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第九章「海神編」
それにツッコんだら負けだ
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王宮についた俺は、すぐにライオネル殿下の部屋に向かった。
「あれ?!」
「……久しいな。」
「いや、久しぶりって程でもねぇだろ??」
殿下の部屋の前には、何故か当番だろうカーターと共に隊長であるギルが警護についている。
カーターに軽く挨拶をしている前で、いつも通り無表情のギルは言った。
「イヴァンが休みの日は俺が入っている。」
「あ~。あいつ、今日はちゃんと休んでんのかなぁ~。」
以前、ガスパーの代わりに俺に説明するってんで、半日潰してたからなぁ。
さり気なく周りをフォローしてくれる良い奴なんだけど、ちゃんと自分の休みとか都合とかも確保してるのか心配になる。
この辺ライルは上手くて、周りをフォローしながらもちゃんと自分のプライベートは確保している。
まぁライルはサム命・エステルちゃん命で、警護部隊とどちらか選べと言われたらあっさりサムとエステルちゃんを選ぶタイプだからな。
仕事のフォローで臨時時短出勤していたライルとちらっと顔を合わせたら、「もうエステルのウンチの臭いすら愛おしく思えるとか、俺、ヤバくない?!」とかパパ全開だったので「ヤバイな。」と返しておいた。(そして一発殴られた。痛いっての!幸せオーラ全開のパパめ!!)
「平気だろう。今朝、朝イチで一番早い馬を借りてどこかに行っていたからな。」
「へ??どこ行ったんだ??」
「聞いてはいないが、服装や装備から見て、大方フライハイトだろう。」
「……あ~。」
そういやアイツ、ギルドに登録したんだっけ??
子供の頃の夢を少年の様な顔で語っていたイヴァンを思い出す。
確かに立場的に冒険者として生きる事はできなくても、それを経験する事はできる。
貴族だから冒険者で生計を立てている皆にはちょっとウケが悪いかと思うけど、アイツの人当たりの良さなら俺が手を貸さなくても何とかやっていけるだろう。
「鍛錬と筋トレしか趣味がなかったから、ある意味良かったのかもな。」
「業務に支障がなければ何をやろうと俺は構わん。ある主の鍛錬にもなるだろうしな。ただ、ロイヤル・ソードを目指すに当たり、そう言った俗世間との関わりを突かれる場合があるので少し心配ではあるが。」
「平気だろ??ギルドは今回、王国に大きな功績を残してるし。そう言う古臭い事を言う奴がいても、国王陛下がギルドの味方である以上、どうにもならないさ。」
王様の場合、ギルドの味方っていうよりマダムの味方って感じだけど。
チラリとギルを見やると、無言で小さく頷いた。
悠長にこんな話が出来るのもイヴァンが休みを満喫出来ているのも、俺が来れなかった間、殿下に変わりなかったと言うことだろう。
俺もそれにそれとなく頷き返す。
俺が殿下の部屋のドアをノックすると、執事長のパスカルさんが少し扉を開き、俺を確認してからドアを開けてくれた。
中にはいると、義父さんとブラハムさんがお茶を飲んでいた。
「おや、サク。久しぶりだね??」
「久しぶりって程でもないでしょ、義父さん。」
ギルと同じような事を言うので思わず苦笑した。
そして殿下の様子を覗う。
落ち着いて眠られていて、特に問題はない様だ。
ホッとして義父さんとブラハムさんのいるテーブルに向かう。
パスカルさんが俺にもお茶を入れてくれた。
「……緑茶じゃん!!」
「うん。義父さんが飲みたいって言ったら用意してくださってね。」
「義父さん、この国だと緑茶って高級品だからね?」
「え?!そうなのかい?!」
「どうぞお気になさらず。王宮では様々な方をもてなせるよう、どの様なお茶もご用意がございますので。」
高級品と聞いてあわあわし始めた義父さんに、パスカルさんは穏やかに微笑んだ。
東の国だと茶葉に拘らなければ、物凄くポピュラーなお茶だからなぁ。
そのノリで義父さん、頼んだんだろうな。
「……どうりで、色が淡くても味や香りがしっかりしてると思ったよ……。味もまろやかだし……。」
「教会でガバガバ飲んでるヤツとは違うよね?」
「ふふふっ、こんなに美味しいお茶が頂けるなんて、王宮に来てみて良かったなぁ~。」
いや、のほほんとしてますけど、貴方がした事・してる事は、魔術本部に席を置くような魔術師数人でも難しかった事なんだからね?!義父さん?!
