「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。

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 時間がたつのは早いもので、今日はデビュタント当日。
 デビュタントの入場とダンスはアレクのエスコートで恙なく終えた。いや、身長差はすごかったけど問題なかった!うん!
 一生懸命背伸びしながら早歩きをするアレク、可愛かったわぁ。
 皆も微笑まし気に見ていたよ。この歳になってやっとデビューの私に向けられる視線は痛かったけれどね……。

 帰宅し、煌びやかな場を見てやや興奮気味だったアレクをメイドたちに預け、寝支度をしてもらう。
 そして私は、お義母様の部屋に行く。今日のメインは、デビュタントではなく、これからだ。


 私付きのメイドを連れて、お義母様の部屋へ入る。来訪のアポイントを取っていたので、メイドたちがもてなしの準備をしていた。
「リコリス、今日はお疲れさま。時間も時間だから、あまり時間は取れなくてよ?」
「もちろんです。明日から嫁入りに向けて本格的に忙しくなりますし、日中、お義母様はお忙しいので……無作法と分かっていながらこの時間にデビュタントのご報告をと思いまして。お休み前の貴重な時間ですもの、すぐに退室いたしますわ」
 私は殊勝な態度で、これ以上ないほど物分かりの良い娘を演じてみせた。 お義母様は満足げに目を細め、「座りなさいな」と向かいの椅子を指した。
「よく眠れるように、とホットワインを持ってまいりましたので是非」
 メイドがそっと持っていた籠をお義母様付きのメイドに渡す。
「ありがとう。でも、私もあなたが来ると聞いて、準備していたの。今日はあなたのデビュタントなのだから、私に祝わせてちょうだい」
 そう言って、手慣れた仕草で二つのカップにホットワインを注いだ。
 訳:あなたの持ってきたワインなんて危険すぎて飲めるわけないだろー!ですね!
 ……でも、そうじゃない。警戒されるのは織り込み済み。私が持ってきたワインにも、なんの仕掛けなんていていない。
 お義母様の横に立ち、楽しげに私に向かって手を振るリトがキーなのだ。
「さあ、飲みましょう。あなたの輝かしい未来を祝して」
 お義母様がグラスを持ち上げる。 私はリトと視線を合わせた。 彼は変わらぬ笑顔で、ふわりと指を振った。 
「はい、お義母様——乾杯」
 私たちは同時にワインを飲む。 
 温かくて、スパイシーで。 
 ……そして、喉を焼くような、ぞっとするほど冷たい味がした。 

 崩れ落ちたお義母様を無感動に見つめた瞬間、私もぐらりと視界が揺れる。
 食べ物を限界以上に詰めすぎた時のような、倦怠感と喉をせりあがる異物感。

 ――気持ち悪い、苦しい!!

 何にもならないというのに、首を手でかきむしる。
 薄れゆく意識に抗いながら、リトに向かって言う。
「し…じ…て……たの……」
「奥様!?お嬢様!?」
 メイドたちの悲鳴を聞いて、急いで入室してきた執事の声を最後に意識は落ちた。



 ぱち、と目を開ける。
 体が鉛のように重く、唯一動く目線だけで周りを見る。
 居並ぶメイド、部屋の様子を見て私は勝利を確信した。

 ほっとしたからか、まだ体が休息を求めているからか、再び睡魔が襲ってきた。

 次に目が覚めた時は、まだ倦怠感はあるものの、頭がすっきりしていた。
 体も何とか起き上がれた。
 私が目覚めたことに気が付いたメイドたちが飛んできて、あれこれと世話を焼いてくれた。
「奥様、本当に、本当にようございました」
 私を涙ながらに見つめるのはメイド長。
 そう。
 今の私は、アビー……お義母様なのだ。


