71 / 137
第九章「海神編」
王国の太陽
しおりを挟む
「ラティーマー宰相。私には多くの事はわかりかねますが、第三警護部隊としての見解をお話させて頂いても宜しいでしょうか?」
ギルの場の空気を若干読めない感じが功を奏し、無表情に語られたその言葉にそっぽを向いていたルードビッヒ宰相の蛇の目がギロンと向けられる。
ギルはそれを返事と受け取ったようで、機械的に話し始めた。
「アズマ副隊長代理の家は、第16区画の端、しかも少し奥まった林の中にあります。16区画上位住宅地ではありますが、彼の家は他の住宅群から若干の距離があり、これは秘密裏に警護を行う事を考えた場合、とても良い条件となります。」
「……ほう?」
「元々、彼の購入した家は遠出に向かない短い休日を、街の喧騒から離れて過ごす為の別荘として作られたものでしたので、そう言った場所であり作りになっている様です。」
言われてみればあんまり気にした事なかったけど、俺んちって住宅街の端の小道をちょっと入っていって周りに家がなくなったところにあるんだよな。
てっきり変な飛び地として売られてた場所なのかと思ってたし、不動産屋さんのおじさんもそんな認識で皆買いたがらないって言ってたけど、わざとそう言う場所に作られたものだったのか……。
俺は変に感心していた。
ギルの淡々とした口調は続く。
「また周りを囲む様に林があり、秘密裏に警護を行うにはうってつけです。一部は森に繋がっており一定の区間は彼宅の所有になりますが、それよりも奥の場所は国有地、さらに調べた所、管理は魔術師本部となっています。」
「え?!そうなの?!」
あの森って誰のなんだろうと思ってたけど、国有地だったの?!
しかも管轄は魔術師本部?!
全く知らなかった事を言われ、俺はびっくりしてギルを見た。
俺にガン見されたギルは相変わらずの無表情を向けてくる。
「……て言うか?何で俺も知らん事をお前が知ってるんだ??」
「お前があそこを買うと決めた後、おかしな場所でないか周辺を含め詳細を徹底的に調査し間違いがないか確認した。」
「何で?!」
「……お前の事だからだ。」
平然と言われたその言葉に、俺はビシッと青筋を立てた。
周りもちょっとその微妙なニュアンスの言葉に複雑な顔をしている。
ほ~ん??
部下の買う家に危険や問題がないか土地柄まで隊長様は調べてくれるんだぁ~、中央王国って部下思いなお国柄なんだなぁ~。
って!そんな訳あるかい!!
のわあぁぁぁ~っとおかしな心の叫びが漏れる。
お前!本当に怖いよ!!
多分、良かれと思ってやった事なんだろうけどさ?!
普通、そこまで掘り下げて調べないよ?!
今の聞いたら!多くの人はどういう事?!って思うから!!
そのナチュラルにストーカー気質なの!いい加減マジで直せよ!!
多分、無自覚なんだよな、こいつ……。
俺が変な悲鳴を上げてても理解できてなくて表情一つ変えないし。
でも!形式として婚姻と言う形は取らないみたいだけどさ?!
お前にはもう!シルクっていう人生の伴侶がいんだろうが!!
ライオネル殿下とは今後とも生涯騎士としての主従関係があるんだろうけどさ!!
俺の事は放っとけよ!!
こっちもウィルと結婚すんだから!!
怖いっての!!
ゾゾッと身を縮めた俺を、アレックが痛々しいものでも見るように見てくる。
やめて?そういう関係じゃねぇし!!
そういう目で見てくんのやめて?!
それからイヴァン!!
そこで必死に笑いを堪えて上を見てるな!!
何かフォローしろよ!!
「サクは……うん??モテるんだね??」
そこにさらなる爆弾が落ちる。
義父さ~んっ?!
俺はガンっとテーブルに頭を打ち付けた。
この!のほほん義父さんめ!!
あんまり理解していないのに、微妙にあっているようないないような事を言わないでよ!!
完全に変な誤解されたじゃんか~!!
わかってる!
貴方が無自覚天然最強のリーサルウェポンな事は、とても良くわかってる!!
だが!!
ここでそんな微妙に誤解される発言!
頼むから言わないでくれ!!
