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第九章「海神編」
同志の襲来
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王国の家に戻った俺は、約束通りリアナとラニを街に連れて行くべく準備をしていた。
午後には色々報告やら話し合いの為に王宮に行かなければならないので、朝早くからモーニングを食べに行く形で出発する事になった。
風呂場の洗面所でラニの身支度を整える。
ちなみに子供部屋からはカレンに追い出されてしまい、俺とラニはここにいる。
カレン曰く、レディーの身支度に殿方が関わるもんではないらしい。
レディーって何だよ??
リアナはまた子供じゃんか?こまっしゃくれてるけどさ。
「レディーって言ってもあいつ、寝間着で俺に飛び蹴りしてくるんだぜ?!何をもってレディーって思えばいいんだよ?!」
ラニの髪を梳かしながらブツブツ文句を言う。
それをラニがおかしそうに笑った。
「お兄ちゃんはわかってないなぁ~。」
「何がだよ?!」
「お姉ちゃん、確かに気は強いし乱暴なところはあるけど、訳もなく横暴な事はしないよ?」
「どこが?!俺、訳もなく常に乱暴に扱われてるんだけど?!」
「訳がない訳じゃないって事だってば。」
「どういう事?!」
「わかってないなぁ~。」
何なんだよ、本当。
くすくす笑うラニはその理由を教えてくれそうにない。
まぁいいや。
ラニが楽しそうだし。
俺は最後にシャツのリボンを結んでやって、ぽんぽんと頭を撫でた。
うん、大丈夫。
よそ行きの服を着せられたその辺の子と何ら変わらない。
ウィルだってあの一件がなければ普通に地方弱小貴族の若者だって俺はずっと思っていただろうし、竜の谷から来たなんてのはそうそうわかるもんでもないだろう。
それにしても本当ラニは変わったと思う。
俺と別れてから何があったのかは知らない。
でも強くなったし、しっかりとした自分が出来上がってきている。
そこにちょっと気の強さが見え隠れしているのが、何だかんだリアナとラニは双子なんだなぁと俺に感じさせた。
玄関フロアに出ると、ちょうど向こうも終わったらしく、カレンと一緒に綺麗に髪を結われたリアナが待っていた。
ラニと同じように真新しいワイシャツにリボンタイをつけて、いかにもよそ行きな感じだ。
「どうです?!旦那様!!」
「うん、ありがとうカレン。」
「そうではなくて!!リアナお嬢様を見て下さい!!」
「うん、編み込みが凄く綺麗だね。本当、どこかのお嬢様みたいだ。いつもと印象が違うからちょっとびっくりしたよ。その髪飾り使ってくれてるんだな?リアナの髪と今日の編み込みにとてもよく合ってて素敵だよ。」
「……バカっ。」
リアナは髪に俺が前に血の魔術で作った花の髪飾りをつけていた。
俺の言葉を聞いて、リアナはムス~ッと赤くなってカレンのスカートを掴むと隠れてしまった。
え??何で?!
俺、ちゃんと褒めたよね?!
シルクならこういう事言えば、でしょ~♡とか言って大喜びするんだけどな??
う~ん??
女の子って難しい……。
思うような反応が得られず困惑する俺をラニとカレンがくすくす笑っている。
リアナはムスッとしたまま睨んでくるし、どうすりゃ良いんだよ?!
そんな事をしていた時だった。
玄関に飾られているウインドチャイムがシャラリシャラリと澄んだ音色を響かせた。
これは魔術が付属されていて、敷地に入る門を誰かが潜ろうとすると音を鳴らす。
澄んだ音色だし、ボーンさんがくれた甲冑も無反応だし、何よりカレンが警戒していない。
放っておいても良さそうだ。
少しだけラニが緊張して俺の服を掴んでいたので、大丈夫だよと声をかけた。
「それにしても誰だろ??こんな朝早くに??」
「お一人はガスパー様のようです。」
「ガスパー?!」
カレンが何の気なしに告げた。
ガスパーとカレンは直接あった事はないが、家と繋がっているカレンはこの家に携わった人間の顔などを覚えているらしい。
俺はガスパーの名前を聞いてちょっと緊張してしまった。
あの事を知ってしまってから顔を合わすのははじめてだからだ。
いや、俺は知らない事になっているから今まで通りでいいんだけど、やっぱり知ってしまった以上、気持ちがそわそわしてしまう。
うわ、大丈夫か?!俺?!
いつも通りの顔が出来てるか?!
て言うかいつも通りの顔ってどんな顔だよ?!
俺が変にもじもじしていたせいか、ムスッとしたリアナがずんずん近づいてくると、いきなり俺のスネを蹴っ飛ばした。
「ぎゃあぁぁっ!!何すんだよ?!リアナ?!」
「何かムカつくのよ!!」
「何が?!」
「女の勘っ!!」
何だその理不尽すぎる理由は?!
そうこうしているうちにリンゴンリンゴンと玄関のベルが鳴った。
カレンが対応してドアを開けている。
どうしよう?!ガスパーの顔がまともに見れる自信がない!!
だが、そんな心配は次の瞬間、掻き消えていた。
「サークっ!!君という奴は!!裁判が終わったら!すぐに一度来てくれとあれだけ言ったじゃないかっ!!」
ドアが開いた途端、怒涛の文句が俺に突き刺さった。
その文句はどんどん近づいてくる。
「その後、倒れて意識不明だったと聞いたから!!回復したら連絡くらいは来るだろうと待っていたのに!!おまけに出した手紙は住所不明で返ってくるし!!君は僕を何だと思っているんだ?!サークっ!!」
「ヒッ!ひぃ~!ごめんよ~!!ノル~っ!!」
嵐の様に捲し立てフンっと鼻を鳴らしたのは、世界を代表する科学技術研究者ノックス・リー・バンクロフト博士こと、ノルだった。
ライルとサムの結婚式で出会った憧れの研究者であり、人見知りの激しい人嫌いの博士。
歳も近く、何となく根本的な部分が似通っていて、俺達は出会ってすぐ意気投合した。
何よりノルは俺の性欲研究を馬鹿にしなかった。
それどころか俺の裁判では、世界の人口衰退を止める足掛かりになる研究だと訴え、とうとう王国をも動かして俺の研究は小さいが研究所をもらう事にまでなったのだ。
「ごめん、色々あってすぐに行けなかったのは謝るよ。でも住所が変わった連絡と一緒に手紙は出したんだよ~。本当だよ~。」
「……なら入れ違いになったのか……。」
「だからそんなに憤らなくても、こいつはそこまで薄情な奴じゃないって言ってじゃないですか?」
ノルの勢いが落ち着くと、ため息まじりにガスパーが近づいてきて言った。
ん??ノルがここにいるのも不思議だったのだが、ガスパーが連れてきたのか??
それはそれでどういう事なんだ??
よくわからない俺は、ノルとガスパーの顔をキョロキョロ見た。
「……休暇を利用して、お前の研究所の事でバンクロフト博士に助言と協力をもらいに行ったんだよ……。まっさかお前が全然連絡してなくて、博士が痺れを切らしてるなんて思ってなかったからよ……。」
あ、なるほど。
人嫌いでできるだけ世間とは関わらずに引き篭もっていたいタイプのノルだが、何か研究などに没頭しているといつもの反動か恐ろしい行動力を見せる。
ちょうど俺と連絡がつかずフラストレーションMAXだった所にガスパーが訪ねてきて、ガスパーが巻き込まれた感じのようだ。
ノルは裁判でガスパーに会っていたし、裁判でのガスパーの対応に好感を持っていたから、普段は警戒心の強いノルもガスパーを信頼するに至ったようだ。
「聞けば王様から家をもらってウィル君と同棲を始めたと言うし!!研究所をもらったと言うし!!何も知らずに待っていた僕の気持ちがわかるか?!サーク?!」
「わ、悪かったよ~!ごめんよ~!!」
「簡易ゲートの事だって!!君の意見を聞きたいとあれほど言ったのに!!あれ以降、一度も僕の研究所に来ないし!!」
「ごめんよ~!悪かったよ~!ノル~っ!!」
再度、興奮し始め、ノルは俺の襟首を掴んでガクガク言わせる。
ちなみにこの間、カレンがリアナとラニを巻き込まれないよう脇に寄せ、この様子を生温かく見守っていた。
うぅ…こんな情けない様子をリアナとラニに見られるなんて……恥ずかしくて死にそうだ。
そんな俺達を、ガスパーが面倒そうにため息をついて間に入ってくれた。
「博士、こいつが馬鹿なのは俺も重々わかってっから、その辺で。」
「……酷くない?!ガスパー、酷くない?!」
「酷くねぇよ。」
「ガスパー君は酷くない。酷いのはサークだ。」
「うぅ~。朝っぱらから皆、イジワルだ~!!」
何で朝からこんなに叩かれてるの?!俺?!
結構、色々頑張ってきてるのに、あんまりの仕打ちだ。
「……ところで、この子供らは??」
ガスパーがチラリとカレン、リアナ、ラニを見た。
騒ぐ俺達をカレンは微笑んで、ラニは驚いたような顔で、リアナは呆れと少しの警戒心を持って見ていた。
そうか、初対面だなと思い、少し考える。
カレンはそのまま家守りの精霊だと言えばいいんだけど、問題は双子だ。
東の国の実家で預かってる子らだと言えば一番すんなり誤魔化せる。
だが、俺はもう、仲間内にはあまり隠し事はしたくなかった。
それはガスパーをはじめ、俺を信頼し人生をかけてくれたこいつらを良くも悪くも裏切る事だ。
「メイド服の子は人間じゃない。この家についている家守りの精霊だ。」
俺がそう紹介すると、カレンは一歩前に出てガスパーとノルに頭を下げだ。
「この家の家守りでカレンと申します。」
「家守り?!え?!そんなのいたか?!って言うか、精霊?!」
「元々いたんだが引っ越してくる前は目覚めてなくて、でも義父さんもいたりとか色々あってこういう形になった。」
「ああ……そういや親父さん、東の国の神仕えだってな……しかも名前のない……。お前、どんだけだよ?!」
「いや、俺もそんなに凄い人として世間に知られているとは思わなくてさ……。だってお前、あの義父さんだぜ?!わかるだろ?!」
一緒に飯を食った事のあるガスパーは、俺の言葉に微妙そうな顔で頷いた。
確かにあののほほんとした人が、そんな名の通った(名前はないけど)人間だとは思わないだろうからな。
ノルの方は神仕えという言葉や家守りの精霊という言葉に目を輝かせている。
うわ~これは後で質問攻めに合うなぁ~と思う。
「で??こっちのお出かけスタイルの二人は??」
しかしガスパーの方はそれに気づかず、カレンの後ろに隠れるようにしているリアナとラニを見た。
俺は悩んだ末、こう言った。
「ウィルの関係者だ。事情あって預かってる。」
「……ウィルの?」
ガスパーの顔つきが変わった。
頭の回転が早いガスパーなら、これだけで通じるはずだ。
そしてそれがどういう事なのかも……。
俺はじっとガスパーを見つめた。
ガスパーの目は、まっすぐに俺を見返した。
「……没落地方貴族の親族って事か?」
「ああ。ウィルとはちょっと遠縁になるんだけどね。」
「そうか……身分が回復したのはウィルだけだもんな……。」
そう、言葉少なく言った。
だがその目を見れば全部わかった上でそう言ったのがわかる。
ガスパーは即座に双子に合った仮の立場を口にした。
流石だな、と思う。
ウィルの出身地から来た事。
遠縁なのであまり接点がない事。
だが、事情あって爵位の回復を受けたウィルを頼ってここに来た事。
一通りのカバーストーリーが出来た。
そう言えば今後、おそらく深く突っ込まれる事はないだろう。
ガスパーと俺は視線だけを合わせて小さく頷きあった。
「……それで??こんなに朝早くに来ておいてなんだけど、この子らと出かける予定だったのか??サーク??」
俺達の話に特に疑問を持たなかったのだろう。
ノルが自然とそう口にした。
「あ!そうなんだよ!!預かってる手前、あんまり変な所に行って欲しくないけど、家の中に閉じ込めて置く訳にも行かないだろ??だから行っていい範囲を決めようと思って、午前中、街を案内しがてら行動範囲を決めようかと思ってさ。午後には仕事に行かないとならないからあまり時間がなくて、だったら早朝からモーニングでも食べに行こうとしてたんだよ。」
「そうなんだ!僕も街を見て回りたいし!同行してもいいか?!」
「え?!それは良いけど……。リアナ、ラニ、この二人も一緒で良いかな??」
カレンの後ろに隠れるように立っていた二人は顔を見合わせている。
ラニが不安そうな顔を俺に向けたので、この人達は大丈夫だと視線で伝える。
リアナの方はじと~と恨めしそうに俺やノルを見ている。
「……私は嫌。せっかくのデートが台無しじゃない!!」
