欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

人の心

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始まった戦闘は熾烈を極めた。
自他共に無敵無敗の代名詞とも言われるシルクとレオンハルドが、すぐ真後ろに死を意識しながら無言で奥歯を噛み締める。

身軽さと素早さで相手の刃を片方で捉え、もう片方で首を叩き落とそうとした。
確実にイケるとシルクは思った。

「!!」

だが、間近で相手の顔を見た。
毒されたように何の感情も持たない死者の顔を。

サソリ兄さんだ……!

その顔は人相が変わるほど感情を持っていなかったが、シルクには一瞬で相手の笑った顔が思い浮かんだ。

シルクが完全継承をする事が決まった時、めちゃくちゃどついてきた人。
それまで完全継承の最小年少者はサソリと呼ばれたその人で、シルクに記録を塗り替えられてしまったのでどつき回されたのだ。

でも完全継承者の中ではとても若く、何だかんだでシルクを可愛がってくれ、師父が人身御供として西王族の下に行った後、何かと気にかけてくれた人だ。

その一瞬心に浮かんだ想いが僅かな隙を生んだ。

次の瞬間、グイッと引っ張られ投げ飛ばされた。
砂の上に倒れ込みそうになり、慌てて体制を立て直す。
すぐ様、心臓を狙ってきた槍を掴んで受け流した。

戦いの中、いつだって軽口を叩いていたシルクはそこにはいない。
死と恐怖と困惑で意識が張り詰めていた。

「死にたいのか!愚弟子が!!」

師父の低い声。
シルクが仕留め損ねたサソリについでとばかりにとどめを刺す。

どうやら投げ飛ばして来たのは師父のようだ。
その全盛期と変わらぬ非常さと強さに少しだけ気持ちが緩む。
庇ってくれるならもう少し優しくして欲しいものだと内心悪態をつく余裕が僅かにできる程に。

さよなら、兄さん。

チラリと横目で動かなくなったサソリを見た。
そしてレオンハルドが背負い続け、毒されてきた闇の深さの末端を理解した。

どれだけ決意固くその戦いに挑んだとしても、やはり人には心がある。
相手に対しての思い入れが深ければ深いほど、押し殺した何かは確実にどこかで顔を出す。
そしてそれが、同じ演舞の踊り手であっても「クルの使者」との致命的な違いだった。

以前、師父と共に戦いに挑んだ仲間だって、きちんと覚悟していたはずだ。
継承していなくても演舞の踊り手なら、カイナの村の民なら、非情に手を染める覚悟があったはずだ。

だが、それでも……。
それでも心がある限り、感情はどこかで顔を出す。

力が五分五分、いや上であっても、心を失ってしまった「クルの使者」に、その僅かな戸惑いを利用されただろう。

そしてそれを責める事が誰にできよう?

師父は仲間のそれを責める事ができなかった。
だから自分を責め続けたのだろう。

シルクは垂直に降り注ぐ槍の雨とダンスをする様に舞いながら、使い手の手と足の腱を素早く切断した。
カクンと片膝が折れ、槍から片手が離れる。
それでももう一つの手は決して槍を離さなかったし、片足になっても向きを変えたり転がるなどして応戦してきた。
そして動きが悪くなった分、槍は確実で的確にシルクの急所のみを狙い、重く放たれていた。

首筋にピリッとした痛みが走った。
皮膚を切られたんだなと冷静に理解する。

本来なら、素早さに特化したシルクが機動力を失った相手に手間取る事などない。
だが相手は動けないなら動けない事を利用して攻めてくる。

なぜならどうあっても、シルクが最終的に狙うのは相手の急所だ。
だから待ち構えて迎え撃てば済む話になってしまう。

素早さのあるシルクに対してその戦法は本来無意味だ。
相手を翻弄して死角なり背後を取ってしまえば終わる話だからだ。

だがそれが通らないのが、暗殺武術を極めたと言われる演舞の継承者だ。
それでも紙一重でそれを避けながら、シルクは冷静に隙が生まれる瞬間を待った。

そしてその瞬間、シルクは躊躇しなかった。

同じ轍を踏めば師父に生爪を剥がされる。
いや、恐らく生爪を剥がされる前に「クルの使者」に殺されるだろう。

だがその瞬間を待っていたのは、シルクだけではなかった。

シルクがとどめを刺しに動いた瞬間、相手は槍を手放し、懐の細身の短刀でシルクの顔面を突き刺しにかかってきた。

「……残念。一突きのおじさん。俺、ちっちゃい時からしょっちゅうおじさんが獲物を取ってくれるの隣で見てたもん。最終的にどうやって獲物を仕留めるか、覚えてるよ。」

シルクはそう言うと、耳の辺り、乳様突起を殴って粉砕すると、体制を崩した相手の大腿に深々と刃を滑り込ませ引き抜いた。
途端に真っ赤な血飛沫が噴水の様に砂漠に吹き出した。

「……さよなら、一突き鉾のおじさん。おじさんが一突きでよく取ってくれたオリクホーン、他の人の獲ったのよりずっとずっと美味しかった。もう一回、食べたかったなぁ~。」

無口で無愛想なおじさんだったが、獲物を仕留めたのを喜ぶシルクを見る目は、呆れたようでありながらいつも優しかった。

今思えば、遊び半分とはいえ演舞継承者の狩りに(勝手に)ついていけたシルクは、すでにその才能の一片が見えていたのかもしれない。
獲物を狙うその人に、あの一番大きいのが食べたいと言えば、あれば代替わりしてさほど経っていないボスだから群れが混乱するだとか、丸々太ったのを食べたいと言えば、あれば腹に子がいるから駄目だとか、自然の流れをよく見ている人だった。

獲物を必ず一撃で仕留めるのも、無愛想なおじさんの中にある真の優しさだったのかもしれない。
命をもらう相手に少しでも苦痛を与えない為の……。

「俺、覚えてるから。ちゃんと。」

バタリと倒れて動かなくなったその人にそう言うと、シルクは使い手を失った槍を手に取り、何もない砂漠の中に向けてぶん投げた。
それが突き刺さった先にバッと砂埃が舞い上がる。

ずっとシルクとレオンハルドを背後から狙っていた微かな気配。

だからずっとシルクは動きを止められなかった。
少しでも動きを止めたら、その人に狙われる事を知っていたからだ。

演舞の踊り手の中で、「舞わない踊り手」と言われたその人。
地蜘蛛の異名を持っていた女性。

生まれつき身体にいくつかの障害があったにも関わらず、研究と努力を重ね演舞継承者になった不屈の人だ。
演舞の踊り手としては珍しく飛ばし武器も用いるが、何より怖いのはその肉弾戦に持ち込む戦法、待ちの一手だ。
動かずじっと相手が射程圏内に入るのを待ち続ける。
そして一度その手に捉えられたら逃げる術はない。
姿隠しに長けていて、余程注意深く気にかけていなければ、気づいたら囚われ殺される。

また姿を隠す前に攻め込まねばならない。
けれど近づくというのは、相手の手中に飛び込まなければならないと言う事だ。
シルクの中にジリジリした恐怖が生まれる。
だが迷っている暇はない。

シルクの投げた槍が投げ返される。
その威力と言ったら本当に人間の筋力から生み出されたのかと思ってしまう。

ここで引けば相手の思う壺だ。
シルクは後退せず相手に突進した。
方向性は一つにしていた方が投擲系の武器は投げやすい分避けやすい。

だが相手は不動の演舞継承者。
簡単に無駄玉を打ってくれるほど甘くはない。

バッと何か粉が巻き散らかされた。
吸ったらまずいと咄嗟に二の足を踏んだ。
その瞬間、撒かれた粉の霧の中から毒針が飛んでくる。

「!!」

避けるのが精一杯。
得体のしれない恐怖が呼吸を止めた喉を焼く。

先程の動ける者が塹壕戦に持ち込むものとは違う。
動かずに確実に相手を死に追いやる方法を研究し、研究し、研究し、研究し尽して、それに必要な知識と筋力と道具を極めた相手なのだ。

まさに未知の戦略を目の前にしている。
そんな未知なる不動の戦い方をする相手に対し、不慣れなシルクはどういった戦い方をすればいいのか混乱してしまう。

その瞬間、またも首根っこを掴まれて後ろに放り投げられた。
見なくても相手はわかるので、ムキーッと心の中で悪態をついた。

「下がってろ、シルク。貴様の様な怠惰な踊り手に、不屈の努力の結晶、トダテ様の相手はできぬ。」

確かに気配を見つけてあぶり出す事はできても、どう戦えばいいかシルクにはわからなかった。
だが言い方ってもんがあるだろうと苛立ちを覚える。

俺の方が師父より気配を察知する能力は高いのに!!

しかし戦闘は待ってはくれない。
それまで師父が相手をしていた人と向かい合う。


「!!」


シルクは瞬時に後ろに飛び退いた。
押し殺して覚悟を決めた筈の心が顔を出す。

老師のじいちゃん……!!

シルクが村にいた当時の長老的な存在。
かつてのオルグで、レオンハルドにとっては師父に当たる人だ。

踊り子に選ばれたシルクを「可愛いなぁ」「とても上手だぁ」といつも手放しで褒めてくれた。
踊り子なんて嫌だと思う部分もあったが、皆が敬う老師がおだて上手でネコっかわいがりしてくれるので、何となく鼻が高くて頑張って踊りを学んだのだ。

だが穏やかさの裏、その実力は計り知れない。

レオンハルドの話から行けば、演舞継承者同士で戦ったのだ。
その生き残りを呪いによって「クルの使者」に変えたのだ。

若く力強い多くの演舞継承者がいた。
完全継承でなくとも、その力は完全継承者と変わらない人だってたくさんいた。

なのに、過去のオルグであったとしても、一線を退いていた老師が「クルの使者」となってここにいるのだ。

(老師の通り名って何だ?!)

