欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

誕生

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俺は不動産案内のおじさんとガスパーとウィルと4人で、各部屋の改装や修繕の話をして回った。

ガスパーは教えてくれないが、王様から言われている屋敷の予算は相当らしい。
だからこの屋敷を買っただけだと、もう一つ買ったらどうだと言われかねないというので、改装や修繕費用を込みにして請求させてもらって納得してもらおうと言う事になったのだ。

まぁ、フライハイト地域の領土の領地館の建設費用があるから、こっちの改装費用が出してもらえるのは凄く助かるのだが、何か本当、申し訳ない……。
でももらえるものはもらっておかないと、どっかのマダムみたいに俺の金を湯水のように使う人もいるから、そういう善意には多少甘えさせて貰わないとこっちの生活が回らなくなってしまう。

とりあえず、外はボロくなってる馬屋とウッドデッキ、それから庭というか外を畑を作れるように少し整備してもらって、ニ階のバルコニーから下に降りられるよう外階段をつける事にした。
建物については全体のクリーニングと修繕、一階はシルクの部屋を簡易的に独立したアパートメント的な住居スペースに変えて、後はサロンダイニングの準備室を日常的に使うダイニングにしてもらう。

サロンダイニングとその休憩室の2つの小部屋はそのままいじらない。
普段は使わず、誰か来たらここをメインに使ってもらえばいい。

外のウッドデッキには準備室からも出れるからそこから普段も使うから問題ないし、キッチン周りと洗濯場は綺麗にして補修してもらい、使用人用の設備は使う予定がないので、シャワー室を独立して一つ作り、内装を綺麗にしてここも客室として使える様にしてもらう事にした。
これで大きめの風呂が1つと、一階とニ階にシャワー室が一つずつの計ニつになった。
トイレはニ階のメイン寝室に一つ、シャワー室の隣に一つ、一階は元使用人室近くに一つ、玄関ロビーとサロンダイニングの間に一つ、奥のシルクの部屋と風呂場の間に一つ。
水回り数が多いが、客が来る事を考えた場合プライベートを守るには大事な部分なのでここはしっかり修繕とクリーニングを頼んだ。
普段は使うところを決めておけば良いしね。

トイレやシャワー室を考えると、ここはやっぱり小さくても屋敷で、人を招く用の別荘だったのだなと思う。

その代わりニ階はクリーニングと簡単な修繕だけであまり大きくいじる必要もなく、メインの寝室はそのまま俺とウィルの寝室で、隣の書斎はウィルの部屋。
書斎の隣の二人部屋はソファーなどを置いて、まったり寛いで過ごす為のサブダイニングにする。
それから寝室の向かいの一人用の客室を一部屋、俺の部屋として使う事にした。
その隣はシャワー室とトイレだし、これで客が泊まりに来ても寝室周りは客室にならないから安心だ。

客室は一階に使用人室を改装した数人用の大きめの部屋が一つ、ニ階に二人部屋が1つ、一人部屋が3つになった。
宿屋をやる訳じゃないんだからこんなに要らないだろとも思うが、他に利用目的も思い浮かばずそのままにしておく事にした。
普通に泊まりに来る気満々な連中がここにいるしな。
多分、この数あっても普通に使う事になる気がする。

何だかんだ、結構いじくる結果になった。
王様に出してもらうからって、欲を出して色々やり過ぎかもしれない。

どっかの人のこと言えないなぁと少し反省したが、王様に請求するには金額が少ないのか、ガスパーが盛んに庭に噴水つけるかとかプール作るかと聞いてきたけど、維持管理が大変そうなので断った。
王様、お気持ちは有り難いですが、余った金は街の修繕に使って下さい……。

「……そう言えば、研究室は作らなくて良いのか?サーク?」

「あ、あ~、研究室はね~別に持つ事になってて……。」

一人用の客室を俺の資料置き場と勉強部屋に改築を頼んでいたら、ウィルが不思議そうに聞いてきた。
まぁ、あのアパートにある研究機器を入れる部屋の話が出なければ不思議に思うよな。

「バンクロフト博士の熱弁が効いてな、コイツの研究、ちょっと予算がついたんだわ。国家研究とはいかないが、独立研究法人として立ち上がんだよ。だから小さいが研究施設ができる。」

