「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。

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 次の日。

 メイドたちに身支度を整えさせながら考える。
 デビュタントできるのはとても嬉しい。
 でも、問題ありありありのありです!
 お義母さまが私にいい縁談を持ってくるはずがない。必ず裏があるわ。

 いてもたってもいられず、図書室に行き貴族名鑑を引っ張り出す。
 すると、ここ数代にわたってクルエード伯爵家出身が異常に多いことが分かる。特に気になるのは名前の後にある(AC)だ。しかも、デビュー前で社交界に疎い私でも知っているくらい、いろいろと問題がある人たちばかり。
「……そういうことね、お義母様」
 ACは養子としてその家に入った人につく。貴族は体面が命、嫁ぐ際に家格が合わない場合、いったん別の家の養子になってから稼ぐのだ。ワケありの人は、普通に探しても受け入れ先がないから、ビジネスとして受け入れるところに大金を払う。クルエード伯爵家は、その受け入れ先……養子ビジネスというべきかな?それをして稼いでいるのだろう。
 まぁ、貴族なんてきらびやかに見えて真っ黒な世界だ、法に触れないなら何も言わない。
 問題はアレクの方だ。
 アレクの相手はザフィール男爵令嬢と言っていた。
 ザフィール男爵令嬢は、夫人の不貞のもと生まれたとされている。夫人はかなり奔放な交友関係を築いていた。何で知ってるかって?もともとは嫁き遅れ仲間だったからだよ!

 もちろん、生まれてきた令嬢自身は悪くない。やらかしているのは親だしね。でも、このまま婚約者として迎え入れるにはリスクが高すぎる。
 私とアレクの婚約が同時に進められているということは、家格の劣る男爵家から、しかも不貞の子とされる令嬢が侯爵家に嫁ぐため、クルエード伯爵家とつながりが欲しいのだろう。養子にいき、クルエード伯爵令嬢としてアレクに嫁ぐ。
 義母として、そして嫡男の婚約者の母として、孫が生まれれば祖父母として。お義母様たちの我が家への発言力が強くなるのは明白。お家のっとりに近い。
 クルエード伯爵は、侯爵家へのつながりと、私の持参金としての金銭が狙い、というところかしら。
 あれ?私自身はむしろオマケ?必要とされてない?いやいやそろそろ跡継ぎも作らないといけないだろうし……ううう、辛い。
 あ、だから私のデビュタントが制限されたのね。伝統ある侯爵家の若い女なら、年の離れた爵位が下の人に嫁ぐことなんてほぼないものね。でも、嫁きおくれの女なら話は別。むしろ相手は「薹のたったも女をらってあげた」と評価が上がるくらい。
 くっ、計画的。のほほんとしていた私がばかだったわ。

 私はいい。婚約者の顔も立場もどうでもいい。後妻が来た時からろくな縁談が来るとは思っていなかったし、高位貴族である以上政略結婚に否やはない。
 でもこのままだと、この家の血統ごと、お義母様に奪われてしまう。それに、幼い可愛い可愛い弟が食い物にされるなんて耐えられない。

 とはいえ、どうにかする方法も悔しいが思いつかない。
 婚約にストップをかける高位のスパダリなんてデビュー前のおこちゃまの手札にいるわけない。
 知らないうちに一目ぼれされているとか?……うん、ないな!
 シェリスみたいに大国の王女と友人なら何かできたのかしら。いやでも、友人を便利に使うなんてシェリスはしないだろうし、私もしたくないわ。

 だから、ひたすら祈るしかない。
 他力本願極まりないが、神頼みしかできない。

 私は大丈夫です、なんとかなります。
 でも、アレクを、母の愛したこの家を、どうか助けてください。

 毎日。
 毎日毎日毎日。
 時には教会で、時には自室の窓辺で。
 時間ができたらひたすら祈る。

 今日は満月の日なので、ご利益がありそう。日付が変わるまで、バルコニーで祈ろう。
 外に出ると冷たい空気が肌を刺す。
 でも、これくらい空気が澄んでいるほうが、祈りも届きやすい気がする……!