俺はガバッと顔を上げると、ムキになって言った。
「違います!!誤解しないでください!!ギルはシルクと事実婚的な関係にあって!!そして俺はウィルと婚約してる!!こいつとは仕事上の上司と部下で!!友人としても付き合いはあるけど!!そういうんじゃない!!ちょっとこいつの感覚がおかしいだけ!!変人なだけ!!変な関係じゃないから!!」
打ちつけた額が痛くて、軽く抑える。
俺の必死さにイヴァンが堪え切れなかったのか、上を向いたままブッと吹き出した。
この野郎!少しは助けろ!!
ギルはと言うと、この状況も良くわかっていないらしい。
相変わらずの無表情で、隣のイヴァンに顔を向けた。
「……何かおかしな事を俺は言ったのか?」
「グフッ……ええと……うちの隊長としては通常運転でした……。でも、世間一般から見ると……ブフッ……いえ、大丈夫です。何でもありません……。」
「大丈夫じゃねぇ!!こんな所でうちの部隊でしか通用しないギャグをかますな!!誤解されんだろうが!!」
躍起になってギャンギャン喚くと、ルードビッヒ宰相がゴホンと咳払いした。
ヤベ、話の途中だった。
俺は慌てて椅子に座り直した。
アレックが微妙に距離を取ってくるが気のせいだ!!
俺達が馬鹿騒ぎをした事で、ルードビッヒ宰相も完全に通常運転に戻ったようだ。
良かった、あれは幻だったに違いない。
俺はそう思い込む事にした。
「つまり、グラント警護隊長。物理的な警護体制としては、アズマ男爵の邸宅は秘密裏に行うにはうってつけと言う事かね?」
「はい。森も国有地ですので、その中に陣を張らせて貰えれば1ヶ月でも隠密警護が可能かと思われます。」
「そんなに長く居座らないでくれよ。家でゆっくり休めないだろうが。」
「アズマ男爵。」
「はい。すみません……。」
ギルの言葉についツッコむと、ルードビッヒ宰相にギロリと睨まれた。
くそう、何か納得がいかん……。
しかしこれで警護部隊としての見解は伝える事ができた。
ライオネル殿下の警護が公式になろうが非公式になろうが、警護部隊としては対応できる。
ルードビッヒ宰相の判断がどちらになっても、体制的には問題がない。
宰相はまた、腕を組んで目を瞑った。
金銭面、秘密保持の観点から考えて、可能であればこの計画は非公式に秘密裏に行なえる方が都合がいい。
だがそれが海神ともなると、もしもの事が起きた時、そんな一般人が密集して暮らす住宅街に何の公表もなく、住民を避難させる事もなく秘密裏にそんなヤバいモノ連れてきていたと言う事が知られた時、王国政府は国民からの信頼を失い激しいバッシングを受ける事になる。
正式な情報を出さず隠蔽する方法もあるが、被害の規模によってはそれが露見した場合の政府へのダメージは計り知れない。
平和に見えるが今は微妙な情勢だ。
大部分は排除できているとしても、南の国や西の国の間者がどこに紛れているともしれない。
隠蔽によって政府への信頼が失墜すれば、南の国や西の国の介入によってまたクーデターが起こる可能性は高い。
そしてそれに乗じて、攻め入って来る事は十分考えられる。
そうなったら中央王国は激しい戦火に飲まれ、ボロボロになるだろう。
目を瞑り、静かに考えを巡らすルードビッヒ宰相を俺は見つめた。
冷たくて冷酷で国の利益の事しか考えてないみたいな印象があったけど、もしかしたらこの人ほどこの国と国王の為に熱い人はいないのかもしれない。
「ルーイ。」
「陛下……。」
全ての可能性を視野に入れ判断に悩むルードビッヒ宰相の肩を、立ち上がった王様がぽんっと叩いた。
目を開け見上げてきた自分の宰相に、王国は晴れやかに笑ってみせた。
「ここにこれだけの人材が集まり、これだけの綿密な計画が建てられた。お前の目から見ても突く荒がなかったのであろう?そしてもしもの時、事態を最小限に抑える環境すら我々は持っておる。これ以上ない状況だ。今この機を逃す事は、お主が心配している危険よりも大きくはないか?」
「しかし……。」
「全責任は私にある。私はここに揃った皆を信じたい。どうにかリオを助けようと必死になってくれる皆を信じたい。そしてそれを導くように状況も味方してくれている。それはお主が心配するように完璧ではない。だが私はこの機を逃すべきではないと思う。完璧な計画はむしろ臨機応変さを欠く。そこに依存しすぎてしまうからだ。それよりもその時だと思った時、それに賭けて動くべきだ。」
「国王陛下……。」
