特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -34話-[破滅からの使者②]

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 苛刻かこくのシュティーナがお茶会に参加する事が決定した。
 宗八そうはち達の目の前では、丸テーブルから一枚板の湾曲テーブルへ交換がなされ、シュティーナ用のティーセットが続々と温室に持ち込まれている。
 その様子を眺めていたシュティーナは、期待を裏切られたかのように淀んだ瞳が尚更汚泥に沈んでいた。
「これから一緒に話をすり合わせようって協力者に対して、同じテーブルじゃないのぉ」
 宗八そうはちと、そしてこの結果を決定したアルカンシェに抗議の声を上げるシュティーナの声は虚しく空を切る。

 宗八そうはちは皆を護る自信があるし別に構わないと考えていたのだが、仲間達はここで異を唱えた。
 流石に同じテーブルはNG、と護衛全員からのお言葉にアルカンシェが鶴の一声を上げ、シュティーナ用にティーセットが用意される事が急遽決定したのだった。
 講義が無視され不機嫌であったシュティーナであったが、自分用のテーブルに用意されたケーキスタンドに多種多様の甘味が乗せられていく様子を見ている間に機嫌は治ったらしい。自分の為に用意されたケーキや紅茶を前にまんざらでもない様子だ。

 相変わらず殺気や不快な瘴気の臭いなどは抑えられていないのだが、シュティーナが意図せず漏れてしまう存在となってしまっている事にこれ以上文句を言っても仕方がない事は皆が理解をしているのか、再開の目途が立ち侍女達が席に誘導すると大人しく席に座った。
 ちなみに、この場に居るメイド達は諜報侍女隊として特別に鍛えられたメンバーが揃っている。
 諜報侍女隊隊長のミアーネ——冷静沈着な観察眼で侍女隊を采配する眼鏡の女。
 部隊長ナルシア——獣人のクォーターで、尻尾のみが生えほぼ人の身で有りながら獣人らしい聴力と身体能力を持つ。
 部隊長キスカ——無精のクォーターで、様々な生物に姿を変え潜入する事に長ける。。
 部隊長アナスタシア——魔族のクォーターで、短く存在する角を持ち先の魔族領への案内人を務めた。
 レベルも100まで育てられ、ステータスは鍛錬ダンジョン以前から鍛えていた事もあり[七精の門エレメンツゲート]に次ぎアスペラルダ国内でも指折りの実力だ。当然、シュティーナの威風にも怯えず堂々と従事に励んでいた。

「さて、どこから説明しようかしら……」
 ひとくち紅茶に口をつけたシュティーナが珍しく迷いを見せた。
「結論から言ってくれ。その後に補足説明を頼む」
 敵ながら破滅ヴィネアの支配に抗い続けるシュティーナを宗八そうはちはそれなりに信用している。
 しかし、最終的にはやはり彼女の世界の世界樹を解放しない限り味方には成り得ないことも知っている為、同情に心を引き摺られないように話を急いだ。

「———御方は近日中にこの世界への大侵攻を決めたわ」

 思ったよりも早かった、というのが正直な感想だった。
 選抜冒険者達にも語ったが、最悪は自分達の子孫に相対させる事だっただけに逆にこれにはホッとしたくらいであった。
「イクダニムも気付いているでしょう? 異世界への亀裂が現れなくなった事を」
 確かにナユタの世界、アルダーゼの世界は比較的期間を開けずに亀裂が確認されたのに、以降いくら探しても異世界への亀裂は発見されていない。
 シュティーナに水を向けられた時点で嫌な予感をヒシヒシと感じていた。
「———手中にある異世界をコントロールしているのよ。貴方に———これ以上邪魔されない様に」
 再開されたばかりのお茶会だったが、紅茶の熱が、誰の指先にも届かぬままに冷えていく。誰もが耳を傾け、呼吸を潜めていた。
 いや、唯一アルカンシェだけが紅茶を嚥下して喉を鳴らしている。
「ナユタの世界は神力エーテルの回収を妨害され手駒を一つ失った。アルダーゼの世界では自身が乗り込んだにも関わらず、手駒予定だったアルダーゼは手元を離れ回収出来た神力エーテルは半分以下。それを成したのは、小さくも立ちふさがった一人の人間」
 シュティーナの視線はずっと宗八そうはちを見つめていた。
 仲間が周りに侍っていようと、彼女の目的は宗八そうはちただ一人であり、御方と呼ばれる破滅ヴィネア宗八そうはちしか眼中に無い事を言外に語る視線だった。

「この一戦に御方は入れ込んでいるわ。この世界の世界樹の守護者は貴方が選ばれると睨んでいるからこそ、いくつかの世界を消費してでも蹂躙するつもりよ。それだけ貴方のチカラは魅力的なのでしょうね」
 熱にでも浮かされたかのような声音で色香を振り撒きながら流し目をするシュティーナだが、嫁に両サイドを固められている宗八そうはちが釣られる訳にはいかない。
 嫁二筋として、巌とした態度でその色香には後ろ髪を引かれながらも泣く泣く見送り、空気を換える為に質問をする。
「世界を消費して、というのはナユタで言うところの半神半獣の完全体の事か?」
 神人復活の過程で破滅ヴィネアの介入により、世界樹に貯め込まれた神力エーテルを全て注ぎ込んで超強化された姿だ。
 ユレイアルド神聖教国出身のクレシーダとクルルクス姉妹はナユタの世界での戦いに参加していなかったので、あの圧倒的な存在感を共有出来なかった。代わりにアルカンシェ達は、当時を思い出して身震いと共に宗八そうはちに任せざるを得なかった事を歯噛みしていた。

