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4.第一王子の婚約者~そして時々第二王子
国王様の瘴気を払ってから数日…。
「カトリーヌ」
「…バレーナお姉さま…ごきげんよう」
「ええ、ごきげんよう」
図書室で調べ物をしようとしたカトリーヌ様について王城を歩いていると、バレーナ様が声をかけてきた。
「…後ろの方は?
見かけない方だけれど?」
少し警戒したような顔でバレーナ様がこちらを見る。
「ええ…ハンナが少し体調を崩しまして…復帰するまでの間私の侍女としてついてもらっているマリアですわ」
「ごきげんよう、バレーナ様、マリアと申します、宜しくお願いいたします」
私が礼をするとバレーナ様はほんの一瞬不快そうな顔をしたが、すぐにふっと顔を緩める。
「…そう、ハンナさんの代理なのね…よろしく。
あぁ、カトリーヌ、アルヴァートを見なかったかしら?」
「お兄様ですか?
いえ、今日はお見掛けしておりませんが…」
「そう…どこへ行ったのかしら…ではごきげんよう」
そういってバレーナ様は我々が向かう図書室とは別の方向へ向かっていった。
「…さ、行きましょうマリア」
「はい、カトリーヌ様」
そういってカトリーヌ様と私は図書室へと向かった。
「…あの顔、気になるわね」
「…と、いいますと?」
図書室の王家以外入れない閲覧室へ入ると、カトリーヌ様がポツリとつぶやいた。
「…先ほどのバレーナお姉さまの、あの不快そうな顔よ。
明らかに初対面のマリアに向けていたわ…」
「…そうですね」
時間が巻き戻る前のダイナム様の婚約者として王城にいた時とは異なり、今回の私はカトリーヌ様の侍女、しかも表向きは体調を崩したハンナさんの代理としての臨時だ。
ダイナム様の婚約者だったときはだいぶいろいろ言われたりもしたが、今回はダイナム様に言い寄っているわけでもなく、カトリーヌ様のおそばにずっといるわけだから、バレーナ様に不快な思いはさせていないはずだ。
それでも、一瞬だけ見せた不快な表情は何か引っかかる。
「…相手が見おぼえない女性というだけであんなに不快に思うものでしょうか」
「…いえ、ほかのメイドが王城に来たときはあんな表情されなかったわ…マリアだけよ」
そういってカトリーヌ様は何かを考えこんでしまった。
「ここにいたのか、二人とも」
「あ、アルヴァートお兄様」
考え込むカトリーヌ様に声をかけてきたのはアルヴァート様だった。
そういえばこの部屋は、国王様、王妃様、アルヴァート様、ダイナム様、カトリーヌ様以外でここに入ろうとすると、どなたかと一緒に入る必要がある。
私はカトリーヌ様のおそばにいなければいけないから入れたというだけだ。
「どうされたのですか?」
「少し調べ物をね…そしたら」
「あ、これですか」
「それだ」
どうやら見ようとしていた本がなかったアルヴァート様がどこに行ったのかと探していたら、ちょうどカトリーヌ様の調べている本だったらしい。
スッと、カトリーヌ様は自分のお調べ物を終わらせ、アルヴァート様に本を差し出す。
「ありがとう」
「ええ…そういえば先ほどバレーナお姉さまがお兄様をお探しでしたよ?」
「バレーナが?
数十分前に会った時には何も言っていなかったのに…」
不思議そうな顔でアルヴァート様が首を傾げた。
「ふむ…マリア、あの時のバレーナお姉さまはアルヴァートお兄様をお探しだったわけではなさそうよ?」
「…そう、ですね」
「どうかしたのかい?」
さらに不思議そうな顔でアルヴァート様がこちらを見る。
「ええ、先ほど、バレーナお姉さまに声を掛けられましたが…お兄様をお探しとのことだったんです。
そしてマリアが何者か尋ね、私の侍女だと答えましたわ」
「…なるほど、それはマリア嬢が誰であるかを聞いておきたかったのだろう。
何しろ、ダイナムの傍に行く可能性のある女性だからね」
そういってアルヴァート様は肩を落とす。
「…お兄様」
二人には私の時間が巻き戻る前の話はすでにしている…ダイナム様の婚約者として苦労していたことも…。
「あ、ああ悪い」
コホン、とカトリーヌ様は居住まいをただす。
「しかしマリアを紹介した直後、ふっと不快そうな顔をバレーナお姉さまがなさったのです。
すぐに表情を緩めましたが…何かありそうですわ」
「…マリア嬢」
「は、はい?」
カトリーヌ様の推察にアルヴァート様が私を呼んだ。
「バレーナに異変はなかったか?
瘴気とか…?」
「…いえ、一瞬見ただけでは何も…」
「そうか…おいカトリーヌ、少しの間ここにいてくれるか?
俺は禁書庫の中に行ってくる」
「禁書庫!?」
禁書庫、それは王家図書室の地下にある禁断の魔法に関する書物を扱う、それこそ王家の人物以外禁制の部屋である。
「…いやな予感がするんだ。
しばらくの間俺はここでカトリーヌと調べ物について相談しているということにしてほしい」
「…わかりました。
マリア、申し訳ないけれど、部屋から掛物を持ってきてくれるかしら?
時間がかかりそうだから」
「…わかりました」
そしてカトリーヌ様の部屋で掛物と念のためとあるものをもって図書室に戻る途中…。
「君がマリアかな?」
「え、あ…は、はい、カトリーヌ様の侍女の、マリアでございます」
私が最も会いたくなかった人物から声をかけられた。
「少しいいかな?
兄上やカトリーヌだけじゃなく、俺とも話してよ?」
少し軽薄そうな笑みを浮かべるダイナム様だ。
「…あの、私、今カトリーヌ様のおつかいの途中で…」
部屋に戻る途中だと言いかけたが、ダイナム様は強引に「少しだからさ」と言って私を部屋に連れ込んだ。
「ダイナム、行動が早いじゃない?」
ダイナム様の部屋に入ると、そこにはすでにバレーナ様が座っていた。
ふと、先ほど持ってきたあるものを掛物の中にある魔法具を起動する。
「カトリーヌの侍女というから身構えたけど、子爵家の娘なのね?」
「…そ、そうです…実家は子爵家です…」
その時のバレーナ様は恐ろしいというにふさわしい顔をしていた。
その顔にとあることを思い出し、少し後ずさってイスをわざと倒す。
「…し、失礼いたしました」
とっさに倒したイスを立て直すため体をかがめ、その瞬間にソファーの下に別の魔法具を忍ばせた。
どうやら二人には見えていないようだ。
「そんなことはどうでもいいんだ。
さぁ、バレーナ、いつもの頼むよ?」
「…わかってるわ…さ、マリア…こちらをご覧なさい?」
「…?」
訳も分からずバレーナ様のほうを見る…すると体から黒いオーラのようなものが出ているのが見えた…瘴気に間違いない。
なるほど、これが魅了魔法か…私は聖女の力でかけられた魅了魔法を消しておく。
さらに私は、とっさに目の焦点をずらし、魅了に掛かったふりをする。
「…かかったようね…ダイナム?」
するとダイナム様は小さな瓶を差し出した。
「…マリア、これをお前に渡す。
アルヴァート兄上の紅茶にこれを混ぜて飲ませるんだ」
そういってダイナム様は小瓶を私に差し出す。
「…わかり、ました…」
そう言うのを見ると私に「さ、さっさとやってこい」とばかりにドアを開ける。
私は魅了にかかっていないことを気取られないよう、部屋から出た。
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