確かにその分野のプロとはいえ、めちゃくちゃ凄い事してるんだからね?!
いくらここでは緑茶が高級品だとは言え、緑茶風呂に入ってもお釣りが来るくらいの事してますから、貴方。
「……本当、義父さんて自覚がないよなぁ……。」
「仕方あるまい、神仕え殿は常世に半身を落としていられる様なものなのだからのう。」
そんなやり取りをしていた俺と義父さんの様子を見て、ブラハムさんがくすくす笑っていた。
確かに義父さんは浮世離れしてる所はあるけど、単に能天気でボケッとしているだけで、常世に半身を置いてるってのは言いすぎじゃないかなぁ??
俺は苦笑した。
「そこまで言わなくても~。」
「おや、サーク?私は嫌味で言った訳ではないよ?」
「え??」
「お父上は神仕えだ。人の世と精霊の世、その薄い境に常にいられると言う意味だよ。」
「人の世と精霊の世……その境……。」
「そんな大したことではないよ、サク。神様は私達が思っているほど「神様」って感じではないからね。存在の形が違うだけで、私達と同じように悩まれたり考えたりして生活されているからね。」
「……義父さんが昔からそう言うから、俺、義父さんが凄いって認識が持てなかったんだよ?!何でもかんでも別に大したことじゃないよ~って言うから……。なのに世間的には教科書に乗るような事の核心部分に関わってるし~。実の息子が父親の功績を何も知らないとか、どんだけって感じだから!!」
「ごめんごめん~。義父さんもそんな風に世間で思われてるなんて、知らなかったからさ~。」
「……ふむ、もしかしたら、それが東の国が神仕えを極秘事項にしている理由だったりするのかもしれんのう。」
まぁ、国の切り札であり最終兵器みたいなもんだから、その神仕えが自分は世間的に凄いって自覚したら扱いにくくなるからってのは考えられる事だよな。
ただ、義父さんの場合は単に素だと思うけど……。
「それはそうと、サクは何か収穫はあったかい?」
「俺はこの間、人や物、方法とかじゃなくて、精神世界そのものについて調べてきたよ。」
「ほう?そうなのかい?サーク?」
「ええ。たとえ、使えそうな物や方法があっても、精神世界そのものがどういうものなのかわかっていなければ、それらを使っても目的を成せずに事故になりかねない。だから俺は、物や人、方法等は他の方に任せて、精神世界そのものの事を学んできました。」
「なるほど。うん、それはいい考えだね。サク。」
「ありがとう、義父さん。」
「そうか……確かにその本質を知らねば、何を用いても危険を伴っておっただろうな……。よく気づいたのう、サーク。」
「いえ、ナーバル議長の導きです。」
「そうか……。とは言え、本当にフーボーがいない事が悔やまれるの……。」
「ブラハムさん、実は俺、フーボーさんに会いました。」
「何と?!如何にして?!」
「精神世界に精通していたフーボーさんは、時間の概念の無い精神世界にて、今回の事をおおよそ知っておられました。だから近い将来、自分の知識が必要になると判断し、自らと引き換えにそれらを残してくれたんです。ただフーボーさんの知識は深すぎ、ある主、知るには危険な知識です。ですから厳重に隠され、制限をかけられているんです。」
そう、その知識はある意味この世にはない。
そして鍵を持つ事でウニと繋がり、許可されたものだけがあのフーボーさんそのものである知識の結晶、図書館に入る事ができる。
その本だって俺には文字として認識できるものとそうでないものがある。
どうやってその選択がかかっているのかはわからない。
ウニやフーボーさんが俺が知るべきでない情報として制限をかけているのかもしれないし、俺には精神魔術の素質がないから閲覧する能力がないのかもしれない。
「……そうか……彼の最期がわからなかったのは、そう言った理由だったのかのぅ……。実に彼らしい事だ……。」
懐かしげにブラハムさんが呟いた。
ブラハムさんが知っているフーボーさん。