「完全体? あぁ、魔神のことね。あれって本来は想定されて無い強化みたいよ。まぁ当然よね。神力エーテルが全て抜かれれば世界樹は生きていけない=世界の終わりが確定するのですもの。その最終手段の魔神を呼び起こすだなんて、本当にイクダニムは面白い存在になったものだわ、フフフ」
 ナユタ戦で最後の方でシュティーナが姿を現した事を思い出した宗八そうはちは、ずっと隠れてあの戦いを観戦していたのだと思うと腹の底から苛立ちが募る。
 楽しませる為にナユタの世界を滅ぼしたわけでは無いのだ。
 瘴気に多少影響されているにしても、元から性格に難のある女性であったのだろうと、怒りをシュティーナを睨むに留めた。
 世界を滅ぼす選択をした宗八そうはちの心がどれだけ荒れ狂ったのか、瘴気に侵された彼女には理解出来ない心情であった。

「理解しているなら話が早いわね。少なくともイクダニムだけでなく、因縁のある数人が居るみたいだし、それなりの数で攻める事になるかもしれないわね」
 意味深な言い方をしているが、十中八九、魔神となった魔神族がこの世界に顕現するのだろう。
 ナユタ戦を思い出せば、雷のハンマー一振りで広範囲の大地が大きく隆起していたのだ。まともに顕現した魔神を相手していては、この世界が保たないのは火を見るよりも明らかだった。

 アルカンシェと視線を絡めると頷く。
 あと考えられるのはマリエルと……怪しいがセーバーくらいなものか?
「それはお前が戦場を整えてくれるのか?」
 少なくとも二体も魔神がこの世界に顕現しては溜まったものではない。
 戦場を移す手伝いをする意思はあるのか?と宗八そうはちは言外に尋ねた。
「実は、貴方たちの前に出て来ていない魔神族もいるのよ。その達が抜けて戦い抜けるのかしら?」
 宗八そうはち達の想像している氷垢ひょうくのステルシャトーと叢風むらかぜのメルケルスはほぼ確定だ。
 シュティーナの言が正しいなら、滅消めっしょうのマティアス、狂操きょうそうのライラズマ、隷霊れいれいのマグニに彼女を含めた四体以外に未知の魔神族が居る事となる。
 しかし、宗八そうはちは即返事を返した。

「———逆に余裕で勝てると思うぞ。どうせならそいつらも魔神化すればいい」
 不敵な笑みには信頼する仲間が負けるはずもないと自信が見えた。
 まだ、魔神に仲間は少ないかもしれないが、攻めてくるまでに期間が開けば開くほど勝ちの目は増えていく事を宗八そうはちは確信していた。
 故に挑発には正面から受けて立った。

「それなら良いわ、御方に相談してみましょう。残りは幻、水、地の三人よ」
 隷霊れいれいのマグニが神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスの分霊体ならば、実質六体の魔神族をどうにかすれば、あとは瘴気に侵されているとはいえ有象無象だ。
 準備が整ったうえでの戦闘ならば、どれだけ来ようと所詮は雑魚。量で押し切れると思われることに不快感すら浮かぶ。
 わざわざ宗八そうはちが各国や精霊や竜との橋渡しをして冒険者や兵士を超強化したのだ。怪我する奴が出ただけでも、そいつには地獄の特訓を施してやると息巻く。

「話を逸らすなよ。戦場を整える事は可能か?」
 再び宗八そうはちが質問を重ねる。
 次は殺気を込めてシュティーナに濁す事を許さないと意思表示をしっかりとしたうえでの質問だ。
「……元の世界に相対者と隔離すればいいのかしら?」
 宗八そうはちの言いたい事を理解するだけの情報は持っているらしい。
 氷垢ひょうくのステルシャトーと戦うのはアルカンシェだ。その二人をステルシャトーの世界に閉じ込め思う存分戦ってもらう。
 そうすれば少なくともこの世界に被害は出ないのだから。
 討伐後の回収は≪ゲート≫でどうにでもなる事は実証済みなので、あとは討伐後に魔神から溢れる神力エーテル神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスに吸収されない様にするにはどうしたらいいか……。
 これは今後の課題だ。

「良い答えだ。もしこの世界で顕現した場合は、———満足に戦う事もなく俺が斬り伏せる。アルシェ達と戦いたい、と言うなら———ちゃんとお前が仲間をお膳立てするんだな」
 魔神は確かに強大だ。一体で世界が滅ぼせる程度には暴れれば手が負えない。
 その魔神と神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスもまた差があった。逃げずに相対した宗八そうはちにはその差が理解出来ているからこそ、魔神程度で芋を引いていられない。話の流れで戦意に火が付いたのか、凶悪な笑みを浮かべる宗八そうはちは魔神を瞬殺する気マンマンであった。
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