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第九章「海神編」
君への祝福
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大枠が決まった所で、王様達は別の会議があるという事で退場した。
残った俺達は大まかな役割分担を決める。
まずライオネル殿下を俺の家に移す為の計画の取りまとめをファーガスさん(殿下の状態管理)とイヴァン(警護)。
俺の家の受け入れ体制の取りまとめをブラハムさん(殿下の状態管理)とパスカルさん(身の回りのお世話)、ギル(警護)を中心に行う事になった。
ヘーゼル医務官長は引き続き殿下の常時経過観察につき、アレックはその補佐をメインに全体の補佐、義父さんは全計画のアドバイザーとして動き回れる様にした。
そして俺はといえば、王様の前で計画の説明をしたり家に殿下を受け入れたりするので、結局、海神帰還計画の方の取りまとめ役になった。
なんかこのまま全体の代表にされるのは嫌なので、ファーガスさんにこそっと「まとめ役はやりますけど、この件の全体代表はファーガスさんでお願いしますね?」と声をかけておいた。
ファーガスさんはムフゥ~ッ!と鼻息荒く、二つ返事でOKしてくれた。
貴族にとったら大きな仕事の手柄は重要なんだろうけど、俺は別に貴族として出世したい訳じゃないしから、前回の件みたいに責任者的な立場にされるのは懲り懲りなのだ。
むしろ静かに暮らしたいから、代表とかは面倒だからやりたくない。
仕事はちゃんとやるけど、前回、寝ている間に勝手に代表にされてエライ目にあったから、今回は先手を打たせてもらった。
ファーガスさんだってやりたがっていたんだからお互いウインウインだし、良かった良かった。
ホッとした俺は自分の仕事を進める事にする。
ノルは残っていたコーディ書記長と、装置に必要な物品の納期なんかを話し合ってる。
このまま俺んちで組んでもらえば良いから、その旨を伝えた。
「アズマ様、殿下の受け入れの為に一度ご自宅を見せて頂きたいのですが?」
ノル達と話していると、ライオネル殿下の執事長であるパスカルさんが声をかけてくる。
う~ん、どうしよう??
まだ、カレンにも許可を取ってないし、こんなわらわら人が来る事になったら、ラニはともかくリアナがブチ切れそうなんだよな……。
「すみません、まだ家族に許可を取っていないので、直接来るのは少し待って頂けますか?」
何よりウィルに何も話してない。
大丈夫だと踏んだからこの計画を皆に話したけど、もしかしたら家の一部とか全部とか破壊されるかもしれないし……。
ウィルも元騎馬隊員で今はうちの警護部隊メンバーだから、ある意味、王国に仕える者だ。
だから仕事として今回の事は受け入れてくれると思う。
でも二人でまったり暮らしていこうと思って、二人で選んだ新居な訳で、気持ち的には複雑になると思う。
なんか本当、申し訳ないよなぁ。
俺、ちゃんとウィルを幸せにしてあげれてるのかな??
なんか俺が色々巻き込まれるからウィルも巻き込んじゃって、そのうち……。
「……うわァァァ~!!ウィル~!俺を捨てないでぇ~!!」
思わず心の叫びが漏れてしまった。
いきなりの大声に、しんっと会議室が静まり返る。
「……あ、すみません……。」
ヤベッと思って謝ると、どッと笑われた。
笑い事じゃないんだよ!!
俺!ウィルに捨てられたら死んじゃうから!!
「ふふふっ、そうですね?アズマ様のご家庭の事も考慮せず、申し訳ありません。」
「あ、いや……。その……。」
「直接行くのは、ご家族が納得されてからに致しましょう。ただこちらも準備がございますので、もし宜しければ図面か何かを見せて頂きたいのですが?」
「では不動産会社か、ガスパーが持っていると思うので、急いでご用意します。」
「……ガスパー?……あぁ!ふふふっ、そうでいらっしゃいましたね。ではお待ちしております。」
パスカルさんにそう言われ、俺はまた赤くなってしまった。
そんな皆まで言わずとも承知しておりますって対応されると、俺、どう返せば良いのかわかんないよ!!
て言うか!アイツが俺に誓いを立てたって話!どこまで全体に浸透してるんだ?!
俺はいつまで知らないですって顔をしてれば良いの?!
アイツは絶対言わないだろうし!
