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愛人の拒絶
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「では、体を拭きましょう」
「お願い…します」
「伯爵様、言葉使いですわ。頼むとか…やってくれと言うのです」
「はい…では…た、頼む」
「承知致しました」
夜中に魘される事はあるものの、切り傷の深かったものは抜糸も済み、浅めの切り傷や火傷も瘡蓋になってきて痒みも伴うようになっていたため、冷やして痛みを誤魔化していく。
陰部も顔を顰めながらも自力で排泄が出来るようなった事から導尿も終わった。
尻も排便時には痛むようだが裂傷の抜糸も済んでいて徐々に回復に向かっている。
明日からは湯殿で流すだけだが行う事になった。
「骨や腱に異常がなくて何よりですわ」
そう言いながら体を丁寧に拭き上げていく。
サミュエルは抵抗することなく足をあげてと言えばあげるし、股を開いてと言えば開く。
それが【恥ずかしい】という事すら判らない、いや覚えていないのだ。
男性の象徴ですら他人の物を記憶を失ってからは見ていない。
全身がケガで痛いのと同じだと思っており、それが異常だとは考えていない。
それはそれでよい事なのだろかと思いつつもオフィーリアは丁寧に体を拭く。
顔や首筋、胸、背中など至る所にある火傷は完治は難しい。皮膚が突っ張って以前の面影は目元だけだろうか。サミュエルに笑いかけられた事がないのでそれ以上は判らなかった。
「今日は上半身については別の方にお願いをしていますわ」
「別の?君は僕の妻だからやっているのじゃないのか?」
「えぇ、そろそろ大丈夫かと思いまして」
「大丈夫って…何がだろうか」
オフィーリアは太ももの火傷部分に綺麗なガーゼを当てながら話をする。
「呼んで参りますので少しお待ちくださいませ」
掛布を治すとオフィーリアは扉に向かい、開けて一言二言何かを言うとキャサリンを伴って入室してきた。
顔には火傷のガーゼがまだ替えられておらず火傷の痕は隠れている。
おずおずと近づいてきたキャサリンにサミュエルは目元を下げると・・・。
「新しい侍女?その年になって再就職は大変だったでしょう?」
「えっ?何を…」
「娘さんか息子さんいるのですか?」
思わず扉付近にいた執事が「ブッ」と失笑をしてしまう。
キャサリンはワナワナと震えているがサミュエルはキャサリンを見ても何も思い出さなかったのだろう。若作りはしているがここ2か月、夫人の間で自堕落な生活をしていたキャサリンは顎も二重三重となり、夜更かしと不摂生で肌もくすんで弛みがある。
40代半ば、いや後半に見えても全くおかしくはなかった。
記憶のないサミュエルは言ってみれば子供と同じ。思ったまま、見たままを口にしてそこに悪意や悪気は全くないのだ。最も実年齢に近いそのままを実況されているだけとも言える。
「伯爵様、女性に年齢の話はしてはいけません。さぁお顔のガーゼを取り換えましょう」
ペリペリとガーゼをゆっくり取っていく。まだジクジクとはしているがそれが余計に不気味さを醸し出してしまう。キャサリンは驚いて尻もちをつき、「化け物」と叫んだ。
「アハハ、酷いな。おばさん。おばさんの肌も大差ないと思うよ?」
サミュエルはキャサリンに追い打ちをかけるように【悪意】もなく言葉をかける。
「伯爵様、それは失礼ですわ。キャサリンさん手伝ってくださいまし」
「無理っ!そんな汚いの触れないっ!」
「汚くなど御座いませんわ。かなり良くなってますのよ?」
「それで良くなったって…嘘でしょ…」
「ちゃんと手順を覚えて頂かないと、明日からは顔だけでなく胸、背中、足も全てキャサリンさんが行うのですよ。こうやって痒み止めを塗って―――」
「手?自分の手で塗るの?それに触るの?やだっ!汚いじゃない!」
「ですから!汚く等ありません。塗る前は手を入念に洗ってくださいまし」
「嫌よ!絶対に嫌!触りたくないっ!」
口を開けば、嫌だ、汚いと言うキャサリンにサミュエルは不機嫌になっていく。
オフィーリアの細い指がてきぱきとガーゼを変えていなければ怒鳴っているかも知れない。
「いいよ。明日もオフィーリアにしてもらうよ」
「いけません。明日は湯殿で身を清めるのですから、キャサリンさんに――」
「湯あみ?嘘でしょ!絶対に嫌よ!」
キャサリンは這いながら扉に向かうと、飛び出していった。
執事が開け放たれた扉を静かに閉める。
「お嬢様、どうされるんですか。あと3カ月もありませんよ」
「そうね…キャサリンさん、いい加減にしてくれないかしら」
「いえ、お嬢様、そうじゃなくってもう放って行きましょうよ」
「でも、記憶が戻っていないし」
「絆されちゃダメです」
「絆される?わたくしが?‥‥ふふっ。メイったら」
頼んでいた船の切符も2人分手に入った。離縁の日から1カ月の出航日である。
この領から港までは馬車なら2週間もかからないだろうがその馬車がない。
オフィーリアとメイはメビウス号とジェイン号で港に向かうのだ。
「こうなったら白い結婚の離縁じゃなく通常の離縁でいいんじゃないですか」
確かにそれならば婚姻をしていたという経歴は残るが今の状態のサミュエルのサインさえもらえれば問題はない。メイは早速離縁書をもらってくると早々に寝てしまった。
時期的にそろそろ白菜などを植える時期でもある。
