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14 リデル
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「あのふたりを、見返したくない?」
まるで悪巧みを持ち掛けるかのように、顔を寄せてきたシェリーが声を潜めたので、返すリデルの声もつられて小さくなる。
「見返すって……どうやって?」
「リデル、あなた全然お化粧しないでしょ?」
その通り、リデルはシーナやシェリーに比べると、化粧をしていない。
全くしないのではなく、瞼や頬、唇には色は乗せないが、不健康に見えない程度に顔色を整えるクリームは塗っている。
だが、そのクリームも含有物を確認してから購入を決めた品を使い続けている。
看護士という仕事柄、化粧品に含まれる成分や香料が気になるのは、患者の中には匂いに敏感だったり、触れた肌が拒否反応を見せる人も居るからだ。
「結婚式でわたしのお化粧を担当してくれる人に、あなたの分も頼んだの」
「……まだ行かせて貰う、とは言ってないけど」
「いいの、いいの。
少し早めに来て貰う事になるけど、許してね。
着替えだってあるし、忙しないのは仕方ないなって諦めてね」
綺麗に薄めの紅を塗られたシェリーの唇からは、次々と思いもよらない言葉が続く。
いいの、いいの?
シェリーって、こんな感じのひとだった?
シェリーの結婚式で、化粧と着替え?
「クラークは結婚式にリデルが来るのか、マーティンに聞いて来たの。
どういう事か、わかるでしょう?
あいつ、またリデルとやり直し出来ると思ってるみたい。
ふざけてると思わない?」
「そんな、あり得ないよ!」
リデルが驚きよりも怒りで、思わず大きな声を出してしまったので、周囲から視線を集めてしまった。
グループでテーブルを囲んでいるご婦人方が眉をひそめて、リデルを見ていた。
これでは、いつかのクラークと同じだ。
ここは中央治療院の管轄だから、リデルを知る人は少ないだろうけれど、もし担当した患者がここに居たならと思うと、嫌になる。
しかし、正面に座ったシェリーはリデルの声に動じることなく、何事も無かったかのように話し続けた。
「ずっと勿体無いな、と思ってたの。
リデルは顔立ちが整っているのに、お化粧もお洒落もしないでしょう?
だけどね、それだからこそ、なの。
わたしに任せて貰えたら、リデルはシーナ先輩なんかより、もっと素敵になるわ。
クラークはそんなリデルを見て、あぁどんなに後悔しても、もう遅い、と思い知る事になる。
そしてシーナはリデルの美しさに負けた、と敗北の涙を流す」
この子は一体何を言ってるんだ、と呆れるリデルだが。
芝居がかった言葉でシェリーが語る自分は、まるで恋愛小説のヒロインのようで。
わたしが、あの誰もが美人だと憧れていたシーナ・ワトリーより素敵になる?
リデルには、そんな自分の姿が想像出来ない。
けれど、専門の人にお化粧して貰ったら、もしかしたらわたしも綺麗になるのだろうか……
その姿を思い浮かべようとして、目を閉じてみるが。
いくらシェリーが褒めてくれても、そんな自分は想像出来ない。
「そんなの、無理……
お化粧で綺麗にして貰えたとしても、それに合う服が無いし……」
リデル自身が着飾る事にそれ程興味がないので、流行りの服は持っていない。
お金が無いわけではないが、仕事もあるし、今週末の結婚式に間に合うように、買いに行く時間もない。
肌触りの良い、飽きのこない、質のいいもの、そんな基準で洋服を選ぶと、どうしてもベーシックで、どれもが似たような代わり映えしない地味な服になる。
シェリーの結婚式に着ていこうと予定していたワンピースも、リデルの中では一張羅だが、流行りのデザインではない。
「ドレスは、リデルにこだわりが無ければ……
良かったら、わたしが仕立てたドレスを着て貰えない?