俺が知っちゃいましたって事をカミングアウトしたとして、それにどう答えれば良いのかって事になるんだよ!!
今はガスパーが一方的に誓いをたてたって事で、俺は知らないからそれに応えてないって状況で周りもそれとして(?)見てくれてるけどさ?!
知ってるってカミングアウトする事は、それに対する答えを俺が出さないといけなくなるんだよ!!
「もうヤダ~。」
「何が嫌なんだよ??」
思わず手で顔を覆って俯いていると、怪訝そうにアレックが声をかけてきた。
その肩には人口精霊の黒猫キーホルダーが乗っかっている。
「あ、アレック。丁度よかった。」
「は??」
「その人工精霊、しばらく貸してくれないか??」
「ピアを?!」
俺が人工精霊の事を言った瞬間、アレックは肩からぬいぐるみを掴むと取られまいとするように両手でギュッと握ってしまった。
潰された人工精霊がぴぎゃっ!と変な悲鳴を上げていた。
いやだか、それよりも……。
俺は愕然としてアレックを見つめた。
俺に対して警戒心丸出しのアレックは軽く威嚇してくる。
だがそんな事は問題じゃない。
「……は??……ピア?!」
「駄目だ!これは俺の獲物だ!!」
「いや!獲物って食う気かよ?!ぬいぐるみだから中身綿だろ?!ってそうじゃない!!アレック!!お前まさか!!それに名前つけたのか?!」
俺は青ざめた。
ガシっとアレックの肩を両手で掴み、真剣に聞いた。
アレックも俺の剣幕が凄いのでびっくりしている。
「そうだぞ?だってないと不便だろ??ぴぃぴぃ鳴くから、ピアって……。」
ちょっとしどろもどろになりながら、アレックは答えた。
何がいけないのかわからないので、驚きながらも不思議がっている。
これはまずい事になった。
俺はキョロキョロして義父さんを探した。
人工精霊は自然に生まれたものじゃない。
異質な精霊だ。
それだから義父さんがなんとかしてくれると聞いて安心していたんだ。
なのに……!!
「義父さん!!」
「おや?どうしたんだい?サク??血相を変えて??」
ファーガスさんと話し終えた義父さんをとっ捕まえ、固まっているアレックの所に連れてくる。
「アレックがこれに名前を……!!」
「あぁ!!そうなんだよ~!!ちょっと他の人と話してる間に、つけちゃってたんだよ~。」
「えぇっ?!知ってたの?!」
「うん。」
俺が物凄く動揺していると言うのに、義父さんはにこにこしている。
アレックは俺と義父さんの顔を見上げてキョロキョロしていた。
「え?!コイツに名前って、つけたら駄目だったのか?!」
「あ~、ごめん、アレック。びっくりしたよな?」
「ふふふっ、名前っていうのはね、個を固定する楔なんだよ。」
「固定する楔??」
「あ~?何て説明すれば良いのかなぁ??……わかりやすく言うと、それは前までは名前がなかった。つまりそれを認識する固有名詞がなかった。そこにそれがあっても、それを示す言葉がないから表現できない。だからそこにあったとしても、ないものに近かったんだよ。」
「……あるけど、それを示す言葉がないから、そこにないのと同じだったって意味か??」
「アレック君は飲み込みが早いね。そういう事だよ。」
「それは人工的に生まれたもので、自然発生したものじゃない。だから精霊としても異質で、どうなるかわからないものなんだよ。精霊達もこいつを精霊として受け入れてくれるかわかんないし……。だから義父さんに預けて、少しずつ無に還してやるなりするのが良いと思ってたんだ……。」
頭のいいアレックはすぐに状況を理解した。
それでしゅんとして、手の中のぬいぐるみを見つめた。
「ごめんなさい……俺、そういうの知らなかった……。」
うわぁ……待ってくれ……。
普段気の強い子がしゅんと、しかも猫耳をペタンとされたら!物凄い罪悪感だから!!
「ア、アレック?!気にすんなよ?!知らなかったんだから仕方ないし!!俺も動揺してごめんな?!だいたい、義父さんがアレックに任せてたのが悪いんだし!な?!」
俺は慌ててフォローを入れる。
義父さんはにこにこしているだけで何も言わない。
ちょっと義父さん!!