「私は皆を信じたい。その皆にはルーイ、お前も入っている。全責任は私がとる。だからついてきて欲しい。頼めるか?ルードビッヒ?」
王様の穏やかな言葉が会議室に響いた。
誰も言葉を発さなかった。
王様の嘘のない言葉が、ひとりひとりの中に染み渡って行く。
それまで重々しかった空気は消え去り、まるでそこに一筋の光が差し込んだように王様がいるのだ。
王国の太陽。
嘘偽りのないたとえと言える。
これが中西戦争の救世主と謳われた、現中央王国国王、ジョシュア・タブ・ファレル・クインサーの持つカリスマだ。
誰もがそれに飲まれ、圧倒された。
ファーガスさんなんか涙ぐんじゃってる。
「陛下……!!」
椅子に座っていたルードビッヒ宰相は立ち上がるとすぐにその場に跪いた。
頭を垂れ、騎士の誓いのような礼を尽くす。
「勿体無いお言葉です。陛下。私は陛下が私を宰相に選んで下さった時から、たとえ最終的な判断が自分と異なったとしても、陛下を信じ、最期までお供すると決めております。そこに後悔などありません。陛下が望まれる道が私のゆく道です。」
「そうか。苦労をかけるな。」
「とんでもございません、陛下。」
そこにはそれ以上の言葉はなかったが、晴れ晴れとした雰囲気が全てを物語っていた。
王様に立つように促され、ルードビッヒ宰相は立ち上がり、二人とも椅子に座った。
流石だなぁ。
何だかんだ、最後は王様に全部持って行かれた。
お花畑って言うのに、皆、そんな王様に惹かれ、ついていく。
そしてそのお花畑に心が救われてるんだ。
国を導く指導者には色々なタイプがあるけど、カリスマタイプの中でも珍しい人だよな、ジョシュア国王って。
強さや威圧感みたいなのは全く無くて、ぽわぽわお花畑の中にいて。
なのに無自覚にカリスマ垂れ流して、皆、それについていっちゃうんだもん。
グレイさんもフレデリカさんもルードビッヒ宰相も、仕方ない、この人は自分がいないと駄目だからって、何だかんだ言いながら自分の全てを差し出してる。
それにしてもと俺は少し驚いていた。
俺とルードビッヒ宰相が初めて会ったのは色々やらかして呼びつけられた王宮会議だ。
その時、ルードビッヒ宰相はシルクを欲しがって、シルクが誓いがあるからと必死に訴えたのにゴネたのだ。
多分、王宮からレオンハルドさんがいなくなっていたから、いざという時の為に代わりになる人材が欲しかったんだと思う。
その時はシルクはカイナの民ではないって事で通していた事もあり、その誓いに意味があるのかとルードビッヒ宰相は言っていた。
正式だろうとなかろうと誓ってるって言ってんのに無下にするから、俺はてっきり誓いとかに重きを置かない人なのだと思っていた。
でも今見てわかった。
ルードビッヒ宰相は、正式な誓いではないのにそれに重きを置く必要があるのかって思っていたんだな。
つまり、正式な誓いに絶対的な忠誠はあるけど、正式じゃないならお遊びに等しい。
そこまで意味あんのかって事だったんだろう。
そんなものより自分の正式で絶対的な誓いの為にソイツを寄こせって思いの方が強かったのか。
それだけこの人は、正式な誓いに絶対的忠誠をおいていたって事なのだろう。
「……なぁ、サーク?」
「ん??」
子供だからか冒険者として育ったからか、周囲と違い今一つ感動の薄いアレックが小声で俺に聞いてきた。
まぁ騎士の誓いとか見た事ないだろうしな。
俺は笑って難しい顔をしたアレックを見つめた。
「あの人も騎士なのか?弱そうだけど??」
「貴族は基本的に生まれた時から騎士の称号は持っているからね?職業的に騎士じゃなくても騎士っていうのかな??」
「ふ~ん、なら、あのオッサンも王様に誓ってるんだな。」
「そうだね。」
簡約化されていてもあれは騎士の誓いだ。
一度誓っているから再度行う必要なんてないんだけど、ルードビッヒ宰相の心が王様に真意を見せるにはあの形が一番だったのだ。
と言うより、多分無意識にあの礼を尽くした。
それが俺達の前だったとしても無意識に行える宰相とそれを受ける国王のいる中央王国は、とても幸せな国だと思えた。
本当、ルードビッヒ宰相がそれほど王様に忠義を持っているなんて知らなかったからびっくりした。
「……お前に誓ってた眼鏡と一緒だな。」
「?!?!」
思わぬ言葉に俺は固まった。
アレックは遠くを見るような目でどこかを見ている。
だが俺はそれどころではない。
俺に誓ってた眼鏡と一緒……?!
