どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき

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第二章

第29話 知識と暴力の間

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 爆発ならこれまで何度かやったように車を爆破するんでもいいが、それだと派手すぎてゾンビもどきを集め過ぎる可能性がある。適度な爆発ってのも難しいな。

 やってきたのはアパートから徒歩二十分程度の場所にあったバイクショップ。病院からは見える向きが違うだけで距離は大して変わらない。仕舞っていたシャッターを開けて中に這入れば、置かれているのは自転車がほとんどでバイクはおまけ程度って感じの店舗らしい。

「何を探すの~?」

「使えそうな物」

「わぁ、ざっくりぃ」

 ここには自転車だけでなくバイクの材料も置かれているからサプレッサーが作れそうだ。俺の銃は火薬を使っているわけではないからそれほど大きな発砲音がするわけではないが、バネが弾ける音や押し出される空気の音はする。その程度でゾンビもどきが反応するかはわからないが、防げるリスクなら事前に防いでおくべきだ。

 用意するのは弾が丁度抜ける太さのパイプと、それよりも一回り大きいパイプ、それとスポンジだ。端材らしいから長さは無いが――まずは細いほうのパイプに穴を……。

「カナリア、シャッターを下ろしてくれ」

「ラ~ジャ」

 電動ドリルを使おうと思ったが、念のために音対策をして。

 まずは細いパイプにランダムに穴を開け、その周りをスポンジで包んで、一回り大きいパイプの中に入れた。あとは、それを黒のビニールテープで巻いて完成だ。これで銃口に嵌まらなければ笑い種が――問題なく付けられた。置かれていた缶に向かって引鉄を引けば、音もなく弾が飛んでいった。穴が開いて零れ落ちるお茶を見て、威力が落ちていないことも確かめられた。

「うん、良い具合だな」

「ねぇ、零くん。これ弓に使えそうじゃない?」

「そりゃあ弓道経験者の手元に弓があれば使えるが、俺たちには不要だろ」

「あ~……」

 論破したところで。

 この場にある材料でどうやってゾンビもどき共を誘導するかだが、シンプルにタイヤを使うのが楽だろう。とはいえ、目の前で破裂させるわけにもいかない。時限式での爆発……教会で使った爆弾は威力を抑えたおかげでその余りがあるにはあるが、量が少ないからそれ単体では大した音も鳴らないし威力も無い。なら、爆発とは別に音は二次的な副産物として作るべきか。

「……よし。カナリア、空気が抜けていないタイヤを集めて外に積んでくれ」

「何個くらい?」

「あるだけ」

「お任せあれっ」

 その間に、俺は空の瓶を拾って落ちていたネジにナット、釘などを中に放り込み、爆弾の残りを注ぎ込んだ。あとは長い導火線が必要だが、普通のロープでは途中で消える可能性がある。

 開いたシャッターの外でタイヤを積むカナリアを眺めながら、どうするかと考えていたが無駄な時間だと気が付いた。ここはバイクショップだ。置かれていたオイル缶の中身を確認して、床に広がっている縄を手繰り寄せた。長さは五メートルってところか。もう少し欲しいところだが贅沢は言っていられないな。

 縄の先――瓶に入れる部分だけを残してオイルに浸けて準備は完了だ。

「カナリア、準備は良いか?」

「良いよぉ」

 積んだタイヤの間に瓶を置き、縄を伸ばしながらその場を離れた。

「この辺りか。火を付けたらすぐにこの場を離れるぞ。行く方向はお前に任せる」

「え、うち?」

「お前のほうが野生の勘が働くだろ。わかっていると思うがゾンビもどきが音に寄っていく間に病院に向かう。いいな?」

「あいあいさー。じゃあ、しっかり付いてきて~」

 オイルがガソリンじゃないことは臭いで確認済みだ。多分、バイクのパーツを磨くためのオイルだろう。だから、火を付けたところで一瞬で燃え広がるわけじゃないから数秒は移動する余裕ができる。

 ライターで点火して伝っていく炎を見て、踵を返し駆けていくカナリアの後を追った。

 走り出して約十秒、爆発しないか不安に思い始めた直後――ギリギリで聞き取れる微妙なズレのある破裂音が聞こえてきた。説明するまでもないが、爆発と同時に飛び散ったネジが釘などがタイヤを割った音だ。

 前を行くカナリアは、気配でゾンビもどきが来る方向がわかっているのか見事に遭遇することなく病院に近付いていくが、バイクショップから向かっているせいもあって、おそらく正面の入口では無いところから病院の敷地内に這入るしかない。

 目の前には二メートル程度の塀があり、その先には病院が見えている。隣を走るカナリアと目を合わせれば、どうやらこのまま塀を越えるつもりらしい。だとすると、俺も付き合わないと駄目だな。