そう言おうと思った時だった。
「……痛??……痛たたたたたっ?!」
いきなりずくんと歯が疼き、そして強烈な痛みが走った。
俺は顎を押さえて目を白黒させる。
え?!虫歯?!
とにかく急いで魔術処置をする。
「ふふふっ。なるほど、そうきたか……。」
何が起きたかわからない俺に対し、義父さんはくすくす笑っている。
は??何笑ってるの??義父さん?!
だが俺もすぐにピンときて、アレックの手の中の黒猫のぬいぐるみを見つめた。
『……アレック、イジメるの、ダメっ!!』
ちっちゃいながらに、いっちょ前にぷうって威嚇している。
なるほど、こいつのせいか。
俺は顎を押さえるのとは反対の手で、ピンっと黒猫キーホルダーを指で弾いた。
「ぴっ!!」
「ピア?!おい!サーク!!何すんだよ!!」
「何すんだよは俺のセリフだ。痛ったいなぁ~もう~。」
「ピアをイジメんな!!イジメて良いのは俺だけなの!!」
「……いや、お前も虐めるなよ。」
黒猫キーホルダーの人工精霊改め、ピアを指で弾いて集中を切らすと途端に痛みは治まった。
う~ん、何と言うか……。
できる攻撃がこれとか地味に嫌だ。
「ちょっと失礼??」
義父さんはそう言って、アレックの手からピアをつまみ上げる。
そして手の上に乗せると、自分の指にふっと息を吹きかけ、そしてその指でそっとピアの頭を押さえた。
「……ぴぃ??」
「ん、大丈夫だよ?痛い事はしないから。」
そう言って笑うと、小さな声で短い祝詞を唱える。
アレックは不思議そうにそれを見ていた。
義父さんが何を施したのかは俺にはわからなかった。
「はい、返すね。」
それが終わると、義父さんは何事もなかった様にアレックにピアを返した。
アレックは受け取りながらも、少し困っていた。
「……俺が、持ってていいの?」
「うん。と言うか、これからは君がその子の面倒を見るんだよ。」
「え?!」
「だってアレック君が名前をつけたんだからね。君が面倒を見て、君がその子に教えるんだ。何がいい事で何がいけない事なのか。」
「義父さん?!」
びっくりしてその顔を見ると、にっこりと笑う。
え?!それで良いの??
名前がついて固定化が進んだんだろうけど、それでもこれは人工的に生まれたものだ。
異質なものには変わりない。
でも義父さんは飄々と笑うだけだった。
「大丈夫なの??それで??」
「うん。ただ一応、無闇に周りに酷い危害を加えると、自分にも返ってくるような簡単なお仕置きはつけておいたよ。だから今後は、腹が立ったからってやたらめったら相手に怒りをぶつけない方が良いと思うよ?ピア?怒るだけでは物事は解決しないからね。アレック君と過ごす中でたくさん学びなさい。」
それを聞いたピアは、ヒッと体を強張らせた。
痛いのあんなに嫌がってたもんな……。
でも精霊は感情と力が直結している部分がある。
多くの精霊は長い年月で得た知識がそれをコントロールする術になっている。
ピアの場合、精霊としては短期間で生まれてしまったからそういった部分が足りないのだろう。
だからその制御法を学ぶには、これからたくさんの事を経験し学んでいくしかない。
義父さんは多分、はじめからこの人工精霊を無に返す気がなかったんだと気づいた。
どんな形であれ生まれてきたこの子に、それなりの人生……いや精霊生?を歩ませてあげるつもりだったのだろう。
異質な未知の精霊だけれども、生まれた事を悪い事とするのは俺の勝手な考えだった。
どんな形でもピアはこの世界に生まれたのだ。
祝福を受けるべき存在であり、否定される存在ではないのだ。
その生まれをなかった事にする考えは、義父さんから見たら一方的な身勝手に見えたのかもしれない。
義父さんは人だけでなく、精霊達の幸せも考えられる神仕えだ。
だからはじめからこうなるように、これからたくさんの事を知りながら学び、人生を歩んでいく若いアレックに託していたのだろう。
企みに気づいて苦笑した俺に、義父さんは秘密だと言いたげに指を口元に当てて笑った。