途端、かぁっと俺の顔に血が登った。
「……み、見てたのか?!それっ?!」
「あの場にいたヤツは全員、見てたじゃんか??……あ?!そうか!お前自身は死んでたから見てなかったのか!!うはは!何それ?!めちゃくちゃウケる~!!」
何を言っているんだという顔をした後、状況を思い出したのがアレックは噛み殺しながら笑いだした。
俺は恥ずかしくなって額を押さえる。
「……それ、言いふらすなよ?!俺、知らない事になってんだから……。」
「マジで?!ウケる!!超面白れぇ~!!」
声を忍ばせ、アレックが爆笑している。
そんなに笑うなよ、色々複雑なんだよ、こっちは!!
悔しいが何も言い返せない。
俺はただただ赤くなって頭を抱える。
「……ぴぃ??」
「あ、うん。お気遣いありがとう……。」
何故か人工精霊が氷砂糖を渡してくれた。
恐らくこの子の知る最大限の気遣いなのだろう。
なんかもう、恥ずかしすぎる。
そんな訳で、会議は最終的に王様が秘密裏に全ての計画を行う事を決定して幕を閉じたのだった。
ギルの場の空気を若干読めない感じが功を奏し、無表情に語られたその言葉にそっぽを向いていたルードビッヒ宰相の蛇の目がギロンと向けられる。
ギルはそれを返事と受け取ったようで、機械的に話し始めた。
「アズマ副隊長代理の家は、第16区画の端、しかも少し奥まった林の中にあります。16区画上位住宅地ではありますが、彼の家は他の住宅群から若干の距離があり、これは秘密裏に警護を行う事を考えた場合、とても良い条件となります。」
「……ほう?」
「元々、彼の購入した家は遠出に向かない短い休日を、街の喧騒から離れて過ごす為の別荘として作られたものでしたので、そう言った場所であり作りになっている様です。」
言われてみればあんまり気にした事なかったけど、俺んちって住宅街の端の小道をちょっと入っていって周りに家がなくなったところにあるんだよな。
てっきり変な飛び地として売られてた場所なのかと思ってたし、不動産屋さんのおじさんもそんな認識で皆買いたがらないって言ってたけど、わざとそう言う場所に作られたものだったのか……。
俺は変に感心していた。
ギルの淡々とした口調は続く。
「また周りを囲む様に林があり、秘密裏に警護を行うにはうってつけです。一部は森に繋がっており一定の区間は彼宅の所有になりますが、それよりも奥の場所は国有地、さらに調べた所、管理は魔術師本部となっています。」
「え?!そうなの?!」
あの森って誰のなんだろうと思ってたけど、国有地だったの?!
しかも管轄は魔術師本部?!
全く知らなかった事を言われ、俺はびっくりしてギルを見た。
俺にガン見されたギルは相変わらずの無表情を向けてくる。
「……て言うか?何で俺も知らん事をお前が知ってるんだ??」
「お前があそこを買うと決めた後、おかしな場所でないか周辺を含め詳細を徹底的に調査し間違いがないか確認した。」
「何で?!」
「……お前の事だからだ。」
平然と言われたその言葉に、俺はビシッと青筋を立てた。
周りもちょっとその微妙なニュアンスの言葉に複雑な顔をしている。
ほ~ん??
部下の買う家に危険や問題がないか土地柄まで隊長様は調べてくれるんだぁ~、中央王国って部下思いなお国柄なんだなぁ~。
って!そんな訳あるかい!!
のわあぁぁぁ~っとおかしな心の叫びが漏れる。
お前!本当に怖いよ!!
多分、良かれと思ってやった事なんだろうけどさ?!
普通、そこまで掘り下げて調べないよ?!
今の聞いたら!多くの人はどういう事?!って思うから!!
そのナチュラルにストーカー気質なの!いい加減マジで直せよ!!
多分、無自覚なんだよな、こいつ……。
俺が変な悲鳴を上げてても理解できてなくて表情一つ変えないし。
でも!形式として婚姻と言う形は取らないみたいだけどさ?!
お前にはもう!シルクっていう人生の伴侶がいんだろうが!!
ライオネル殿下とは今後とも生涯騎士としての主従関係があるんだろうけどさ!!
俺の事は放っとけよ!!
こっちもウィルと結婚すんだから!!
怖いっての!!
ゾゾッと身を縮めた俺を、アレックが痛々しいものでも見るように見てくる。
やめて?そういう関係じゃねぇし!!
そういう目で見てくんのやめて?!
それからイヴァン!!
そこで必死に笑いを堪えて上を見てるな!!
何かフォローしろよ!!
「サクは……うん??モテるんだね??」
そこにさらなる爆弾が落ちる。
義父さ~んっ?!
俺はガンっとテーブルに頭を打ち付けた。
この!のほほん義父さんめ!!
あんまり理解していないのに、微妙にあっているようないないような事を言わないでよ!!
完全に変な誤解されたじゃんか~!!
わかってる!
貴方が無自覚天然最強のリーサルウェポンな事は、とても良くわかってる!!
だが!!
ここでそんな微妙に誤解される発言!
頼むから言わないでくれ!!
俺はガバッと顔を上げると、ムキになって言った。
「違います!!誤解しないでください!!ギルはシルクと事実婚的な関係にあって!!そして俺はウィルと婚約してる!!こいつとは仕事上の上司と部下で!!友人としても付き合いはあるけど!!そういうんじゃない!!ちょっとこいつの感覚がおかしいだけ!!変人なだけ!!変な関係じゃないから!!」
打ちつけた額が痛くて、軽く抑える。
俺の必死さにイヴァンが堪え切れなかったのか、上を向いたままブッと吹き出した。
この野郎!少しは助けろ!!
ギルはと言うと、この状況も良くわかっていないらしい。
相変わらずの無表情で、隣のイヴァンに顔を向けた。
「……何かおかしな事を俺は言ったのか?」
「グフッ……ええと……うちの隊長としては通常運転でした……。でも、世間一般から見ると……ブフッ……いえ、大丈夫です。何でもありません……。」
「大丈夫じゃねぇ!!こんな所でうちの部隊でしか通用しないギャグをかますな!!誤解されんだろうが!!」
躍起になってギャンギャン喚くと、ルードビッヒ宰相がゴホンと咳払いした。
ヤベ、話の途中だった。
俺は慌てて椅子に座り直した。
アレックが微妙に距離を取ってくるが気のせいだ!!
