ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

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婚約者シャルル

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マリー・ダンジューはフランス王家傍系のアンジュー公ルイ2世と妃アラゴン王フアン1世の娘、ヨランの長女として生まれ、何不自由なく皆に愛されて育った。

当時のフランスは、王位継承問題で荒れており、その終結を図る又従兄弟となるシャルルとマリーとの婚約が、シャルル10歳、マリー9歳の時に結ばれた。

マリーは初めて会った日からシャルルの陰のある美しさと優しさに心奪われ、シャルルもこよなくマリーを愛してくれている。

あれから9年経ち、狂気王と呼ばれたシャルル6世が死去、シャルルが実質のフランス王となることになった。
それに伴い、マリーと婚儀が結ばれ、マリーは王妃となる。


時は春。

周りは戦乱と思えない中、シノン城のガゼボで、マリーはシャルルと残り少ない婚約者としてのお茶会を楽しんでいた。

「シャルル様」
呼びかければ、ん?とした顔でシャルルが頭を傾ける。
「どうしたの?マリー」
「あの少女は誰ですの?新しい侍女ですか?」
マリーが指し示す方を見たシャルルは、ああ、と頷いた。
ダークブラウンの髪と瞳の薔薇色の頬をした美しい少女が垣根の向こうから熱に浮かされたような瞳でこちらを見ている。

「乳母の姪なんだ。行儀見習いできている。」
シャルルは何でもないように言った。
「…そうですか…」
マリーは小さな声でつぶやいた。
「ん?マリー気になる?」
シャルルがそっとマリーの手を握る。

「いいえ。ただ初めて見たお顔でしたものですから…」
「そう?気になるなら下がらせよう。」
シャルルがさっと手を挙げると、少女は去って行った。

それを見ながら、マリーは何かが引っかかった。

シャルルは生い立ちのせいか、男女ごとに潔癖だ。
若い女性をこんな近くにいさせたのは初めてだった。
それに彼女のすべてを貫くような真っ直ぐな瞳…
シャルルの意図を手振だけで察する親しさ…

…ことり…胸の奥で嫌な音がした。

「これで大丈夫?」
シャルルは私に眩しい笑顔を向けた。

大丈夫…私は愛されている…
ただの気の所為だ…

胸の中で呟く。

マリーは生まれて初めて自分に言い聞かせた。
    
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