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第三話
しおりを挟むそれから婚約の解消と同時に、僕は王位継承権を破棄した。それが解消の条件でもあったし、モニカと結婚する為に必要なことだったからね。当時の僕としては、王にならない道を選んだ代わりに、公爵とか適当な爵位を貰って愛するモニカと結婚するつもりだった。そう、今のような男爵家への婿入りは考えてなかったんだ。例え側妃の子であっても、僕が国王陛下の子であることは事実だから早々待遇が悪くなる事にはならないだろうし、妻となる予定のモニカの実家は男爵家だ。僕よりも権威もお金もないから後ろ盾になんてなりえない。将来王となる者を脅かすような立場にはなりえないから、僕がどんな爵位を貰っても問題なく、王家としても安心だろうと勝手に気楽に考えていたのさ。…そう言えば、婚約の解消を申し出た時に母には泣かれたよ。いつも毅然とした態度でいた気の強い母が泣く姿なんて、僕は初めて見た。…側妃として内政を手伝っていた母には、その時点でこうなる事が分かっていたんだろうね。
王位継承権を破棄した僕は、権威の無い王子。でも陛下の実子。そして僕が望んだ結婚相手はブランカ男爵家の一人娘のモニカだった。まさか、王の子である事実とブランカ男爵家の一人娘、その二つが大きな問題になるなんて思っても居なかった。…僕はね、モニカとの間に新たな婚約が結ぶ為の婚約式の場で、その時に初めて婿入りすることを知ったんだ。
あぁ、婚約式と言うのは貴族の間での婚約の際に行う儀式のことだよ。婚約式の場に選ばれた会場で両家の親が揃い、お互いの家から選ばれた立会人の元、各自用意された婚約の書に署名していき、その後両家共に揃って定められた役所に署名した書類を提出しに行くんだってさ。盛大に祝う場合はパーティーも開かれるとか。僕と元婚約者の婚約式もあったらしいよ、パーティーはなかったけど花火が上がって国中に祝われたって話を聞いたことがある。僕はまだ当時三歳だったからちっとも覚えてないけどね。そもそも婚約式については、僕とモニカは十八歳で学園はすでに卒業して成人扱いだし、両家にはもう認められていると思っていたから、簡易形式の婚約式で済ませる予定だったんだ。簡易形式なら親の同席も必要なく僕とモニカが婚約の契約書類に署名するだけで終わるし、書類は立会人とした王宮の文官に提出してもらえば済むからね。でも、けじめとしてどうしても必要だって母が言うから、父である国王陛下の許可を取って王宮内の一室を利用して、両家の両親揃っての正式な婚約式となったんだ。母の言う通り、確かに必要な事だったよ。何も気づいていない、何も知ろうとしていなかった僕には。……男爵家に婿入りしなければならない理由も、その婚約式で語られたんだ。
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