ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

神のお告げ

それは突然の出来事だった。

シャルル、母、兄のアンジュー公ルイ３世、以外家臣が居並ぶ中、マリーも同席した。

いつもの会議の筈だった。

イギリスの動きを報告し、シャルルの王としての正当性を確認しあう、いつもの会議。

しかし、空気が何かおかしい。

「この現状を打破するためには、『何か』が必要です。」
家臣の一人が立ち上がった。

「『何か』とは？」
シャルルが静かに問う。

母と兄は黙ったままだ。

「殿下の『正当性』を示す何かです。」

シャルルは小さく笑った。

「実の母が『不義の子』と言ったのだ。今さら誰も信じるまい。」

みんな気まずそうに下を向いた。

するとヨランドが言った。

「神から示して貰えばよい。」

「…は？何と？」
マリーは問い返した。シャルルは黙ったままだ。

「今、私たちに神の啓示が下りたのじゃ。『シャルルが王』である。と。」

思わずマリーは母に声を荒げた。

「お母様！神を謀るのですか！」

フランスはキリスト教の国だ。
教会が力を持ち、そのせいで王位継承問題も複雑化していた。

（神の啓示をでっち上げるなんて…
なんと恐ろしい…）

思わず震えたマリーに母は鷹揚に応えた。

「そうよのう。神の啓示はまだ早いのう…神の啓示が下りる夢を見たとしようか。のう王子？」

シャルルはまだ黙ったままだ。

「…お母様…？」
母の真意が読めず、マリーはじっと目を見つめた。