披露宴で着たくて縫ったんだけど、お義母さんが素人が作ったドレスなんて恥ずかしいから止めて、って」
シェリーが1針1針に心を込めて縫い上げたドレスを、そんな風に言うなんて!
これはチクチクどころじゃない。
グサリと刺しに来てる。
愛するマーティンの母親だとしても、そんな事を言われて、よく彼女は我慢したと思う。
「シェリー……あなた大丈夫?
マーティンのお母さんと上手くやっていける?」
「ええ、大丈夫。
心配させてごめんね?
それより、そんな素人が作ったドレスだけど、リデルに着て貰えたら、少しは報われる気がするの。
やっぱり、無理?」
シェリーは義母とのこれからについては、余り語りたくないようだ。
ガイルズ家の嫁姑関係について、リデルにはどうすることも出来ないが、無意識に目の前に座る彼女の手を握っていた。
これまでシェリーとは専攻も違っていて、部活動の時だけのお付き合いだった。
今日初めてふたりきりで、こんなにも長く話してみて。
シェリー・オドネルは意外にも口が悪くて、そのくせ小説みたいな展開を夢見てる。
入学当初から付き合っていたマーティンから大事にされて、いつも笑っているお嬢さんに見えていたのに、彼女はその微笑みで色んなものを隠していた。
「もうすぐ花嫁になるひとが、そんな顔をしてちゃ駄目だよ」
本当なら今が1番忙しくて、幸せな時間なのに。
もうすぐ花嫁になるひとに、こんな顔をさせちゃ駄目だ。
ただ、手を握るしか出来ないリデルだが。
リデルが手を握ってくれるなら、どんなことも我慢出来る、と少年だった彼は言ってくれた。
もしそれが本当なら。
わたしが手を握ることで、少しでもシェリーの頑張りが楽になるのなら。
目を閉じて、それを受け入れたシェリーは、小さな声で
「高い治癒力で有名な看護士さんに、無料で手を握って貰えるなんて、得した」と照れたように笑った。
リゼルに向けたその笑顔は、それまで見せていたものより、本物に見えた。
まるで悪巧みを持ち掛けるかのように、顔を寄せてきたシェリーが声を潜めたので、返すリデルの声もつられて小さくなる。
「見返すって……どうやって?」
「リデル、あなた全然お化粧しないでしょ?」
その通り、リデルはシーナやシェリーに比べると、化粧をしていない。
全くしないのではなく、瞼や頬、唇には色は乗せないが、不健康に見えない程度に顔色を整えるクリームは塗っている。
だが、そのクリームも含有物を確認してから購入を決めた品を使い続けている。
看護士という仕事柄、化粧品に含まれる成分や香料が気になるのは、患者の中には匂いに敏感だったり、触れた肌が拒否反応を見せる人も居るからだ。
「結婚式でわたしのお化粧を担当してくれる人に、あなたの分も頼んだの」
「……まだ行かせて貰う、とは言ってないけど」
「いいの、いいの。
少し早めに来て貰う事になるけど、許してね。
着替えだってあるし、忙しないのは仕方ないなって諦めてね」
綺麗に薄めの紅を塗られたシェリーの唇からは、次々と思いもよらない言葉が続く。
いいの、いいの?
シェリーって、こんな感じのひとだった?
シェリーの結婚式で、化粧と着替え?
「クラークは結婚式にリデルが来るのか、マーティンに聞いて来たの。
どういう事か、わかるでしょう?
あいつ、またリデルとやり直し出来ると思ってるみたい。
ふざけてると思わない?」
「そんな、あり得ないよ!」
リデルが驚きよりも怒りで、思わず大きな声を出してしまったので、周囲から視線を集めてしまった。
グループでテーブルを囲んでいるご婦人方が眉をひそめて、リデルを見ていた。
これでは、いつかのクラークと同じだ。
ここは中央治療院の管轄だから、リデルを知る人は少ないだろうけれど、もし担当した患者がここに居たならと思うと、嫌になる。
しかし、正面に座ったシェリーはリデルの声に動じることなく、何事も無かったかのように話し続けた。
「ずっと勿体無いな、と思ってたの。
リデルは顔立ちが整っているのに、お化粧もお洒落もしないでしょう?
