チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

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チョイス伯爵家一同の怒り

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領民と屋敷の一同(一部除く)がずらりと並ぶ中、定刻より2時間遅れで王太子殿下の視察団ご一行がチョイス伯爵の屋敷にやってきました。

「遠い所、お役目ご苦労様です」
「うむ、世話になる。よろしく頼む」

殿下とチョイス伯爵夫妻が屋敷に入ると後を追うようにローゼの母も屋敷に戻ります。
表情を見ただけではわかりませんが、ローゼの母はライドに厳しい視線を向けている事を誰も気が付きません。

そして夕食が終わり、年老いた前チョイス伯爵夫妻、現伯爵夫妻、ローゼの母、親戚筋の面々がサロンで歓談をしております。
パーティという訳でありません。翌朝から午前中領地を視察する王太子殿下を夜遅くまで踊れ歌えとさせる事もできませんのでね。

1人、2人と親戚筋が王太子殿下に挨拶をして屋敷をあとにし、残ったのは王太子殿下とその側近を務めるライド、数人の護衛、そして前伯爵夫妻と現伯爵夫妻、ローゼの母、不肖の夫が面倒だととドンズラしたのでジャバ叔父さんの妻である夫人だけです。

「ライド、いう事があるのではないか」
「はい。場を設けてくださりありがとうございます」

王太子殿下がチョイス伯爵家の面々に向けて言葉をかけます

「私的な事に付き合わせて申し訳ないが、私の側近であるこのマーベル侯爵家の嫡男クイレスズライドルが謝罪をしたいとの事だ。受け入れるか否か、その判断に私は関与はしない。だが聞くだけ聞いてやって欲しい」

ソファを立ち、現チョイス伯爵(ローゼの母の兄)が王太子殿下に礼をします。

「承知いたしました」

「では、ライド」
「はい」

上記に書いた順番で並んでソファに座っているチョイス伯爵家の面々。
ライドは真っ直ぐにローゼの母の方向に歩いてきます。
そして、膝をつき、謝罪を口します。

「既に時が経っておりますが、矢面に立ち私のいえ、侯爵家の立場を守ってくださった事に感謝し、貴家のご令嬢に対し心より謝罪を。申し訳ございませんでした」

サロンの中は誰も言葉を発しません。
おや?王太子殿下‥‥どうしたんですか??

ライドが膝をついた前にいた女性が静かに言葉をかけます

「マーベル侯爵令息。ご令嬢とは‥‥どなたの事かしら?」
「えっ?いや…ドレイン…いえ…ローゼ‥嬢の事です」
「ならば、わたくしではありません。わたくし、男児しか産んだ事はありませんもの」

そうです。事も有ろうか王太子殿下が設けてくれた謝罪の場でライドはローゼの母でなく、ローゼの義叔母の前に膝をつき、謝罪をしたのです。
故意ではなかったとはいえ、相手が違う。まして9年間も婚約しており何事も無ければ義母となったはずの女性を間違ってしまったのです。

もう取り返しは付きませんが、ライドは慌てて隣の女性の前に移動しようとします。
しかし、ローゼの母はソファを立ちあがり王太子殿下に礼をします。

「王太子殿下。とても楽しい余興をありがとうございました。すみませんが年のせいか疲れが出てしまいました。年寄りの我儘ではございますが先に暇をさせて頂きますわ」

そう言って、片手でドレスの裾を摘まんで簡易のカーテシーをし、退室してしまいます。

ローゼの母は、これで切り殺されても構わないと敢えて、簡易のカーテシー。しかも片手でしかドレスを持ち上げないという無言の抗議を王太子殿下にしたのです。

まさか相手を間違うなんて王太子殿下も思ってもみなかった事です。
思わず額に手を当てています。
本来であれば着席しているメンツを見れば誰なのかわかったはずです。
前伯爵夫妻は明らかに年齢が上ですし、現伯爵は夫妻です。
ポンタ王国ではほぼ嫡男が家を継ぎますが、公式、非公式を問わず家族が揃う場では【出生順】に着席をします。
それは爵位に関係なく。

下座に女性が2人いればどちらかですが、一番下座にいる女性は婚姻中ですので髪を結い上げています。
ローゼの母だけが、髪を短くし結い上げていません。
明らかな違いがあり、間違いようがないのです。

おまけにローゼの正式な名前すらいえないとなるともう…伯爵家の者は言葉すら出ません。

「チョイス伯爵。申し訳ない」

しまいには王太子殿下が謝罪をするという始末。
ライドは犯してしまった過ちを謝罪するどころか、砂をかける行為に頭の中が真っ白になり動けません。

チョイス伯爵はライドの元に行き、その隣に膝をつきます。

「マーベル侯爵家が我が家をどう思われているか、しかと言葉を受け取り致しました」

そういうと、本当に不敬の中の不敬ですがチョイス伯爵家は全員がサロンから退室をします。
王太子殿下は何も言いません。

翌日、当たり障りのない視察をすると次の領に向かう視察団一行。
しかし、ライドだけは1人馬に騎乗し、逆方向の王都に向けて戻っていきました。
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