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第1章
76.決着の時
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夜が裂けるような咆哮が、カルネリスの空を揺らした。爆ぜた石壁の向こうから、黒い霧と無数の蛇の影をまとった異形が這い出してくる。ザイル――いや、もはや黒蛇そのものと化した存在だった。骨が変形し、腕は鞭のように長く、背中からは影の蛇が幾十も生えて蠢いている。
リアは一歩、前に出た。その背に炎が揺れる。ヒナが思わず叫ぶ。
「リア様……!」
リアは振り返らず、短く言った。
「ヒナ、アレス。住民の避難を」
アレスは歯を食いしばる。
「リア様、一人でなんて――」
「行け。今の俺なら、届く」
静かに、だが確信を込めた声。その言葉にヒナもアレスも一瞬迷い、そして頷いた。
「……必ず、勝ってください」
二人が駆け出す。残されたのは、リアと、黒蛇だけだった。
黒蛇が低く笑った。
「王子よ……王族の血で、俺を殺せるか?」
影の蛇たちが一斉にうねり、地を這い、空を裂いて襲いかかる。リアは剣を抜いた。瞬間――轟音とともに、炎が剣を包む。だが、いつものそれとは違った。炎は赤から黄金色へ、そして白く輝く熱光へと変わっていく。
(……見通す目が、冴えている……)
周囲のすべての魔力が、色となってリアの視界に広がっていた。黒い蛇たちの動き。ザイルの体を走る黒い魔力の流れ。その中心――核とも呼べる一点までが、はっきりと見えていた。
「……覚悟しろ、ザイル」
影の蛇が襲いかかる。リアは踏み込む。踏み込んだ瞬間、地面が爆ぜ、空気が焦げる。炎の剣が、舞った。ひと振りで、蛇たちが焼き切れ、影が霧散する。黒蛇が苦悶の咆哮を上げた。
「グアアアァァッ!」
だが、それでも止まらない。影は何度も形を成し、蛇となり、牙を剥く。リアはすべてを見切っていた。
――炎が奔り、影を断ち、踏み込む。
――剣が閃き、黒い鞭のような腕を弾き飛ばす。
――蹴り上げた炎の弧が、夜空を赤く染める。
「なぜ……なぜお前のような小僧がッ!」
黒蛇が吠える。影が暴走し、街全体を覆い尽くそうと広がった。
「……これ以上は、誰も巻き込ませない」
リアは剣を構え直す。炎が剣を包み込み、轟音とともに天へと昇った。炎はもはや剣の形を超え、一本の“炎の大剣”となっていた。
「――奥義」
リアの声が、闇を切り裂いた。
「神炎」
一瞬、空気が静止した。そして――炎が、世界を断ち割った。白炎の閃光が、黒蛇を斜めに薙ぎ払った。影の蛇たちが一斉に悲鳴を上げ、消え、ザイルの巨体が弾き飛ばされる。
「……グッ……あ……」
黒蛇の姿が崩れ、黒い霧が消え、ザイルは人の姿に戻っていく。倒れたまま、動かない。
静寂――
そして、その瞬間、東の空が白み始めた。夜が終わり、朝日が地平線から顔を出す。ヒナとアレスが駆けつけ、光を背に立つリアを見た。
剣を下ろしたリアの表情は、ただ一言――
「……終わりだ。」
その声に、朝日が応えるように街を照らした。カルネリスの長い夜が、ようやく終わったのだった。
リアは一歩、前に出た。その背に炎が揺れる。ヒナが思わず叫ぶ。
「リア様……!」
リアは振り返らず、短く言った。
「ヒナ、アレス。住民の避難を」
アレスは歯を食いしばる。
「リア様、一人でなんて――」
「行け。今の俺なら、届く」
静かに、だが確信を込めた声。その言葉にヒナもアレスも一瞬迷い、そして頷いた。
「……必ず、勝ってください」
二人が駆け出す。残されたのは、リアと、黒蛇だけだった。
黒蛇が低く笑った。
「王子よ……王族の血で、俺を殺せるか?」
影の蛇たちが一斉にうねり、地を這い、空を裂いて襲いかかる。リアは剣を抜いた。瞬間――轟音とともに、炎が剣を包む。だが、いつものそれとは違った。炎は赤から黄金色へ、そして白く輝く熱光へと変わっていく。
(……見通す目が、冴えている……)
周囲のすべての魔力が、色となってリアの視界に広がっていた。黒い蛇たちの動き。ザイルの体を走る黒い魔力の流れ。その中心――核とも呼べる一点までが、はっきりと見えていた。
「……覚悟しろ、ザイル」
影の蛇が襲いかかる。リアは踏み込む。踏み込んだ瞬間、地面が爆ぜ、空気が焦げる。炎の剣が、舞った。ひと振りで、蛇たちが焼き切れ、影が霧散する。黒蛇が苦悶の咆哮を上げた。
「グアアアァァッ!」
だが、それでも止まらない。影は何度も形を成し、蛇となり、牙を剥く。リアはすべてを見切っていた。
――炎が奔り、影を断ち、踏み込む。
――剣が閃き、黒い鞭のような腕を弾き飛ばす。
――蹴り上げた炎の弧が、夜空を赤く染める。
「なぜ……なぜお前のような小僧がッ!」
黒蛇が吠える。影が暴走し、街全体を覆い尽くそうと広がった。
「……これ以上は、誰も巻き込ませない」
リアは剣を構え直す。炎が剣を包み込み、轟音とともに天へと昇った。炎はもはや剣の形を超え、一本の“炎の大剣”となっていた。
「――奥義」
リアの声が、闇を切り裂いた。
「神炎」
一瞬、空気が静止した。そして――炎が、世界を断ち割った。白炎の閃光が、黒蛇を斜めに薙ぎ払った。影の蛇たちが一斉に悲鳴を上げ、消え、ザイルの巨体が弾き飛ばされる。
「……グッ……あ……」
黒蛇の姿が崩れ、黒い霧が消え、ザイルは人の姿に戻っていく。倒れたまま、動かない。
静寂――
そして、その瞬間、東の空が白み始めた。夜が終わり、朝日が地平線から顔を出す。ヒナとアレスが駆けつけ、光を背に立つリアを見た。
剣を下ろしたリアの表情は、ただ一言――
「……終わりだ。」
その声に、朝日が応えるように街を照らした。カルネリスの長い夜が、ようやく終わったのだった。
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