欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

王国の太陽

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「ラティーマー宰相。私には多くの事はわかりかねますが、第三警護部隊としての見解をお話させて頂いても宜しいでしょうか?」

ギルの場の空気を若干読めない感じが功を奏し、無表情に語られたその言葉にそっぽを向いていたルードビッヒ宰相の蛇の目がギロンと向けられる。
ギルはそれを返事と受け取ったようで、機械的に話し始めた。

「アズマ副隊長代理の家は、第16区画の端、しかも少し奥まった林の中にあります。16区画上位住宅地ではありますが、彼の家は他の住宅群から若干の距離があり、これは秘密裏に警護を行う事を考えた場合、とても良い条件となります。」

「……ほう?」

「元々、彼の購入した家は遠出に向かない短い休日を、街の喧騒から離れて過ごす為の別荘として作られたものでしたので、そう言った場所であり作りになっている様です。」

言われてみればあんまり気にした事なかったけど、俺んちって住宅街の端の小道をちょっと入っていって周りに家がなくなったところにあるんだよな。
てっきり変な飛び地として売られてた場所なのかと思ってたし、不動産屋さんのおじさんもそんな認識で皆買いたがらないって言ってたけど、わざとそう言う場所に作られたものだったのか……。
俺は変に感心していた。
ギルの淡々とした口調は続く。

「また周りを囲む様に林があり、秘密裏に警護を行うにはうってつけです。一部は森に繋がっており一定の区間は彼宅の所有になりますが、それよりも奥の場所は国有地、さらに調べた所、管理は魔術師本部となっています。」

「え?!そうなの?!」

あの森って誰のなんだろうと思ってたけど、国有地だったの?!
しかも管轄は魔術師本部?!
全く知らなかった事を言われ、俺はびっくりしてギルを見た。
俺にガン見されたギルは相変わらずの無表情を向けてくる。

「……て言うか?何で俺も知らん事をお前が知ってるんだ??」

「お前があそこを買うと決めた後、おかしな場所でないか周辺を含め詳細を徹底的に調査し間違いがないか確認した。」

「何で?!」

「……お前の事だからだ。」

平然と言われたその言葉に、俺はビシッと青筋を立てた。
周りもちょっとその微妙なニュアンスの言葉に複雑な顔をしている。

ほ~ん??
部下の買う家に危険や問題がないか土地柄まで隊長様は調べてくれるんだぁ~、中央王国って部下思いなお国柄なんだなぁ~。

って!そんな訳あるかい!!

のわあぁぁぁ~っとおかしな心の叫びが漏れる。
お前!本当に怖いよ!!
多分、良かれと思ってやった事なんだろうけどさ?!
普通、そこまで掘り下げて調べないよ?!
今の聞いたら!多くの人はどういう事?!って思うから!!
そのナチュラルにストーカー気質なの!いい加減マジで直せよ!!

多分、無自覚なんだよな、こいつ……。

俺が変な悲鳴を上げてても理解できてなくて表情一つ変えないし。
でも!形式として婚姻と言う形は取らないみたいだけどさ?!
お前にはもう!シルクっていう人生の伴侶がいんだろうが!!
ライオネル殿下とは今後とも生涯騎士としての主従関係があるんだろうけどさ!!
俺の事は放っとけよ!!
こっちもウィルと結婚すんだから!!
怖いっての!!

ゾゾッと身を縮めた俺を、アレックが痛々しいものでも見るように見てくる。
やめて?そういう関係じゃねぇし!!
そういう目で見てくんのやめて?!

それからイヴァン!!
そこで必死に笑いを堪えて上を見てるな!!
何かフォローしろよ!!

「サクは……うん??モテるんだね??」

そこにさらなる爆弾が落ちる。

義父さ~んっ?!
俺はガンっとテーブルに頭を打ち付けた。

この!のほほん義父さんめ!!
あんまり理解していないのに、微妙にあっているようないないような事を言わないでよ!!
完全に変な誤解されたじゃんか~!!

わかってる!
貴方が無自覚天然最強のリーサルウェポンな事は、とても良くわかってる!!

だが!!
ここでそんな微妙に誤解される発言!
頼むから言わないでくれ!!

俺はガバッと顔を上げると、ムキになって言った。

「違います!!誤解しないでください!!ギルはシルクと事実婚的な関係にあって!!そして俺はウィルと婚約してる!!こいつとは仕事上の上司と部下で!!友人としても付き合いはあるけど!!そういうんじゃない!!ちょっとこいつの感覚がおかしいだけ!!変人なだけ!!変な関係じゃないから!!」

打ちつけた額が痛くて、軽く抑える。
俺の必死さにイヴァンが堪え切れなかったのか、上を向いたままブッと吹き出した。
この野郎!少しは助けろ!!

