とろけてまざる

ゆなな

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3章

2話

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「先生、お世話になりました」
永瀬がユキを見初めたときの記憶から戻ってくると最後の挨拶をユキにする高弥の声が聞こえた。
迎えが家族ではなく高弥の家の運転手のみであったため、ユキは車が付けられた病院の玄関まで送り出た。
にこやかにユキに手を振ってくるりと高弥は背を向けた。永瀬の手術が成功し、彼を患わせていた腫瘍は無くなり車椅子も必要がなくなった。
体力の回復を見ながら学校にも復帰出来るそうだ。

木枯らしが吹く冬の始めの空気は秋の空気よりぴんと張りつめているように感じる。シャツに白衣を纏っただけで外まで出てしまったが些か寒くてユキは躯にそっと腕を回した。
親の用意した車に手を振って乗り込もうする高弥。
ユキは咄嗟に何かに駈られたように走り寄った。

「君に最後に一つだけ話したいことがある」
少しだけ息を切らせながらそう伝えるとちいさな顔の中にある大きな瞳がユキを見た。

「僕は、実はオメガなんだ」

ユキの告白に高弥がちいさく息を飲んだのがわかった。
「世間のオメガに対する認識は厳しいよね。君もよく分かってると思う。そしてきっとこれから君が夢を持って進もうとすればするほどその壁に当たる」

でも……

「一生懸命やってきたから今僕は医師としてちゃんとやれてると思う。高弥くんもオメガだからといって夢を諦めずにこれからも頑張っていって欲しい。頑張り屋の君にはきっとできると思うんだ」

そう言ってユキは高弥を送り出した。
月並みな言葉だが、経験したユキからの心からの言葉は高弥に響いたのか真剣な瞳で頷いていた。

車が去った後白衣がふわりと風に揺れた。冬の香りに混じって愛おしいムスクのような芳しい香りが漂った。
ユキが振り返るとそこに永瀬が立っていた。


「永瀬先生……」

ユキには内緒で見守っていたのだろう。
見つかって少しだけ視線をずらしたのは、きっと少し照れ臭くてばつが悪いからだと今のユキにはわかる。

「一応執刀した患者が病院を出るときはどんな形であれ時間が許す限り見送ることにしているんだ」

すぐ傍まで歩いてきたユキを木枯らしから守るように立つと、すこしだけ眩しそうに目を細めて永瀬はユキを見ると……

「君は、いい医者だな……」

と、呟くように言った。

*****

その日の夜静かにユキには発情期が訪れた。
永瀬はいつ、どのタイミングで来るか全て予測がついていたようで、ユキの躯が永瀬のフェロモンに呼応してゆったりと子宮が現れ始めた頃にはもうすでに永瀬の屹立が深く埋まっていた。

「あああっ……」

いつもどこか恥ずかしそうに声を噛み殺そうとするユキだが、発情期のときは我慢出来ず大きな喘ぎ声を上げてしまう。
可哀想なほど切なくひくつき、愛液をだらだらと垂らす後孔。

「あぁ……もう子宮が出来始めてるな……」

ほら、ここ……入り口なのがわかるだろう……とぐっと奥に永瀬の屹立を押し込む。

「あっ………んん」

子宮の入り口が永瀬の先端に絡み付いて精をねだった。

後ろから貫かれたとき、熱い舌で切なくうなじを舐められた。
欲情で息を荒くする合間
「噛んでもいいか……?」

低く掠れた声が切なく訴えた。

こくり、と頷けたら……
それはどんなにか、楽になれただろうか。
もしくは……………

(いや、それをねだるのは狡すぎる……僕はいつからそんなに狡くなってしまったのだろうか……)

ずん……っ
本当にそんな音がしたかと思うくらい奥深くを力強く穿たれた。
現れたばかりの子宮の入り口を抉じ開けるような。

「ひっ……ぅあああ」

「発情期に抱かれて冷静に他のことを考えられるとは、な……っく………っ」

一瞬頭が冷えて頭が思考を再開したことを責められる。

「あっ……あっ……………ひ、ぅぁ………」

「……この発情期の間には、ユキから『番にして』って言わせてみせるよ……」

奥まで穿ちながらささやいた低い声はユキの内側をとろとろに溶かすだけで、その意味を深く考えることなど出来なくなっていた。それは、何を意味する言葉なのか。
ただ、ただ……本当は番にしてほしいという願いがうっかり口から飛び出ることがないように必死に耐えることしか出来なかった……
だから、不遜な言い方をした彼が、ユキに愛を乞うような表情をしていたことにも、気がつかなかったのだ。


*******
そして、夜もとっぷりと更た頃
すっかり意識を失ってしどけなく眠るユキの髪や頬を愛おしそうに撫でながら、携帯電話を耳に当てる永瀬の姿があった。

「ああ……やはり動き始めたか。いや、いい………俺が全て片付けるが、ユキの身が危なくなったときには俺を待たずに救出してくれ。ああ……事後処理は抜かりなくしておくように」

愛おしそうにユキの色素の薄い髪の毛を撫でる手の優しさとは裏腹に、漆黒の瞳はぞっとするほど冷気を放っていた。
通話を終えるとベッドサイドのチェストに些か乱暴に携帯を放るとまだ濡れている睫毛に一つキスを落とした。

「全く……大人しく守ってもらえばいいものを。まぁ、そんなところを……」

続く言葉は部屋の闇に融けていった。
少し痩せた躯を腕の中に引き寄せて、シルクのようにしっとりとなめらかな肌に腕を、脚を絡めてあまい香りのする髪に鼻先を埋めながら永瀬は瞳を閉じた。
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