多分ウニがハウスパートナーとして存在していて、弟のように過ごしていた時間。
俺は少しだけそれが知りたくなった。
「ブラハムさん。俺が会ったフーボーさんはその記憶に過ぎません。もしよければ、フーボーさんがどんな感じで魔術本部で過ごされていたか教えて頂けませんか?」
俺がそう言うと、ブラハムさんはニッコリと微笑んだ。
そして懐かしそうに話し始めた。
「フーボーは大人しくてあまり外にも出ずに研究ばかりしているような物静かな男でな……。ただ、彼のハウスパートナーが真逆でなぁ……。」
「ウニですね?」
「ははっ!ウニにも会ったか?!やんちゃだったろう??」
「ええ、めちゃくちゃ小生意気でしたよ。口も悪いし。」
「そうそう!まるで凸凹コンビでのぅ~。何でもフーボーはウニを弟として育てていたようでな?それはそれは可愛がっておった。ウニも我らには悪戯好きなやんちゃ坊主だったのだが、フーボーには甘ったれた弟で、兄ちゃん兄ちゃんと呼んでどこにでもくっついて回っとったんじゃ。」
ブラハムさんの口から懐かしげに語られる、在りし日のフーボーさんとウニの話。
俺はそれを聞きながら、俺の意識の片隅に耳をひっつけて、ウニがそれを聞いている事をどこかで感じていた。
ブラハムさんの話を聞いているうちに、アレックが帰ってきた。
久しぶりと思わず口に出で、これじゃギルや義父さんと何も変わらないなと苦笑する。
だが、いつもなら偉そうで生意気なアレックが、妙に余所余所しい。
いつもなら俺の皿のクッキーを当然のように食べ始めるってのに、どうしちゃったんだ??こいつ??
「アレック?どうかしたか??」
「べ、別にっ?!」
「何かあったのか??」
「なっ?!何もねぇよ!!俺は何もしてないからな!サーク!!」
「何もしてない??」
どういう事だろう??
いや待て、アレックが家に帰った、家というのはつまりトート迷宮遺跡の管理棟だ。
それはつまり……。
「アレック?!まさかお前?!俺のウィルに何かしやがったのか~?!」
「だから何もしてない!!上手く行かなくて落ち込んでたから相談に乗っただけだ!!俺は悪くないっ!!」
「悪くないってどういう事だぁ~っ!!」
「おい、静かにせんか、殿下がお休み中なのだぞ?!」
アレックに詰め寄っていると、ポコンと頭を叩かれた。
顔を上げると、ファーガスさんがおかしな人形を持って立っていた。
何だろう?ツッコミたいけどツッコめない。
そして妙に青い顔で俺とアレックに注意している。
その背後、メイド長がニッコリと微笑む。
俺とアレックは視線を合わせた。
「……この話は、後でな?」
「うん。でもお前が心配するような事は何もねぇからな??」
俺達は小声でそう言い合って、静かに椅子に座り直した。
あの変人、ファーガスさんが青くなっているのだ。
前回、殿下の寝室で騒いでしこたまメイド長にファーガスさんが絞られたのは覚えている。
そしてメイド長のあの笑顔を前に、それ以外の選択肢を俺もアレックも持ち合わせていなかった。
「ふむ、どうやらひとまず全員揃ったようだな。」
いつの間にかヘーゼル医務官長も来ていて、殿下に養生の魔法をかけから席についた。
それを見て、ブラハムさんが場を仕切り直すようにそう告げる。
殿下の為にそれぞれ情報や術者を探しに出ていた面子が再び揃った。
ここから、殿下救出作戦の核心が動き出す。
皆、強い決意を持ってこの場に戻ってきたのだ。
「……………なぁ、サーク……。」
「わかるが黙ってなさい。アレック……。」
隣のアレックが顔を寄せて囁いてきた。
わかる。
わかるが今は何もツッコむな。
その緊張の場に、ファーガスさんがおかしな人形を抱えたまま、物凄く不自然に存在していた。
「あれ?!」
「……久しいな。」
「いや、久しぶりって程でもねぇだろ??」
殿下の部屋の前には、何故か当番だろうカーターと共に隊長であるギルが警護についている。
