【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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22 クラーク

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 父には、必ずリデルを取り戻す、と宣言した。

 失敗は許されない。
 それは、長男なのに、商会を継げない事を意味していた。
 長男なのに、妹の婿に、顎で使われる人生。
 そんなのは真っ平だ。

 だから、クラークに失敗は許されない。



 マーティンからは、結婚式当日は他の招待客より早くリデルが来ると聞いて、クラークも早めに到着するようにした。

 挙式前にはリデルを捕まえ、
「後悔している、やり直そう」と言うつもりだった。
 だが、敬虔な彼女が教会ではそんな話を聞きたくなさそうなら、あまりしつこくせずに披露宴会場で、じっくりこれからの話をしようとも思っていた。 

 リデルと復縁してから最初の、今夜のディナーは、値段は張るが美味いと噂の最新の店を予約している。
 今夜は彼女が何と言おうと、絶対に奢る、と決めていた。
 そのためにも隣の席にしてくれるよう、マーティンを拝み倒して了承して貰った。


 お願いされると弱いリデルの性格を、クラークはよく知っている。
 彼女に告白した時もそうで、頼んで頼んで、頭を下げて下げて、交際が始まったからだ。
 だからリデルは下手に出れば、また絆されてくれると思った。


 クラークがリデルと別れて、約半月。 
 真面目でお堅い彼女には、こんな短期間では新しい男なんていないだろう。


 クラークはリデルとの復縁を簡単に考えていた。

 確かにリデルには新しい男は現れなかったが、かつての想いびとが戻ってきた事など知らなかったのだから。



  ◇◇◇



 予定通り、友人達よりも早めに教会にやって来たクラークだったが、目的のリデルの姿は無い。
 約束を重視するリデルが遅れる事などあり得ないので、どういう事か、マーティンに確認したかったが。
 彼は主役の花婿で、今は多分、控室で親族一同に囲まれているだろう。
 その中に入っていく勇気は無かった。

 
 挙式前にリデルに会えなかったら、式が終わるまで接触は叶わない。
 イライラしながら前方の席に着き、リデルが入ってくるのを見張っていた。
 
 

 リデルよりもシーナの方が早く来た。
 クラークが両天秤に掛けられていたのは事実だが、それを理由にして別れて貰った。
 友人達にはクラークがふられた話にしていたのに、シーナには何故か睨まれて。 

 過剰に意識してしまい、周囲も顔を合わせたふたりに注目している気がして居心地が悪いので、それからは後ろを振り返って入口を見るのは止めた。


 式が始まる直前に、後ろの方でざわめきが起こっていたが、クラークは花婿が入場してきたからだと思った。
 だからそのざわめきが、開始時間ギリギリに入ってきたリデルが原因のものだとは気付いていなかった。


 新たに夫婦となるマーティンとシェリーの誓いが終わり、参列者達は先に出て、道の両側に並び立ち、新婚ほやほやのふたりを祝福の拍手で迎えるのだが、前方に居たクラークからは、後方から早くに外に出たリデルの姿は、見えなくて。
 結局、教会ではリデルに接触出来なかった。


 しかし、もしリデルがそんなに離れていなくても、クラークは直ぐに彼女に気付かなかっただろう。
 何故なら、クラークの知るリデルはいつも地味で。
 今日華やかに装っているとは思いもせずに、多分グレーか紺のワンピースを着ているだろうと、その色を探していたからだ。


 そうして挙式が終わり、参列者達が披露宴会場に向かうために、隣に併設されたホールへと移動を始めて。
 ここでようやく、クラークは気付いた。

 自分より先に歩く集団の中に黒い髪をした女性が居て。
 その女性を中心に、かつての同級生達がひとかたまりになっている。
 まだ後ろ姿しか見ていないが、まさかまさか、と我が目を疑った。


 柔らかなクリーム色のコートを羽織り、黒髪を結い上げ、そこには幾つもの白くて小さな生花をバランスよく全体に挿し。
 高いヒールの靴を履いたその後ろ姿は、リデルによく似ているが、彼女ではないはずだ。


 彼女が学生の頃から今まで、いつも着ている冬物のコートは紺色で、卒業して稼いでいるんだから、そのコートからも卒業しろよ、と内心お洒落に関心がないリデルに呆れていた。

 クラークは女性物の衣料も扱うライナー商会の跡取りだったから、その気になればいくらでもリデルに、最新のコートを贈れたのに。
 彼の父親が渡してくれていたリデルのための小遣いは、少しも彼女に使われていなかった。
 いや、それはお金の問題ではなく、クラークの気持ちさえあれば、の話なのだが。


 まさかまさかと思いつつ、リデルの他に仲間内で黒髪は居たか、と記憶をたどりつつ。
 披露宴会場で指定された席の隣に、先に座っていたのはやはり、さっきの黒髪の……


 俺と別れて、たった半月で、こんなに変わるなんて。
 勝手なことに、裏切られたような、騙されたような気にもなって。
 思わず焦って、掛ける言葉もスムーズに出てこない。


「リ、リデル……ひさしぶり……」

「そうね、久しぶりね。
 お元気でした?」


 艶やかに紅を引かれた唇の広角が上がり、リデルが微笑んだ。
 ふわっといい匂いもして、くらくらした。


 服装と化粧に手間を掛けただけで。
 リデル・カーターが、こんなに綺麗になるとは思わなかった。
 誰よりも早くに、自分は
「この女は大人になれば、しっとりした色気が出る」なんて、偉そうに分かったようなふりをしていたが、本当は分かってなかった。
 原石だ、原石だった。
 地味なリデルが、磨けばこんなに光る原石だったなんて。


 お元気でした? と特に意味の無い挨拶をされて。
 1拍遅れて返事を返そうとしたのに。
 もうリデルは反対側の男、1年先輩だったジョイスに声を掛けられて、談笑している。

 ふたりの会話の隙間に入り込んで、リデルにこちらを見て欲しいのに。
 ジョイスはそんなクラークの焦りに気付いていて、わざとそうしているのか、次々とリデルに話題を振っている。
 その内に、ジョイスの隣の席に居た女まで会話に加わり出して、
「そのお化粧は、どこで?」と尋ねている。


 ジョイス以外の奴も会話に加われるのなら、俺だって、と。
「それは……」と言い掛けているリデルの言葉に割り込んで、
「俺は知ってる。今日のシェリーの化粧の担当者だよな」とマーティンから聞いていた情報を、未だにリデルの関係者面して、話に混じれば。


 ようやくリデルはこちらを向いて、たった一言。
「違う」とだけ、クラークに言って。


 完全に背中を向けた。


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