俺達が馬鹿騒ぎをした事で、ルードビッヒ宰相も完全に通常運転に戻ったようだ。
良かった、あれは幻だったに違いない。
俺はそう思い込む事にした。
「つまり、グラント警護隊長。物理的な警護体制としては、アズマ男爵の邸宅は秘密裏に行うにはうってつけと言う事かね?」
「はい。森も国有地ですので、その中に陣を張らせて貰えれば1ヶ月でも隠密警護が可能かと思われます。」
「そんなに長く居座らないでくれよ。家でゆっくり休めないだろうが。」
「アズマ男爵。」
「はい。すみません……。」
ギルの言葉についツッコむと、ルードビッヒ宰相にギロリと睨まれた。
くそう、何か納得がいかん……。
しかしこれで警護部隊としての見解は伝える事ができた。
ライオネル殿下の警護が公式になろうが非公式になろうが、警護部隊としては対応できる。
ルードビッヒ宰相の判断がどちらになっても、体制的には問題がない。
宰相はまた、腕を組んで目を瞑った。
金銭面、秘密保持の観点から考えて、可能であればこの計画は非公式に秘密裏に行なえる方が都合がいい。
だがそれが海神ともなると、もしもの事が起きた時、そんな一般人が密集して暮らす住宅街に何の公表もなく、住民を避難させる事もなく秘密裏にそんなヤバいモノ連れてきていたと言う事が知られた時、王国政府は国民からの信頼を失い激しいバッシングを受ける事になる。
正式な情報を出さず隠蔽する方法もあるが、被害の規模によってはそれが露見した場合の政府へのダメージは計り知れない。
平和に見えるが今は微妙な情勢だ。
大部分は排除できているとしても、南の国や西の国の間者がどこに紛れているともしれない。
隠蔽によって政府への信頼が失墜すれば、南の国や西の国の介入によってまたクーデターが起こる可能性は高い。
そしてそれに乗じて、攻め入って来る事は十分考えられる。
そうなったら中央王国は激しい戦火に飲まれ、ボロボロになるだろう。
目を瞑り、静かに考えを巡らすルードビッヒ宰相を俺は見つめた。
冷たくて冷酷で国の利益の事しか考えてないみたいな印象があったけど、もしかしたらこの人ほどこの国と国王の為に熱い人はいないのかもしれない。
「ルーイ。」
「陛下……。」
全ての可能性を視野に入れ判断に悩むルードビッヒ宰相の肩を、立ち上がった王様がぽんっと叩いた。
目を開け見上げてきた自分の宰相に、王国は晴れやかに笑ってみせた。
「ここにこれだけの人材が集まり、これだけの綿密な計画が建てられた。お前の目から見ても突く荒がなかったのであろう?そしてもしもの時、事態を最小限に抑える環境すら我々は持っておる。これ以上ない状況だ。今この機を逃す事は、お主が心配している危険よりも大きくはないか?」
「しかし……。」
「全責任は私にある。私はここに揃った皆を信じたい。どうにかリオを助けようと必死になってくれる皆を信じたい。そしてそれを導くように状況も味方してくれている。それはお主が心配するように完璧ではない。だが私はこの機を逃すべきではないと思う。完璧な計画はむしろ臨機応変さを欠く。そこに依存しすぎてしまうからだ。それよりもその時だと思った時、それに賭けて動くべきだ。」
「国王陛下……。」
「私は皆を信じたい。その皆にはルーイ、お前も入っている。全責任は私がとる。だからついてきて欲しい。頼めるか?ルードビッヒ?」
王様の穏やかな言葉が会議室に響いた。
誰も言葉を発さなかった。
王様の嘘のない言葉が、ひとりひとりの中に染み渡って行く。
それまで重々しかった空気は消え去り、まるでそこに一筋の光が差し込んだように王様がいるのだ。
王国の太陽。
嘘偽りのないたとえと言える。
これが中西戦争の救世主と謳われた、現中央王国国王、ジョシュア・タブ・ファレル・クインサーの持つカリスマだ。
誰もがそれに飲まれ、圧倒された。
ファーガスさんなんか涙ぐんじゃってる。
「陛下……!!」
椅子に座っていたルードビッヒ宰相は立ち上がるとすぐにその場に跪いた。
頭を垂れ、騎士の誓いのような礼を尽くす。
「勿体無いお言葉です。陛下。私は陛下が私を宰相に選んで下さった時から、たとえ最終的な判断が自分と異なったとしても、陛下を信じ、最期までお供すると決めております。そこに後悔などありません。陛下が望まれる道が私のゆく道です。」
「そうか。苦労をかけるな。」
「とんでもございません、陛下。」