カーターに軽く挨拶をしている前で、いつも通り無表情のギルは言った。
「イヴァンが休みの日は俺が入っている。」
「あ~。あいつ、今日はちゃんと休んでんのかなぁ~。」
以前、ガスパーの代わりに俺に説明するってんで、半日潰してたからなぁ。
さり気なく周りをフォローしてくれる良い奴なんだけど、ちゃんと自分の休みとか都合とかも確保してるのか心配になる。
この辺ライルは上手くて、周りをフォローしながらもちゃんと自分のプライベートは確保している。
まぁライルはサム命・エステルちゃん命で、警護部隊とどちらか選べと言われたらあっさりサムとエステルちゃんを選ぶタイプだからな。
仕事のフォローで臨時時短出勤していたライルとちらっと顔を合わせたら、「もうエステルのウンチの臭いすら愛おしく思えるとか、俺、ヤバくない?!」とかパパ全開だったので「ヤバイな。」と返しておいた。(そして一発殴られた。痛いっての!幸せオーラ全開のパパめ!!)
「平気だろう。今朝、朝イチで一番早い馬を借りてどこかに行っていたからな。」
「へ??どこ行ったんだ??」
「聞いてはいないが、服装や装備から見て、大方フライハイトだろう。」
「……あ~。」
そういやアイツ、ギルドに登録したんだっけ??
子供の頃の夢を少年の様な顔で語っていたイヴァンを思い出す。
確かに立場的に冒険者として生きる事はできなくても、それを経験する事はできる。
貴族だから冒険者で生計を立てている皆にはちょっとウケが悪いかと思うけど、アイツの人当たりの良さなら俺が手を貸さなくても何とかやっていけるだろう。
「鍛錬と筋トレしか趣味がなかったから、ある意味良かったのかもな。」
「業務に支障がなければ何をやろうと俺は構わん。ある主の鍛錬にもなるだろうしな。ただ、ロイヤル・ソードを目指すに当たり、そう言った俗世間との関わりを突かれる場合があるので少し心配ではあるが。」
「平気だろ??ギルドは今回、王国に大きな功績を残してるし。そう言う古臭い事を言う奴がいても、国王陛下がギルドの味方である以上、どうにもならないさ。」
王様の場合、ギルドの味方っていうよりマダムの味方って感じだけど。
チラリとギルを見やると、無言で小さく頷いた。
悠長にこんな話が出来るのもイヴァンが休みを満喫出来ているのも、俺が来れなかった間、殿下に変わりなかったと言うことだろう。
俺もそれにそれとなく頷き返す。
俺が殿下の部屋のドアをノックすると、執事長のパスカルさんが少し扉を開き、俺を確認してからドアを開けてくれた。
中にはいると、義父さんとブラハムさんがお茶を飲んでいた。
「おや、サク。久しぶりだね??」
「久しぶりって程でもないでしょ、義父さん。」
ギルと同じような事を言うので思わず苦笑した。
そして殿下の様子を覗う。
落ち着いて眠られていて、特に問題はない様だ。
ホッとして義父さんとブラハムさんのいるテーブルに向かう。
パスカルさんが俺にもお茶を入れてくれた。
「……緑茶じゃん!!」
「うん。義父さんが飲みたいって言ったら用意してくださってね。」
「義父さん、この国だと緑茶って高級品だからね?」
「え?!そうなのかい?!」
「どうぞお気になさらず。王宮では様々な方をもてなせるよう、どの様なお茶もご用意がございますので。」
高級品と聞いてあわあわし始めた義父さんに、パスカルさんは穏やかに微笑んだ。
東の国だと茶葉に拘らなければ、物凄くポピュラーなお茶だからなぁ。
そのノリで義父さん、頼んだんだろうな。
「……どうりで、色が淡くても味や香りがしっかりしてると思ったよ……。味もまろやかだし……。」
「教会でガバガバ飲んでるヤツとは違うよね?」
「ふふふっ、こんなに美味しいお茶が頂けるなんて、王宮に来てみて良かったなぁ~。」
いや、のほほんとしてますけど、貴方がした事・してる事は、魔術本部に席を置くような魔術師数人でも難しかった事なんだからね?!義父さん?!
確かにその分野のプロとはいえ、めちゃくちゃ凄い事してるんだからね?!
いくらここでは緑茶が高級品だとは言え、緑茶風呂に入ってもお釣りが来るくらいの事してますから、貴方。
「……本当、義父さんて自覚がないよなぁ……。」
「仕方あるまい、神仕え殿は常世に半身を落としていられる様なものなのだからのう。」
そんなやり取りをしていた俺と義父さんの様子を見て、ブラハムさんがくすくす笑っていた。
確かに義父さんは浮世離れしてる所はあるけど、単に能天気でボケッとしているだけで、常世に半身を置いてるってのは言いすぎじゃないかなぁ??
俺は苦笑した。
「そこまで言わなくても~。」
「おや、サーク?私は嫌味で言った訳ではないよ?」
「え??」
「お父上は神仕えだ。人の世と精霊の世、その薄い境に常にいられると言う意味だよ。」
「人の世と精霊の世……その境……。」
「そんな大したことではないよ、サク。神様は私達が思っているほど「神様」って感じではないからね。存在の形が違うだけで、私達と同じように悩まれたり考えたりして生活されているからね。」
「……義父さんが昔からそう言うから、俺、義父さんが凄いって認識が持てなかったんだよ?!何でもかんでも別に大したことじゃないよ~って言うから……。なのに世間的には教科書に乗るような事の核心部分に関わってるし~。実の息子が父親の功績を何も知らないとか、どんだけって感じだから!!」
「ごめんごめん~。義父さんもそんな風に世間で思われてるなんて、知らなかったからさ~。」
「……ふむ、もしかしたら、それが東の国が神仕えを極秘事項にしている理由だったりするのかもしれんのう。」
まぁ、国の切り札であり最終兵器みたいなもんだから、その神仕えが自分は世間的に凄いって自覚したら扱いにくくなるからってのは考えられる事だよな。
ただ、義父さんの場合は単に素だと思うけど……。
「それはそうと、サクは何か収穫はあったかい?」
「俺はこの間、人や物、方法とかじゃなくて、精神世界そのものについて調べてきたよ。」
「ほう?そうなのかい?サーク?」
「ええ。たとえ、使えそうな物や方法があっても、精神世界そのものがどういうものなのかわかっていなければ、それらを使っても目的を成せずに事故になりかねない。だから俺は、物や人、方法等は他の方に任せて、精神世界そのものの事を学んできました。」
「なるほど。うん、それはいい考えだね。サク。」
「ありがとう、義父さん。」
「そうか……確かにその本質を知らねば、何を用いても危険を伴っておっただろうな……。よく気づいたのう、サーク。」
「いえ、ナーバル議長の導きです。」
「そうか……。とは言え、本当にフーボーがいない事が悔やまれるの……。」
「ブラハムさん、実は俺、フーボーさんに会いました。」
「何と?!如何にして?!」
「精神世界に精通していたフーボーさんは、時間の概念の無い精神世界にて、今回の事をおおよそ知っておられました。だから近い将来、自分の知識が必要になると判断し、自らと引き換えにそれらを残してくれたんです。ただフーボーさんの知識は深すぎ、ある主、知るには危険な知識です。ですから厳重に隠され、制限をかけられているんです。」
そう、その知識はある意味この世にはない。
そして鍵を持つ事でウニと繋がり、許可されたものだけがあのフーボーさんそのものである知識の結晶、図書館に入る事ができる。
その本だって俺には文字として認識できるものとそうでないものがある。
どうやってその選択がかかっているのかはわからない。
ウニやフーボーさんが俺が知るべきでない情報として制限をかけているのかもしれないし、俺には精神魔術の素質がないから閲覧する能力がないのかもしれない。
「……そうか……彼の最期がわからなかったのは、そう言った理由だったのかのぅ……。実に彼らしい事だ……。」
懐かしげにブラハムさんが呟いた。