「え??そうなのか??」

「うん……研究施設っていうか、繁華街外れにある小さな建物だけど……。」

そう、俺の研究はノルの熱い答弁によって、勧めていくべき事と認識された。
俺としては今ひとつノルに見えている世界に実感が持てず、エロ研究と揶揄された俺の研究がそこまで世間の役に立つ考えに繋がらないのだが、研究者としては予算がついてくれるのはありがたい。

ただ名目が「低下する人類の生殖行動並びに欲求」に関する研究となり、今までの「自分の性欲を取り戻す為」の研究からは少しズレる事になるが、性欲を科学的数値に置き換えデータを取り、そこからかアプローチしていくやり方は変わらない。
俺自身も自分の性欲については何となくわかってきて、解決策があるとしたら俺の場合はウィルであるので、自分の性欲を取り戻す為に研究する必要はなくなっている。
細かな所はやはりデータと照合していく必要があるし、今までせっかく取ったデータもあるので、それらの保管や研究は続けるつもりでいたし、一個人の趣味研究ではなくきちんとした研究機関となれば、シルクの発情についても情報を集めやすくなる。
研究機関になれば、俺が忙しくても人を雇って研究を進められるし、万々歳なのだが……。

「……まともな人材が居ないんだよな……この分野……応募してくる人って、エロ研究だと勘違いしてるし……。」

思わずボソッと呟くと、ガスパーがため息をついた。

「そりゃな。バンクロフト博士の話を聞いてれば、事の重大性がわかるだろうけどよ?それを理解できる人間てのは少ねぇよ。普通はエロ研究だと思われるよな。一応、生物学者とか医者とかに声をかけてやってるけどよ。」

「え?!いつの間に?!」

「てめぇが頭に花を咲かせてる間にだよ!馬鹿野郎。」

俺が環境の変化に戸惑ってわちゃわちゃしている間に、ガスパーはそんな手配までしてくれていたようだ。
さすがは目覚めた知の蛇、ラティーマーの神童だ。

「何か……何から何まですまん……。」

「別に。それが俺の役割だし。」

ここのところ、事ある毎にガスパーはそれが自分の役割だと言うのだが、何でそんな事を言うのか今ひとつわからない。
多分、褒めたり感謝されたりすると謙遜なのか喜ばないガスパーならではの言い回しだと思うのだが、何となく引っかかる。

「うん……役割ってのはよくわからないけど、ガスパーが色々やってくれるの、スゲー助かってる。ありがとな。」

「別に……。」

ガスパーはまた口の中でモゴモゴ何かを言った。

たまにするこのモゴモゴは何なんだろう??
ガスパーとの関係が凄く変わったので、何となく前の調子に戻れず、俺は変にそわそわしてしまう。

「サーク、ガスパーはサークの力になりたいんだよ。だから頼ってあげるのが一番いいんだよ。」

ウィルが何か悟りを開いた天女の様に静かにそう言った。
頼ってあげると言うより、すでにおんぶにだっこ状態だけどな。

「頼りにしています。ガスパー様。」

「……おう。」

ガスパーは明後日の方を見て、ぶっきらぼうにそう言った。
こういう所は、前と変わらずガスパーなんだよな~。

他の皆はこの間、好き勝手に建物内や外を見て回っている。
何か独身寮の部屋と同様、たまり場になりそうだよな、うちの家。
まぁ良いけどさ。

ギルが使用人をお祝いに探してくれるとか言ってたけど、丁重に断った。
お前ら貴族みたいに、常に誰かが身の回りの事をしてくれる生活してないから、家に使用人がいたらかえって気を使ってしまう気がするんだよな。
ウィルもそんな感じで申し訳ないしと言っているので、その辺は追々状況とかを見て考える方が良い。

第一、人を雇える程、今、お金ないから。
どっかのマダムが……。(以下略)

