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第九章「海神編」
新しい絆
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「こっちの方だと別宮への距離は同じだけど、街からは遠くなる。でも自然も多いし静かだし、ウィルはこっちの方が好きなんじゃないかな?」
「うん、環境的にも好きだし、区画も繁華街から離れた分、全体的にゆったりしてる。こっち側の方が好きだ。」
王様から家を貰う事になった俺達は、色々な事が落ち着いてから物件を見に来ていた。
はじめは王様が郊外の馬鹿でかい屋敷をくれると言ったのだが、とてもじゃないが俺達じゃ管理しきれない屋敷だったので丁重にお断りした。
話し合った末、こちらからこの物件をお願いしますと報告する形にさせてもらった。
「ここだったらさ~、馬がいた方が良いよ??別宮だけじゃなく王宮の緊急呼び出しに応じられるようにさ~。」
「なら、納屋のない家は却下だな。」
「でもさ~ヴィオールがいるから、馬いなくても平気じゃん??」
「ウィルが不在でサーク一人だったらどうするんだ?」
「と言うか、ヴィオールが原寸大で飛び立てる場所がなければその案は難しいかと思いますよ。」
「……………………。」
俺は後ろを振り返った。
ラブラブな新婚さんさながらに腕を組んで歩いていたウィルが苦笑する。
「お前ら……なんでいんだよっ!!」
そう、今日は不動産を扱う人に家を見せてもらう日なのだが、何故か他の奴らまで集まっていた。
ついてくんなと言ったのに、微妙な距離でついてくる。
「何でって、お前、国王陛下に報告書を自分で書くってんなら、俺は帰るぞ?」
「すみません。ガスパーはいてください。」
「不動産屋さん紹介したの俺なんだけど??」
「紹介ありがとう、ライル。でも一緒に回らなくていいから。」
「え~、だって主の家でしょ??俺、知っとかないとまずくない??」
「うん、シルクはいてもいい。」
「不満そうだな。」
「てめぇは何でいんだよ!!ギルっ!!」
「シルクが来たいと行ったから、連れてきただけだ。」
「引率はいらねぇっ!!次っ!!」
「あ、僕は冷やかしです。」
「素直でよろしいっ!!でも帰れっ!!」
何なんだよ、本当に……。
集まった時と同様、帰れと言っているのに、奴らはのほほんとしている。
全く蛙の面に水だ。
不動産案内の人も彼らをどう扱っていいか困っている。
そりゃそうだよな、無視できる面子でもないし。
と言うか、何故、俺達が揃って休みが取れているかと言うと、俺達には温情休暇的なものが出ている。
親南派が牛耳っていた頃、行動を制限されたり監視されたりした彼らは、事が片付いた今、その頃の不当な扱いの代償に休暇を取りやすくさらに希望時に纏まった休みを貰える事になった。
それでもさすがに全員一斉にいなくなるのも不味いだろうと、一番始めにギルとシルクが長期休暇を使った。
シルクはレオンハルドさんについて修行にいくので、早めに二人の時間を取ったのだ。
どっか近場に数日旅行に行って、昨日だかに帰ってきたらしい。
シルクはこの後旅に出て、ギルは実家の領地移動の件を片付けて来るらしい。
ライルはいつ取るか決まっていない。
そろそろサムが出産なので、その前後で使うのだそうだ。
なので今日の休みはたまたまなのだと思う。(多分)
イヴァンもたまたま休みのようだ。(多分)
他の面子よりイヴァンは行動を制限されたり監視されていた訳ではないので、長期休暇の許可は出ていない。
ただ出突っ張りだったので休日を増やしてもらい、休みが取りやすくはなっているらしい。
とは言え、この面子がずらしているとは言えボコボコ長期休むので、今回も一人ひとまず気張ってくれている。
何気に損な役回りが多いよな、イヴァンって。
いつか約束の冒険に連れてってやろうと思う。
書類の話をしていたから、ガスパーは今日休みじゃなくて仕事としてついてきているみたいだ。
服装もよく見たら一人だけちゃんとしてるもんな。
長期休暇の方は俺が休んだら数日ずらして休むつもりらしいし。
俺がいない間の処理をして休暇を取り、俺が戻ってきてわちゃわちゃ始めたら、そこに戻って手続きなどの処理をしてくれるらしい。
何か、あの後から完全にガスパーが俺の事務処理や政治的手続きを任されてくれてるんだけど、良いのだろうか??
