ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

文字の大きさ
17 / 40

追い詰められる

しおりを挟む
「言わないとわからない?愚かなマリー。」

今度は口に出してシャルルはそう言った。

「な…に、を…」
マリーは息も絶え絶えに答えた。
しかし、気を取り直した。

私は唯一無二のシャルルの妃
いつだって、私を優先し、こよなく愛してくれた。
今は若い女性にうつつを抜かしているだけ。

持ち直したマリーをシャルルはつまらなそうに見た。

「公妾にするのはもう決まったことだから。今度から政治や社交はアニェスが行う。」

カッと頭に血がのぼった。

「何と!王はこの私を侮られるのですか!?これまで支えてきた私を!」

シャルルは面倒臭そうに答えた。

「適材適所だよ。マリーはほら、お得意の慈善事業すればいいんじゃない?張り付けた嘘臭い笑顔でさ。」

今度こそマリーは呼吸が止まった。
本当にこれはシャルルだろうか?
私に気を遣い、優しかったシャルル…

そこまで言って、シャルルは真顔になった。

「ジャネット…いやジャンヌの名誉回復したばかりだ。教会と揉めるのは得策ではない。君とは離婚できない。君の立場は王妃として尊重しよう。私からはそれだけだ。」

シャルルは固まるマリーを一顧だにせずに部屋を出て行こうとした。

「…ああ…それからもう一つ。アニェスに手を出そうとしたら、いくら君でも許さない。まあ、出したければ出していいよ。火あぶりになりたいならね。」

マリーに背を向けたままシャルルはそう告げると、今度こそ部屋から出て行った。

マリーは椅子に崩れ落ちた。
何があったかわからない。

優しく、私をこよなく愛してくれていたシャルル…
「どうして…」

呟いた時に、

『…それ、本当に?』

鈴が転がるような声がした。

『本当に、愛してくれてたの?』

くすくす、くすくす
笑い声も聞こえる。

「っ、愛してくれてたわ!12人も彼の子を産んだのよ!」

髪を振り乱してマリーが空に叫ぶ。

『…彼が一番可愛がっている子の名前はな~んだ。』

また声がした。
シャルルは子に無関心だ。だが、1人だけ秘蔵っ子と呼べる子がいた。

「…ジャンヌ…」

ジャンヌへの罪悪感から名前をつけたと思っていた。だから、可愛がっているものと…

「…違うの?…」

呆然と呟くマリーの元で、
くすくすくすくす
といつまでも笑い声が響く。

『愚かなマリー。現実をみたら?』
可愛らしい声で残酷な言葉を投げつけられた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それぞれの愛のカタチ

ひとみん
恋愛
妹はいつも人のものを欲しがった。 姉が持つものは、何が何でも欲しかった。 姉からまんまと奪ったと思っていた、その人は・・・ 大切なものを守るために策を巡らせる姉と、簡単な罠に自ら嵌っていくバカな妹のお話。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

【完結】シロツメ草の花冠

彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。  彼女の身に何があったのか・・・。  *ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。  後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。

ゲーム世界といえど、現実は厳しい

饕餮
恋愛
結婚間近に病を得て、その病気で亡くなった主人公。 家族が嘆くだろうなあ……と心配しながらも、好きだった人とも結ばれることもなく、この世を去った。 そして転生した先は、友人に勧められてはまったとあるゲーム。いわゆる〝乙女ゲーム〟の世界観を持つところだった。 ゲームの名前は憶えていないが、登場人物や世界観を覚えていたのが運の尽き。 主人公は悪役令嬢ポジションだったのだ。 「あら……?名前は悪役令嬢ですけれど、いろいろと違いますわね……」 ふとした拍子と高熱に魘されて見た夢で思い出した、自分の前世。それと当時に思い出した、乙女ゲームの内容。 だが、その内容は現実とはかなりゲームとかけ離れていて……。 悪役令嬢の名前を持つ主人公が悪役にならず、山も谷もオチもなく、幸せに暮らす話。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

婚約者と王の座を捨てて、真実の愛を選んだ僕の結果

もふっとしたクリームパン
恋愛
タイトル通り、婚約者と王位を捨てた元第一王子様が過去と今を語る話です。ざまぁされる側のお話なので、明るい話ではありません。*書きたいとこだけ書いた小説なので、世界観などの設定はふんわりしてます。*文章の追加や修正を適時行います。*カクヨム様にも投稿しています。*本編十四話(幕間四話)+登場人物紹介+オマケ(四話:ざまぁする側の話)、で完結。

処理中です...