「……俺が……こいつの面倒を見るの?」
そんな中、アレックは少し迷いながら義父さんを見上げる。
嬉しそうでもあり、不安そうでもあった。
義父さんは優しくアレックに笑いかけ、ぽんぽんとその頭をなでる。
「うん。でも定期的に見せに来てくれるかな?ピアは他の神様とはちょっと違うから。」
「わかった。他にはどうしたらいい?」
「何もないよ。君や他の子と同じさ。たくさん寝て、たくさん食べて、たくさん冒険して、たくさん世界の事、社会の事、周りの人の事、色々な事を君と一緒に学んでいけばいいんだよ。急ぐ必要もない。当たり前の事を、いつも通りに過ごせばそれで大丈夫だよ。」
「……わかった。」
そう返事をしたアレックは、改めて手の上のピアを見つめた。
そして険しい顔で言い聞かせる。
「いいか?ピア?これからは俺がお前のご主人様だからな?!ちゃんと言うこと聞けよ?!」
「いや、ご主人様とかは違うだろ?!」
なんかちょっと違うんだよなぁと思いつつ、アレックの尻尾が嬉しそうに揺れているのを微笑ましく眺めた。
ピアの方もアレックと離れなくて良いとわかったのか、どことなく嬉しそうだ。
まぁどうなるかはわからないが、いいコンビになってくれる事を願おう。
だがそう思っている矢先から、喜びが興奮に繋がったのかアレックの顔がヤバイ……。
ネコ目がランランとして、ニヤァ~と犬歯を見せて笑う。
あ、ヤバそうだ……。
捕食者の顔になってる……。
止める間もなくアレックはむんずと両手でピアを掴むと、ムギューッと握りつぶした。
「ぴっ!ぴいぃぃぃぃぃ~っ?!」
「うはははは~!!変顔だ~!!」
「おいコラ!!アレック!やめろ!!落ち着け!!」
「あはは。これはピアが学ぶ前に、アレック君が狩猟本能を制御する方法を学んだ方がいいのかもねぇ?良いストッパーがあるといいんだけど……。」
何故か笑うだけで止めない義父さん……。
そうだ、この人の教育方針は良くも悪くも好きにさせるんだった!!
俺は軽く獣人化しているアレックにシャーシャー言われながら、その手から無理矢理ピアを救出したのだった。
残った俺達は大まかな役割分担を決める。
まずライオネル殿下を俺の家に移す為の計画の取りまとめをファーガスさん(殿下の状態管理)とイヴァン(警護)。
俺の家の受け入れ体制の取りまとめをブラハムさん(殿下の状態管理)とパスカルさん(身の回りのお世話)、ギル(警護)を中心に行う事になった。
ヘーゼル医務官長は引き続き殿下の常時経過観察につき、アレックはその補佐をメインに全体の補佐、義父さんは全計画のアドバイザーとして動き回れる様にした。
そして俺はといえば、王様の前で計画の説明をしたり家に殿下を受け入れたりするので、結局、海神帰還計画の方の取りまとめ役になった。
なんかこのまま全体の代表にされるのは嫌なので、ファーガスさんにこそっと「まとめ役はやりますけど、この件の全体代表はファーガスさんでお願いしますね?」と声をかけておいた。
ファーガスさんはムフゥ~ッ!と鼻息荒く、二つ返事でOKしてくれた。
貴族にとったら大きな仕事の手柄は重要なんだろうけど、俺は別に貴族として出世したい訳じゃないしから、前回の件みたいに責任者的な立場にされるのは懲り懲りなのだ。
むしろ静かに暮らしたいから、代表とかは面倒だからやりたくない。
仕事はちゃんとやるけど、前回、寝ている間に勝手に代表にされてエライ目にあったから、今回は先手を打たせてもらった。
ファーガスさんだってやりたがっていたんだからお互いウインウインだし、良かった良かった。
ホッとした俺は自分の仕事を進める事にする。
ノルは残っていたコーディ書記長と、装置に必要な物品の納期なんかを話し合ってる。
このまま俺んちで組んでもらえば良いから、その旨を伝えた。
「アズマ様、殿下の受け入れの為に一度ご自宅を見せて頂きたいのですが?」
ノル達と話していると、ライオネル殿下の執事長であるパスカルさんが声をかけてくる。
う~ん、どうしよう??