ブラハムさんが知っているフーボーさん。
多分ウニがハウスパートナーとして存在していて、弟のように過ごしていた時間。
俺は少しだけそれが知りたくなった。
「ブラハムさん。俺が会ったフーボーさんはその記憶に過ぎません。もしよければ、フーボーさんがどんな感じで魔術本部で過ごされていたか教えて頂けませんか?」
俺がそう言うと、ブラハムさんはニッコリと微笑んだ。
そして懐かしそうに話し始めた。
「フーボーは大人しくてあまり外にも出ずに研究ばかりしているような物静かな男でな……。ただ、彼のハウスパートナーが真逆でなぁ……。」
「ウニですね?」
「ははっ!ウニにも会ったか?!やんちゃだったろう??」
「ええ、めちゃくちゃ小生意気でしたよ。口も悪いし。」
「そうそう!まるで凸凹コンビでのぅ~。何でもフーボーはウニを弟として育てていたようでな?それはそれは可愛がっておった。ウニも我らには悪戯好きなやんちゃ坊主だったのだが、フーボーには甘ったれた弟で、兄ちゃん兄ちゃんと呼んでどこにでもくっついて回っとったんじゃ。」
ブラハムさんの口から懐かしげに語られる、在りし日のフーボーさんとウニの話。
俺はそれを聞きながら、俺の意識の片隅に耳をひっつけて、ウニがそれを聞いている事をどこかで感じていた。
ブラハムさんの話を聞いているうちに、アレックが帰ってきた。
久しぶりと思わず口に出で、これじゃギルや義父さんと何も変わらないなと苦笑する。
だが、いつもなら偉そうで生意気なアレックが、妙に余所余所しい。
いつもなら俺の皿のクッキーを当然のように食べ始めるってのに、どうしちゃったんだ??こいつ??
「アレック?どうかしたか??」
「べ、別にっ?!」
「何かあったのか??」
「なっ?!何もねぇよ!!俺は何もしてないからな!サーク!!」
「何もしてない??」
どういう事だろう??
いや待て、アレックが家に帰った、家というのはつまりトート迷宮遺跡の管理棟だ。
それはつまり……。
「アレック?!まさかお前?!俺のウィルに何かしやがったのか~?!」
「だから何もしてない!!上手く行かなくて落ち込んでたから相談に乗っただけだ!!俺は悪くないっ!!」
「悪くないってどういう事だぁ~っ!!」
「おい、静かにせんか、殿下がお休み中なのだぞ?!」
アレックに詰め寄っていると、ポコンと頭を叩かれた。
顔を上げると、ファーガスさんがおかしな人形を持って立っていた。
何だろう?ツッコミたいけどツッコめない。
そして妙に青い顔で俺とアレックに注意している。
その背後、メイド長がニッコリと微笑む。
俺とアレックは視線を合わせた。
「……この話は、後でな?」
「うん。でもお前が心配するような事は何もねぇからな??」
俺達は小声でそう言い合って、静かに椅子に座り直した。
あの変人、ファーガスさんが青くなっているのだ。
前回、殿下の寝室で騒いでしこたまメイド長にファーガスさんが絞られたのは覚えている。
そしてメイド長のあの笑顔を前に、それ以外の選択肢を俺もアレックも持ち合わせていなかった。
「ふむ、どうやらひとまず全員揃ったようだな。」
いつの間にかヘーゼル医務官長も来ていて、殿下に養生の魔法をかけから席についた。
それを見て、ブラハムさんが場を仕切り直すようにそう告げる。
殿下の為にそれぞれ情報や術者を探しに出ていた面子が再び揃った。
ここから、殿下救出作戦の核心が動き出す。
皆、強い決意を持ってこの場に戻ってきたのだ。
「……………なぁ、サーク……。」
「わかるが黙ってなさい。アレック……。」
隣のアレックが顔を寄せて囁いてきた。
わかる。
わかるが今は何もツッコむな。
その緊張の場に、ファーガスさんがおかしな人形を抱えたまま、物凄く不自然に存在していた。
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