欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

輝ける星

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サムの出産が早まった事で、1週間後からの予定だったライルの長期休暇が前倒しになった。

その為、はじめはガスパーにも同行してもらう予定だったフライハイトの俺の領土の領地館建設の視察は俺とウィルだけで行く事になった。
ガスパーは急遽休みに入ったライルの仕事の処理と、俺が休暇に入る事でやっておかなければならない事を済ませたら、単独で一度フライハイトの進捗状況を見に来てから休暇に入るそうだ。

マダムとは顔見知りとは言え、貴族気質のガスパー一人でこの無法地帯に来て大丈夫かなと心配していたら「僕、一度ギルドに行ってみたかったんですよね~。」とイヴァンが気を利かせてくれた。

お前って本当、良い奴だよな。
何で恋人ができないんだろうな??
顔だって悪くないし。
まぁムキムキ加減は好みがあるかもしれないけどさ。
こだわりが強すぎるんだろうな、あれは。

ちなみにライルとサムの赤ちゃんだが、めちゃくちゃ可愛い。
そして赤ちゃんを前にデレデレなライルとサムも可愛い。

あの日はさすがにサムや赤ちゃんには会わずに帰ったが、数日後に会いに行ったらもう幸せオーラが凄くてキラッキラで10分程度しかいなかったのにフル充電された気分だった。

ついでにその日、初めてきちんとライルのお父さんことコーディ書記長に会った。
ライルに似てちょっと小柄な可愛い感じのおじさんで、どうやらコーディ書記長も俺に親近感を持ってくれていたようで、俺を見るなり嬉しげに駆け寄ってきてくれて、俺達は何も言わずに硬い握手を交した。
そしてライルが竜に乗った事を凄く羨ましがっていたので、病院の庭園に出てからウィルに小さい状態でヴィオールを出してもらった。
もう、凄いテンション上がってて無邪気で可愛かった。
軽く禿げてるけど可愛かった。
ライルもいつかこうなるのかなぁ~。(遠い目)

その後、俺の研究や冒険者としての活動、血の魔術についても少し聞かれ、コーディ書記長も色々多方面の知識から胡散臭い噂までたくさん知っていて話が尽きないので、落ち着いたらゆっくり食事でもしようと約束した。

シルクはギルとライル達の赤ちゃんを見に行った後、レオンハルドさんと旅に出て行った。
決心が揺らぐからと、家を見に行った日以降、俺とは会っていない。
ただ俺は先にレオンハルドさんに会って、赤い石の付いた髪を結ぶゴムを渡して欲しいと頼んだ。

「これは……何の石ですか?サーク様??」

「俺が作った石です。お守りみたいな物ですよ。」

かつてマダムと並ぶ名高いトレジャーハンターでもあったレオンハルドさん。

そのレオンハルドさんでも見たことがなかったその石は、俺の血の魔術で作ったものだ。
そこに血の魔術で作った豹の守護をつけてある。
俺の血を結晶化させたその石は、俺の魔力そのものでもある。
血の魔術で作ったものは俺から離れれば次第に魔力を消費して消えてしまう。
だが俺の血で作った結晶に付ければ、長い間存在できると考えたのだ。

シルクがどれぐらいの間、修行をするのかは知らない。
おそらく本人が納得できる状態にならなければ帰ってこない。

だから俺はシルクの帰って来れる場所を作った。
そしてこれを渡す。
それが今の未熟な主として俺にできる事だった。

「なるほど……どうりで見たことの無い宝石です。……主から守護を贈られるとはカイナの民として大変誉れな事です。」

「守護の事は内密にお願いします。守るべき主に守られるなんてって嫌がりそうですから。」

「もちろんですとも。自分が賜ったものに守護がついているか否かも言われねば判断できぬような未熟者なら、鍛え甲斐があると言うものです。」

「ほ、程々にしてやって下さい……。あいつ、意外とナイーブなので……。」

にこにこと笑うレオンハルドさんが、穏やかな笑顔のまま躊躇なくシルクを半殺しにできる事を知っている俺は苦笑した。
俺は少し眩しげにレオンハルドさんを盗み見た。

初恋の人。

前は姿を見ただけで動揺していたのに、こうやって普通に話せる事が何か不思議だ。
今だってドキドキしない訳じゃない。
上辺だけの自分の理想を見ている訳じゃなくて、皆が言うように結構この人ヤバイ人なんだなって言うのもちゃんと見るようになったけど、やっぱり格好いいと思うし、素敵な人だと思うし、とても好きだと思う。

多分、一生、この気持ちは消えない。

「……そんな風に見つめられますと、わたくしも困ってしまうのですが、サーク様。」

「すみません、バレてました?」

「それはそうです。私とて、サーク様の事は人一倍気にかけているのですから、チラ見でも気づきますよ?」

「えっ?!全部バレてるんですか?!」

「おやおや、カジノでの攻防をお忘れになられましたか?サーク様がこちらを見れば、大抵はわかります。あなたが私に気づかなくても、私は気づきますよ?」

そんな事を言われてしまうと、タジタジになって俺は俯いた。
ヤバイ、俺がこっそり見てるつもりだったのも、全部バレてるんだ……。
めちゃくちゃ恥ずかしい……。

「ふふふ、その様な可愛い顔をなさらないで下さい。後悔してしまうではありませんか。」

「後悔??」

「ええ。あの時、あんな風に格好をつけなければ……無理矢理にでも連れ去っていたなら、サーク様は私のものだったかもしれないと。」

「ふぁっ?!」

思いもよらない言葉に、俺は真っ赤になって気が動転した。

え?ええっ?!
どういう意味だ??

あの時、俺がレオンハルドさんを好きで、盛大な片想いで、自分の事は忘れて欲しいと言われてフラレたんだよな?!
え?!どういう事?!

「え?!ええっ?!」

「おや、サーク様は私の気持ちにはお気づきではなかったのですか?」

「ふぇっ?!」

「ふふふ。まぁ、無理もない事です。私もあの頃は、未来ある青年に自分の様な死に損ないの老骨が関わるべきではないと思っておりましたから。それに、何と言うのでしょう?サーク様は中々懐いてくれないウォンバットのようで、ただただ可愛らしく見ているのが楽しかったと申しますか。」

「……ウォンバット……。は、はじめて言われました…。」

これは喜ぶべきポイントだろうか?悲しむべきポイントだろうか?
ウォンバット、可愛いけどさ、俺、大好きだけどさ……。
え??レオンハルドさんの中の俺のイメージって、まるまるのずんぐりむっくりなのか?!

「私もいい年です。その様な感情は当の昔に失ったと思っておりましたし、忘れておりました。なのに離れてみて急にサーク様が恋しくなり、あなたが下さった初恋がとてもとても希少な宝石のように思えてなりませんでした。儚くて掛け替えがなくて掴みどころがないのに、確かにそこに輝いている星の様で。それに気づいた時、あぁ、私もサーク様に心を奪われていたのだと、ようやく知ったのです。まぁ遅すぎましたけれども。」

「レオンハルドさん……。」

そんな事を聞いてしまったら、俺は何も言えない。
もしもタイミングがズレていたら、俺はレオンハルドさんとお付き合いする事ができたのだろうか?
ここでは無い別の世界線では、俺とレオンハルドさんが恋人になれる場所があったのだろうか?
そんな事を思ってしまう。

「もしも何かが少しでも違っていたら…あの初恋は叶ったのかもしれないんですね……。」

「どうでしょう?おそらくそれはないのではないかと思います。」

「どうしてですか?」

「……私は、きっと何度やり直しても同じ道を選ぶからです。この結果を知っていても、きっと私はその状況に立ったなら、また同じ道を選ぶはずですから……。」

そう言って俺に笑いかけるレオンハルドさんは、いつも通り大人の香りがして、自分が釣り合いの取れないガキンチョな事をまざまざと思い知らされる。
あぁ、この人は、常に全てを背負って選択しているんだ。
後悔しないように。
いや、後悔することも含めてその背に背負って、自分の意志で行くべき道を決めているんだ。
だからその先に生まれた後悔も、何も言わずに背負うのだ。

俺はなぜこの人にこんなにも焦がれたのかわかった。

この人の生き様に「もしもあの時…」などと言うものは存在しない。
少なくとも、俺が出会ったレオンハルドさんにはそれがないのだ。
後悔することも含め、その覚悟を持って生きているのだ。
だからたとえ想いが通じ合っていても、きっと俺はレオンハルドさんと共に歩く事はできなかった。
この人は憂いさえそのまま受け入れる器があり、俺はそれが理解できるほど大人ではなかった。

それでも思う。

「……俺の初恋が、レオンハルドさんで良かったです。」

「サーク様……。」

「あなたはずっと、俺が追いかけ続ける、輝ける星です。」

俺はそう言って笑った。

叶わなかった恋。
いや、恋と呼ぶには幼すぎた俺の初恋。

それでも俺が選んだ初恋の相手は、事実、この世界で一番格好いいロマンスグレーの死神で。
お茶目で可愛くて、厳しいけれど優しくて。
初恋の癖に自分の目がとても肥えていた事に驚くしかない。
この想いを生涯、大事に心に留めて置こうと思う。

「……敵いませんな、サーク様には……。」

そんな俺を、眩しそうにレオンハルドさんは見つめた。
そしてスッと顔を寄せると、あの日の様に額に口付けてくれる。
髭がチクチクして、俺のファーストキスを思い出した。

「……あなたの幸せを願っています。」

「俺も、レオンハルドさんの幸せを願っています。」

好きですでも愛していますでもなく、相手の幸せを願う。
それが俺とレオンハルドさんのすれ違った叶わぬ想いの形なのだと思った。
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