4 / 23
第四話
しおりを挟むブランカ男爵家は血筋を辿れば何と初代国王の王弟に与えられた今は無き公爵家の血を受け継ぐ分家筋であって、お金と領地はなくともその辿った歴史だけは実に由緒正しい家だった。そう歴史の長さでは元婚約者となったウルファング侯爵家よりも長く、古くから続いてきた貴族の家だったんだ。そして今代のブランカ男爵家の当主には身体的な問題があった。当主は四十歳くらいの男盛りと言われる年齢だったけど、昔幼いモニカが患った『頬が腫れ高熱が出る病』を移されて重症化し、無事に回復した後には子を成す能力を完全に失ってしまったそうだ。通例として貴族の家の当主は男であるべきという共通認識がある為、養子にして後継ぎとなりえる男子を探してもみたが、血の繋がった親族は今ではもう片手ほどしかおらず、貴重な子供を養子として貰うことは叶わなかったそうでね。事実上、当主の一人娘であるモニカだけが正当なブランカ男爵家の血を継ぐ子となってしまい、一時期は何とかモニカを女当主として認可して貰う事も視野に入れてはいたけれど、成長していく過程で勉学を好まないモニカでは当主にはなれそうにないと断念し、学園に通わせる傍らで婿入りを前提としてモニカの結婚相手を探していたそうだ。…僕はそんな事情を一切知らなかった。全部初耳だったよ。モニカも家の事については詳しく説明されていなかったようだけど、僕はモニカの事しか考えていなくて、調べればすぐに分かったことだろうモニカの実家の事情なんて気にしても居なかったんだ。モニカと結婚すれば義理の両親になる人達の事だったのにね。
――どんなに薄くとも初代国王の王弟の血を確かに受け継ぎ、千年続いてきた我が国の建国時代より国に仕えてきた貴族の家の血筋を早々途絶えさせる訳にもいかぬ。だが、このままアルベルトとモニカが結婚する事で、ブランカ男爵家の歴史と我が王家の祖先である初代国王の血を継ぐ第一王子アルベルトの血筋の正当性を提唱し、アルベルトとモニカの子を王にして新たに権力を得ようと考える新興貴族が今後現れないとも限らん。今はまだ可能性でしかないが、かつて初代国王の血筋を理由に末端の血族に連なる者が王権を得ようと企み、内乱寸前にまで発展しかけた実例がある以上、国家存続の為、不可視なる未来において内乱となり得る火は、火種すらあってはならぬ。
僕は婚約式の為に同席して居た父に、そう言われた。確かに我が国の歴史を紐解けば、父が語った実例が存在するが、その時はそんな理由でモニカとの婚約を反対されているのかと思った。けれど、次いで言われた母からの言葉に反対されている訳ではない事を知った。
――アルベルト。お前の血筋は変えられないし、ブランカ男爵家の歴史も変えられない。お前がそこの娘モニカと結婚する為には、王族としての籍を抜き一切の縁を絶ち、側妃を輩出した我が実家の伯爵家からも絶縁された状態となり、身分も権威もその全てを捨て去った上で、平民同然その身一つでブランカ男爵家に婿入りするしかない。それでも良いならば、その書に署名せよ。…言っておくが、王位継承権の破棄はすでに認められておる故、この場で署名を棄権しても今までの生活は一切戻らぬと知れ。
僕は大きな衝撃を受けた。こんなことになるなんて予想外もいい所だった。モニカも驚きのあまりか茫然自失状態で、すっと固まったままだったよ。モニカはすでに署名を済ませていたから式の間動けなくなっていても、全く問題なかったけれど。実は貴族のマナーに疎いモニカには、流石に国王陛下の前での失敗は万が一にも許されないからと、僕と結婚する意志がある事を確認した上で事前に署名することを特別に許可されていたんだ。だから後は、僕の署名だけ。それだけで婚約は成立し、婿入りの条件を満たす為に僕は何も持たない平民となる。両親は僕に、『王族としての立場』か『真実の愛』か、僕の意思でどちらか一つを選べと言っているのだ。
それでも、僕は署名した。どうしても真実の愛の相手であるモニカと共に居たかった。その為に婚約も解消したし、王位継承権だって破棄したんだから。でもあの時ほど、手が震えたことはなかったよ。
78
あなたにおすすめの小説
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
王家の賠償金請求
章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。
解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。
そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。
しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。
身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。
悪役令嬢は高らかに笑う。
アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。
エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。
たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。
男爵令嬢に教えてもらった。
この世界は乙女ゲームの世界みたい。
なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。(話し方など)
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる