欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

ツンデレ狂騒曲

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「何よっ!!」

「何だよっ!!」

うわぁ~マジかぁ~。
俺はどうして良いのかわからず顔を引きつらせる。

「お、おい……二人とも落ち着け……頼むから……。」

何が起きているのかと言うと、リアナとガスパーが一触即発な感じで睨み合っている。
何なんだよ、本当に次から次へと……。

あ~、これ、あれか??
あれなのか?!

同属嫌悪。

確かに並べてみて気づいた。
この二人、ちょっと似通ったところがある。
別々に会っていた時はそんな事思わなかったが、こうして一緒にすると、かなり似た性質を持ち合わせている。

気が強い。
素直じゃない。
意地っ張り。
天才肌。
そんでもって、ツンデレ。

でも性根は誰より優しくて、傷つきやすい。
それを隠す為に気が強くて意地っ張りなのだ。

シルクとリグも同属嫌悪しているが、あの二人の場合は思考回路や行動パターン、好みなんかが似ているから、ある意味ちょっと何かきっかけがあれば物凄く気が合うと思う。(ただ俺を挟んでいるので多分仲良くなるきっかけがあっても、あえてフラグをへし折り合いそうな気がするけど)

だが、この二人の場合は違う。

そっくり過ぎる。
そして正反対すぎる。

まるで鏡だ。

似すぎている故に、絶対、反発し合う。
だって鏡に映った相手は、向き合って逆の手を上げている。

なのに同じ動きをする。
そして鏡に映るそれと本体が、同じ方向を向くことは絶対にないのだ。

混ぜるな危険。

会わせたらマズイ二人をそれと気づかず会わせてしまった……。
俺は頭を抱えるしかなかった。

「……おや!!ラニ君!!あんな所にレモネードスタンドがある!行ってみよう!!」

「あ!駄目ですよ!!バンクロフト博士っ!!」

そして背後から聞こえた声に、俺は目を覆って天を見上げだ。
も~こっちはこっちで何してくれてるんだよ~。

本来なら年上のノルがラニの手を引いて引率すべきなのだが、立場が逆転している。
俺やガスパーという安心できる知り合いが側にいて旅行先という事でテンションが上がったノルは、変なスイッチが入ったのか自由奔放にあっちこっち行ってしまう。
それを手を繋いでいるラニが必死に止めている。

も~!!
歳のわりに体の小さめなラニが人混みを歩くのに危なくないようノルに手を繋ぐよう頼んだのに、これじゃ本末転倒だよ……。

「何なのよ!デートの邪魔した上に!アンタが仕切らないでよ!!」

「はぁっ?!サークはデートじゃねぇつってんだろうがっ!お前たちの安全な行動範囲を決めるって言ってただろっ!!」

「うるさいわね~っ!!ちょっとぐらいサークと好きな様に歩かせてよ!!デートなんだからっ!!」

「デートじゃねぇっ!!」

「あ~、二人とも……とにかく落ち着けよ……。」

「うるさいわよ!サーク!!だいたいサークはどっちの味方なのよ!!」

「は??味方もクソもねぇだろ??お前が街を見て歩きたいのもわかるし、だからといってガスパーも間違った事言ってないし。とにかく落ち着け、リアナ。」

俺は仕方なくリアナを抱き上げた。
抱き上げてもプンスカ怒ってはいるが、喚くのはやめてくれる。
ただし俺に引っ付いて、ガスパーにベーっと舌を出した。

「このガキ……っ!!」

「ガスパーも落ち着けよ。らしくないぞ?子供相手にムキになるなんて。」

「……そりゃ……そうなんだけどよ………。」

「悪いな、忙しいのに付き合わせて。」

「別に……俺は……。お前の役に立つなら……それで……。」

「あ……いや、その……。」

それまでツンケンしていたガスパーが、急にしおらしく視線を俺から反らせてモゴモゴ言った。
それを見て俺も、例の件をちょっと思い出してしまい何となく口篭る。
微妙な空気が流れた。

その瞬間、パコンッと俺とガスパーをリアナが持っていたポシェットを振り回して叩いた。

「アイタッ!!」

「このっ!!クソガキ!何すんだっ!!」

「アンタなんかキライッ!!」

「はぁっ?!俺だって嫌いだ!!チビッ!!」

「おい!やめろって!!リアナも謝れ!!」

「嫌い嫌いっ!!ツンデレ枠は私のなのに~ッ!!何でアンタが収まってるのよ~ッ!!」

「はぁっ?!何訳のわかんねぇ事言ってんだ?!チビ?!」

「今はチビでも大きくなるもん!!おっぱいも大きくなるもん!!」

「!!」

「おっぱ……!おい!リアナ!!そういう事を大声で言うんじゃありません!恥ずかしいだろうがっ!!(抱っこしてる俺が)」

「なるもん!なるもん!!アンタはおっぱいないけど!私はあるもん!大きく育つもん!!」

ギュッと俺にしがみついて駄々をこねるリアナ。
そしてそれを言われて、何故かショック気味に自分の胸を見て撫でるガスパー。

いやいやいや、ないから!
俺達にはおっぱいなくて当たり前だから!!

「ガスパー!!正気に戻れ!!なくて当たり前だから!!」

「ハッ!!」

何でそんな事に流される?!
ガスパー?!

何なの?!本当に……。
俺は頭が痛かった。

そして……。

「お兄ちゃ~ん!!助けて~っ!!僕じゃ博士を止められないよ~っ!!」

そこにラニの困り果てた悲鳴が響く。
はたと振り向けば、どんどん勝手な方に歩いていこうとするノルを必死にラニが引っ張っているが、ズルズルそのまま引きずられて行ってしまう。

「ラニ~っ?!」

「助~け~て~っ!!」

「うわ!!博士ってあんな性格だったか?!どこ行く気なんだよ?!」

我に帰ったガスパーがラニの応援に走る。
俺はと言うと、大きくなるの~っ!と言いながらジタバタするリアナをなだめながら抱きかかえるしかなかった。

もう本当……何なの?!これは……??

あまりにカオスすぎる状況に、正直、もうリアナとラニの行動範囲を決めるどころではなくなっている。
俺は内心、頭を抱えた。

何か、集まってはならない面子で街に出てきてしまったようだと今更ながら気づいたのだった……。














「もうヤダ~。何なの~?!」

午後になり、別宮の副隊長室についた俺は、ぐでーっと机に突っ伏した。
それを申し訳なさそうにして、ガスパーがお茶を入れてくれた。

「悪い……何か自分でもよくわかんねぇんだけど……ムキになっちまって……。」

「あ~、まぁ……リアナの態度も悪かったしな……。ごめんな??」

「いや……構わねぇよ……。」

そして落ちる沈黙。
う、正気に帰ってみれば、ガスパーと二人きりだ。
いや気にするな、俺は知らない事になってんだから……。

午後になり、簡単に昼食を済ませて、俺とガスパーは別宮に、リアナ、ラニ、ノルの三人は俺の家に帰っていった。
ノルは俺と話が済んでいないと言って、今夜止まる気満々だ。

「そういや、ノルってどこのホテルに泊まってるんだ??」

「いや??俺んとこに泊まってる。そっちで過ごすなら、荷物届けさせるぞ?」

「え?!ガスパーの家に?!」

「ああ。家つっても、俺は敷地内の別棟に住んでるから、そっちに博士もいるんだけどよ。」

「……別棟??」

「ああ。昔から部屋代わりにそこを使ってる。」

「……そっか。」

ガスパーの話を聞いて、何でヤエル本部長が息子の休みなんかを知らなかったのかわかった。
同じ家に住んでると言っても、ガスパーは敷地内の離れに一人で暮らしているみたいだ。
ガスパーの複雑な事情を考えると何とも言えない気持ちになる。

「……て言うか!!サーク!!何でこんなに仕事が溜まってんだよ?!おいっ!!」

「ヒッ!!」

仕事モードに入ったガスパーに睨まれ、俺は姿勢を正した。
蛇だ、蛇が出た。
目がシャーって言ってる。

「し!仕方ないだろ?!殿下の事があって!それどころじゃなかったんだよ!!」

「……だよな。まぁ、今回は仕方ねぇ。」

「ガスパーはどこまで聞いてる?」

「恐らく全部知ってる。隊長と昨日、話したからな。ただお前たちの魔術だ何だの部分はわからねぇよ。」

「その辺はまだ俺達も個人個人で情報収集してる段階で定まってないよ。」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫かどうかじゃないな。大丈夫にするんだ。絶対に。」

「なるほどな。」

俺の答えに満足したのか、ガスパーはニヤッと笑った。
そして眼鏡をかけて書類を整理し始める。
何か本当、眼鏡姿もすっかり見慣れちまったなぁと思う。

「……こっちの事は気にすんな。俺が処理しておく。お前は殿下の件に集中してくれ。」

「ありがとう。助かる。」

やはりこういう方面は、ガスパーがいるといないとでは安心感が違う。
これで心置きなく、殿下の件に集中できる。

「……あ、そうだ、ガスパー?」

「あん?!」

「実は宮廷魔術師の業務の方もちょっと手伝って欲しいんだけど、良いか?」

「……構わねぇよ。」

「今、便利屋よろしく何でもかんでも宮廷魔術師に面倒な事が回ってくるんで、ちょっと外部に業務委託ができないかって考えてるんだ。それで手始めに、処分貴族の財産価値の測定をギルドに頼んで見ようとしてるんだよ。」

「ふ~ん。いいんじゃね?あの人ら、隠し財産とかも見つけんの得意そうだし。」

「あ、そういやフライハイトのギルドに行ったのか?イヴァンと??」

「行ってきたぜ?アイツ登録してたぞ??」

「は??マジで?!マダム、良いって言ったんだ?!」

「ああ。何か買収してたぜ、アイツ。」

「……は??」

「氷冷魔結石、デカイのいくつかマダムに渡してやがったぜ??全く、澄ました顔して腹黒いんだよ、アイツは……。」

「氷冷魔結石……。」

イヴァンは北部地方を代表するイニス家の人間だ。
他の地方に比べて氷冷魔結石も手に入れやすいだろう。
何となく、引越し祝いにマダムからもらった氷冷魔結石の出処がわかってしまった。
俺は思わず苦笑いを浮かべた。

「でもあの人は守銭奴だけど、実力がなければ登録はさせないよ。ギルドマスターとしてね。」

「まぁ、実力はそれなりにあるだろ?ロイヤルソードの卵だからよ、アイツは。」

「だな。」

アイツアイツと言っているが、ガスパーはイヴァンをよく理解している。
何か不思議な関係だよな、ガスパーとイヴァンて。
仲良くは見えないのにお互いを理解し合ってる。
でもだからといって、特別な感情は持っていないのも不思議だ。

「そういや、イグナスさんも冒険者の技術を他でも活かして収入を得られる様にしたいって言ってたな??もしかしてそれか??」

「正解。流石だな、ガスパー。話す事がなくなった。」

「いや、ちゃんと話せよ。」

「うん。ちょうどそこに需要と供給があるんで、試しに繋げてみようと思ってな。ギルド側の窓口はフライハイトギルドでイグナスに任せてある。宮廷魔術師側は、宮廷魔術師総括補佐のテレサ・セリュ・トリメイン、T.Tに一任してる。でもって宮廷内務本部長には話を通してあるから大丈夫なんだが、初の試みだし、今後の参考にする為に、書面で良いから逐一報告を上げるよう言われてるんだ。」

「……ふ~ん。」

本部長の事を口に出すと、ガスパーはあからさまに素っ気無くなった。
この親子は本当、面倒臭そうだ。

「特に何をして欲しいってのは無いんだけど、たまにちょっと様子を気にして欲しい。頼めるか?」

「……素直に提出用の書類を書いてくれって頼めば良いだろうが!回りくどいな?!」

「はははっ。ごめん。頼んでも良いかな??」

「ふん、お前に書かせたら何度も提出し直しになって周りの仕事が増えるからな。それじゃ可哀相だ。仕方ねぇからやってやるよ。」

「うん。ありがとう、ガスパー。」

「ふん……。」

ガスパーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
でもちょっと耳が赤いし、口元が笑っている。

リアナ、ごめんな?
やっぱ俺のツンデレ枠はお前じゃないよ。

俺はそんな事を思いながら、取り急ぎやらなければならない事を済ませる。
そして後をガスパーに任せると、急いで王宮に向かった。
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