後、屋根裏部屋があるのだが、そこはとりあえずクリーニングと修繕をしてもらって、そのままにした。
ただでさえ部屋が多いから、今の所、利用方法が思い当たらない。

「では、これで契約は完了しまして、工事に移らせて頂きます。明日にでも工事終了の予定等をご連絡させて頂きます。ありがとうございます。アズマ様。」

「こちらこそ、素敵な家を紹介して下さり、ありがとうございました。」

「いえいえ、なかなか素敵な物件なのですが、貴族の皆様は普段使いには小さすぎるし、別荘ならもっと違う場所が良いと仰られて……。かと言って商人の方は、繁華街近くか郊外ならもっと大きくて派手なものを希望される事が多くて。この家の良さをご理解下さる素敵な方にご紹介が出来て、私も嬉しく思っております。アズマ様。」

何か素敵なおじさんだな、と思った。
ライルが家を探すならこの人が良いよとわざわざ教えてくれた人だけはある。
俺はおじさんと固く握手を交した。

何だかとても有意義な時間だった。

俺とウィル、そして皆が満足げな顔をしている。
契約を済ませて家を出て、これからどうしようかと皆で話しながらちんたら歩いていると、ライルの持っていた緊急を知らせる魔法石が激しく点滅し始めた。

「!!!!」

「ライル?!それって?!」

「サムが産気づいたみたいだ!!まだ予定日ニ週間も前なのに!!」

皆に緊張が走った。
俺達の副隊長ことサムの一大事。
いつもは落ち着きのあるライルも、これには流石にオロオロしている。
少し気が動転してしまっているようだ。

「ライル、落ち着けよ。出産は家ですんのか?」

「いや!昨日からお腹が張るって言って、フロースの産婦人科に経過入院させてもらってる!!」

フロース病院は俗に言う貴族病院で、その産婦人科に入院しているとなると、ここから完全に反対側の郊外だ。

「僕!近くの家で馬を貸してくれるところを探します!!」

「俺も行く。」

すぐにイヴァンとギルが反応し、シルクも動いた。
動揺するライルをガスパーが落ち着かせる。

俺はあたりを見た。
軽い丘の上を使って作られたこの住宅地はゆったりとした坂の上にある。

俺はその坂を見つめた。

「ウィル。ここ、どうだ?」

「……自力では少しキツイ。でもサークがいるから大丈夫だと思う。」

「わかった。……ライル!!」

俺の声にライルが顔を上げた。
俺はにこっと笑ったが、何だかわかっていないようだ。
ガスパーの方がマジかって顔を顰めている。

「多分、この街で最速の乗り物に乗せるよ。覚悟はいいか??」

そう言われて、あっと言うと目を見開いた。
ウィルが胸からヴィオールを出したのだ。
そして脇目も振らずに走ってくる。

「頼む!!サーク!ウィルっ!!」

いつも落ち着いてるライルが必死だ。
サムの事になると目の色が変わるライルが、どれだけサムを愛しているかわかる。

とはいえヴィオールはまた見た事もない住宅街にびっくりして、キューキュー鳴いている。
その聞きなれない声にいくつかの家の窓が開いた。
覗いてきたのは子供が多くて大興奮している。
まぁ、そうだよな……。
絵本の中から飛び出してきたみたいだもん。
ウィルはヴィオールを宥めて乗せるために座らせた。

「鞍とかないから、しっかり捕まって!!」

先にヴィオールの背に乗ったウィルはライルを引き上げ、一番安定している首元に座らせた。

「サークも!!着陸できるかわからないから!!」

「わかった。」

確かに向こうにヴィオールが降りられる場所があるとは限らない。
最悪、魔術で減速させて飛び降りるしかない。
俺は乗り込んでライルの後ろに座った。

「え?!ウィルは大丈夫なのか?!」

「ウィルは裸竜にもそのまま立って乗ってられるよ。飛んでるのに動き回るしね。」

「……マジ??」

「マジ。それより飛ぶ時、揺れるから踏んばってな。」

「わかった……。」

ガスパーが呆れた顔でこっちを見ている。
何人かが家から出てきて、信じられないものを見たと目を丸くしている。

俺はヴィオールの負担を減らす為に、重力を軽減させ浮きやすくした。
上昇気流を緩やかに送り始めると、ヴィオールはウィルの指示を受け、低く足を踏み出した。
重力を軽減させたから、そこまでドスドスとした足取りにはならず、滑るように坂を走っていく。