ギルはと言うと、この状況も良くわかっていないらしい。
相変わらずの無表情で、隣のイヴァンに顔を向けた。

「……何かおかしな事を俺は言ったのか?」

「グフッ……ええと……うちの隊長としては通常運転でした……。でも、世間一般から見ると……ブフッ……いえ、大丈夫です。何でもありません……。」

「大丈夫じゃねぇ!!こんな所でうちの部隊でしか通用しないギャグをかますな!!誤解されんだろうが!!」

躍起になってギャンギャン喚くと、ルードビッヒ宰相がゴホンと咳払いした。
ヤベ、話の途中だった。
俺は慌てて椅子に座り直した。
アレックが微妙に距離を取ってくるが気のせいだ!!

俺達が馬鹿騒ぎをした事で、ルードビッヒ宰相も完全に通常運転に戻ったようだ。
良かった、あれは幻だったに違いない。
俺はそう思い込む事にした。

「つまり、グラント警護隊長。物理的な警護体制としては、アズマ男爵の邸宅は秘密裏に行うにはうってつけと言う事かね?」

「はい。森も国有地ですので、その中に陣を張らせて貰えれば1ヶ月でも隠密警護が可能かと思われます。」

「そんなに長く居座らないでくれよ。家でゆっくり休めないだろうが。」

「アズマ男爵。」

「はい。すみません……。」

ギルの言葉についツッコむと、ルードビッヒ宰相にギロリと睨まれた。
くそう、何か納得がいかん……。

しかしこれで警護部隊としての見解は伝える事ができた。
ライオネル殿下の警護が公式になろうが非公式になろうが、警護部隊としては対応できる。
ルードビッヒ宰相の判断がどちらになっても、体制的には問題がない。

宰相はまた、腕を組んで目を瞑った。
金銭面、秘密保持の観点から考えて、可能であればこの計画は非公式に秘密裏に行なえる方が都合がいい。

だがそれが海神ともなると、もしもの事が起きた時、そんな一般人が密集して暮らす住宅街に何の公表もなく、住民を避難させる事もなく秘密裏にそんなヤバいモノ連れてきていたと言う事が知られた時、王国政府は国民からの信頼を失い激しいバッシングを受ける事になる。
正式な情報を出さず隠蔽する方法もあるが、被害の規模によってはそれが露見した場合の政府へのダメージは計り知れない。

平和に見えるが今は微妙な情勢だ。

大部分は排除できているとしても、南の国や西の国の間者がどこに紛れているともしれない。
隠蔽によって政府への信頼が失墜すれば、南の国や西の国の介入によってまたクーデターが起こる可能性は高い。
そしてそれに乗じて、攻め入って来る事は十分考えられる。
そうなったら中央王国は激しい戦火に飲まれ、ボロボロになるだろう。

目を瞑り、静かに考えを巡らすルードビッヒ宰相を俺は見つめた。
冷たくて冷酷で国の利益の事しか考えてないみたいな印象があったけど、もしかしたらこの人ほどこの国と国王の為に熱い人はいないのかもしれない。

「ルーイ。」

「陛下……。」

全ての可能性を視野に入れ判断に悩むルードビッヒ宰相の肩を、立ち上がった王様がぽんっと叩いた。
目を開け見上げてきた自分の宰相に、王国は晴れやかに笑ってみせた。

「ここにこれだけの人材が集まり、これだけの綿密な計画が建てられた。お前の目から見ても突く荒がなかったのであろう?そしてもしもの時、事態を最小限に抑える環境すら我々は持っておる。これ以上ない状況だ。今この機を逃す事は、お主が心配している危険よりも大きくはないか?」

「しかし……。」

「全責任は私にある。私はここに揃った皆を信じたい。どうにかリオを助けようと必死になってくれる皆を信じたい。そしてそれを導くように状況も味方してくれている。それはお主が心配するように完璧ではない。だが私はこの機を逃すべきではないと思う。完璧な計画はむしろ臨機応変さを欠く。そこに依存しすぎてしまうからだ。それよりもその時だと思った時、それに賭けて動くべきだ。」

「国王陛下……。」

「私は皆を信じたい。その皆にはルーイ、お前も入っている。全責任は私がとる。だからついてきて欲しい。頼めるか?ルードビッヒ?」

王様の穏やかな言葉が会議室に響いた。
誰も言葉を発さなかった。
王様の嘘のない言葉が、ひとりひとりの中に染み渡って行く。

それまで重々しかった空気は消え去り、まるでそこに一筋の光が差し込んだように王様がいるのだ。

王国の太陽。
嘘偽りのないたとえと言える。

これが中西戦争の救世主と謳われた、現中央王国国王、ジョシュア・タブ・ファレル・クインサーの持つカリスマだ。

誰もがそれに飲まれ、圧倒された。
ファーガスさんなんか涙ぐんじゃってる。

「陛下……!!」

椅子に座っていたルードビッヒ宰相は立ち上がるとすぐにその場に跪いた。
頭を垂れ、騎士の誓いのような礼を尽くす。

「勿体無いお言葉です。陛下。私は陛下が私を宰相に選んで下さった時から、たとえ最終的な判断が自分と異なったとしても、陛下を信じ、最期までお供すると決めております。そこに後悔などありません。陛下が望まれる道が私のゆく道です。」

「そうか。苦労をかけるな。」

「とんでもございません、陛下。」

そこにはそれ以上の言葉はなかったが、晴れ晴れとした雰囲気が全てを物語っていた。
王様に立つように促され、ルードビッヒ宰相は立ち上がり、二人とも椅子に座った。

流石だなぁ。
何だかんだ、最後は王様に全部持って行かれた。

お花畑って言うのに、皆、そんな王様に惹かれ、ついていく。
そしてそのお花畑に心が救われてるんだ。

国を導く指導者には色々なタイプがあるけど、カリスマタイプの中でも珍しい人だよな、ジョシュア国王って。
強さや威圧感みたいなのは全く無くて、ぽわぽわお花畑の中にいて。
なのに無自覚にカリスマ垂れ流して、皆、それについていっちゃうんだもん。

グレイさんもフレデリカさんもルードビッヒ宰相も、仕方ない、この人は自分がいないと駄目だからって、何だかんだ言いながら自分の全てを差し出してる。

それにしてもと俺は少し驚いていた。

俺とルードビッヒ宰相が初めて会ったのは色々やらかして呼びつけられた王宮会議だ。
その時、ルードビッヒ宰相はシルクを欲しがって、シルクが誓いがあるからと必死に訴えたのにゴネたのだ。

多分、王宮からレオンハルドさんがいなくなっていたから、いざという時の為に代わりになる人材が欲しかったんだと思う。
その時はシルクはカイナの民ではないって事で通していた事もあり、その誓いに意味があるのかとルードビッヒ宰相は言っていた。
正式だろうとなかろうと誓ってるって言ってんのに無下にするから、俺はてっきり誓いとかに重きを置かない人なのだと思っていた。

でも今見てわかった。
ルードビッヒ宰相は、正式な誓いではないのにそれに重きを置く必要があるのかって思っていたんだな。

つまり、正式な誓いに絶対的な忠誠はあるけど、正式じゃないならお遊びに等しい。
そこまで意味あんのかって事だったんだろう。

そんなものより自分の正式で絶対的な誓いの為にソイツを寄こせって思いの方が強かったのか。
それだけこの人は、正式な誓いに絶対的忠誠をおいていたって事なのだろう。

「……なぁ、サーク?」

「ん??」

子供だからか冒険者として育ったからか、周囲と違い今一つ感動の薄いアレックが小声で俺に聞いてきた。
まぁ騎士の誓いとか見た事ないだろうしな。
俺は笑って難しい顔をしたアレックを見つめた。

「あの人も騎士なのか?弱そうだけど??」

「貴族は基本的に生まれた時から騎士の称号は持っているからね?職業的に騎士じゃなくても騎士っていうのかな??」

「ふ~ん、なら、あのオッサンも王様に誓ってるんだな。」

「そうだね。」

簡約化されていてもあれは騎士の誓いだ。
一度誓っているから再度行う必要なんてないんだけど、ルードビッヒ宰相の心が王様に真意を見せるにはあの形が一番だったのだ。

と言うより、多分無意識にあの礼を尽くした。
それが俺達の前だったとしても無意識に行える宰相とそれを受ける国王のいる中央王国は、とても幸せな国だと思えた。
本当、ルードビッヒ宰相がそれほど王様に忠義を持っているなんて知らなかったからびっくりした。

「……お前に誓ってた眼鏡と一緒だな。」

「?!?!」

思わぬ言葉に俺は固まった。
アレックは遠くを見るような目でどこかを見ている。

だが俺はそれどころではない。

俺に誓ってた眼鏡と一緒……?!
途端、かぁっと俺の顔に血が登った。

「……み、見てたのか?!それっ?!」

「あの場にいたヤツは全員、見てたじゃんか??……あ?!そうか!お前自身は死んでたから見てなかったのか!!うはは!何それ?!めちゃくちゃウケる~!!」

何を言っているんだという顔をした後、状況を思い出したのがアレックは噛み殺しながら笑いだした。
俺は恥ずかしくなって額を押さえる。

「……それ、言いふらすなよ?!俺、知らない事になってんだから……。」

「マジで?!ウケる!!超面白れぇ~!!」

声を忍ばせ、アレックが爆笑している。
そんなに笑うなよ、色々複雑なんだよ、こっちは!!

悔しいが何も言い返せない。
俺はただただ赤くなって頭を抱える。

「……ぴぃ??」

「あ、うん。お気遣いありがとう……。」

何故か人工精霊が氷砂糖を渡してくれた。
恐らくこの子の知る最大限の気遣いなのだろう。
なんかもう、恥ずかしすぎる。

そんな訳で、会議は最終的に王様が秘密裏に全ての計画を行う事を決定して幕を閉じたのだった。
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