?」
「…なるほど。
俺が倒れたことにしてダイナムとバレーナをおびき寄せるか」
そういってアルヴァート様も何かをたくらむような顔をした。
そして私とアルヴァート様は離宮に向かい、カトリーヌ様が護衛とともにダイナム様を呼びに行った。
「とりあえず…俺達は離宮の国王陛下の部屋に向かおう…そこで俺は陛下の隣のベッドで休んでいるから、ダイナムが来たら、芝居を始めてくれ。
…と、その前に、さっきの小瓶を離宮の陛下付の医師に渡してくれるか?」
「わかりました」
そういってまずは例の小瓶を昔から陛下につかえる医師に渡して分析をお願いし、離宮の国王陛下がいる部屋に向かった。
「おぉ、アルヴァートに、マリア嬢。
何かあったのかね」
「ええ、実は…」
私はダイナム様、バレーナ様から言われた件をすべて国王陛下に話した。
「なるほどな…アルヴァートがここに運び込まれた、ということにするのか…。
その時にダイナムには儂も実は治っていることを伝えようと」
「左様でございます」
「では…ダイナムを待とうか」
私が説明を終えると、国王陛下とアルヴァート様はベッドに横になった。
「…失礼します、カトリーヌでございます」
「ダイナムです」
「バレーナでございます」
しばらく後、私たちがいる部屋にカトリーヌ様、ダイナム様、バレーナ様、そしてカトリーヌ様の護衛の女性騎士が入ってきた。
私はアルヴァート様の傍に立って呆然としている…風を装っていた。
「おい、マリア!
貴様が紅茶に毒を入れたそうだな!」
開口一番ダイナム様は私の胸倉をつかむ。
「ダイナムお兄様、落ち着いてください!
私はアルヴァートお兄様が、マリアの入れた紅茶を飲んだ後に倒れたとしか言っておりませんわ!」
「…フン、どう考えてもこいつがやったんだろうが。
だろう、バレーナ」
「…そうですね…聞いた状況からはマリア嬢が紅茶に毒を入れたとしか考えられませんわ」
その瞬間、カトリーヌ様がニヤリと笑う。
「…だ、そうですが、アルヴァートお兄様?」
「…毒、ねぇ…なんでそう思ったのかな、ダイナム、バレーナ?」
「あ、兄上!? ご無事なんですか!?」
「…そうさ。
カトリーヌが言っただろう…マリア嬢の紅茶を飲んだ後に、俺が倒れたって。
そう、俺は噎せて倒れただけだぞ?」
「…な、なに…カトリーヌ?」
「ですから、私は【マリアの入れた紅茶を飲んだアルヴァートお兄様が倒れた】としか言っておりませんよ?
ダイナムお兄様、バレーナ様?」
「…ど、どういうこと…」
バレーナ様は【魅了を確かにしたはずなのに】と口が動いたのがわかった。
「ダイナム、バレーナ…なぜ俺が毒を飲んだと思ったのだ?」
「そ、それは…」
「か、カトリーヌが血相変えて俺の部屋に入り、【アルヴァート様が倒れた】と言われれば…」
「それにしたって、毒だと思ったのはなぜだ?
…それはお前が毒をマリアに盛らせようとした犯人だからじゃないのか?」
「…な、なにを言い出すんだ兄上!
証拠もないのに…」
ダイナム様が明らかに慌てる。
「…アルヴァートこそ、なぜダイナムが犯人だというの?
カトリーヌが毒殺しようとしたかもしれないし、ほかに犯人がいるかもしれないでしょう!?」
「…だとしたらなぜ、【俺が倒れた】と聞かされただけで【マリアが俺に毒を盛った】と思ったんだ?」
「…」
さすがにダイナム様は答えを失い、バレーナ様も何も言う気がなくなったようだ。
「…ダイナム、お前にはまだ聞きたいことがある。
禁書庫から悪魔召喚に関する禁書を持ちだしたのはなぜだ?」
「…そ、そのようなことは…」
明らかにダイナム様が慌てる。
「禁書庫は、国王夫妻とその子供、今でいえば俺、お前、カトリーヌの3人しか入れないはずだ。
カトリーヌは俺と一緒に入った一度きりしか入っていない…俺は禁書はあの部屋の中で見てすぐに戻す。
しかし1冊どうしても見つからない禁書がある…それが悪魔召喚の書だ。
とすればお前しか持ちだすものはいないのだが?」
「…アルヴァート、その辺にしておきなさいな」
「…バレーナ?」
ダイナム様がもはや使い物にならないくらい震えてアルヴァート様への返答ができなくなったタイミングで、今まで後ろに控えていたバレーナ様が不敵に笑いながら前に出た。
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