 月を見上げて、祈る。
「…………アレク以外みんなきえればいいのに……」
「物騒ですし、それだとあなたも消えてしまいますよ?」
 !!!!!誰!?!?!?!?

 いつの間にか横に立ち、こちらを見下ろしてくる存在がいる。
 リトと名乗った彼は、漆黒の髪に黒い目。よく聞く悪魔らしいいで立ちだけど、禍々しさは感じない。おまけにすっごく綺麗な顔。目の保養です、ありがとうございます!
 だめだめ、お母様が言っていたじゃない。顔がいい男と笑顔が崩れない男は信用しちゃいけないって!しっかりするのよリコリス!

「あなたは天使なの?それとも悪魔?」
 3階のここに急に現れたんだから、人間ではない、よね?疑問に思ったら聞くのが鉄則!
「ああ、人間は分けて認識しているようですね。どちらも同じ存在……というと誤解が生じますね。同じ立場であり同僚です」
「えっ!そうなの!?」
 驚きである。
「金髪のキラキラした存在は?」
「日勤の者です」
「……リトさんみたいな、黒髪の人は?」
「夜勤の者に多い特徴ですね。基本的に保護色なので」
「ほごしょく」
 カメレオン的な???闇に潜むもの的な???
「金髪に黒目の人は?」
「早番ですかね」
 色でわかる完璧なシフト制。
「皆さん、昼夜問わずお祈りしてくださいますからね、受け取る方も24時間シフト制で対応させていただいています」
 なんでも、祈りを受けとって、リトさんたちが神様に知らせる価値があるか取捨選択するそう。なんというビジネス感。夢が壊れちゃうぞ?????

 あ!ということは?
「私の祈りは聞き届けられたのですね!」
 ついリトさんの方に向かって前のめりになってしまう。
 もしかして、もしかするのかしら!?許可とってきてしまいました
「申し訳ありません。神に届いたというよりも、私が個人的に興味を持ちまして。殺意は呪いレベルで高いのに、どこまでも無私で、弟さんの幸福だけを祈るピュアな祈り。私利私欲にまみれる祈りの中で異彩を放っていましてね。面白そうなので、来てしまいました」
 まさかの珍獣枠。
「大丈夫です、ちゃんと有給申請はしています」
 まさかのお仕事外の娯楽枠。
 けど、つまり、ということは?
「え、なら何も変わらないということですか……?」
 期待した分、落胆も大きい。
「そうですね、私たちができるのは死者の魂を引き抜いたり、死にかけた人の魂を引っこ抜いたりすることくらいですから……。不思議な力で何でも叶える、というのはできませんが、相談くらいになら乗れますよ」
「そうなのですね……」
 人生そんなに上手くはいかないかぁ。でも、相談できる人がいるっていうのは嬉しいな。
「改めて、私はリコリス=ヘルマン。よろしくお願いいたしますわ」
「こちらこそよろしくお願いいたします。私はリト。しがない御使いをやっております」
 にこりと笑う顔は本当に美しい。よし、目の保養と相談役、ゲットです!

「リコリスさん。相談役、というからには相応の対価を期待しても?」
 げっ。無償奉仕じゃないのか……神の御使いなのに。
「……お祈りなら毎日欠かさずしていますけれど」
「いえ、神様へのお取次ぎは仕事ですから。私が欲しいのは、有給休暇を楽しむためのスパイス……そうですね。あなたが私に触れることを許していただく、というのはどうでしょう?」
 リトはそう言って、私の頬に白く細い指を滑らせた。
 ヤバい、この人タラシだわっ!!!
「……っ。顔がいい男は信用しちゃいけないのよ!!」
「おや、私の顔はお好みですか?それはいいことを聞きました」
 耳元で囁かれる甘い毒のような声。 
 心臓がうるさい。こちとら男性への免疫0のおこちゃまなのよ!!
 手加減しなさい手加減!!
 とっさに距離をとると、笑いながらこっちを見てくる。殴りたい、この笑顔!!
 この余裕ありありなのがなんだか腹立たしいわ……!
「では、夜中に淑女の部屋に入るのは気が引けるのでここで失礼いたしますね。そうだ、私の姿はリコリスさんしか見えないので、気を付けて。人がいるところでうっかり私と会話をしてしまうと、独り言が大きい人になりますし、小さな声で言ってもブツブツ言う危険な人扱いになりますので」
 !!!
 とっさにバルコニーから下を見る。誰もいないよね!?
 ホッと一息ついた私の耳元で
「ですので、会話は二人きりの時だけに」
 甘い毒みたいな声で囁かれた。
 ばっと振り返ってみるも、笑い声だけが聞こえて姿はもうない。

 くうううううっ!




