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13 リデル
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まるで拉致されるように腕を取られて、リデルがシェリーに連れてこられたその店は。
市場の外れのベーカリーに併設された、スイーツとは言えない菓子パンと薄いお茶を出す、カフェというより休憩所のような作りだが、買い物帰りの人々が疲れた足を休めることが出来る。
ベーカリー側のカウンターで注文と会計を済ませて、番号が呼ばれたら取りに行く。
良い意味で、お客を放置してくれる店だ。
15時過ぎの店内は市場帰りの女性達でそこそこ混んでいたが、シェリーはうまく空いているテーブルを見つけて、素早く席を確保した。
そしてテーブルに着くなり、リデルを座らせたまま1人で注文に行き、速攻で戻ってきた。
リデルの好みは聞いてくれなかったけれど、おごってくれたのは確かなのだろう。
ここまでの段取りが早すぎて落ち着かないリデルに、シェリーは早速本題に入った。
「クラークのことなんて気にしなくていいから、結婚式に来てくれない?」
「ちょっと、それは……」
既にリデルの中では『そんなもの』であり、
『お互い元々縁が無かった』相手で、
『恨みっこ無しにしましょう』と、片付けたクラークだが。
彼に向かって言い捨てた通り恨む程の熱量は無いが、会いたくないのは確かで、気にしなくてもいい存在とまでは、まだなっていない。
それに、結婚式にはあのシーナ・ワトリーだって来る。
『あんた達お似合い』とは言ったが、ふたりが一緒にいる姿は正直見たくない。
「あのふたり、別れた」
「……別れた?」
一瞬、シェリーの言う『あのふたり』が何を指すのか、ピンとこなくて、聞き返してしまう。
そんなリデルにシェリーが無言で頷いたので、ようやく理解出来た。
あのふたり、って……そんなはずはない。
だってクラークは言ったのだ。
「これからは結婚を前提に、シーナと付き合う」と。
あれは2週間前の事だ。
たった2週間前の……それなのに、もう別れた?
「マーティンにクラークが言ってたの。
すれ違いで別れてしまったのに、うまく行くはずは無かったんだ、って。
シーナ先輩が同僚とクラークを両天秤に掛けてて、そっちを取ったらしいの」
それが本当なら、なんて嗤える話だろう。
シーナ先輩と両天秤に掛けられていたのは、リデルだ。
掛けられた結果、選ばれたのは先輩で。
捨てられたのはリデルだった。
あの日、勝ち誇ったように『お前』と偉そうだったクラークが同じ様に選ばれなくて、『君』に捨てられていたなんて。
シーナが、馬鹿なリデルに世の中の理を諭すように話した『会えば戻る』は何だったんだ。
本当に……なんて嗤える話だろう。
「クラークと別れたって聞いた時は、リデルが欠席しても仕方ないな、と思ってたの。
だけどよくよく考えたら、何であんな奴等のために、リデルが遠慮しなくちゃいけないの?
今年はレジーナもキャロルも結婚するんだよ?
それも全部欠席するの?
何であんな奴等のために、リデルの交友関係が狭まれなくちゃいけないの?」
クラークとシーナのふたりを『あんな奴等』と繰り返して言ってくれるシェリーを、リデルは驚きの目で見つめた。
彼女からは他人の悪口など聞いたことがなく、いつもにこにこと笑っている穏やかな女の子だと思っていたから、こんな風にリデルの為にクラーク達を悪し様に言ってくれたのが意外だったのだ。
「あの、落ち着いたら、お祝いの席には参加しようとは思っていたけど……」
「……わたしの結婚式だけ出ないつもりだったの?
それは許せないわ」
「ご、ごめんなさい」
それは本当に申し訳ない事で、リデルは謝った。
半年以上先だと聞いているレジーナとキャロルの結婚式には招待されたら、出席するつもりだった。
レジーナもキャロルも、ふたりの結婚相手もボランティア部員だったので、結婚式にはクラークも顔を出すだろうが、その頃なら会っても平気になっているはずだ、と思った。
「なんて、ね。
許せないなんて偉そうに言って、こちらこそごめんね。
リデルに来て貰いたいのは、こちらの都合もあるのに」
そうだ、こちらの都合で、とシェリーは言っていた。
「親戚がね、病気になってね。
それで2家族、13名がキャンセルになっちゃって。
花嫁側の招待客が減ったから、お義母さんから人数が減るなんてちょっとみっともないんじゃないの、なんて文句が出たの。
病気だから不可抗力なのに、みっともない、って何?なんだけど、見栄張りな人でね。
無視していいってマーティンは言ってるけど、お願いしたら来てくれそうなひとに声を掛けてて……」
シェリーは大きな溜め息をつき、視線を下げた。
お姑さんに結婚前からチクチクされたのが、こたえたのだろう。
シェリーから笑顔が消え、肩を落としている。
なるほど、それでマーティンも、リデルに出席して欲しいのか。
彼は彼で、シェリーと母親の間に挟まれて、辛い立場だ。
シェリーが注文してくれたお茶の用意が出来、番号が呼ばれた。
おごってくれたのだから、取りに行くくらいはわたしが、と立ち上がり掛けたリデルを止めて、またシェリーが動いてくれる。
何だか、シェリーとマーティンが気の毒で。
うなだれていた彼女を目の前にしたら、つい絆されてしまいそうなリデルだ。
そんな風にリデルが出席してもいいかな、くらいに気持ちが傾いたのを見越したのか、戻ってきたシェリーがにこやかに告げた。
