孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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4章

55 1日目 身元改め

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「禁軍の将、へき卓牙たくがだ。ここに連なる者の顔と旅券を改める」

威厳のある声を上げた男はそう言って、宿の食堂に集まった、者達を見渡した。

年齢は蓉芭や至湧より少しばかり若く、溌剌とした精悍な顔つきをしている。
禁軍の将と言うだけあり、体躯はがっしりとしているものの、細身で身軽な雰囲気を持つ。


「し、承知しました!」

僅かに威圧されながらも、座長が代表して答えると、兵達が団員達を並ばせるために指示をし始める。

順番に、顔と名を改められていくのを何も言わずにただ静かに受け入れていく。


ついに自分達の順番がやってきて、面を外せば将の男としっかり目が合う。


「随分と護衛の数が多いのだな?」

視線を巡らせた彼は、団長に声をかけて後ろに控える兵に何やら手で合図を送る。


「っ、はい。異国への興行は初めてでございますので、少し多めに雇っております。」

「あちらでは随分と名のある旅団だと聞いている。人数もこれだけ多ければ致し方あるまいな。明日宮廷での催しもあるのだったか?」

「はっ!光栄な事に諸国貴賓の方々への御目見えを言いつかってございます。」

恭しく礼を取る団長に、将は鷹揚に頷く。

「そうか、素晴らしい演戯を期待している」

そう言うと彼は、後ろで記録を取っていた侍従に「控えたか?」と声をかけ、その内容を覗き見ると小さく頷く。

別の侍従に手振りで指示を出すと、その者が前に出て脇に控えていた宿屋の店主に、何やら紙の束を手渡す。

「証明だ。宿の軒先に掲げておくように。
店主!これより先、一切新たな客を取らぬように、もし増えた場合には申請を改めて出すように」

「はっ、はい!承知いたしました!」

深々と礼を取る店主を一瞥すると、将はひらりと身軽な動作で、身を翻す。

「では失礼する。いくぞ!」

そう言って、兵達をゾロゾロと連れ立って、宿屋の小さな軒を出て行った。


その場にいた一同全てが、ほぅっと息を吐く。

国内でも屈指の芸団であり、国内の皇族や高官、兵の前での興行もこなしている彼らでも他国の軍の兵に囲まれるのは初めての事だ。一部の者は、自分たちの腹にとんでもない者を匿っている事を知っている故に気が気ではなかったであろう。



「まさか、禁軍の将自らお出ましとは」

肩の力を抜いた至湧がつぶやくのを横目に、肩を竦める。

「まぁ、他国の人間を大勢入れるんだ、それくらいは警戒していてもおかしくないだろうよ。あの男も馬鹿ではないからな」

わざわざ禁軍を駆り出しているのもそのためだろう。
軍が睨みを効かせているとあれば、少しばかりお祭りに乗じて悪戯をしようと思っている小物ならばすくみ上がる。

「まぁ、それが悪い方に出たな」








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