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一、蕾
一、蕾 ⑱
しおりを挟む菫さんが産んだ子どもはベータだった。なので花は食べて育っていない。
ただ、ベータの息子は、うちの有栖川家に母を辱めたと、責任をとれと恐喝してきていた。要するに金をせびれると思ったのだろう。息子ではなく、彼女に莫大なお金を送って、息子さんには弁護士からきついお灸をすえたけれど。
その時から彼女は、異変を感じていたらしい。無理やり産まされたベータの子は可愛くないが、孫は可愛いというのだから不思議な話だ。
彼女の口から本音は聞けても真実は聞けていない。辰紀くんは、全ての真実を知っているのだろうか。
さきほど彼の口から聞こえてきた言葉は、まるでうちが悪のように過大に言っていたように思えた。
『ばあちゃん、ばあちゃーん』
両手いっぱいに花を持って走ってくる彼は、あの日まだあどけない様子をして無邪気に笑っていた。咄嗟に隠れてしまった。
あの瞬間に、彼が私の運命だと気づいた。花を両手で持っていた彼は全く気付いていなかったけれど、私だけは気づいた。
『偉いわね。ほら、今日の分をお食べ』
一輪、菫さんは花を持つと、辰紀くんの唇に花をキスさせる。
『えー、洗ってよね』
辰紀くんは苦笑しながらも、その花を舌で受け止め口の中へ放り込んだ。
花を食べるしぐさが、艶めかしく甘く私を誘った。
菫さんはこれは復讐だとあざ笑う。彼は私を運命と気づかない。そして愛さないだろう。これは復讐なのだと。祖父の話と彼女の話は、すれ違っていた。放っておけばいい。自分たちが解決できなかったのだからと。なのに、今、目の前の私の運命と絡んでいく。
祖父がしたことは私には関係がないが、祖父の遺言もあり菫さんの願いは叶えたい。
今はスタートラインではない。彼から全て花の成分を取り払って、辰紀くん自身の本能で私を感じてくれなければいけない。
抑制剤を飲み、口を乱暴に拭く。大丈夫。きついのは、副作用に苦しむ彼の方だ。私の方ではないのだから。
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