ギルも警護部隊も王宮の官僚さん方も特に何も言ってこないけど、このまま俺についててもらって良いのかな??
本当、俺はあの一件で担ぎ上げられたせいで立場が大幅に変わってしまって、色々と訳のわからない手続やら何やらしなければならない事が物凄く多い上に意味がわからないので、ガスパーが説明してくれたり手続きしてくれたりしないと困ってしまうのだが、ラティーマーの神童を俺なんかがいつまでも独占してて良いのかわからず、少しどぎまぎしている。
俺はこっちの家が決まったら、フライハイトに行って領地館兼ギルドの建設状況を確かめ、ウィルと東の国に行く予定だ。
前に恋人と帰るって義父さんに約束したし、着物とか送ってもらいっぱなしだから、お金も返したいし。
それに……ウィルともいつか二人で着物を着て出かけようと言っていたので、向こうで着て二人で歩こうかなと~。
ちょっと足を伸ばして古都とか観光しても良いし。
でもウィルだと原生林に固有種を見に行きたがりそうだよな。
まぁ、今回は義父さんと顔合わせって感じで、観光にはまた行けばいいし。
何しろうちにはヴィオールと言う最速の移動手段があるのだから、ちょっとした連休程度の休みでも行って帰ってこれる。
「アズマ様、ご要望を聞いた感じですとおそらくここが一番合っていると思うのですが……。」
案内してくれていた品のいいおじさんが、そう声をかけてきた。
そこは、郊外住宅街から伸びる小さな小道を進んだ所にある、森と隣接する小さめの邸宅だった。
「ある貴族が日常の短い休日の為に別荘として建てられた物件でして、見ての通り小さな建物ですが、優雅な休日を過ごす為に、広めの庭と森の一部が敷地となっております。また、建物内部もサロンを開けるダイニング、読書用の書斎、広めの浴場があり、メインの寝室の他は小さめな客室が多めにございます。」
「なるほど……日常住む用ではなくて、一日ニ日の休日用に作られたものなんですね。」
「はい。ですから普通のお屋敷よりは設備は簡素に作られていますが、人を呼んだり泊めたりする機能は重視されております。大きなお屋敷や贅沢な設備はお好みではなく、庶民的な小さめのお屋敷とお伺いしておりましたので、気に入って頂けるのではないかと思います。」
多分、これを作った貴族は相当な金持ちだったのだろう。
長期休暇用の別荘とは別に、普通の休日を優雅に過ごす為に作った別荘なのだ。
別荘というからには、もちろん普段遣いの家はあっての上だ。
貴族ってヤバイよな、なんて思った。
でも、本当に今まで見てきたきらびやかな、いかにも貴族の家って感じと違う。
何ていうか隠れ家的な感じで、外観も質素で落ち着いている。
庭も庭園って感じじゃなくて普通に庭って感じだ。
森が庭の一部ってのも何か落ち着く。
「いいね、ここ。好きだな。」
「うん。俺も良いなと思うよ。ウィル。」
ウィルが俺から離れて、興味深そうに庭を見て回っている。
珍しくテンションが上がってるのか、行動が嬉しそうで可愛い。
「へ~、こんな家もあるんだ~。」
「何か、サークっぽい家だな。まさに。」
「森に隣接していると言うのは、襲撃を考えたら危険ではあるが……サークは魔術師だからな、どうせ結界を張るだろうし。そう考えれば合ってるのかもな……。」
「一応、馬屋もありますしね。日常的に飼う為のものじゃないですけど、そこは手を加えればいいだけですし。」
「主~、俺、中が見たいよ~。」
何故かくっついてきた面々も、好感を持ってわらわらあちこち見て回っている。
おじさんはにこにこしながら鍵を出し、中を見せてくれた。
中は装飾などは凝っていないが、シンプルで品のいい感じに纏まっていた。
話の通り、そう大きくない玄関フロアの奥に、サロンが開けそうな窓辺の広いダイニングがある。
ダイニングの窓の外はウッドテラスになっていて、ちょっと傷んではいるが、手を加えれば外にテーブルなども置けるだろう。
外に出てパタパタとウィルとシルクが楽しそうに見ている。
ダイニングの奥は小さな準備室とその奥にキッチンがあり、普段はこの準備室を日常生活用のダイニングにしても良いかな、と思った。
他に使用人用の休憩室、数個の寝室、洗濯場等がある。
使用人を入れる予定はないから、どう活用するかちょっと悩むところだ。
また、ダイニングとは反対側に建物の割に立派な風呂設備があった。
大きすぎる訳ではないが、部屋毎についているような一人用のバスタブではなく、2、3人一緒に入れる感じだ。
大きな屋敷の馬鹿でかい入浴施設に比べたら小さいが、俺には十分だった。
やっぱり休日はゆっくり広い風呂に入りたいもんな~。
家の中で何か一つ贅沢をするなら、風呂が大きいのが良い。
その代わり部屋毎のバスルームはないけれど、庶民出身で風呂なしの家に住んでいた俺にはそれで十分だ。
あれだけゆったりできるなら、本当、凄くいい。
一階の奥には一つだけ客間があった。
俺はそこを見て、うん、と思う。
「シルク~。」
「な~に~?主??」
ウィルとニ階に上がる階段の手摺りの造りを見ていたシルクに声をかける。
一緒にいるならちょうどいいと俺は二人を手招きした。
「どうしたんだ?サーク?」
「二人に聞きたいんだけど、シルクの部屋ってここで良いか??」
その客間を指差し、俺は二人に聞いた。
普通に一緒に住むとなると、同じ階だと流石に気になってしまう。
けどお互いの寝室を一階とニ階に分ければ、そこまで気にならないだろう。
それにこの部屋は一階の奥で、ちょうど裏庭に出る勝手口の近くだ。
シルクが個人的に出かけたり帰ってきたりするのは、ここを使えば俺達に気を使わないで済むだろう。
部屋のドアには鍵も付いているのでちょうどいい。
広さも独身寮の二人部屋をちょっと小さくした位だし。
しかも何故かここだけ簡易的な水回りもあるから、手を加えれば独立した住居スペースに変えられると思う。
一人でそんな事を思いながら部屋を見渡していると、シルクは俺の言葉にきょとんとしている。
何だろう?
気に入らないのかな??
俺は振り返ってその顔を見つめた。
「別の部屋が良ければ考えるけど、ここだと勝手口近くで出入りも俺達を気にせずできそうだし、水回りもあるからちょっと手を加えて……て?!……えっ?!シルク?!」
説明しながら返事を待っていた俺はギョッとした。
シルクがキョトン顔のまま固まって、ぽろぽろ泣き出したのだ。
「え?!嫌だったか?!嫌なら嫌って言えば良いだろ?!泣くなよ?!」
「ち、違うもん……っ!!」
そう言いながら堪らえようと手で顔を覆ったのだが、何故か止まらずわんわん泣きだしてしまった。
ウィルが優しく微笑んで寄り添っている。
俺の方はどうして良いのかわからず慌ててギルの顔を見た。
ギルは相変わらずの無表情で突っ立ていて役に立たない。
何なんだよ?怒ってんのか?
どういう感情なんだよ??それ??
ただその他の皆が、妙ににこにこしていた。
え?!本当、これはどういう事?!
困惑して慌てふためく俺にウィルが笑って言った。
「びっくりしたのと、嬉しいだけだよ。」
「へっ?!」
「だ、だって……俺も住んでいいって……主に言われてなかったし……。俺……主と離れる努力しなきゃって思ってたし……。」
「あ、あ~ごめん。家がどんなのになるかわかんなかったから、いいとも駄目だとも言うに言えなくて……。別にここに住まなくても良いけど、一応、色々考えて、お前がどんな状況になろうとも、いつでも帰ってこれる場所があった方が良いかなと思って……。」
シルクは故郷を失ってしまった。
だからいざという時に「帰れる場所」みたいなものが必要だと思っていた。
一緒に住む必要はないけれど、余裕があれば部屋を作ってあげたいとウィルとも話していたのだ。
ウィルに話していたので、当然聞いていると俺は思いこんでいた。
「住む~っ!!俺も主と住む~っ!!」
「お、おう……わかった……。」
シルクはガバッと抱きついてきた。
子供みたいに泣いているシルクをとにかくなだめる。
何だかちゃんと言っていなかったせいで、すこぶる不安にさせていたみたいだ。
何か悪いことしたなと思う。
「なら~、俺の部屋はニ階ね~。」
「僕も好きな部屋選ぼうっと。」
「……は?!お前ら、ちょっと待てっ?!」
にこにこシルクとのやり取りを見守っていたライルが、急にそんな事を言った。
ニヤッと笑って同調したイヴァンと二人、ダダダッとニ階に駆け上がっていく。
……は?!
いつ俺がお前らに部屋をやると言った?!
俺はシルクをウィルに任せると、慌てて後を追っかける。
勝手にニ階の部屋を探索している二人をとっ捕まえて締め上げる。
「お前らの部屋はねぇっ!!」
「えええぇ~?!何でだよ~?!」
「そうですよ~、皆の秘密基地じゃないんですか?!」
「違ぇっ!!俺とウィルのラブラブな新婚住いだ!!出てけ!!邪魔者っ!!」
「え~?!」
そう言ってゲラゲラ笑っている。
何なんだよ、全く油断も隙もないなこいつら。
とはいえ内見だ。
ニ階はメインの寝室と、その横の書斎、後は小さめだが二人用の客間が2つと1人用が4つ、他、共用のシャワー室あった。
人を泊める部屋がメインで、他に色々設備がある訳じゃない。
本当に簡易別荘だったんだな、と思う。
部屋も全体的に貴族の屋敷にしては小さめで余計な作りがない。
むしろそれだけスッキリしているのでこちらとしては使い勝手が良い。
部屋は色々いじって変えれば良いのだし、本当にちょうど良かった。
「いかがですか?」
案内のおじさんがにっこり笑った。
俺はウィルの顔を見た。
ウィルは笑って頷いてくれた。
「ここにします。」
その言葉を発した瞬間、俺とこの家に絆が生まれた。
何となくこの家に迎え入れてもらった気がした。
やんちゃな友人が多いから騒がしくなるかもしれないけど、よろしくお願いしますという思いを込めて、俺は家の柱に触れたのだった。
「うん、環境的にも好きだし、区画も繁華街から離れた分、全体的にゆったりしてる。こっち側の方が好きだ。」
王様から家を貰う事になった俺達は、色々な事が落ち着いてから物件を見に来ていた。
はじめは王様が郊外の馬鹿でかい屋敷をくれると言ったのだが、とてもじゃないが俺達じゃ管理しきれない屋敷だったので丁重にお断りした。
話し合った末、こちらからこの物件をお願いしますと報告する形にさせてもらった。
「ここだったらさ~、馬がいた方が良いよ??別宮だけじゃなく王宮の緊急呼び出しに応じられるようにさ~。」
「なら、納屋のない家は却下だな。」
「でもさ~ヴィオールがいるから、馬いなくても平気じゃん??」
「ウィルが不在でサーク一人だったらどうするんだ?」
「と言うか、ヴィオールが原寸大で飛び立てる場所がなければその案は難しいかと思いますよ。」
「……………………。」
俺は後ろを振り返った。
ラブラブな新婚さんさながらに腕を組んで歩いていたウィルが苦笑する。
「お前ら……なんでいんだよっ!!」
そう、今日は不動産を扱う人に家を見せてもらう日なのだが、何故か他の奴らまで集まっていた。
ついてくんなと言ったのに、微妙な距離でついてくる。
「何でって、お前、国王陛下に報告書を自分で書くってんなら、俺は帰るぞ?」
「すみません。ガスパーはいてください。」
「不動産屋さん紹介したの俺なんだけど??」
「紹介ありがとう、ライル。でも一緒に回らなくていいから。」
「え~、だって主の家でしょ??俺、知っとかないとまずくない??」
「うん、シルクはいてもいい。」
「不満そうだな。」
「てめぇは何でいんだよ!!ギルっ!!」
「シルクが来たいと行ったから、連れてきただけだ。」
「引率はいらねぇっ!!次っ!!」
「あ、僕は冷やかしです。」
「素直でよろしいっ!!でも帰れっ!!」
何なんだよ、本当に……。
集まった時と同様、帰れと言っているのに、奴らはのほほんとしている。
全く蛙の面に水だ。
不動産案内の人も彼らをどう扱っていいか困っている。
そりゃそうだよな、無視できる面子でもないし。
と言うか、何故、俺達が揃って休みが取れているかと言うと、俺達には温情休暇的なものが出ている。
親南派が牛耳っていた頃、行動を制限されたり監視されたりした彼らは、事が片付いた今、その頃の不当な扱いの代償に休暇を取りやすくさらに希望時に纏まった休みを貰える事になった。
それでもさすがに全員一斉にいなくなるのも不味いだろうと、一番始めにギルとシルクが長期休暇を使った。
シルクはレオンハルドさんについて修行にいくので、早めに二人の時間を取ったのだ。
どっか近場に数日旅行に行って、昨日だかに帰ってきたらしい。
シルクはこの後旅に出て、ギルは実家の領地移動の件を片付けて来るらしい。
ライルはいつ取るか決まっていない。
そろそろサムが出産なので、その前後で使うのだそうだ。
なので今日の休みはたまたまなのだと思う。(多分)
イヴァンもたまたま休みのようだ。(多分)
他の面子よりイヴァンは行動を制限されたり監視されていた訳ではないので、長期休暇の許可は出ていない。
ただ出突っ張りだったので休日を増やしてもらい、休みが取りやすくはなっているらしい。
とは言え、この面子がずらしているとは言えボコボコ長期休むので、今回も一人ひとまず気張ってくれている。
何気に損な役回りが多いよな、イヴァンって。
いつか約束の冒険に連れてってやろうと思う。
書類の話をしていたから、ガスパーは今日休みじゃなくて仕事としてついてきているみたいだ。
服装もよく見たら一人だけちゃんとしてるもんな。
長期休暇の方は俺が休んだら数日ずらして休むつもりらしいし。
俺がいない間の処理をして休暇を取り、俺が戻ってきてわちゃわちゃ始めたら、そこに戻って手続きなどの処理をしてくれるらしい。
何か、あの後から完全にガスパーが俺の事務処理や政治的手続きを任されてくれてるんだけど、良いのだろうか??
ギルも警護部隊も王宮の官僚さん方も特に何も言ってこないけど、このまま俺についててもらって良いのかな??
本当、俺はあの一件で担ぎ上げられたせいで立場が大幅に変わってしまって、色々と訳のわからない手続やら何やらしなければならない事が物凄く多い上に意味がわからないので、ガスパーが説明してくれたり手続きしてくれたりしないと困ってしまうのだが、ラティーマーの神童を俺なんかがいつまでも独占してて良いのかわからず、少しどぎまぎしている。
俺はこっちの家が決まったら、フライハイトに行って領地館兼ギルドの建設状況を確かめ、ウィルと東の国に行く予定だ。
前に恋人と帰るって義父さんに約束したし、着物とか送ってもらいっぱなしだから、お金も返したいし。
それに……ウィルともいつか二人で着物を着て出かけようと言っていたので、向こうで着て二人で歩こうかなと~。
ちょっと足を伸ばして古都とか観光しても良いし。
でもウィルだと原生林に固有種を見に行きたがりそうだよな。
まぁ、今回は義父さんと顔合わせって感じで、観光にはまた行けばいいし。
何しろうちにはヴィオールと言う最速の移動手段があるのだから、ちょっとした連休程度の休みでも行って帰ってこれる。
「アズマ様、ご要望を聞いた感じですとおそらくここが一番合っていると思うのですが……。」
案内してくれていた品のいいおじさんが、そう声をかけてきた。
そこは、郊外住宅街から伸びる小さな小道を進んだ所にある、森と隣接する小さめの邸宅だった。
「ある貴族が日常の短い休日の為に別荘として建てられた物件でして、見ての通り小さな建物ですが、優雅な休日を過ごす為に、広めの庭と森の一部が敷地となっております。また、建物内部もサロンを開けるダイニング、読書用の書斎、広めの浴場があり、メインの寝室の他は小さめな客室が多めにございます。」
「なるほど……日常住む用ではなくて、一日ニ日の休日用に作られたものなんですね。」
「はい。ですから普通のお屋敷よりは設備は簡素に作られていますが、人を呼んだり泊めたりする機能は重視されております。大きなお屋敷や贅沢な設備はお好みではなく、庶民的な小さめのお屋敷とお伺いしておりましたので、気に入って頂けるのではないかと思います。」
多分、これを作った貴族は相当な金持ちだったのだろう。
長期休暇用の別荘とは別に、普通の休日を優雅に過ごす為に作った別荘なのだ。
別荘というからには、もちろん普段遣いの家はあっての上だ。
貴族ってヤバイよな、なんて思った。
でも、本当に今まで見てきたきらびやかな、いかにも貴族の家って感じと違う。
何ていうか隠れ家的な感じで、外観も質素で落ち着いている。
庭も庭園って感じじゃなくて普通に庭って感じだ。
森が庭の一部ってのも何か落ち着く。
「いいね、ここ。好きだな。」
「うん。俺も良いなと思うよ。ウィル。」
ウィルが俺から離れて、興味深そうに庭を見て回っている。
珍しくテンションが上がってるのか、行動が嬉しそうで可愛い。
「へ~、こんな家もあるんだ~。」
「何か、サークっぽい家だな。まさに。」
「森に隣接していると言うのは、襲撃を考えたら危険ではあるが……サークは魔術師だからな、どうせ結界を張るだろうし。そう考えれば合ってるのかもな……。」
「一応、馬屋もありますしね。日常的に飼う為のものじゃないですけど、そこは手を加えればいいだけですし。」
「主~、俺、中が見たいよ~。」
何故かくっついてきた面々も、好感を持ってわらわらあちこち見て回っている。
おじさんはにこにこしながら鍵を出し、中を見せてくれた。
中は装飾などは凝っていないが、シンプルで品のいい感じに纏まっていた。
話の通り、そう大きくない玄関フロアの奥に、サロンが開けそうな窓辺の広いダイニングがある。
ダイニングの窓の外はウッドテラスになっていて、ちょっと傷んではいるが、手を加えれば外にテーブルなども置けるだろう。
外に出てパタパタとウィルとシルクが楽しそうに見ている。
ダイニングの奥は小さな準備室とその奥にキッチンがあり、普段はこの準備室を日常生活用のダイニングにしても良いかな、と思った。
他に使用人用の休憩室、数個の寝室、洗濯場等がある。
使用人を入れる予定はないから、どう活用するかちょっと悩むところだ。
また、ダイニングとは反対側に建物の割に立派な風呂設備があった。
大きすぎる訳ではないが、部屋毎についているような一人用のバスタブではなく、2、3人一緒に入れる感じだ。
大きな屋敷の馬鹿でかい入浴施設に比べたら小さいが、俺には十分だった。
やっぱり休日はゆっくり広い風呂に入りたいもんな~。
家の中で何か一つ贅沢をするなら、風呂が大きいのが良い。
その代わり部屋毎のバスルームはないけれど、庶民出身で風呂なしの家に住んでいた俺にはそれで十分だ。
あれだけゆったりできるなら、本当、凄くいい。
一階の奥には一つだけ客間があった。
俺はそこを見て、うん、と思う。
「シルク~。」
「な~に~?主??」
ウィルとニ階に上がる階段の手摺りの造りを見ていたシルクに声をかける。
一緒にいるならちょうどいいと俺は二人を手招きした。
「どうしたんだ?サーク?」
「二人に聞きたいんだけど、シルクの部屋ってここで良いか??」
その客間を指差し、俺は二人に聞いた。
普通に一緒に住むとなると、同じ階だと流石に気になってしまう。
けどお互いの寝室を一階とニ階に分ければ、そこまで気にならないだろう。
それにこの部屋は一階の奥で、ちょうど裏庭に出る勝手口の近くだ。
シルクが個人的に出かけたり帰ってきたりするのは、ここを使えば俺達に気を使わないで済むだろう。
部屋のドアには鍵も付いているのでちょうどいい。
広さも独身寮の二人部屋をちょっと小さくした位だし。
しかも何故かここだけ簡易的な水回りもあるから、手を加えれば独立した住居スペースに変えられると思う。
一人でそんな事を思いながら部屋を見渡していると、シルクは俺の言葉にきょとんとしている。
何だろう?
気に入らないのかな??
俺は振り返ってその顔を見つめた。
「別の部屋が良ければ考えるけど、ここだと勝手口近くで出入りも俺達を気にせずできそうだし、水回りもあるからちょっと手を加えて……て?!……えっ?!シルク?!」
説明しながら返事を待っていた俺はギョッとした。
シルクがキョトン顔のまま固まって、ぽろぽろ泣き出したのだ。
「え?!嫌だったか?!嫌なら嫌って言えば良いだろ?!泣くなよ?!」
「ち、違うもん……っ!!」
そう言いながら堪らえようと手で顔を覆ったのだが、何故か止まらずわんわん泣きだしてしまった。
ウィルが優しく微笑んで寄り添っている。
俺の方はどうして良いのかわからず慌ててギルの顔を見た。
ギルは相変わらずの無表情で突っ立ていて役に立たない。
何なんだよ?怒ってんのか?
どういう感情なんだよ??それ??
ただその他の皆が、妙ににこにこしていた。
え?!本当、これはどういう事?!
困惑して慌てふためく俺にウィルが笑って言った。
「びっくりしたのと、嬉しいだけだよ。」
「へっ?!」
「だ、だって……俺も住んでいいって……主に言われてなかったし……。俺……主と離れる努力しなきゃって思ってたし……。」
「あ、あ~ごめん。家がどんなのになるかわかんなかったから、いいとも駄目だとも言うに言えなくて……。別にここに住まなくても良いけど、一応、色々考えて、お前がどんな状況になろうとも、いつでも帰ってこれる場所があった方が良いかなと思って……。」
シルクは故郷を失ってしまった。
だからいざという時に「帰れる場所」みたいなものが必要だと思っていた。
一緒に住む必要はないけれど、余裕があれば部屋を作ってあげたいとウィルとも話していたのだ。
ウィルに話していたので、当然聞いていると俺は思いこんでいた。
「住む~っ!!俺も主と住む~っ!!」
「お、おう……わかった……。」
シルクはガバッと抱きついてきた。
子供みたいに泣いているシルクをとにかくなだめる。
何だかちゃんと言っていなかったせいで、すこぶる不安にさせていたみたいだ。
何か悪いことしたなと思う。
「なら~、俺の部屋はニ階ね~。」
「僕も好きな部屋選ぼうっと。」
「……は?!お前ら、ちょっと待てっ?!」
にこにこシルクとのやり取りを見守っていたライルが、急にそんな事を言った。
ニヤッと笑って同調したイヴァンと二人、ダダダッとニ階に駆け上がっていく。
……は?!
いつ俺がお前らに部屋をやると言った?!
俺はシルクをウィルに任せると、慌てて後を追っかける。
勝手にニ階の部屋を探索している二人をとっ捕まえて締め上げる。
「お前らの部屋はねぇっ!!」
「えええぇ~?!何でだよ~?!」
「そうですよ~、皆の秘密基地じゃないんですか?!」
「違ぇっ!!俺とウィルのラブラブな新婚住いだ!!出てけ!!邪魔者っ!!」
「え~?!」
そう言ってゲラゲラ笑っている。
何なんだよ、全く油断も隙もないなこいつら。
とはいえ内見だ。
ニ階はメインの寝室と、その横の書斎、後は小さめだが二人用の客間が2つと1人用が4つ、他、共用のシャワー室あった。
人を泊める部屋がメインで、他に色々設備がある訳じゃない。
本当に簡易別荘だったんだな、と思う。
部屋も全体的に貴族の屋敷にしては小さめで余計な作りがない。
むしろそれだけスッキリしているのでこちらとしては使い勝手が良い。
部屋は色々いじって変えれば良いのだし、本当にちょうど良かった。
「いかがですか?」
案内のおじさんがにっこり笑った。
俺はウィルの顔を見た。
ウィルは笑って頷いてくれた。
「ここにします。」
その言葉を発した瞬間、俺とこの家に絆が生まれた。
何となくこの家に迎え入れてもらった気がした。
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赤林檎
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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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