 デビュタントまであと一か月。
 今日はドレスの最終チェックが終わった。タフタ生地の美しいドレスは気分を上げるけれど、その後に待っているあれこれを思うと憂鬱だ。
 男爵家や伯爵について聞いても、「あなたが気にすることじゃないわ」とお義母様から教えてもらえない。
 え、嫁ぎ先の情報ゼロとかなめていませんか??
 本当に、リトがいなかったらどうなっていたか分からない。感謝しかない、本人には言わないけども。

 そう。あの後、クルエード家についていろいろリトと一緒に調べたのだ。出るわ出るわゴゴミのような人間性のエピソード。
 とはいえ、噂も多く、話半分なところもあるけれど。噂って怖いからね。事実なんてほんの少ししかないとか良くあるもの。
 一つ確かなことは、私は『3人目の妻』として迎えられるらしい、ということだ。
 前妻2人は、どちらも病死。しかもその後世話役のメイド数人もまもなく亡くなっているらしい。
「不自然でしたからね。私の担当エリアで起こったこと、かつ2回もでしょう?これは意図的なものだなぁと思いながら引き抜いたんですよね。覚えています」
 と、しれっと言うリト。そういや、リトは人外なんだよなぁ、とこういう時に再認識させられる。
 いつもは冗談を言ったり、愚痴やら相談やらを聞いてもらったりしているから忘れそうになるけれど、気を引き締めないと。

 とにかく、そのようなきな臭い家には嫁ぎたくない。
 私が死んだら誰がアレクを守るというの!お父様は領地から出てこないし、幼いアレクを一人にしたら、お義母様や親族に食いつぶされるだけだわ!
 アレクの婚約者が養子になるなら、私の義娘になる。少しでも手を差し伸べられたらと思っていたのに……。
 分かっているのに、いまのところ何の手立てもない。
 リトが
「あなたにとって最高の縁談だから安心して嫁ぎなさい、って何よ、不安しかないわ!」
 メイドが淹れたハーブティーを飲んでも気持ちを落ち着ける。
 正直美味しいとは思わないけれど、スッキリはするから飲む。ううむ、薬味。
「眉間に皺が寄っておられますよ」
 つんつんつついてくるリト。ええい、やめなさい。
「最高なのだったら、お義母様が代わりに嫁げばいいのに……」
 ぽつり、とつい弱音を吐いてしまう。
 ティーテーブルに頬杖をつきながら、反対の手で私の頭を優しくなでる。
「ええ、いい案ですね」
「適当な相槌やめてくれる!?」
 手をはねのけてキッと睨む。でもリトは笑顔を崩さない。
「私ができることと、あなたの望み。うまく繋げてくださいね?」
 リトは私の頭をもう一度撫でると、そのまま私の額に、自身の額をこつんと預けた。
 至近距離で目が合い、顔が熱を持つのがわかる。
 そのまま私の唇をちょんっとつつくと、そのままスッと消えてしまった。

 ーーリトのできることと、私の望み?
 意味が分からないわ!
 でも、絶対に何かのヒントだわ。答えにたどり着かなければ、本当に終わる。
 さぁ、考えるのよリコリス!
 リトのことを頭から追い出すように、私は一生懸命頭を切り替えた。



*******************
リコリスは、私の別作品「恩知らずの婚約破棄」のシェリスの友人です。
時系列はこの作品が先。
夜会の時にシェリスを励ましてた一人がリコリスです。
婚約履物が好きな方は、お時間があれば読んでいただけますと嬉しいです。
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