「いや、リアナ。別にデートじゃねぇ。保護者として行動範囲を決めるだけだ。」
「せっかくお洒落したのに~っ!!」
ぷんすかと地団駄を踏むリアナをラニとカレンが困り顔でなだめている。
それをノルがゲラゲラ笑い、ガスパーが物凄い目で俺を見て引いていた。
「はははっ!!サークは本当にモテるんだねぇ~!!ウィル君という人がいながら!こんな小さなレディーまで虜にしてるのか~!!」
「……ヒトタラシなのは知ってたけどよぉ……こんな小さな女の子にまで手を出してたのかよ……お前……。信じらんねぇ……。」
「違ぁ~うっ!!誤解だぁ~っ!!俺はリアナに何にもしてない~っ!!」
「一緒に温泉に入ったもんっ!!何にもなくないっ!!」
「リアナ~っ!!」
「温泉?!サークっ!!てめぇ!!子供とはいえ女の子にそんな事をさせたのかっ!!」
「させてないっ!!ラニと入ってたら!止める間もなくリアナが勝手に入ってきたんだ!!お互いタオル巻いたままだったし!!見てもないし!見せてもないっ!!俺は何もしてないっ!!」
「……これは……思ったより由々しき事態ですね……。奥様が帰られましたらご報告致しますね、旦那様?」
「だから!!俺は悪くなぁ~いっ!!」
何なんだよ、このカオス……。
俺は朝っぱらから皆の言葉の袋叩きにあい、精神的にボロボロになったのだった。
午後には色々報告やら話し合いの為に王宮に行かなければならないので、朝早くからモーニングを食べに行く形で出発する事になった。
風呂場の洗面所でラニの身支度を整える。
ちなみに子供部屋からはカレンに追い出されてしまい、俺とラニはここにいる。
カレン曰く、レディーの身支度に殿方が関わるもんではないらしい。
レディーって何だよ??
リアナはまた子供じゃんか?こまっしゃくれてるけどさ。
「レディーって言ってもあいつ、寝間着で俺に飛び蹴りしてくるんだぜ?!何をもってレディーって思えばいいんだよ?!」
ラニの髪を梳かしながらブツブツ文句を言う。
それをラニがおかしそうに笑った。
「お兄ちゃんはわかってないなぁ~。」
「何がだよ?!」
「お姉ちゃん、確かに気は強いし乱暴なところはあるけど、訳もなく横暴な事はしないよ?」
「どこが?!俺、訳もなく常に乱暴に扱われてるんだけど?!」
「訳がない訳じゃないって事だってば。」
「どういう事?!」
「わかってないなぁ~。」
何なんだよ、本当。
くすくす笑うラニはその理由を教えてくれそうにない。
まぁいいや。
ラニが楽しそうだし。
俺は最後にシャツのリボンを結んでやって、ぽんぽんと頭を撫でた。
うん、大丈夫。
よそ行きの服を着せられたその辺の子と何ら変わらない。
ウィルだってあの一件がなければ普通に地方弱小貴族の若者だって俺はずっと思っていただろうし、竜の谷から来たなんてのはそうそうわかるもんでもないだろう。
それにしても本当ラニは変わったと思う。
俺と別れてから何があったのかは知らない。
でも強くなったし、しっかりとした自分が出来上がってきている。
そこにちょっと気の強さが見え隠れしているのが、何だかんだリアナとラニは双子なんだなぁと俺に感じさせた。
玄関フロアに出ると、ちょうど向こうも終わったらしく、カレンと一緒に綺麗に髪を結われたリアナが待っていた。
ラニと同じように真新しいワイシャツにリボンタイをつけて、いかにもよそ行きな感じだ。
「どうです?!旦那様!!」
「うん、ありがとうカレン。」
「そうではなくて!!リアナお嬢様を見て下さい!!」
「うん、編み込みが凄く綺麗だね。本当、どこかのお嬢様みたいだ。いつもと印象が違うからちょっとびっくりしたよ。その髪飾り使ってくれてるんだな?リアナの髪と今日の編み込みにとてもよく合ってて素敵だよ。」
「……バカっ。」
リアナは髪に俺が前に血の魔術で作った花の髪飾りをつけていた。
俺の言葉を聞いて、リアナはムス~ッと赤くなってカレンのスカートを掴むと隠れてしまった。
え??何で?!
俺、ちゃんと褒めたよね?!
シルクならこういう事言えば、でしょ~♡とか言って大喜びするんだけどな??
う~ん??
女の子って難しい……。
思うような反応が得られず困惑する俺をラニとカレンがくすくす笑っている。
リアナはムスッとしたまま睨んでくるし、どうすりゃ良いんだよ?!
そんな事をしていた時だった。
玄関に飾られているウインドチャイムがシャラリシャラリと澄んだ音色を響かせた。
これは魔術が付属されていて、敷地に入る門を誰かが潜ろうとすると音を鳴らす。
澄んだ音色だし、ボーンさんがくれた甲冑も無反応だし、何よりカレンが警戒していない。
放っておいても良さそうだ。
少しだけラニが緊張して俺の服を掴んでいたので、大丈夫だよと声をかけた。
「それにしても誰だろ??こんな朝早くに??」
「お一人はガスパー様のようです。」
「ガスパー?!」
カレンが何の気なしに告げた。
ガスパーとカレンは直接あった事はないが、家と繋がっているカレンはこの家に携わった人間の顔などを覚えているらしい。
俺はガスパーの名前を聞いてちょっと緊張してしまった。
あの事を知ってしまってから顔を合わすのははじめてだからだ。
いや、俺は知らない事になっているから今まで通りでいいんだけど、やっぱり知ってしまった以上、気持ちがそわそわしてしまう。
うわ、大丈夫か?!俺?!
いつも通りの顔が出来てるか?!
て言うかいつも通りの顔ってどんな顔だよ?!
俺が変にもじもじしていたせいか、ムスッとしたリアナがずんずん近づいてくると、いきなり俺のスネを蹴っ飛ばした。
「ぎゃあぁぁっ!!何すんだよ?!リアナ?!」
「何かムカつくのよ!!」
「何が?!」
「女の勘っ!!」
何だその理不尽すぎる理由は?!
そうこうしているうちにリンゴンリンゴンと玄関のベルが鳴った。
カレンが対応してドアを開けている。
どうしよう?!ガスパーの顔がまともに見れる自信がない!!
だが、そんな心配は次の瞬間、掻き消えていた。
「サークっ!!君という奴は!!裁判が終わったら!すぐに一度来てくれとあれだけ言ったじゃないかっ!!」
ドアが開いた途端、怒涛の文句が俺に突き刺さった。
その文句はどんどん近づいてくる。
「その後、倒れて意識不明だったと聞いたから!!回復したら連絡くらいは来るだろうと待っていたのに!!おまけに出した手紙は住所不明で返ってくるし!!君は僕を何だと思っているんだ?!サークっ!!」
「ヒッ!ひぃ~!ごめんよ~!!ノル~っ!!」
嵐の様に捲し立てフンっと鼻を鳴らしたのは、世界を代表する科学技術研究者ノックス・リー・バンクロフト博士こと、ノルだった。
ライルとサムの結婚式で出会った憧れの研究者であり、人見知りの激しい人嫌いの博士。
歳も近く、何となく根本的な部分が似通っていて、俺達は出会ってすぐ意気投合した。
何よりノルは俺の性欲研究を馬鹿にしなかった。
それどころか俺の裁判では、世界の人口衰退を止める足掛かりになる研究だと訴え、とうとう王国をも動かして俺の研究は小さいが研究所をもらう事にまでなったのだ。
「ごめん、色々あってすぐに行けなかったのは謝るよ。でも住所が変わった連絡と一緒に手紙は出したんだよ~。本当だよ~。」
「……なら入れ違いになったのか……。」
「だからそんなに憤らなくても、こいつはそこまで薄情な奴じゃないって言ってじゃないですか?」
ノルの勢いが落ち着くと、ため息まじりにガスパーが近づいてきて言った。
ん??ノルがここにいるのも不思議だったのだが、ガスパーが連れてきたのか??
それはそれでどういう事なんだ??
よくわからない俺は、ノルとガスパーの顔をキョロキョロ見た。
「……休暇を利用して、お前の研究所の事でバンクロフト博士に助言と協力をもらいに行ったんだよ……。まっさかお前が全然連絡してなくて、博士が痺れを切らしてるなんて思ってなかったからよ……。」
あ、なるほど。
人嫌いでできるだけ世間とは関わらずに引き篭もっていたいタイプのノルだが、何か研究などに没頭しているといつもの反動か恐ろしい行動力を見せる。
ちょうど俺と連絡がつかずフラストレーションMAXだった所にガスパーが訪ねてきて、ガスパーが巻き込まれた感じのようだ。
ノルは裁判でガスパーに会っていたし、裁判でのガスパーの対応に好感を持っていたから、普段は警戒心の強いノルもガスパーを信頼するに至ったようだ。
「聞けば王様から家をもらってウィル君と同棲を始めたと言うし!!研究所をもらったと言うし!!何も知らずに待っていた僕の気持ちがわかるか?!サーク?!」
「わ、悪かったよ~!ごめんよ~!!」
「簡易ゲートの事だって!!君の意見を聞きたいとあれほど言ったのに!!あれ以降、一度も僕の研究所に来ないし!!」
「ごめんよ~!悪かったよ~!ノル~っ!!」
再度、興奮し始め、ノルは俺の襟首を掴んでガクガク言わせる。
ちなみにこの間、カレンがリアナとラニを巻き込まれないよう脇に寄せ、この様子を生温かく見守っていた。
うぅ…こんな情けない様子をリアナとラニに見られるなんて……恥ずかしくて死にそうだ。
そんな俺達を、ガスパーが面倒そうにため息をついて間に入ってくれた。
「博士、こいつが馬鹿なのは俺も重々わかってっから、その辺で。」
「……酷くない?!ガスパー、酷くない?!」
「酷くねぇよ。」
「ガスパー君は酷くない。酷いのはサークだ。」
「うぅ~。朝っぱらから皆、イジワルだ~!!」
何で朝からこんなに叩かれてるの?!俺?!
結構、色々頑張ってきてるのに、あんまりの仕打ちだ。
「……ところで、この子供らは??」
ガスパーがチラリとカレン、リアナ、ラニを見た。
騒ぐ俺達をカレンは微笑んで、ラニは驚いたような顔で、リアナは呆れと少しの警戒心を持って見ていた。
そうか、初対面だなと思い、少し考える。
カレンはそのまま家守りの精霊だと言えばいいんだけど、問題は双子だ。
東の国の実家で預かってる子らだと言えば一番すんなり誤魔化せる。
だが、俺はもう、仲間内にはあまり隠し事はしたくなかった。
それはガスパーをはじめ、俺を信頼し人生をかけてくれたこいつらを良くも悪くも裏切る事だ。
「メイド服の子は人間じゃない。この家についている家守りの精霊だ。」
俺がそう紹介すると、カレンは一歩前に出てガスパーとノルに頭を下げだ。
「この家の家守りでカレンと申します。」
「家守り?!え?!そんなのいたか?!って言うか、精霊?!」
「元々いたんだが引っ越してくる前は目覚めてなくて、でも義父さんもいたりとか色々あってこういう形になった。」
「ああ……そういや親父さん、東の国の神仕えだってな……しかも名前のない……。お前、どんだけだよ?!」
「いや、俺もそんなに凄い人として世間に知られているとは思わなくてさ……。だってお前、あの義父さんだぜ?!わかるだろ?!」
一緒に飯を食った事のあるガスパーは、俺の言葉に微妙そうな顔で頷いた。
確かにあののほほんとした人が、そんな名の通った(名前はないけど)人間だとは思わないだろうからな。
ノルの方は神仕えという言葉や家守りの精霊という言葉に目を輝かせている。
うわ~これは後で質問攻めに合うなぁ~と思う。
「で??こっちのお出かけスタイルの二人は??」
しかしガスパーの方はそれに気づかず、カレンの後ろに隠れるようにしているリアナとラニを見た。
俺は悩んだ末、こう言った。