 ――ことの顛末は、ね?
 リトができるのは魂を引き抜くことと引っこ抜くこと。
 前にその話をしたときに、「引き抜くと引っこ抜くってどう違うの?」と聞いたの。
「亡くなった方の魂は出てきているのでするっと引き抜けるんです。でも、死にかけている時や、亡くなったのに未練が強すぎて体から出ていこうとしない魂は無理やり抜かないといけないのです。無理やり抜くのが引っこ抜く、ですね」
 その後、死にかけていて抜く人抜かない人の違いは、と言っていたけれど興味がないのでフーンフーンと流していたら、鼻をつままれてしまった。
 拗ねたのはわかるけれど、淑女が出してはいけない声が出てしまった。許せぬ。

 閑話休題。

 リトに言われたあの後、必死に考えた。
 リトの雰囲気的に、何か手段はあるんだ、と思えたことは非常に心が楽になった。

 もし、クルエード伯爵をどうにかしたとしよう。すぐさま別の人間が婚約者になり、お義母様は同じようなことをするだろう。
 なら、お義母様をどうにかする?領地に行ったきりのお父様がどう動くか予想できない。
 もしまた別の誰かを連れてきて、より悪化したら目も当てられない。
 社交界なんて火種があれば油を注ぎ、遠くから見守るのが大好きな人たちだ。
 次々死人がでたら何を言われるか分からない。そんな家をアレクに継がせるわけにはいかない。

 そして思いついたのは「魂の交換」だ。
「お義母さまが嫁げばいい」……それを実現させるのだ。お義母様本人としてではなく、私として。

 そのためには私とお義母さまが死にかけないといけない。
 魂が抜きやすくなるよう、本当に死の一歩手前まで。
 上手く交換できたとしても、魂が定着して動くようになれるかは50%。
 体からはじき出されて元の体に戻ったり、同じ体に2人が混じったり、といろいろ懸念はあった。
 もちろん、リトからそうならないためにできる限りのことを教えてもらって対策はしたので、勝率はかなり上がっていたけれど。
 うまくいってとってもホッとしている。

 私の目覚めを聞いたからか?
 廊下がやたらと騒がしい。「お嬢様!?」と焦るメイドの声も聞こえる。

 さぁ、お義母様。今後についてお話をしましょう。
 喜んでくれますよね?だって。

「最高の縁談を用意してくれたのでしょう?だったら自分が嫁いでも問題ないですよね」

 ノックも無く開け放たれたドアの音を聞き、私はゆっくりと振り返る――





(END)
 *******************
 タイトルのかわるは「変わる」と「代わる」をかけてます。
 入れ替わられたアビーサイド(体リコリス)も蛇足かなと思いながら執筆中。
 リコリスが義母にいろいろ言う続きも考えたのですが、こういうものはざまぁされる側の視点のほうがいいよねとゲス顔の作者が申しておりますw

 倒れ際にリコリスがいったのは
「しんじてたのに」
 ではなく
「指示した手筈で頼むわ」


 皆様が思うであろう「いや、父親なにしとるん?」はここで説明を。
 リコリス視点だとどうしても入れられなかったので……

 リコリス父は、もともとヘルマン侯爵の次男でした。
 厳しい教育を施されましたが、あくまでスペア。
 兄の結婚を機に独り立ち。もともと文官家系なので従属爵位はないので自力で働き口を見つけて頑張っていました。アビーと出会ったのもその職場。
 でも、兄が不慮の事故で早世。両親はもちろんスペアの次男(父)を呼び戻し、兄嫁と結婚させます。で、誕生したのがリコリスとアレク。アレクという跡取りができたので、もういいだろうと家に寄り付かなくなります。アビーとの仲も継続。
 リコリスの母が風邪で亡くなったら、女主人が必要なのでアビーに声をかける。でも、その時に野心ありありな姿にドンびく。でも頭のいい女なので、うまく家を回せるならいいか、と放置。自分のことをいいように扱いまくる家もどうなってもいいし、と家のことを顧みません。ただ対外的なお仕事はちゃんとする。アビー以外の女もいない。でも人間不信気味で一人が好きなので領地のおひとり様ハウスに住んでいます。快適。
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