【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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23 シーナ

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 もう会うつもりも無かったクラークに、シーナが男名前で手紙を出したのは、リデル・カーターと付き合っている、と知ったからだ。


 容姿が良くてもてるクラークなので、自分と別れたら、直ぐに次の彼女が出来るだろうと思っていたのに、今も付き合いのある後輩が
「クラークは、まだ誰とも付き合っていません」と言ったので。
 今でもまだ、わたしの事が忘れられないんだ、と気分が良かった。

 ところが卒業を前にして、クラークの方から女に告白した、と聞いた。
 相手は地味なリデル・カーターで、その事を聞かせてきたのも、例の後輩で。
 彼女の口調が
「先輩と正反対のリデルを、って。意外でした」と、何だか面白がっているように感じて、それもまた気分が悪くて。


 シーナはその話を聞くまで、リデルの事は嫌いじゃ無かった。 
 彼女は、異性から人気の高いシーナに対して、妬みや嫉みや劣等感や変な媚びも見せずに慕ってくれていたし。
 将来は看護士を目指していて、仲良くしてても損はないな、と思っていた。


 だが、クラークが自分とは正反対のリデルを選んだことが、シーナの闘争心に火をつけた。
 絶対にクラークを奪い返す、と。


 意外にも、会う事さえクラークは躊躇していて、彼とよりを戻すのは時間がかかりそうだったが、諦めずに飲みに誘った。
 
 何度目かの誘いで、ようやく会って。
 酔ったクラークが、リデルが結婚するまで許してくれないと愚痴っていたので、そこを攻めると簡単だった。
 過去に何度も寝た関係は、そうなると早かった。


 あの日、別れを告げるために呼び出したリデルを泣かせてやろう、と思ったのに。
 高等学園でシーナとクラークが付き合ってた事も知らなかった鈍感な女は、クラークとシーナに向かって
「盛りのついた動物みたい」と満席だったカフェで、よく通る声で言った。
 周囲の女達の視線が集まって恥ずかしかった。


 これまで憧れられたり、睨まれたり、妬まれたり。
 クラークと居ると、女達からは様々な視線を集めたが、こんな風に彼とふたりして、軽蔑の眼差しで見られたのは初めてで、絶対にリデルを許さないと思った。


 この屈辱は絶対に、倍にして返してやる、と。



  ◇◇◇



 リデルから奪って、結婚しようとまで言ってくれたクラークから、別れを切り出されたのは、それから直ぐの事で、信じられなかった。


「お前、他にも男居るんだろ。
 俺がふられた事にしてやるから、別れよう」


 確かに上司と付き合っていた。
 はっきり過去形に出来ないのは、シーナの癖で、毎回自然消滅のような形で言葉にして別れないからだ。

 だが上司には妻子も居て、先は見えていたから、今はクラークだけになっていたのに。


「お前が妻子持ちと付き合っているのは、うちの家族全員が知ってるからな。
 結婚なんて出来るわけない」


 その一言をシーナにぶつけて、クラークは行ってしまった。




 思春期を迎えた頃から、シーナの容姿は異常なくらい異性にもてはやされるようになった。
 そして、その分。
 同じ量で、同性から嫌われるようになった。


 職場で、専門高等学園で、商学科で、ボランティア部で。
 同性の友人は出来ず、ただの顔見知りで終わる。
 当然、若い世代が集まる婚約パーティーや結婚式に呼ばれることはない。
 皆、恋人をシーナに奪われるのを恐れている。 


 唯一の例外が例の後輩、シェリー・オドネルで。
 シーナは週末の彼女とマーティン・ガイルズの結婚式に招待されていた。

 実は彼等が2年生だった頃、クラークと喧嘩して距離が出来ていた時に寂し過ぎて、マーティンを誘ったことがある。
 後輩の彼氏を寝取ったのは褒められた事ではないが、たった一度きりだ。
 ふたりに対して罪悪感は無くて、シェリーとは今も普通に付き合えていた。


「やっぱりキャンセルさせてくれる?
 今はクラークにも、リデルにも会いたくないし」

「まぁまぁ、そんな事言わずに来てください。
 今は誰とも付き合っていないんですよね?
 マーティンの従兄弟は、なかなか素敵ですよ」


 花婿と寝た女に、彼の従兄弟を薦めるシェリーの微笑みは、あの事がばれていないからだと分かっていても、愚かに見えた。


「お洒落して、来てくださいね?
 それを見たクラークがもう遅い、って後悔するくらいに。
 で、素敵な従兄弟と仲良くしてるところを見せつけてやるんです」


 
 まるで悪巧みを持ち掛けるかのように、声を潜めるシェリーの誘惑にシーナは屈した。


 そうだ、うんと綺麗に着飾って行こう。
 わたしを捨てたクラークと。
 わたしを笑い者にしたリデルを見返してやる。


 そう思って参加したシェリーの結婚式は。


「すいませーん、従兄弟ね、今日は欠席みたいです」

 披露宴に行く前に、花嫁が走ってきて、いつもの微笑みを浮かべながら、シーナに手を合わせる。
 欠席なら仕方ない。
 他の男と知り合えばいいだけ。
 目ぼしいのが居なかったら、部の男の子達でもいいか。


 そう切り換えて座った披露宴の席は、隅の方で。
 同じ卓を囲むのは、マーティンの遠縁だと自己紹介された老人ばかり。

 他の皆は何処に居るのか、と探せば。
 若い彼等は会場のほぼ中央の1番大きなテーブルに集まっていた。
 花婿と花嫁の友人達が笑いさざめくその様子は、賑やかで楽しげで。
 憎いクラークも、いつもより派手でいい気になってるリデルも、そのテーブルだった。

 


 その夜、シーナは1人で飲んでいた。
 休息日の夜に営業している店は少なくて、初めて入った店だった。


「馬鹿にしやがって……馬鹿にしやがって……」

 何度も同じ台詞を、呪いのようにつぶやく。
 呪いの相手は何人も居る。

 クラーク、リデル、不倫相手、クラークの家族に、そしてシェリー。


 こんな目に遭わされて、いつもシェリーが浮かべていた微笑みの意味を思い知らされた。


 あの女はマーティンとの事を知っていたんだ。
 それを、わたしには気付かせないようにして。
 いつか、やり返してやろうと思ってた。
 結婚式に招待したのも、結婚出来ない男とばかり付き合うわたしを嗤うため。
 皆から祝われる幸せな花嫁姿を見せつけるため。


「馬鹿にしやがって……シェリー、クラーク。
 ……リデル……」


 何度も同じ言葉、同じ名前を呪うように繰り返す、その時。


「あー、そのリデルって。
 カーター? 父親はデイヴ?」

 
 シーナがくだを巻いている、カウンター席のその隣で。
 ずっと1杯のグラスをちびちびと飲んでいた中年の女がシーナに声をかけてきた。


「……はぁ、あんた誰よ?」

「誰でもいいだろ?
 で、リデルって?」

「そうだよ、カーターだよ」


 アルコールのせいで、判断力の無くなったシーナは誰とも知れない女の話を、肴にしようと聞く体勢に入った。


「あの親子もややこしいからね」

「ややこしい、って何なのよ?」

「へへ、続きは奢ってくれてから聞かせてやろう」


 女の話は、どうせくだらない事だろう。
 だけど、今夜のシーナは人恋しかった。
 誰にも相手にされていないような、そんな気分になっていた。
 だから、求められるまま、女に酒を奢った。


 たった1杯の酒だったが、女がシーナの耳元で語ったその内容は。


 それ以上の価値があった。

 
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