「ウィルの関係者だ。事情あって預かってる。」
「……ウィルの?」
ガスパーの顔つきが変わった。
頭の回転が早いガスパーなら、これだけで通じるはずだ。
そしてそれがどういう事なのかも……。
俺はじっとガスパーを見つめた。
ガスパーの目は、まっすぐに俺を見返した。
「……没落地方貴族の親族って事か?」
「ああ。ウィルとはちょっと遠縁になるんだけどね。」
「そうか……身分が回復したのはウィルだけだもんな……。」
そう、言葉少なく言った。
だがその目を見れば全部わかった上でそう言ったのがわかる。
ガスパーは即座に双子に合った仮の立場を口にした。
流石だな、と思う。
ウィルの出身地から来た事。
遠縁なのであまり接点がない事。
だが、事情あって爵位の回復を受けたウィルを頼ってここに来た事。
一通りのカバーストーリーが出来た。
そう言えば今後、おそらく深く突っ込まれる事はないだろう。
ガスパーと俺は視線だけを合わせて小さく頷きあった。
「……それで??こんなに朝早くに来ておいてなんだけど、この子らと出かける予定だったのか??サーク??」
俺達の話に特に疑問を持たなかったのだろう。
ノルが自然とそう口にした。
「あ!そうなんだよ!!預かってる手前、あんまり変な所に行って欲しくないけど、家の中に閉じ込めて置く訳にも行かないだろ??だから行っていい範囲を決めようと思って、午前中、街を案内しがてら行動範囲を決めようかと思ってさ。午後には仕事に行かないとならないからあまり時間がなくて、だったら早朝からモーニングでも食べに行こうとしてたんだよ。」
「そうなんだ!僕も街を見て回りたいし!同行してもいいか?!」
「え?!それは良いけど……。リアナ、ラニ、この二人も一緒で良いかな??」
カレンの後ろに隠れるように立っていた二人は顔を見合わせている。
ラニが不安そうな顔を俺に向けたので、この人達は大丈夫だと視線で伝える。
リアナの方はじと~と恨めしそうに俺やノルを見ている。
「……私は嫌。せっかくのデートが台無しじゃない!!」
「いや、リアナ。別にデートじゃねぇ。保護者として行動範囲を決めるだけだ。」
「せっかくお洒落したのに~っ!!」
ぷんすかと地団駄を踏むリアナをラニとカレンが困り顔でなだめている。
それをノルがゲラゲラ笑い、ガスパーが物凄い目で俺を見て引いていた。
「はははっ!!サークは本当にモテるんだねぇ~!!ウィル君という人がいながら!こんな小さなレディーまで虜にしてるのか~!!」
「……ヒトタラシなのは知ってたけどよぉ……こんな小さな女の子にまで手を出してたのかよ……お前……。信じらんねぇ……。」
「違ぁ~うっ!!誤解だぁ~っ!!俺はリアナに何にもしてない~っ!!」
「一緒に温泉に入ったもんっ!!何にもなくないっ!!」
「リアナ~っ!!」
「温泉?!サークっ!!てめぇ!!子供とはいえ女の子にそんな事をさせたのかっ!!」
「させてないっ!!ラニと入ってたら!止める間もなくリアナが勝手に入ってきたんだ!!お互いタオル巻いたままだったし!!見てもないし!見せてもないっ!!俺は何もしてないっ!!」
「……これは……思ったより由々しき事態ですね……。奥様が帰られましたらご報告致しますね、旦那様?」
「だから!!俺は悪くなぁ~いっ!!」
何なんだよ、このカオス……。
俺は朝っぱらから皆の言葉の袋叩きにあい、精神的にボロボロになったのだった。
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年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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