そこにはそれ以上の言葉はなかったが、晴れ晴れとした雰囲気が全てを物語っていた。
王様に立つように促され、ルードビッヒ宰相は立ち上がり、二人とも椅子に座った。
流石だなぁ。
何だかんだ、最後は王様に全部持って行かれた。
お花畑って言うのに、皆、そんな王様に惹かれ、ついていく。
そしてそのお花畑に心が救われてるんだ。
国を導く指導者には色々なタイプがあるけど、カリスマタイプの中でも珍しい人だよな、ジョシュア国王って。
強さや威圧感みたいなのは全く無くて、ぽわぽわお花畑の中にいて。
なのに無自覚にカリスマ垂れ流して、皆、それについていっちゃうんだもん。
グレイさんもフレデリカさんもルードビッヒ宰相も、仕方ない、この人は自分がいないと駄目だからって、何だかんだ言いながら自分の全てを差し出してる。
それにしてもと俺は少し驚いていた。
俺とルードビッヒ宰相が初めて会ったのは色々やらかして呼びつけられた王宮会議だ。
その時、ルードビッヒ宰相はシルクを欲しがって、シルクが誓いがあるからと必死に訴えたのにゴネたのだ。
多分、王宮からレオンハルドさんがいなくなっていたから、いざという時の為に代わりになる人材が欲しかったんだと思う。
その時はシルクはカイナの民ではないって事で通していた事もあり、その誓いに意味があるのかとルードビッヒ宰相は言っていた。
正式だろうとなかろうと誓ってるって言ってんのに無下にするから、俺はてっきり誓いとかに重きを置かない人なのだと思っていた。
でも今見てわかった。
ルードビッヒ宰相は、正式な誓いではないのにそれに重きを置く必要があるのかって思っていたんだな。
つまり、正式な誓いに絶対的な忠誠はあるけど、正式じゃないならお遊びに等しい。
そこまで意味あんのかって事だったんだろう。
そんなものより自分の正式で絶対的な誓いの為にソイツを寄こせって思いの方が強かったのか。
それだけこの人は、正式な誓いに絶対的忠誠をおいていたって事なのだろう。
「……なぁ、サーク?」
「ん??」
子供だからか冒険者として育ったからか、周囲と違い今一つ感動の薄いアレックが小声で俺に聞いてきた。
まぁ騎士の誓いとか見た事ないだろうしな。
俺は笑って難しい顔をしたアレックを見つめた。
「あの人も騎士なのか?弱そうだけど??」
「貴族は基本的に生まれた時から騎士の称号は持っているからね?職業的に騎士じゃなくても騎士っていうのかな??」
「ふ~ん、なら、あのオッサンも王様に誓ってるんだな。」
「そうだね。」
簡約化されていてもあれは騎士の誓いだ。
一度誓っているから再度行う必要なんてないんだけど、ルードビッヒ宰相の心が王様に真意を見せるにはあの形が一番だったのだ。
と言うより、多分無意識にあの礼を尽くした。
それが俺達の前だったとしても無意識に行える宰相とそれを受ける国王のいる中央王国は、とても幸せな国だと思えた。
本当、ルードビッヒ宰相がそれほど王様に忠義を持っているなんて知らなかったからびっくりした。
「……お前に誓ってた眼鏡と一緒だな。」
「?!?!」
思わぬ言葉に俺は固まった。
アレックは遠くを見るような目でどこかを見ている。
だが俺はそれどころではない。
俺に誓ってた眼鏡と一緒……?!
途端、かぁっと俺の顔に血が登った。
「……み、見てたのか?!それっ?!」
「あの場にいたヤツは全員、見てたじゃんか??……あ?!そうか!お前自身は死んでたから見てなかったのか!!うはは!何それ?!めちゃくちゃウケる~!!」
何を言っているんだという顔をした後、状況を思い出したのがアレックは噛み殺しながら笑いだした。
俺は恥ずかしくなって額を押さえる。
「……それ、言いふらすなよ?!俺、知らない事になってんだから……。」
「マジで?!ウケる!!超面白れぇ~!!」
声を忍ばせ、アレックが爆笑している。
そんなに笑うなよ、色々複雑なんだよ、こっちは!!
悔しいが何も言い返せない。
俺はただただ赤くなって頭を抱える。
「……ぴぃ??」
「あ、うん。お気遣いありがとう……。」
何故か人工精霊が氷砂糖を渡してくれた。
恐らくこの子の知る最大限の気遣いなのだろう。
なんかもう、恥ずかしすぎる。
そんな訳で、会議は最終的に王様が秘密裏に全ての計画を行う事を決定して幕を閉じたのだった。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる