欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

大人と子ども

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ウィルは明らかに落ち込んでいた。
やはりどうやっても魔力を使う事ができないのだ。

できないどころか、自分の中に魔力があるという自覚が持てない。
ボーン曰く、ウィルの中に自分に魔力があると信じきれておらず、否定する部分があるから帳消しになっているんじゃないかとの事だ。

それもそうだ。

いくら使いたいと願っても、生まれてこの方、魔力を使えるなんて思ったことの無い自分がそれを使えると本当に信じられるかと言われたら微妙だ。
意識下でも多少否定している部分があるのに、無意識化なんてもっとそう思い込んでいるだろう。

「ん~、何だ。お前は自分に自信がねぇ訳じゃないが、サーニャと一緒で、一つ一つ積み重ねて魔術を使えるようにした方が早えぇかもなぁ……。まぁ、今日のところはここまでだ。明日、この方法が駄目そうなら違う手を考えっか。」

結局、戦闘で魔力を出すことが出来ず、手助けをしてくれたボーンにそう言われ、ウィルは項垂れた。
そんなウィルの腰の辺りを、ボーンがバンバンっと叩く。

「んな落ち込むな、ウィル。何で子供のうちに魔術や魔法を習うかって言えば、その頃の方が固定概念がねぇからなんだよ。魔力が使える事をすんなりとそういうもんだって受け入れちまう。だが大人になってからは難しい。それまでの経験や無駄な常識ってやつに縛られちまうからな。無意識に何でそんな事ができるんだ?できる訳がないだろって考えちまうんだよ。だから大人になって魔力があるってわかっても、使えるようになる奴は少ねぇんだよ。」

片付けをしてゲートに向かって歩きながら、ボーンはそう言った。
ウィル自身もそう言われ、そうだなと思った。

それでも、もうあんな思いはしたくない。

だからどうしても魔力を使う方法を身に着けたい。
なのにそれができない。
悔しくて仕方がなかった。

「ま、今日は飯食ってゆっくり風呂でも入って寝ちまえ。明日の事は明日考えりゃいい。あんま思い詰めんな。それこそ思考に雁字搦めになるぞ?!」

「……はい。」

わかってはいる。
それでも考えずにはいられないのだ。
そうやって自分の中の闇に落ちてしまう事が良くない事もわかっている。
でも、そこから抜け出す事もできないのだ。

ゲートを抜け、管理棟の借りている部屋に戻ったウィルはバタンとベッドに倒れ込んだ。

サークに会いたい。

会って抱きしめて欲しい。
いつものように甘えてきて欲しい。

サークに無防備に甘えられる事で、自分もサークに甘えているのだ。
他の人には見せない子供のような顔でグズグズ言うサーク。
可愛くて仕方がない自分の伴侶。

「……家のお風呂に入りたい……。」

ニ日しか居れなかった新居。
そこにある大きすぎる風呂を思い出す。

一般家庭には大きすぎる。
でもそれがいい。

一人で満喫するも良し、誰かと入るのも良し。
もちろん自分が今入るなら、サークと二人で入りたい。

「ふふっ、心の準備はできたかなぁ……あいつ……。」

事の最中はとんでもない事を平気でする癖に、いつまでもうぶな所がある。
鼻血を出したのは傑作だった。
思わず枕に顔を埋めて笑ってしまう。

ふと、何かが手に触れた。
寝転んだままそれを手に取る。

「…………………。」

それを見つめて少しだけ顔を赤らめた。
布と紐でぐるぐるに厳重に封印してある、それ。
サークが出かけに「自分だと思って?」とか馬鹿な事を言って渡してきたそれ。

「……偽物とはいえ伴侶のちんこをお守りに持ってるって……ちょっとヤバイよな……。」

布の上からその形を確かめ、それを用いた行為を思い出す。
腹の奥の方が少しだけ熱を帯びた気がした。

ちょっとだけ……。

ちょっとだけ封印を解いてそれを見たい。
使う訳じゃない……。
少しだけサークを側に感じたいから、一目見たいだけ……。

ウィルは少しだけ高揚した気分になって、その封印の紐に手をかけた。


「ウィル~、風呂空いたぞ~。」

「うわぁっ!!」


ノックなくドアが開きそう声をかけられる。
一瞬で正気に返り、ウィルは布団に突っ伏した。

「……何してんだ??ウィル??」

「いや、ちょっと考え事をしてて……。」

「ふ~ん??」

よくわからんと言った風にタオルで頭を拭いているのは、久しぶりにここに帰ってきていた兄弟子でもあるアレックだ。
このまま突っ伏していても不審がられるので、ウィルは平然とした感じで顔をあげた。

