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5章
9話
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そして、手術の当日。
ユキの胸中は苦しくなるほどの多くの思いではち切れそうであったが、手術室の前に足を運んだ。
手術室の前には母と三人の兄達と兄嫁が勢揃いしていて、ユキの足は立ち竦みかけたが、ガラガラと音を立てて後ろから運搬車がやって来る音が聞こえた。自らの足を鼓舞して前を進み、居並ぶ家族に会釈する。特に兄達などいつから会っていないのだろうか。三番目の兄の結婚式のときだったろうか。一斉に視線がユキに集まった。
なんとも言えない重苦しい空気が辺りを包んだが、ユキのすぐ後ろから父が横たわる運搬車が、二人の看護師によって運ばれて来たため、全員の視線はユキから運搬車に移った。
麻酔で完璧に意識を遮断された父を乗せた運搬車は手術室の両開きの扉の向こうに運び込まれた。
続けて青い手術服に身を包んだ永瀬が現れた。ユキを除くと全員がアルファであるため背の高い家族であったが、その誰よりも永瀬は背が高く、美しかった。ユキを含む家族全員が手術服に身を包んだ冷たくストイックな彼を見て息を飲んだ。
永瀬は立ち止まると
「先日お話しました予定どおり手術を執り行います。手術の様子は上のフロアの窓から見えるようになっておりますのでご自由にどうぞ」
と話し、軽く会釈をした。顔を上げると永瀬はちらり、とユキの顔を見た。ほんのわずかに視線が柔らかく緩んで
『大丈夫』
そう言っているようだった。
そして、永瀬は手術室の中に入って行った。
「……ありがとう、雪也」
手術室での様子をガラス越しに見学出来るその部屋に入ると、疲労の色が濃い母や兄達から礼の言葉を言われた。
其々の顔には憎悪の彩が無かった。ただ、誰もが疲れた顔であって、それ以上の考えはユキには伺い知れなかった。誰もがユキの記憶にある姿よりも老け込んで小さく見えた。あんなに家族と会うのが怖かったのが何だか嘘であったみたいだ。
「いえ……」
ユキが短く答えると、後は再びその部屋は重苦しいような空気に包まれた。間もなくオペが開始されると皆一様に手術の様子を見つめた。窓ガラスから手術室を見下ろし、その全体の様子を見ることも出来たし、手元を映したモニターもあり詳細を見ることも出来た。
迷いなくメスを入れ、迷いなく指示を出し、迷うことなく処置をする永瀬の姿を、皆が固唾を飲んで見守った。オペをするには難しい場所と言われていたにも関わらず、それはまるでいとも容易いことのようにするすると永瀬の長く器用な指が動く。
表しきれない多くの複雑な感情が絡み合って、ユキの目の前が何度も何度もも滲んだが、何度も拭っては永瀬の姿を一心に見つめた。
見学室で様子を見ていた面々も、何時しか感嘆の溜め息さえ漏らしていた。母も兄も医者だからこそ、なおのこと永瀬の技術の高さを食い入るように見ていた。
そして縫合が終わった後時計を見て、長兄が唸った。
「なんて、速さだ……」
ユキの胸中は苦しくなるほどの多くの思いではち切れそうであったが、手術室の前に足を運んだ。
手術室の前には母と三人の兄達と兄嫁が勢揃いしていて、ユキの足は立ち竦みかけたが、ガラガラと音を立てて後ろから運搬車がやって来る音が聞こえた。自らの足を鼓舞して前を進み、居並ぶ家族に会釈する。特に兄達などいつから会っていないのだろうか。三番目の兄の結婚式のときだったろうか。一斉に視線がユキに集まった。
なんとも言えない重苦しい空気が辺りを包んだが、ユキのすぐ後ろから父が横たわる運搬車が、二人の看護師によって運ばれて来たため、全員の視線はユキから運搬車に移った。
麻酔で完璧に意識を遮断された父を乗せた運搬車は手術室の両開きの扉の向こうに運び込まれた。
続けて青い手術服に身を包んだ永瀬が現れた。ユキを除くと全員がアルファであるため背の高い家族であったが、その誰よりも永瀬は背が高く、美しかった。ユキを含む家族全員が手術服に身を包んだ冷たくストイックな彼を見て息を飲んだ。
永瀬は立ち止まると
「先日お話しました予定どおり手術を執り行います。手術の様子は上のフロアの窓から見えるようになっておりますのでご自由にどうぞ」
と話し、軽く会釈をした。顔を上げると永瀬はちらり、とユキの顔を見た。ほんのわずかに視線が柔らかく緩んで
『大丈夫』
そう言っているようだった。
そして、永瀬は手術室の中に入って行った。
「……ありがとう、雪也」
手術室での様子をガラス越しに見学出来るその部屋に入ると、疲労の色が濃い母や兄達から礼の言葉を言われた。
其々の顔には憎悪の彩が無かった。ただ、誰もが疲れた顔であって、それ以上の考えはユキには伺い知れなかった。誰もがユキの記憶にある姿よりも老け込んで小さく見えた。あんなに家族と会うのが怖かったのが何だか嘘であったみたいだ。
「いえ……」
ユキが短く答えると、後は再びその部屋は重苦しいような空気に包まれた。間もなくオペが開始されると皆一様に手術の様子を見つめた。窓ガラスから手術室を見下ろし、その全体の様子を見ることも出来たし、手元を映したモニターもあり詳細を見ることも出来た。
迷いなくメスを入れ、迷いなく指示を出し、迷うことなく処置をする永瀬の姿を、皆が固唾を飲んで見守った。オペをするには難しい場所と言われていたにも関わらず、それはまるでいとも容易いことのようにするすると永瀬の長く器用な指が動く。
表しきれない多くの複雑な感情が絡み合って、ユキの目の前が何度も何度もも滲んだが、何度も拭っては永瀬の姿を一心に見つめた。
見学室で様子を見ていた面々も、何時しか感嘆の溜め息さえ漏らしていた。母も兄も医者だからこそ、なおのこと永瀬の技術の高さを食い入るように見ていた。
そして縫合が終わった後時計を見て、長兄が唸った。
「なんて、速さだ……」
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