サミュエルの容態も落ち着いているし、明日は農夫たちの元に行ってみようとオフィーリアも早々に床についた。
「お願い…します」
「伯爵様、言葉使いですわ。頼むとか…やってくれと言うのです」
「はい…では…た、頼む」
「承知致しました」
夜中に魘される事はあるものの、切り傷の深かったものは抜糸も済み、浅めの切り傷や火傷も瘡蓋になってきて痒みも伴うようになっていたため、冷やして痛みを誤魔化していく。
陰部も顔を顰めながらも自力で排泄が出来るようなった事から導尿も終わった。
尻も排便時には痛むようだが裂傷の抜糸も済んでいて徐々に回復に向かっている。
明日からは湯殿で流すだけだが行う事になった。
「骨や腱に異常がなくて何よりですわ」
そう言いながら体を丁寧に拭き上げていく。
サミュエルは抵抗することなく足をあげてと言えばあげるし、股を開いてと言えば開く。
それが【恥ずかしい】という事すら判らない、いや覚えていないのだ。
男性の象徴ですら他人の物を記憶を失ってからは見ていない。
全身がケガで痛いのと同じだと思っており、それが異常だとは考えていない。
それはそれでよい事なのだろかと思いつつもオフィーリアは丁寧に体を拭く。
顔や首筋、胸、背中など至る所にある火傷は完治は難しい。皮膚が突っ張って以前の面影は目元だけだろうか。サミュエルに笑いかけられた事がないのでそれ以上は判らなかった。
「今日は上半身については別の方にお願いをしていますわ」
「別の?君は僕の妻だからやっているのじゃないのか?」
「えぇ、そろそろ大丈夫かと思いまして」
「大丈夫って…何がだろうか」
オフィーリアは太ももの火傷部分に綺麗なガーゼを当てながら話をする。
「呼んで参りますので少しお待ちくださいませ」
掛布を治すとオフィーリアは扉に向かい、開けて一言二言何かを言うとキャサリンを伴って入室してきた。
顔には火傷のガーゼがまだ替えられておらず火傷の痕は隠れている。
おずおずと近づいてきたキャサリンにサミュエルは目元を下げると・・・。
「新しい侍女?その年になって再就職は大変だったでしょう?」
「えっ?何を…」
「娘さんか息子さんいるのですか?」
思わず扉付近にいた執事が「ブッ」と失笑をしてしまう。
キャサリンはワナワナと震えているがサミュエルはキャサリンを見ても何も思い出さなかったのだろう。若作りはしているがここ2か月、夫人の間で自堕落な生活をしていたキャサリンは顎も二重三重となり、夜更かしと不摂生で肌もくすんで弛みがある。
40代半ば、いや後半に見えても全くおかしくはなかった。
記憶のないサミュエルは言ってみれば子供と同じ。思ったまま、見たままを口にしてそこに悪意や悪気は全くないのだ。最も実年齢に近いそのままを実況されているだけとも言える。
「伯爵様、女性に年齢の話はしてはいけません。さぁお顔のガーゼを取り換えましょう」
ペリペリとガーゼをゆっくり取っていく。まだジクジクとはしているがそれが余計に不気味さを醸し出してしまう。キャサリンは驚いて尻もちをつき、「化け物」と叫んだ。
「アハハ、酷いな。おばさん。おばさんの肌も大差ないと思うよ?」
サミュエルはキャサリンに追い打ちをかけるように【悪意】もなく言葉をかける。
「伯爵様、それは失礼ですわ。キャサリンさん手伝ってくださいまし」
「無理っ!そんな汚いの触れないっ!」
「汚くなど御座いませんわ。かなり良くなってますのよ?」
「それで良くなったって…嘘でしょ…」
「ちゃんと手順を覚えて頂かないと、明日からは顔だけでなく胸、背中、足も全てキャサリンさんが行うのですよ。こうやって痒み止めを塗って―――」
「手?自分の手で塗るの?それに触るの?やだっ!汚いじゃない!」
「ですから!汚く等ありません。塗る前は手を入念に洗ってくださいまし」
「嫌よ!絶対に嫌!触りたくないっ!」
口を開けば、嫌だ、汚いと言うキャサリンにサミュエルは不機嫌になっていく。
オフィーリアの細い指がてきぱきとガーゼを変えていなければ怒鳴っているかも知れない。
「いいよ。明日もオフィーリアにしてもらうよ」
「いけません。明日は湯殿で身を清めるのですから、キャサリンさんに――」
「湯あみ?嘘でしょ!絶対に嫌よ!」
キャサリンは這いながら扉に向かうと、飛び出していった。
執事が開け放たれた扉を静かに閉める。
「お嬢様、どうされるんですか。あと3カ月もありませんよ」
「そうね…キャサリンさん、いい加減にしてくれないかしら」
「いえ、お嬢様、そうじゃなくってもう放って行きましょうよ」
「でも、記憶が戻っていないし」
「絆されちゃダメです」
「絆される?わたくしが?‥‥ふふっ。メイったら」
頼んでいた船の切符も2人分手に入った。離縁の日から1カ月の出航日である。
この領から港までは馬車なら2週間もかからないだろうがその馬車がない。
オフィーリアとメイはメビウス号とジェイン号で港に向かうのだ。
「こうなったら白い結婚の離縁じゃなく通常の離縁でいいんじゃないですか」
確かにそれならば婚姻をしていたという経歴は残るが今の状態のサミュエルのサインさえもらえれば問題はない。メイは早速離縁書をもらってくると早々に寝てしまった。
時期的にそろそろ白菜などを植える時期でもある。
サミュエルの容態も落ち着いているし、明日は農夫たちの元に行ってみようとオフィーリアも早々に床についた。
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