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第五話
しおりを挟む婚約式の後、正式に婚約者となった僕とモニカだけれど、僕の場合は身分を持たない平民となった以上は王宮では暮らせないからと、部屋を即座に使われていなかった離宮に移された。引っ越しの際、僕の私物はメイドが全部まとめてくれていたんだけど、これだけしかないのかと驚いたよ。確認したら僕に与えられていた物はそのほとんどが王家所有の物が占めていたから、僕の個人的な物にはならないんだってさ。僕の為に誂えた衣服類や貴金属も基本的に王家の紋章入りだからね。王族ではなくなった僕の物には何一つならなかった。代わりに新たに衣服とか必要な物を用意してくれていたけれど、品が悪くて着慣れるまで大変だったよ。まぁ、その移された離宮で課せられた、『平民の暮らしの勉強』をやってる内に気にする余裕がなくなったとも言うけどね。これも母の意向らしいと聞いたけれど、当初は洗濯とか料理とか、まるで下級メイドがするような事を実戦形式で覚えさせられるなんて、こんな勉強は本当に必要なのかと疑問に思ったものさ。それでも真面目に取り組んだのは、モニカはモニカでブランカ男爵家にて花嫁修業を一生懸命学んでいると聞いていたからね。愛するモニカの為ならばと僕も頑張ったんだ。慣れない生活のせいで、途中体調を崩して五日間ほど寝込んだこともあったけど、最後までやりきってみせたのはまさに愛の力だよ。
三か月ほどで僕は僕の私物と幾らの資金と共に離宮からも出され、ブランカ男爵家の家に住むことになった。ブランカ男爵家の婿入り準備や、結婚式の準備があるからこの引っ越しも必要な事ではあったけど、まさか引っ越してすぐに習ったことを実戦しないといけなくなるなんて思ってみなかったな。腐っても貴族で男爵家なんだから下級メイドくらい十分揃っているだろうと軽く考えていたんだよ。実際には家令と下級メイドは居たけど合わせて三人しかおらず、彼らは結婚式の準備に手を取られるから、食事は用意してくれたけど、部屋の掃除とか洗濯とか他の事は僕が自分でするしかなかったんだ。…母の凄さを改めて感じたよ。
それからはあっという間だったかな。丁度あの衝撃的な婚約式から半年過ぎた日。僕とモニカは結婚式を挙げたんだ。資金の都合で結婚式場は王都の外れにあるこじんまりとした教会になってしまったけれど、母の実家から贈られた僕の持参金で、モニカに似合う素敵で可憐なウェディングドレスを用意出来たことは今でも嬉しく思ってるよ。純白を纏うモニカの神話の女神のような可憐な姿を、僕の友人達に見せびらかしてやりたかったなぁ。…あぁ、モニカが友人達を呼びたくないと言ったから、僕も友人達を招待しないことにしていたからね。だから結婚式の参加者は立会人を除けば、新郎の僕と新婦のモニカと、モニカの両親だけ。それでも、僕もモニカも二人して結婚の誓いの際には涙が出るくらい感動したものだった。
…実はこっそりと結婚式に来てくれないかと思って、誰にも内緒で事前に僕の両親宛ての招待状付きの手紙を出していたんだ。流石に王宮へは直接送れないから、一旦僕の母の実家宛てにして送れば、そのまま両親に届けてくれると思ってさ。…絶縁したはずなのにって? そうだね…その頃の僕はまだ実感出来ていなかったんだと思う。言い訳に聞こえるだろうけど、その頃が一番僕とモニカを題材にした劇や小説が流行っていた時期だったからさ。僕との絶縁は建前でしかなく、本当は真実の愛を選んだ僕達の事を心から祝福してくれているんだとさえ、思っていた。…結局、送ったはずの手紙は、結婚式が過ぎてから僕の元へ送り返されて来た。開封さえされていないようだったから、それが僕への返答だった。うん…そう、そこで、ようやく実感したんだったな…。
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