「よいっ――しょ、と……」

「おっとぉ」

 塀を越えた先――ここまで遭遇しなかったのが嘘のようにゾンビもどき共が待ち構えていた。いや、正確に言えばこちらが突入しただけだが、お互いに嫌なサプライズだな。

 ゾンビもどき越しに病院の裏口が見えている。鍵が掛かっていないことに賭けるしかない。

「ゾンビもどきは十五体くらいか。入口までのデスランだな」

「オッケー、走ろう!」

 その声に気が付き振り返ったゾンビもどき共が一斉に襲い掛かってきた。カナリアは大刀を振るい、俺は銃とナイフで向かってくるゾンビもどきを殺しながら入口へと向かった。

 先に着いたカナリアがドアに手を掛けるよりも先に、ドアの隙間に刃先を滑り込ませたのが見えた。まぁ、鍵が掛かっていて無駄な数秒を過ごすよりは良いだろう。ドアが開くのを確認して振り返ったカナリアがこちらに向かって来ようとしたのを見て、口を開いた。

「先に中に這入れ! すぐに行く!」

 あと三体。近い二体を撃って三体目――弾切れか。向かってくるゾンビもどきにナイフを投げれば首に刺さった。替えの弾倉を手に取り、近付いたゾンビもどきを前蹴りすれば地面に倒れ込んだ。弾倉を入れ替え、倒れたゾンビもどきの頭を撃ち抜いてナイフを回収したら、カナリアが待つドアから病院内へと駆け込んだ。

「おっつー。やっぱり零くん、強いねぇ」

「お前と違って、俺はそこそこ命懸けだけどな」

 弾倉は残り八本。先のことを考えれば温存したいところだが、建物の中に這入ったし問題ないだろう。

「うちも結構命懸けだけどね。さぁ、病院内だよ。どうする?」

「とりあえずエレベーターを探そう。病院なら予備電源で動いているはずだ」

 裏口から続く長い廊下には左右にいくつもドアがあるが、開いていない扉の先にはゾンビもどきがいる可能性も高いから開けずに進んでいく。今回の目的は生存者捜しではなく変異種の原因を探ることだ。無駄な戦闘は避ける。

 廊下を進んでいった先にあったのは病院の受付だった。広い待合室があるのもエレベーターが四つあるのも、規模の大きな病院って感じだな。

 とはいえ、点いている明かりからして生きてるエレベーターは一つだけ。ボタンを押して、院内の階別表記を確かめた。四階に放射線科がある。変化を起こせるだけの機材がある可能性は高いが、今もまだ残っているのかは疑問だ。

 降りてきたエレベーターの扉が開く瞬間、そこが一番の緊張だ。銃を構えて開く扉を眺めれば――無人か。

「よし、行くぞ」

「何階?」

「とりあえず四階から調べてみよう」

 エレベーターに乗り込んで、四階へ。さぁ、二度目の緊張だ。

「――いないよ」

 先に出たカナリアが周囲を確認して、あとを追うように銃を構えたままエレベーターを降りた。さすがに一階の待合室と違って廊下は狭いが、見通しは良い。

「階を一周する。後ろを頼んだ」

「オッケー」

 もしも変異種がここから生まれているのなら、気を抜くことは出来ない。放射線科は機材の問題で隔離されている部屋が多いが、閉まっている部屋は無視しても構わないだろう。

「分かれ道か」

 前方と左右へ続く廊下。まぁ、病院は場所によって科の位置も設備も違うから覚えるまでは迷路みたいに感じるものだが、どの方向に進むべきかな……効率よりも確度の高いほうに向かうべきだと思うが――などと考えていると不意に肩を叩かれた。

「零くん、ちょっとマズいかも」

 その言葉に振り返れば――通ってきた道がゾンビもどきで埋め尽くされていた。だが、襲い掛かってこない姿を眺めていると周りからガチャガチャとドアの開く音が聞こえてきた。

「……この数、どこに隠れていたんだろうな」

「どこにでも、でしょ。どうする? 進む? 戻る?」

 四方全てを囲むゾンビもどきの群れを前に、こちらの存在を認識しているのに襲って来ないことへの疑問符を浮かべた。

「出来れば進みたいが、戻ることも頭の隅に置いておけ。それから、一つ悪い知らせだ」

「この状況で良いお知らせだったら手放しで喜べるんだけどなぁ」

「同感だが、状況は変わりようがない。奴らが襲って来ないのは、おそらく学習しているからだ。知能が付き始めている」

「ふ~ん。でも、殺すんでしょ?」

「当然だ。知能があっても死んでいることに変わりはない。来るぞっ!」

「よしっ、殺ろう!」

 意気込むカナリアとは裏腹に、俺は憂鬱だ。

 弾倉の残りが少ないことは別にしても、自ら飛んで火にいる夏の虫になっている現状に苛立ちに近い感情を覚えている。この戦いは不毛だ。誰かを守るためでも、誰かを助けるためでもない――これは、無意味な殺し合いでしかない。
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