「兄弟子さんは明日には王宮に帰るんですか?」

「あぁ。あんまゆっくりもしてらんねぇ感じだからさ。」

兄弟子と言われ、アレックは機嫌良さそうにそう答えた。
そんな様子を何か可愛いなぁとウィルは内心思っていた。

「あんま上手く行ってないんだって?お前??」

ちょっと先輩面したかったのか、アレックはそう言ってぽすんとベッドに座ってきた。
一応、結婚間近な婚約者のいるウィルのベッドに座るというのは少し非常識ではあったが、そこはまだ子供のアレックなので許される範囲内だ。

大人ぶってるけど、こういう所はまだ子ども全開なんだなぁと思うと可愛くなる。
ウィルもベッドに座り直した。

「はい。使おうとする気持ちはあるんですけど、気持ちのどこかに使える訳がないと否定する部分が残っていて、相殺されてるんじゃないかと先生は言ってました。」

「なるほどなぁ~。大人って面倒くせぇよなぁ~。」

そう言ってぽすんとベッドに寝っ転がってしまう。

君、あと数年後にはそんな事したら大問題だよ?
婚約者のいる人物のベッドに寝っ転がるなんて……いやいない相手でも、相手のベッドに寝っ転がるなんてしたら襲われても文句は言えないからね、アレック君??

ウィルはふふふっと笑ってそれを見ていた。
まぁ、微妙にこの歳でもその趣味のある相手だったら完全にアウトだ。
幸いウィルにはその手の趣味はなく、サーク以外には興味がないので問題はないのだが。

「……兄弟子さんは、いつ、魔力を自覚したんですか??」

ふと、普通の魔法師や魔術師はどうやって魔力を自覚するのだろうと興味が湧いた。
ウィルもぽすんとベッドに横になり、学生旅行の晩に友達同士て話すように聞いてみた。

「俺??俺はさぁ、小さい頃から変な事色々あったから、それが魔力だってのは物心つく頃にはわかってたぜ??」

「なるほど、そういうものなんですね?」

「うん。だから制御できるようになんないと危ないだろ??」

「それで魔法を習い始めだんですね?」

「つか、姉ちゃんが師匠に習ってたから、見てて自然に一緒にやり始めたっつうか~。」

「ふ~ん?」

そう言えばサークも子供の頃に色々不思議な事があったと言っていた。
それを見た大人が習わせないとと言って、始めは民間の塾に行って、それから学校に行く事になったって。

「やっぱり、子供のうちに自然と出てくるものなんですねぇ……。」

「お前の場合はしかたなくないか??夜の宝石なんだし。力が出ないように不活性型で存在してんだからよ。」

「その不活性型って何なんですか??」

「ん~、魔力って、無尽蔵にある訳じゃねぇじゃん?」

「ええ。そうみたいですね。」

「その、貯えの状態ってのが不活性型なんだよ。活性型ばっかり持ってたら、魔力が暴走しちまうだろ??」

「そうなんですか??」

「そうだよ。お前、何にも知らないんだな??」

「そりゃ生まれてこの方、魔力なんて使った事がないですからね??」

「なら仕方ねぇか。魔力の制御ってのはな、つまり不活性型と活性型のバランスを自分で把握して調整する事なんだよ。」

「ふむふむ?」

「魔力は強い力だけど、炎みたいなもんだよ。強すぎたら自分自身も焼いちまう。下手したら周りも焼いちまう。だから炎とその燃料に分けて持つんだよ。危ないからな。」

「なるほど……。それが活性型と不活性型……。」

「魔力を長くたくさん使える奴は、その不活性型をたくさん持ってるって言うのかな??使う時に活性化させて使うから、不活性型をたくさん持ってると強く長く魔力が使える。ここまではわかったか??」

「ええ。」

「で、ウィルだけどよ、お前は魔力の全部が不活性型なんだよ。」

「ええ?!そうなんですか?!」

「そ、火を持ってねぇの。燃料だけ持ってたって、火力は使えないだろ??簡単に言うとそういう事なんだよ。」

アレックの言葉は、ストンとウィルの胸の中に落ちた。
何だ、そういう事なのかと納得した。

「俺は夜の宝石の事よく知らねぇから何とも言えないけどさ。ウィルは呪いを浄化する際にだけ、涙として不活性型の魔力を活性化させて外に出すんだよ。俺にとったら、その方がめちゃくちゃ謎なんだけどさぁ~。」

「それができる俺も、よくわかってないんですけどね?その仕組み。」

「だよなぁ。自分に魔力がないって思っている奴が、どうやって浄化の力を使うのかなんてわかんねえよなぁ、普通~。」

「でも、兄弟子さんの話で、少し何か掴めた気がします。ありがとうございます。」

「ん。役に立ったんなら良いよ。だって俺、ウィルの兄弟子なんだし。」

兄弟子っぽい事ができて嬉しかったのか、アレックは嬉しそうにニカッと笑った。

か、可愛い……。

兄弟子だしあまり意識しないようにしていたが、この兄弟子もとい猫耳少年……可愛すぎる……!!
カレンや甘えモードのサークに抱く母性本能のようなものが炸裂してしまいそうになる。

だがここで可愛いなんて言ったら、兄弟子のプライドを傷つけかねない!
でも可愛い!!この子、可愛すぎる!!
ウィルは顔を手で覆い、なでなでしたいのを必死に堪えた。

「う~!!悩ましい~!!」

「は??とうしたんだよ??お前??」

じたじたするウィルを怪訝そうにアレックは見つめる。
そんな所に事件は起きる。

「ウィルさ~ん!!お風呂どうぞ~!!アレックに声をかけてって言ったのに、あの子ったら……!!」

そんな事を言いながら、アレックの姉であるサーニャさんが開いているドアから中を覗いた。
そして石化したように硬直した。

お姉ちゃんは見た。

ベッドの上、寝転んだ二人を。
恥ずかしそうに手で顔を覆いじたじたするウィルと、それを半身起こして上から覗き込む弟の姿を。


「………きゃあああぁぁぁ~っ!!」

「うわっ?!何、姉ちゃん、叫んでんだよ?!」

「何じゃないでしょ!!このバカアレックっ!!相手のいる方に!何て事をしてるんですかぁ~っ!!」

「……え??何??どういう事?!」

「先生~!!先生ーっ!!アレックがぁ~っ!!」

「え?!ちょっと!!姉ちゃん?!」


サーニャは叫ぶと、ボーンを探しに走っていってしまう。
アレックは状況がわからずキョトンとしている。

あ~、これを見られたのは不味かったなぁとウィルは体を起こしながら苦笑いした。

「え?ええっ?!何??どういう事?!」

「あ~、うん。アレック君の歳を考えて、あえて言わなかった俺がいけないと言えばいけなかったんですけどね……。」

キョドるアレックにウィルは申し訳なさそうに頭を掻いて言った。

「俺、サークと婚約してますよね?兄弟子さん。」

「知ってるよ、あいつたまにウィルがぁ~とか騒ぐから。」

「で、婚約者のいる人のベッドに今、二人でこうしていた訳なんですよ、アレック君。君はまだ子供と言える年齢なので気にしなくてもいいかなぁと思った俺がいけなかったんですけどね………。」

言いにくそうに、ウィルはそう伝えた。
アレックははじめ、何を言われているのかわからなかった。

だが、その意味がわからないほど完全な子供でもなかった。

少しの間の後、どういう事か理解した瞬間、バッとベッドから飛び退いた。
真っ赤になってぷるぷるしている。
ウィルは申し訳ない気持ちと可愛いなぁと言う気持ちでそれを見ていた。

「お!俺……!!そんなんじゃないから……っ!!」

「わかってるよ。でもサーニャさんが何で慌てたかはわかった??」

「お!俺は……!!俺はそんなんじゃないからあぁぁぁ~っ!!」

そして大慌てで部屋を出ていく。

あ~、何か申し訳ない事をしてしまった。
そう思いながらも何かおかしくて、ウィルはくすくすと笑ってしまったのだった。
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