ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

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ジャンヌがいなくなった後 崩壊の兆し

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結局身代金も支払われず、交渉もされず、その後、ジャンヌは魔女として裁判にかけられ、イギリスにより火あぶりの刑にされた。
その壮絶な最期はフランスにも伝えられた。

そのとき、イギリスの公爵が「我々は聖女を殺してしまった!」と叫んだと言われている。

哀れな哀れなジャンヌ。
たった2年間の活躍でフランスに強烈な祖国愛をもたらした勇敢なジャンヌ。

そして、祖国に裏切られた可哀想なジャンヌ。

マリーは花を手向けながら彼女の冥福を祈った。

その後シャルルは王として積極的な政治を行い、ジャンヌの名誉復権にも動いた。

そして、ジャンヌは聖女として認められ、名誉回復したのであった。

しかし、シャルルとマリーはジャンヌのことについて語ることはそれから一度もなかった。

いつか時間が解決する。そう願いつつ、また月日が経ち。

シャルルもマリーも40歳を超え、孫も増え、これから2人でゆっくり過ごしたいと老後のことを考え始めた矢先に、弟ナポリ王ルネから衝撃的な情報がもたらされた。
ルネの妻に侍女として仕えていた美女アニェス・ソレルをシャルルが愛妾として囲ったというのだ。
マリーはすぐにシノン城にシャルルを呼びつけた。

「王よ、私に何か隠してることはございませんか?」
40歳をすぎてもまだ麗しいシャルルは、こてんと首を傾げた。

「ああ、アニェスのこと?わたしの愛しい人だよ。」
「王よ、今何と?」
あっけらかんと打ち明けたシャルルに、マリーは顔面蒼白になりながら再度尋ねた。

こんなはずではなかった。
きっと浮気がばれて、狼狽えて言い訳すると踏んでいた。
しかし、シャルルは穏やかに微笑んでいる。

そして、全く悪気なく続けた。
「うん。だからね、アニェスはわたしの愛しい人だ。愛妾として迎えることにしたんだ。」
フランスはカトリックの国で一夫一妻制である。しかし、愛妾は見逃されていた。

「それは…いいのです。しかし、その女に城を与えたとか。すでに愛妾の域を超えておりましょう。」
マリーは扇をぎゅっと握りしめた。

シャルルは眉を顰めた。
「女とか言う言い方は、君ごときが止めてくれないか。彼女はとびきりの美女で、ずば抜けて知的だ。アニェスに私邸としてロシュ城を与えた。それの何が悪い?私は彼女を深く愛しているんだ。アニェスのことは、愛妾ではなくて、公に認めたいんだ。公妾というのかな。」

マリーはもう気絶してしまいたかった。
あんなに優しかったシャルルが、自分を蔑むような目で見ている。

「公妾…そのような制度は…」

「私が作るんだよ、愚かなマリー」

ひゅっ。
マリーは息を飲んだ。
今夫は私に何と言った?

言わないとわからない?愚かなマリー

夫の目がそう語っていた。
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