チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

文字の大きさ
14 / 44

ドランチも疲れるのです

しおりを挟む
王太子殿下の前では気を張っていたのもあるけれど、ドランチに乗って走っているうちにどんどん気分が悪くなっていくローゼ。
ジャバ叔父さんの家まではまだ半刻は走らねばならないと敢えて痛む腕をふり、痛みで意識を覚醒させます。

しかし、ドレスの裾を切り裂いて止血をしたとは言え、既にポタポタと滴るほど巻き付けた布をローゼの血が湿らせていきます。

「あぁ…もうダメかも」

目の前の景色が歪みだします。ドランチの首に纏わりつくように意識を飛ばしてしまったローゼ。
ドランチは走り続けます。
もしもの為にと手綱を腰にも回したのが幸いして走るドランチからは振り落とされませんがよい状態でない事は確かですね。

ドランチは賢い馬ですが、それでも馬です。人間のようにどうにか出来るわけでもありません。
伝書鳩のように決められた場所を目標として行けるわけでもありません。
でも、疲れるのは馬も一緒です。ローゼを乗せたまま森を走り、道なき道に分け入って走り、ついに止まります。

そこは森の中でもかなり深い位置で人間がここに来ることはめったにありません。
滅茶滅茶強い魔獣が出る事は少ないですが、それでも魔獣がいないという事ではありません。
ましてケガをしているローゼからは肉食系の魔獣が好む血の香りがしているのです。

夜もすっかり更けて辺りは鬱蒼と茂る木々で暗いですが、月の出ている夜なので真っ暗ではありません。
草食のドランチは背にローゼを乗せたまま草をムシャムシャ食べ始めます。

☆~☆~☆~☆

「はぁ~今日は収穫がなかったなぁ」

そう言って落ちた枝を拾って火を起こし寝袋の準備をする男がいますね。
背負っていたリュックから食べ物を出して枝に突き刺し焚火にくべると沢に下り服のままザブンと水に入ると顔をバシャバシャ洗います。鉄製の水筒へ水を入れると川から出て、程よく燃え盛る焚火に放り込みます。

そろそろか・・と言いながら水筒を枝で引き寄せて来ていた服を脱ぐと絞って水筒を冷まします。
時折手で触って持てる熱さになると、キャップを開けてグビグビと湯を飲みます。

夜も更けて寝袋の中に入る前に焚火に枝を更に放り込みます。
細かい炎がブワっと空に巻きあがります。

その時、後ろで何か音がしました。

「チっ魔獣か…」

男はリュックの横につけているサバイバルナイフを取り出し音のする方向を黙って見据えます。
しかし、魔獣なら飛び掛かってくる間合いだと思ったのに動きがありません。
ですが、ガサガサという音はずっと聞こえています。

「変だな」

男はそう言って茂みの中を睨みつけるように凝視します。

【ブルルっ】

「馬?まさか…」

こんな所に馬がいるはずがないと思いながら、茂みにそっと近寄っていきます。
すると、木の間から差し込む月灯りに1頭の馬が目に入ります。
そしてその背に何かがある事も。

「どうどう‥‥よぉし、いい子だ」

男が近づくと馬の背にあったのが人間だと気が付きます。
そして、馬の腹が何か黒いベトベトしたもので汚れている事にも気が付きます。
それが血だと言う事にも。

「だ、大丈夫か!?」

慌てて馬の背から人間を下ろしました。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!

真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。 そこで目撃してしまったのだ。 婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。 よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!  長くなって来たので長編に変更しました。

処理中です...