シルクは必死に思い出そうとした。
それは戦うにあたり、少しだが相手の情報となる。

演舞継承者、特に完全継承者は継承と同時に自分の名を隠す。
そして通り名で通すのだ。

それは演舞継承者として生きる上で、生まれ育った家族に何かされない為の措置だとか、いつか主に名を捧げる時に心残りがないよう薄める為だとか言われていた。

シルクも完全継承した時に通り名をもらう予定だったが、通常、自分の師父につけてもらう為、師父の帰りを待つと言ってシルクは通り名の命名を先延ばしにしていたのだ。
村の者もシルクがまだ幼かった事もあり、気が晴れるまで待ってやろうと黙認していた。

そんな折、また不穏な気配が村を襲った。

レオンハルドが取引をしたはずなのに、王族はそれを謀っている様だと噂がたった。
大人達は警戒し、子供らはその気配を察して押し黙った。

そしてある日、血塗れの遊牧民が村近くに走り込んできた。

村の正確な位置はわからなくても、取引をしている遊牧民達は大体の場所はわかっていたからだ。
見張りのものが話を聞くと、エアルと呼ばれる小さな湖近くに無数の軍隊が押し寄せ、虱潰しに遊牧民の村やキャンプを襲いながらカイナの里を探していると言う。
悩んだ末、これ以上、遊牧民達に危害を加えさせる訳にはいかないと特に腕利きの演舞の踊り手をエアル方面に派遣する事となった。

だが、それもすでに西王族の罠だった。
大群で草原を襲う事で遊牧民達に村の場所まで案内させ、強い戦力をそちらに向かわせて、手薄になった村を別の大群で襲ったのだ。

その後の事はシルクにはわからない。
だがレオンハルドの話から行けば、恐らく捉えた村人を人質に継承者達を無力化し、そして村人達をけしかける事で継承者達に代理戦闘をさせたのだ。

そしてカイナの民同士で殺し合いをさせる事でその魂を呪いに変え、シルクの呪いや「クルの使者」を作る呪いを作り上げたのだ。

シルクは自分に使われた呪いが仲間の魂が素になっていた事を知っていた。
だから演舞継承者達に使われた呪いもそれだと、戻ってきた魂の欠片が感じ取っていた。

呪いの知識は他所の国の有識者より、その国の平民の方にあったりするものだ。
だから魔術本部で過ごした時、シルクが知らないよう気を使ってくれていても、漏れ聞こえた事や何となくの雰囲気で大体の事がわかってしまっていた。

それでもシルクを傷つけまいとしてくれる主や魔術師の人達の優しさに触れ、シルクも知らない事にすると決めたのだ。

(老師の通り名……確か……シジマ…静寂の葬儀者。)

思い出した瞬間、ゾワッと背筋に冷たいものが這い上がった。
シルクは動揺を鎮める為に、距離を取りながら舞った。
その白くなりかけた目が、悠然と踊るシルクを眺めている。

その静けさが恐ろしかった。
他の「クルの使者」とは何かが違う。
無表情な事は無表情だし、無感情な事は無表情だ。

だが何かが違う。

舞いながらシルクは周りを見た。
もう一人の「クルの使者」はレオンハルドが仕留めていた。
シルクがサソリと一突きを仕留めた事から考えれば、割に合わないように見えるがそうではない。
多分シルクが戦いやすい様、気を配ってくれていた。
シルクが一人と戦っている間、他の「クルの使者」に割り込ませないよう相手をしていたのだと思う。
そして何か不味そうな場合はその都度、手助けをしてくれた。

正直、老師と戦うのは物凄く恐ろしい。

だが結果がどうあれ、恐らくお互いにとってこの組み合わせの方がまだ勝てる見込みがあると思った。
老師とレオンハルドの場合、師父である老師はレオンハルドの癖や技を知り尽くしている。

そしてどれだけ非常なレオンハルドであっても、自分の師父にとどめを刺せるかわからない。
シルクはシルクで、不動のトダテ相手にどう戦えばいいのかわからない。
その迷いと戸惑いは確実にシルクを死を近づけるだろう。

どっちが相手でも死は待ったなしで紙一重の差でそこにある。

勝てる見込みがあるかと言われたら、やるだけやるしかないとしか答えられない相手だ。
だったら、ほんの少しでも苦手が少ない方がお互いまだマシと言う事だ。

棺桶に片足突っ込んだ背水の陣。

どうせ勝てぬのなら道連れに。
せめてレッド達でもトドメがさせるぐらいの致命傷は与えてやる。

カイナ歴代の猛者と向かい合い、師父とその弟子は無言のままお互いの目を一瞬、見合ったのだった。
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