婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara

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6.悪魔憑き~第二王子の野望

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「バレーナ? 何を言い出すんだ?」
 アルヴァート様が怪訝そうな顔でバレーナ様を見る。
 それを見た私はとっさにアルヴァート様をかばって前に出た。
「…マリア?」
「…くっ、なぜ邪魔を…な、なぜだ!?」
 バレーナ様の手から黒い靄…瘴気が出ていることに気づいた私は、アルヴァート様に瘴気を当てないようにかばい、それを消滅させた。
「…バレーナ様…いえ、あなたはバレーナ様ではありませんね!
 おそらく…ダイナム様が呼び出した悪魔…そうではありませんか!?」
「…はん、あんたには関係ないことだよ!
 そこを退きな!」
「いいえ、退きません!」
 そういって私はバレーナ様の手をつかんだ。
「ギャァァァ!!
 オノレ…貴様、私に何をした!?」
 バレーナ様の顔がどんどん悪魔のそれになっていく。
「「バレーナ!!!」」
 アルヴァート様、ダイナム様が同時にバレーナ様に近づこうとするが、ダイナム様はカトリーヌ様の護衛騎士に、アルヴァート様は私に制されて近づけなかった。
「なぜ私が悪魔だと気づいた!?
 せっかくダイナムを操ってこの国をわがものにしようと暗躍していたのに!!」
「…なっ!!」
 吐き捨てるような悪魔の言葉に、何も言えなくなったのはダイナム様だった。
「なぜダイナム様を操ろうとしたのです?」
 私は冷静に悪魔に聞き返す。
「アルヴァートやカトリーヌのような優秀な王族がいると、我々が支配などできんだろう。
 ダイナムのような私利私欲にまみれた人間が傀儡にふさわしいのだ」
「…なるほど」
 私は納得した…そして王位とバレーナ様をわがものにしようとしたダイナム様との利害も一致し、協力関係にあったということだ。
「…どうやら貴様がここに現れたのが誤算だったようだな。
 なぜ貴様がここにいるんだ、聖女!!!」
「…わかってしまいましたか…さすがは悪魔ですね。
 さ…終わりですよ!」
「ぐぎぎぎぎぃ!! うっ…動けん!」
 私は聖なる力を使い、悪魔の動きを封じる 
「バレーナ!!!」
 バレーナ様の姿をした悪魔がもがき苦しむ。
 それを見てダイナム様がバレーナ様の名前を叫んだ。
「ぐっ…認めん…認めんぞ!
 この国は私のものだ…この馬鹿王子を操って国自体を支配するはずなんだ…」
「…えっ?」
 バレーナ様に憑いていた悪魔が苦しみながら、本音を言ったのだろう。
 利用していたつもりが逆に利用されていたことに気づいて衝撃を受けたのだろうか…今更過ぎると思うけれど。
「…お生憎様」
 そういって私は、聖女の力を強めた。
 
 そして気づくと、真っ白な空間にいた。
「…誰かいるの?」
 その奥から人の声がした…いやこの声は…。
「バレーナ様?」
「…ええ、私はバレーナよ…あなたは?」
 奥にいたのはバレーナ様だった。
 どうやらここは悪魔の内部で、そこにとらわれているバレーナ様の本来の意識と私の力が通じ合ったようだ。
「私は…カトリーヌ様の臨時の侍女、マリアと申します。
 バレーナ様…あなたを助けに来ました」
「そう…もしかして何かあったの、私の身に?」
 一度目も二度目も王城で再会した時の横柄な態度は全くない、昔私が憧れた公爵令嬢・バレーナ・リトルスカイ様がそこにはいた。
「バレーナ様…あなたが最後に見たものは一体なんでしたか?」
「…そうね…私が覚えてる最後の日は…ダイナムに呼ばれて…それで珍しく何かの本をダイナムが読んでいるなと思ったところで…意識がなくなったわ」
「…やはりですか…間違いありません。
 ダイナム様は悪魔を召喚し、バレーナ様を悪魔憑きにしていました。
 ここ数か月のバレーナ様は、ダイナム様と結託してアルヴァート様…から、ダイナム様に王位を移そうとされていました」
 アルヴァート様や国王様を殺そうとした、というのは私の口からは言えなかった。
「…そんな…王にふさわしいのはアルヴァートだというのに…」
「…バレーナ様」
 バレーナ様はやはりわかっている…それに最初は政略結婚でも、今はアルヴァート様のことを愛しておいでのようだ。
「とにかく、ここから出ましょう」
 そういって私は聖なる力を使い出口を探る。
「こっちです!」
「ええ!」
 私はバレーナ様の手を取り、出口の方向に向かった。
 そしてその道中も聖なる力を常に発動し続け、悪魔祓いを続ける。
 アルヴァート様やカトリーヌ様は大丈夫だろうか…。
 そして白一色だった周囲が少しずつまぶしい光を帯びてくる。
「あそこです!」
 そういって私はバレーナ様の手を取って、光の中に飛び込んだ。
 
「…リア…マリア!!」
「…カトリーヌ、様…」
 光の中に飛び込んだ後、私はカトリーヌ様の腕の中で目を覚ました。
 目の前には先ほどの恐ろしい形相が嘘のように、美しい顔で眠るバレーナ様、ダイナム様を取り押さえるアルヴァート様と、カトリーヌ様の護衛…。
「…戻って、来れたんだ…」
 その瞬間、バレーナ様からうめき声がした。
「…バレーナ様!」
「…マリア…」
 薄く目を開けた瞬間、バレーナ様は私の名前を呼んだ。
 私は聖女の癒しの力をバレーナ様にかけた。
 
 そしてその様子を見てダイナム様が力なくへたり込んだのがわかった。
「…ダイナムよ」
 その様子を後ろでうかがっていた国王様がダイナム様に声をかけた。
「…父上? こ、昏睡状態で何も話せないはずでは!?」
 へたり込んでいたダイナム様は、しゃべらないはずの国王陛下から声を掛けられ、背筋がシャキッとした。
 そういえば、国王陛下が目覚めたこと、この方は知らなかったわね。
「…貴様に悪魔の呪いをかけられ昏睡していたのだ…悪魔祓いされれば目覚めるに決まっておろう」
「…!! 俺は、そんな…」
 実際にはすでに私が聖女の力で治療していたのだが、このタイミングで伝えたほうが信ぴょう性が増す、というのは国王様のアイディアだ。
「…ならばなぜ、バレーナが悪魔憑きになり、その悪魔が祓われたと同時に父上が目覚めたのだ?
 悪魔召喚の禁書を手にすることができ、なおかつ俺に代わって国王になるという利点もある貴様以外に誰が悪魔召喚に手を染めた?
 それにバレーナまで巻き込むとは何事だこの戯けもの!!」
「…くっ…兄上…」
 すべて言い当てられ、言葉も出なくなり、そのまま崩れ落ちるダイナム様。
 もう抵抗する気もないようだ。
「…アルヴァート…お前の怒りは当然だ。
 しかし、ここで問い詰めても仕方ない…ダイナム。
 追ってお前の処置を言い渡そう。
 そしてカトリーヌ…お前のおかげで、聖女の力を持つマリア嬢をこの場に連れてきたこと、感謝するぞ」
「…ありがとうございます、お父様」
 そういってカトリーヌ様はカーテシーを作る。
「…そして、マリア嬢…すべては君のおかげだ。
 後ほど褒美を考えよう…王家を守る手腕、見事であったぞ」
「…ありがとう、ございます…」
 私も最後は令嬢らしくカーテシーであいさつをした。
 
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