まだ、カレンにも許可を取ってないし、こんなわらわら人が来る事になったら、ラニはともかくリアナがブチ切れそうなんだよな……。
「すみません、まだ家族に許可を取っていないので、直接来るのは少し待って頂けますか?」
何よりウィルに何も話してない。
大丈夫だと踏んだからこの計画を皆に話したけど、もしかしたら家の一部とか全部とか破壊されるかもしれないし……。
ウィルも元騎馬隊員で今はうちの警護部隊メンバーだから、ある意味、王国に仕える者だ。
だから仕事として今回の事は受け入れてくれると思う。
でも二人でまったり暮らしていこうと思って、二人で選んだ新居な訳で、気持ち的には複雑になると思う。
なんか本当、申し訳ないよなぁ。
俺、ちゃんとウィルを幸せにしてあげれてるのかな??
なんか俺が色々巻き込まれるからウィルも巻き込んじゃって、そのうち……。
「……うわァァァ~!!ウィル~!俺を捨てないでぇ~!!」
思わず心の叫びが漏れてしまった。
いきなりの大声に、しんっと会議室が静まり返る。
「……あ、すみません……。」
ヤベッと思って謝ると、どッと笑われた。
笑い事じゃないんだよ!!
俺!ウィルに捨てられたら死んじゃうから!!
「ふふふっ、そうですね?アズマ様のご家庭の事も考慮せず、申し訳ありません。」
「あ、いや……。その……。」
「直接行くのは、ご家族が納得されてからに致しましょう。ただこちらも準備がございますので、もし宜しければ図面か何かを見せて頂きたいのですが?」
「では不動産会社か、ガスパーが持っていると思うので、急いでご用意します。」
「……ガスパー?……あぁ!ふふふっ、そうでいらっしゃいましたね。ではお待ちしております。」
パスカルさんにそう言われ、俺はまた赤くなってしまった。
そんな皆まで言わずとも承知しておりますって対応されると、俺、どう返せば良いのかわかんないよ!!
て言うか!アイツが俺に誓いを立てたって話!どこまで全体に浸透してるんだ?!
俺はいつまで知らないですって顔をしてれば良いの?!
アイツは絶対言わないだろうし!
俺が知っちゃいましたって事をカミングアウトしたとして、それにどう答えれば良いのかって事になるんだよ!!
今はガスパーが一方的に誓いをたてたって事で、俺は知らないからそれに応えてないって状況で周りもそれとして(?)見てくれてるけどさ?!
知ってるってカミングアウトする事は、それに対する答えを俺が出さないといけなくなるんだよ!!
「もうヤダ~。」
「何が嫌なんだよ??」
思わず手で顔を覆って俯いていると、怪訝そうにアレックが声をかけてきた。
その肩には人口精霊の黒猫キーホルダーが乗っかっている。
「あ、アレック。丁度よかった。」
「は??」
「その人工精霊、しばらく貸してくれないか??」
「ピアを?!」
俺が人工精霊の事を言った瞬間、アレックは肩からぬいぐるみを掴むと取られまいとするように両手でギュッと握ってしまった。
潰された人工精霊がぴぎゃっ!と変な悲鳴を上げていた。
いやだか、それよりも……。
俺は愕然としてアレックを見つめた。
俺に対して警戒心丸出しのアレックは軽く威嚇してくる。
だがそんな事は問題じゃない。
「……は??……ピア?!」
「駄目だ!これは俺の獲物だ!!」
「いや!獲物って食う気かよ?!ぬいぐるみだから中身綿だろ?!ってそうじゃない!!アレック!!お前まさか!!それに名前つけたのか?!」
俺は青ざめた。
ガシっとアレックの肩を両手で掴み、真剣に聞いた。
アレックも俺の剣幕が凄いのでびっくりしている。
「そうだぞ?だってないと不便だろ??ぴぃぴぃ鳴くから、ピアって……。」
ちょっとしどろもどろになりながら、アレックは答えた。
何がいけないのかわからないので、驚きながらも不思議がっている。
これはまずい事になった。
俺はキョロキョロして義父さんを探した。
人工精霊は自然に生まれたものじゃない。
異質な精霊だ。
それだから義父さんがなんとかしてくれると聞いて安心していたんだ。
なのに……!!
