とろけてまざる

4章

7話

「ユキ先生、医局の仮眠室で横になってきなよ。お昼から休憩なしでそろそろ夕方だよ？」
年若い看護師に言われてユキは笑って答える。
「これくらい大丈夫だって。それに仕事してる方が紛れるし。あ、マリちゃんの点滴交換僕がしようか？」

「それは看護師がやりますから。先生は休憩時間です。私たちが永瀬先生に叱られます」

「だーいじょうぶだって。永瀬先生今ごろオペ入ってるからバレな……」 

「ユキ。二時間ごとに３０分仮眠室で横になるっていう約束はどこ行った？今の話を聞いていた限り守ってなさそうだが」

「な……永瀬先生、オペは……」
ふらりと小児科病棟に現れた長身の男にユキはギクリと背を強張らす。

「思ったより難しくなかったんで、もう終わったんだよ。様子を見に来たら……きみは……そんなに早めの産休に入りたいのかい？」

ほら言ったのに……と言った目で看護師からも見られる中、問答無用で引き摺られるように仮眠室に引っ張り込まれた。

「なるべく座って子供たちの診察するようにしてますし、みんな気を使ってくれてるし……」

「それでも横にならないと体には負担がかかってるんだ。本当にいい加減にしないと、家に監禁するぞ？」

本当にやりかねない男を前にユキは慌てて言い募る。
「わかりました。ちゃんと休憩とりますから……」

「つわりが治まってきたかと思ったら、こうだからな……全くきみは」

憮然とした表情の永瀬にぷ……っと思わずユキは噴き出した。
「あはは。永瀬先生がこんなに心配性だとは思いませんでした」

「俺は心配性なんかじゃない。普通だ。それに……」

「ん………っ」

柔らかく、くちびるを塞がれた。
軽く啄んでそっと離すと

「きみは子供が産まれても俺を『永瀬先生』って呼ぶつもりか？」

「……か……和真さん……？」

永瀬は満足そうに微笑むとユキの腹部をそれはそれは優しく撫でた。