いい感じだ。

俺も何度もヴィオールに乗って、どういう時にどういう魔術で補佐すれば良いかわかってきた。
とは言え、乗ってる方が感じる振動は変わらないんだけど。

「~~っ!!」

ライルが顔を青くして歯を食いしばっている。
シルクみたいに大騒ぎしないだけありがたい。
俺は上昇気流を強めた。
フッと振動が止まり、浮遊感が生まれる。
ヴィオールが羽ばたき、その筋肉の動きがダイレクトに尻に響く。

「……う……うわああァァァっ!!」

さすがのライルも叫び声を上げて、俺はちょっと笑ってしまった。
背後でも物凄い歓声が聞こえる。
そりゃな、竜が現れて人を乗せて飛んでくんだもんな、歓声くらい上がるよな。

「ライル!!細く長く息を吸って!!もしくは大きく吸って止めて!!」

ウィルが指示をした。
相変わらず、どうやってこの状態でウィルは安定して乗っているんだろう?本当不思議だ。
ヴィオールの骨の出っ張りを掴んで、中腰に構えている。
その足腰の筋肉の強さと体幹にビビるしかない。
そのまま上昇気流を強め続けると、一気に上昇していく。
急に上がる時は風圧と重力で本当、息が詰まる。
耳がツンとおかしくなる。
かなりの高さまで来てヴィオールが安定飛行を始めると、ライルがゲホゲホ咽ていた。
まぁ指示されてもうまくできないよな~。

「大丈夫か?ライル??」

俺は背中に手を当てて回復をかけた。
それで呼吸が楽になったのか、涙目で振り返られる。

「……し……死ぬかと思った……息ができなかった……。耳おかしいし……。」

「うん、始めててこれだけ急速に上がったら、息できないよな……。」

「ごめんね、ライル。人も出てきていたから近づかれると危ないし、早く行きたいと思ったからちょっと無理に上げてしまったんだ。」

「いや、良いよ。ありがとう、ウィル……。」

そうこう言っている間に、小さい城みたいなフロース病院が見えてきた。
俺は魔力探査で探ってみたが、ヴィオールを降ろせそうな場所はない。

「ウィル、こっちから見て3時の方向に大きめな病院の庭園がある。ヴィオールを普通に着地させるのは無理だから、旋回してゆっくり降りてくれ。ある程度の高さで魔術を使って減速を使って飛び降りるから。」

「わかった。」

「……ねぇ、俺、赤ちゃんに会う前に死なないか??」

「死なないって。魔術兵は緊急時、あの外壁の上から普通に飛び降りて仕事するんだぞ??」

「……は?!あの高さから飛び降りるのか?!」

「そうだぞ??日常茶飯だぞ??」

「嘘だろ?!」

「怖いなら、眠らせてその間に済ませるけど、どうする??」

ライルはぬぬぬっと悩んだ後、大声で叫んだ。

「俺の赤ちゃんが生まれるのに!!サムだってすっげー頑張ってるのに!!俺が怖くて眠らされて竜から降りたなんて言えるか~っ!!クソッタレ~っ!!」

どうやら気合は十分だ。
俺とウィルは顔を見合わせた。

そして、盛大な悲鳴を上げながらライルはヴィオールから俺と飛び降り、長く語り継がれる伝説の父親になった。
(ちなみにウィルは半分くらいになったヴィオールが足で掴んでゆっくり下ろした。)

フラフラで駆けつけたライルは分娩室に入る前にサムと面会でき、出産に立ち会う事ができたので本当に良かった。
ちょっと無茶したけどさ。

後から馬で駆けつけた他のメンバーとロビーで待っていると、サムのご両親が無事に生まれたと教えてくれた。

二人の第1子は女の子だった。

感動したライルは、分娩室から白衣などをつけたまま、男泣きならぬ大泣きで出てきて、俺達は笑ってしまった。
嫌な意味で笑ったんじゃない。
何か幸せで、ライルが鼻水垂らして大声で泣いてて、何か泣きそうになって笑ってしまった。

命は繋がっていく。

俺達の次の世代が誕生した瞬間だった。
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