「義父さん!!」
「おや?どうしたんだい?サク??血相を変えて??」
ファーガスさんと話し終えた義父さんをとっ捕まえ、固まっているアレックの所に連れてくる。
「アレックがこれに名前を……!!」
「あぁ!!そうなんだよ~!!ちょっと他の人と話してる間に、つけちゃってたんだよ~。」
「えぇっ?!知ってたの?!」
「うん。」
俺が物凄く動揺していると言うのに、義父さんはにこにこしている。
アレックは俺と義父さんの顔を見上げてキョロキョロしていた。
「え?!コイツに名前って、つけたら駄目だったのか?!」
「あ~、ごめん、アレック。びっくりしたよな?」
「ふふふっ、名前っていうのはね、個を固定する楔なんだよ。」
「固定する楔??」
「あ~?何て説明すれば良いのかなぁ??……わかりやすく言うと、それは前までは名前がなかった。つまりそれを認識する固有名詞がなかった。そこにそれがあっても、それを示す言葉がないから表現できない。だからそこにあったとしても、ないものに近かったんだよ。」
「……あるけど、それを示す言葉がないから、そこにないのと同じだったって意味か??」
「アレック君は飲み込みが早いね。そういう事だよ。」
「それは人工的に生まれたもので、自然発生したものじゃない。だから精霊としても異質で、どうなるかわからないものなんだよ。精霊達もこいつを精霊として受け入れてくれるかわかんないし……。だから義父さんに預けて、少しずつ無に還してやるなりするのが良いと思ってたんだ……。」
頭のいいアレックはすぐに状況を理解した。
それでしゅんとして、手の中のぬいぐるみを見つめた。
「ごめんなさい……俺、そういうの知らなかった……。」
うわぁ……待ってくれ……。
普段気の強い子がしゅんと、しかも猫耳をペタンとされたら!物凄い罪悪感だから!!
「ア、アレック?!気にすんなよ?!知らなかったんだから仕方ないし!!俺も動揺してごめんな?!だいたい、義父さんがアレックに任せてたのが悪いんだし!な?!」
俺は慌ててフォローを入れる。
義父さんはにこにこしているだけで何も言わない。
ちょっと義父さん!!
そう言おうと思った時だった。
「……痛??……痛たたたたたっ?!」
いきなりずくんと歯が疼き、そして強烈な痛みが走った。
俺は顎を押さえて目を白黒させる。
え?!虫歯?!
とにかく急いで魔術処置をする。
「ふふふっ。なるほど、そうきたか……。」
何が起きたかわからない俺に対し、義父さんはくすくす笑っている。
は??何笑ってるの??義父さん?!
だが俺もすぐにピンときて、アレックの手の中の黒猫のぬいぐるみを見つめた。
『……アレック、イジメるの、ダメっ!!』
ちっちゃいながらに、いっちょ前にぷうって威嚇している。
なるほど、こいつのせいか。
俺は顎を押さえるのとは反対の手で、ピンっと黒猫キーホルダーを指で弾いた。
「ぴっ!!」
「ピア?!おい!サーク!!何すんだよ!!」
「何すんだよは俺のセリフだ。痛ったいなぁ~もう~。」
「ピアをイジメんな!!イジメて良いのは俺だけなの!!」
「……いや、お前も虐めるなよ。」
黒猫キーホルダーの人工精霊改め、ピアを指で弾いて集中を切らすと途端に痛みは治まった。
う~ん、何と言うか……。
できる攻撃がこれとか地味に嫌だ。
「ちょっと失礼??」
義父さんはそう言って、アレックの手からピアをつまみ上げる。
そして手の上に乗せると、自分の指にふっと息を吹きかけ、そしてその指でそっとピアの頭を押さえた。
「……ぴぃ??」
「ん、大丈夫だよ?痛い事はしないから。」
そう言って笑うと、小さな声で短い祝詞を唱える。
アレックは不思議そうにそれを見ていた。
義父さんが何を施したのかは俺にはわからなかった。
「はい、返すね。」
それが終わると、義父さんは何事もなかった様にアレックにピアを返した。
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「え?!」
「だってアレック君が名前をつけたんだからね。君が面倒を見て、君がその子に教えるんだ。何がいい事で何がいけない事なのか。」
「義父さん?!」
びっくりしてその顔を見ると、にっこりと笑う。
え?!それで良いの??