だけどね、それだからこそ、なの。
わたしに任せて貰えたら、リデルはシーナ先輩なんかより、もっと素敵になるわ。
クラークはそんなリデルを見て、あぁどんなに後悔しても、もう遅い、と思い知る事になる。
そしてシーナはリデルの美しさに負けた、と敗北の涙を流す」
この子は一体何を言ってるんだ、と呆れるリデルだが。
芝居がかった言葉でシェリーが語る自分は、まるで恋愛小説のヒロインのようで。
わたしが、あの誰もが美人だと憧れていたシーナ・ワトリーより素敵になる?
リデルには、そんな自分の姿が想像出来ない。
けれど、専門の人にお化粧して貰ったら、もしかしたらわたしも綺麗になるのだろうか……
その姿を思い浮かべようとして、目を閉じてみるが。
いくらシェリーが褒めてくれても、そんな自分は想像出来ない。
「そんなの、無理……
お化粧で綺麗にして貰えたとしても、それに合う服が無いし……」
リデル自身が着飾る事にそれ程興味がないので、流行りの服は持っていない。
お金が無いわけではないが、仕事もあるし、今週末の結婚式に間に合うように、買いに行く時間もない。
肌触りの良い、飽きのこない、質のいいもの、そんな基準で洋服を選ぶと、どうしてもベーシックで、どれもが似たような代わり映えしない地味な服になる。
シェリーの結婚式に着ていこうと予定していたワンピースも、リデルの中では一張羅だが、流行りのデザインではない。
「ドレスは、リデルにこだわりが無ければ……
良かったら、わたしが仕立てたドレスを着て貰えない?
披露宴で着たくて縫ったんだけど、お義母さんが素人が作ったドレスなんて恥ずかしいから止めて、って」
シェリーが1針1針に心を込めて縫い上げたドレスを、そんな風に言うなんて!
これはチクチクどころじゃない。
グサリと刺しに来てる。
愛するマーティンの母親だとしても、そんな事を言われて、よく彼女は我慢したと思う。
「シェリー……あなた大丈夫?
マーティンのお母さんと上手くやっていける?」
「ええ、大丈夫。
心配させてごめんね?
それより、そんな素人が作ったドレスだけど、リデルに着て貰えたら、少しは報われる気がするの。
やっぱり、無理?」
シェリーは義母とのこれからについては、余り語りたくないようだ。
ガイルズ家の嫁姑関係について、リデルにはどうすることも出来ないが、無意識に目の前に座る彼女の手を握っていた。
これまでシェリーとは専攻も違っていて、部活動の時だけのお付き合いだった。
今日初めてふたりきりで、こんなにも長く話してみて。
シェリー・オドネルは意外にも口が悪くて、そのくせ小説みたいな展開を夢見てる。
入学当初から付き合っていたマーティンから大事にされて、いつも笑っているお嬢さんに見えていたのに、彼女はその微笑みで色んなものを隠していた。
「もうすぐ花嫁になるひとが、そんな顔をしてちゃ駄目だよ」
本当なら今が1番忙しくて、幸せな時間なのに。
もうすぐ花嫁になるひとに、こんな顔をさせちゃ駄目だ。
ただ、手を握るしか出来ないリデルだが。
リデルが手を握ってくれるなら、どんなことも我慢出来る、と少年だった彼は言ってくれた。
もしそれが本当なら。
わたしが手を握ることで、少しでもシェリーの頑張りが楽になるのなら。
目を閉じて、それを受け入れたシェリーは、小さな声で
「高い治癒力で有名な看護士さんに、無料で手を握って貰えるなんて、得した」と照れたように笑った。
リゼルに向けたその笑顔は、それまで見せていたものより、本物に見えた。
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