「リデル、あのふたりを見返したくない?」
市場の外れのベーカリーに併設された、スイーツとは言えない菓子パンと薄いお茶を出す、カフェというより休憩所のような作りだが、買い物帰りの人々が疲れた足を休めることが出来る。
ベーカリー側のカウンターで注文と会計を済ませて、番号が呼ばれたら取りに行く。
良い意味で、お客を放置してくれる店だ。
15時過ぎの店内は市場帰りの女性達でそこそこ混んでいたが、シェリーはうまく空いているテーブルを見つけて、素早く席を確保した。
そしてテーブルに着くなり、リデルを座らせたまま1人で注文に行き、速攻で戻ってきた。
リデルの好みは聞いてくれなかったけれど、おごってくれたのは確かなのだろう。
ここまでの段取りが早すぎて落ち着かないリデルに、シェリーは早速本題に入った。
「クラークのことなんて気にしなくていいから、結婚式に来てくれない?」
「ちょっと、それは……」
既にリデルの中では『そんなもの』であり、
『お互い元々縁が無かった』相手で、
『恨みっこ無しにしましょう』と、片付けたクラークだが。
彼に向かって言い捨てた通り恨む程の熱量は無いが、会いたくないのは確かで、気にしなくてもいい存在とまでは、まだなっていない。
それに、結婚式にはあのシーナ・ワトリーだって来る。
『あんた達お似合い』とは言ったが、ふたりが一緒にいる姿は正直見たくない。
「あのふたり、別れた」
「……別れた?」
一瞬、シェリーの言う『あのふたり』が何を指すのか、ピンとこなくて、聞き返してしまう。
そんなリデルにシェリーが無言で頷いたので、ようやく理解出来た。
あのふたり、って……そんなはずはない。
だってクラークは言ったのだ。
「これからは結婚を前提に、シーナと付き合う」と。
あれは2週間前の事だ。
たった2週間前の……それなのに、もう別れた?
「マーティンにクラークが言ってたの。
すれ違いで別れてしまったのに、うまく行くはずは無かったんだ、って。
シーナ先輩が同僚とクラークを両天秤に掛けてて、そっちを取ったらしいの」
それが本当なら、なんて嗤える話だろう。
シーナ先輩と両天秤に掛けられていたのは、リデルだ。
掛けられた結果、選ばれたのは先輩で。
捨てられたのはリデルだった。
あの日、勝ち誇ったように『お前』と偉そうだったクラークが同じ様に選ばれなくて、『君』に捨てられていたなんて。
シーナが、馬鹿なリデルに世の中の理を諭すように話した『会えば戻る』は何だったんだ。
本当に……なんて嗤える話だろう。
「クラークと別れたって聞いた時は、リデルが欠席しても仕方ないな、と思ってたの。
だけどよくよく考えたら、何であんな奴等のために、リデルが遠慮しなくちゃいけないの?
今年はレジーナもキャロルも結婚するんだよ?
それも全部欠席するの?
何であんな奴等のために、リデルの交友関係が狭まれなくちゃいけないの?」
クラークとシーナのふたりを『あんな奴等』と繰り返して言ってくれるシェリーを、リデルは驚きの目で見つめた。
彼女からは他人の悪口など聞いたことがなく、いつもにこにこと笑っている穏やかな女の子だと思っていたから、こんな風にリデルの為にクラーク達を悪し様に言ってくれたのが意外だったのだ。
「あの、落ち着いたら、お祝いの席には参加しようとは思っていたけど……」
「……わたしの結婚式だけ出ないつもりだったの?
それは許せないわ」
「ご、ごめんなさい」
それは本当に申し訳ない事で、リデルは謝った。
半年以上先だと聞いているレジーナとキャロルの結婚式には招待されたら、出席するつもりだった。
レジーナもキャロルも、ふたりの結婚相手もボランティア部員だったので、結婚式にはクラークも顔を出すだろうが、その頃なら会っても平気になっているはずだ、と思った。
「なんて、ね。
許せないなんて偉そうに言って、こちらこそごめんね。
リデルに来て貰いたいのは、こちらの都合もあるのに」
そうだ、こちらの都合で、とシェリーは言っていた。
「親戚がね、病気になってね。
それで2家族、13名がキャンセルになっちゃって。
花嫁側の招待客が減ったから、お義母さんから人数が減るなんてちょっとみっともないんじゃないの、なんて文句が出たの。
病気だから不可抗力なのに、みっともない、って何?なんだけど、見栄張りな人でね。
無視していいってマーティンは言ってるけど、お願いしたら来てくれそうなひとに声を掛けてて……」
シェリーは大きな溜め息をつき、視線を下げた。
お姑さんに結婚前からチクチクされたのが、こたえたのだろう。
シェリーから笑顔が消え、肩を落としている。
なるほど、それでマーティンも、リデルに出席して欲しいのか。
彼は彼で、シェリーと母親の間に挟まれて、辛い立場だ。
シェリーが注文してくれたお茶の用意が出来、番号が呼ばれた。
おごってくれたのだから、取りに行くくらいはわたしが、と立ち上がり掛けたリデルを止めて、またシェリーが動いてくれる。
何だか、シェリーとマーティンが気の毒で。
うなだれていた彼女を目の前にしたら、つい絆されてしまいそうなリデルだ。
そんな風にリデルが出席してもいいかな、くらいに気持ちが傾いたのを見越したのか、戻ってきたシェリーがにこやかに告げた。
「リデル、あのふたりを見返したくない?」
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