名前がついて固定化が進んだんだろうけど、それでもこれは人工的に生まれたものだ。
異質なものには変わりない。
でも義父さんは飄々と笑うだけだった。
「大丈夫なの??それで??」
「うん。ただ一応、無闇に周りに酷い危害を加えると、自分にも返ってくるような簡単なお仕置きはつけておいたよ。だから今後は、腹が立ったからってやたらめったら相手に怒りをぶつけない方が良いと思うよ?ピア?怒るだけでは物事は解決しないからね。アレック君と過ごす中でたくさん学びなさい。」
それを聞いたピアは、ヒッと体を強張らせた。
痛いのあんなに嫌がってたもんな……。
でも精霊は感情と力が直結している部分がある。
多くの精霊は長い年月で得た知識がそれをコントロールする術になっている。
ピアの場合、精霊としては短期間で生まれてしまったからそういった部分が足りないのだろう。
だからその制御法を学ぶには、これからたくさんの事を経験し学んでいくしかない。
義父さんは多分、はじめからこの人工精霊を無に返す気がなかったんだと気づいた。
どんな形であれ生まれてきたこの子に、それなりの人生……いや精霊生?を歩ませてあげるつもりだったのだろう。
異質な未知の精霊だけれども、生まれた事を悪い事とするのは俺の勝手な考えだった。
どんな形でもピアはこの世界に生まれたのだ。
祝福を受けるべき存在であり、否定される存在ではないのだ。
その生まれをなかった事にする考えは、義父さんから見たら一方的な身勝手に見えたのかもしれない。
義父さんは人だけでなく、精霊達の幸せも考えられる神仕えだ。
だからはじめからこうなるように、これからたくさんの事を知りながら学び、人生を歩んでいく若いアレックに託していたのだろう。
企みに気づいて苦笑した俺に、義父さんは秘密だと言いたげに指を口元に当てて笑った。
「……俺が……こいつの面倒を見るの?」
そんな中、アレックは少し迷いながら義父さんを見上げる。
嬉しそうでもあり、不安そうでもあった。
義父さんは優しくアレックに笑いかけ、ぽんぽんとその頭をなでる。
「うん。でも定期的に見せに来てくれるかな?ピアは他の神様とはちょっと違うから。」
「わかった。他にはどうしたらいい?」
「何もないよ。君や他の子と同じさ。たくさん寝て、たくさん食べて、たくさん冒険して、たくさん世界の事、社会の事、周りの人の事、色々な事を君と一緒に学んでいけばいいんだよ。急ぐ必要もない。当たり前の事を、いつも通りに過ごせばそれで大丈夫だよ。」
「……わかった。」
そう返事をしたアレックは、改めて手の上のピアを見つめた。
そして険しい顔で言い聞かせる。
「いいか?ピア?これからは俺がお前のご主人様だからな?!ちゃんと言うこと聞けよ?!」
「いや、ご主人様とかは違うだろ?!」
なんかちょっと違うんだよなぁと思いつつ、アレックの尻尾が嬉しそうに揺れているのを微笑ましく眺めた。
ピアの方もアレックと離れなくて良いとわかったのか、どことなく嬉しそうだ。
まぁどうなるかはわからないが、いいコンビになってくれる事を願おう。
だがそう思っている矢先から、喜びが興奮に繋がったのかアレックの顔がヤバイ……。
ネコ目がランランとして、ニヤァ~と犬歯を見せて笑う。
あ、ヤバそうだ……。
捕食者の顔になってる……。
止める間もなくアレックはむんずと両手でピアを掴むと、ムギューッと握りつぶした。
「ぴっ!ぴいぃぃぃぃぃ~っ?!」
「うはははは~!!変顔だ~!!」
「おいコラ!!アレック!やめろ!!落ち着け!!」
「あはは。これはピアが学ぶ前に、アレック君が狩猟本能を制御する方法を学んだ方がいいのかもねぇ?良いストッパーがあるといいんだけど……。」
何故か笑うだけで止めない義父さん……。
そうだ、この人の教育方針は良くも悪くも好きにさせるんだった!!
俺は軽く獣人化しているアレックにシャーシャー言われながら、その手から無理矢理ピアを救出したのだった。
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表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜
ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。
成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。
「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」
23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。
モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。
そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。
「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」
「十八歳になるまで我慢してた」
「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」
年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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