【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

文字の大きさ
14 / 48

14 リデル

しおりを挟む
「あのふたりを、見返したくない?」

 まるで悪巧みを持ち掛けるかのように、顔を寄せてきたシェリーが声を潜めたので、返すリデルの声もつられて小さくなる。
 

「見返すって……どうやって?」

「リデル、あなた全然お化粧しないでしょ?」


 その通り、リデルはシーナやシェリーに比べると、化粧をしていない。
 全くしないのではなく、瞼や頬、唇には色は乗せないが、不健康に見えない程度に顔色を整えるクリームは塗っている。

 だが、そのクリームも含有物を確認してから購入を決めた品を使い続けている。
 看護士という仕事柄、化粧品に含まれる成分や香料が気になるのは、患者の中には匂いに敏感だったり、触れた肌が拒否反応を見せる人も居るからだ。


「結婚式でわたしのお化粧を担当してくれる人に、あなたの分も頼んだの」

「……まだ行かせて貰う、とは言ってないけど」

「いいの、いいの。
 少し早めに来て貰う事になるけど、許してね。
 着替えだってあるし、忙しないのは仕方ないなって諦めてね」


 綺麗に薄めの紅を塗られたシェリーの唇からは、次々と思いもよらない言葉が続く。


 いいの、いいの?
 シェリーって、こんな感じのひとだった?
 シェリーの結婚式で、化粧と着替え?
 
 

「クラークは結婚式にリデルが来るのか、マーティンに聞いて来たの。
 どういう事か、わかるでしょう?
 あいつ、またリデルとやり直し出来ると思ってるみたい。
 ふざけてると思わない?」

「そんな、あり得ないよ!」


 リデルが驚きよりも怒りで、思わず大きな声を出してしまったので、周囲から視線を集めてしまった。
 グループでテーブルを囲んでいるご婦人方が眉をひそめて、リデルを見ていた。
 これでは、いつかのクラークと同じだ。

 ここは中央治療院の管轄だから、リデルを知る人は少ないだろうけれど、もし担当した患者がここに居たならと思うと、嫌になる。 



 しかし、正面に座ったシェリーはリデルの声に動じることなく、何事も無かったかのように話し続けた。


「ずっと勿体無いな、と思ってたの。
 リデルは顔立ちが整っているのに、お化粧もお洒落もしないでしょう?
 だけどね、それだからこそ、なの。
 わたしに任せて貰えたら、リデルはシーナ先輩なんかより、もっと素敵になるわ。
 クラークはそんなリデルを見て、あぁどんなに後悔しても、もう遅い、と思い知る事になる。
 そしてシーナはリデルの美しさに負けた、と敗北の涙を流す」


 この子は一体何を言ってるんだ、と呆れるリデルだが。
 芝居がかった言葉でシェリーが語る自分は、まるで恋愛小説のヒロインのようで。


 わたしが、あの誰もが美人だと憧れていたシーナ・ワトリーより素敵になる?
 リデルには、そんな自分の姿が想像出来ない。
 けれど、専門の人にお化粧して貰ったら、もしかしたらわたしも綺麗になるのだろうか……

 その姿を思い浮かべようとして、目を閉じてみるが。
 いくらシェリーが褒めてくれても、そんな自分は想像出来ない。 


「そんなの、無理……
 お化粧で綺麗にして貰えたとしても、それに合う服が無いし……」


 リデル自身が着飾る事にそれ程興味がないので、流行りの服は持っていない。
 お金が無いわけではないが、仕事もあるし、今週末の結婚式に間に合うように、買いに行く時間もない。

 肌触りの良い、飽きのこない、質のいいもの、そんな基準で洋服を選ぶと、どうしてもベーシックで、どれもが似たような代わり映えしない地味な服になる。
 シェリーの結婚式に着ていこうと予定していたワンピースも、リデルの中では一張羅だが、流行りのデザインではない。



「ドレスは、リデルにこだわりが無ければ……
 良かったら、わたしが仕立てたドレスを着て貰えない?
 披露宴で着たくて縫ったんだけど、お義母さんが素人が作ったドレスなんて恥ずかしいから止めて、って」

 
 シェリーが1針1針に心を込めて縫い上げたドレスを、そんな風に言うなんて!
 これはチクチクどころじゃない。
 グサリと刺しに来てる。
 愛するマーティンの母親だとしても、そんな事を言われて、よく彼女は我慢したと思う。


「シェリー……あなた大丈夫?
 マーティンのお母さんと上手くやっていける?」

「ええ、大丈夫。
 心配させてごめんね?
 それより、そんな素人が作ったドレスだけど、リデルに着て貰えたら、少しは報われる気がするの。
 やっぱり、無理?」


 シェリーは義母とのこれからについては、余り語りたくないようだ。
 ガイルズ家の嫁姑関係について、リデルにはどうすることも出来ないが、無意識に目の前に座る彼女の手を握っていた。


 これまでシェリーとは専攻も違っていて、部活動の時だけのお付き合いだった。
 今日初めてふたりきりで、こんなにも長く話してみて。
 

 シェリー・オドネルは意外にも口が悪くて、そのくせ小説みたいな展開を夢見てる。
 入学当初から付き合っていたマーティンから大事にされて、いつも笑っているお嬢さんに見えていたのに、彼女はその微笑みで色んなものを隠していた。



「もうすぐ花嫁になるひとが、そんな顔をしてちゃ駄目だよ」


 本当なら今が1番忙しくて、幸せな時間なのに。 
 もうすぐ花嫁になるひとに、こんな顔をさせちゃ駄目だ。


 ただ、手を握るしか出来ないリデルだが。 


 リデルが手を握ってくれるなら、どんなことも我慢出来る、と少年だった彼は言ってくれた。 


 もしそれが本当なら。
 わたしが手を握ることで、少しでもシェリーの頑張りが楽になるのなら。



 目を閉じて、それを受け入れたシェリーは、小さな声で
「高い治癒力で有名な看護士さんに、無料で手を握って貰えるなんて、得した」と照れたように笑った。


 リゼルに向けたその笑顔は、それまで見せていたものより、本物に見えた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

処理中です...