特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -35話-[破滅からの使者③]

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 実際、宗八そうはちが魔神の相手をしている暇があるかは敵の出方次第と言えた。
 よしんばシュティーナの言い分が事実で異世界への亀裂が今後現れないにしても、こちらとしては全幅の信頼を置くことは無いので、結局諜報侍女や鍛錬冒険者に見回りを続けさせることとなる。
 いずれにしても、まだ見つかっていないオベリスクがあるならば破壊しておく必要があるので、止める事は出来ない。
「正直に言って、御方がこんなにすぐに対策に動くとは思っていなかったわ。世界樹の顕現まで時間は稼げると思っていたの……。でも、事実動き出してしまったのだから、今後の世界の為にも、私の世界の為にも貴方達には御方をどうにかしてもらわなければならないわ」
 苛刻かこくのシュティーナが宗八そうはちに接触して来た理由は以前に説明されており、仲間にも周知はしていた。
 曰く、シュティーナの世界の世界樹は強いチカラを持っている為、瘴気に抵抗を続けている。
 故にシュティーナも神族から魔神族に生まれ変わったとはいえ、精神的な面では完全に支配されず、今回の様に情報の横流しが可能となっている。ただ、以前に比べて状況は変わり、今回はわざと情報提供に来た様子だった。
 同様に滅消めっしょうのマティアスの世界も抵抗を続けており、この二人はこちらの都合を察してくれ、ある意味では協力者であった。

「出来ればシュティーナと、マティアスの世界を先に開放したい。お前だってそれは望んでいるんじゃないか?」
 当然シュティーナの目的はそれだ。しかし、敵も馬鹿ではない。
「私のチカラで世界を繋げる事は出来るでしょうね。でも、御方は私とマティアスの立場を理解した上で遊ばせているわ。繋げた瞬間に殺されて、魔神になったあげくこの世界に放られるのがオチでしょうけれど……」
 生殺与奪が完全に上位存在に握られている為、人としての情が残っている方が苦しいだろう。
 それでもじわじわと世界樹の抵抗が弱まっているのか、彼女からは時折狂気が垣間見える。本当に時間が無い事が宗八そうはちにも察する事が出来た。

「じゃあ、俺が破滅ヴィネアと戦い始めればどうだ?」
 シュティーナとマティアスの強さを宗八そうはち達は理解している。
 仲間とも遜色ないユニークユニットの彼らのチカラを戦力に数える事が出来るなら、危険を承知で飛び込む事も手だと考えた。
「御方の存在を貴方は直に感じたでしょう? ただ一人に集中したとしても、分御霊わけみたまでさえ私の世界を好きに出来る。世界樹に寄生する分御霊わけみたまの浄化は必須。加えて世界樹の神力エーテルも回復しなければ世界の自浄も出来ないのよ?」
「なんとかする。それが出来るなら神人として力を貸してもらえるか?」
 この会話が破滅ヴィネアに筒抜けなのかはわからない。
 それでも、彼女の本当の意思を宗八そうはちは確認したかった。生きる意思。抵抗する意思。
 そして、抗い抜いたうえで破滅ヴィネアに一矢報いてやるというだ。

 ———沈黙が、世界を包み込んだ。
 紅茶を嚥下するアルカンシェの喉の音だけが、かすかな生命の証のように、静寂の底を震わせる。
 しかしその微音すらも、衣擦れの響きすらも———たちまち、世界から消えた。
「……っ」
 宗八そうはちがわずかに息を呑み、シュティーナへと視線を向ける。
 閉ざされていた瞳が、夜明けのようにゆっくりと開かれていく。

 ———時が、止まったのだ。

 動く者は、彼女と宗八そうはち
 そして、闇精と闇精使いのみ。
 凍りついた時の帳の中で、宗八は静かに手を掲げた。
「動くな」と、声なき声で侍女たちに告げる。

 時を止める術は、シュティーナとて長くは維持出来ないと、以前口にしていた。
 そして、おそらく。
 時止め中は——。
 淀んだ瞳の奥に炎が見えた気がした。


「———ぶ っ 殺 し て や る わ っ !!」


 どれだけの期間、破滅ヴィネアの支配下にあったのだろう。
 正常な人格を保ったまま逆らえない命令で、どれだけの世界を滅ぼしたのだろう。
 時には瘴気に身を任せ、心を殺さなければならない事も多くあったに違いない。
 辛かった———。痛かった———。やりたくなかった———。
 殺さなければならなかったけれど、死んでほしいわけではなかった———。

 シュティーナの慟哭には、様々な負の感情が詰め込まれている様に宗八そうはちには感じられた。
 ままならない破滅ヴィネアという名の不幸に遭遇したのは、何もシュティーナだけではない。
 魔神族全員がその被害者であり、その内何人の世界支配の手引きをしたのか……。慟哭と共に発せられた殺気が今まで彼女から感じた中で一番感情が乗っていて鋭かったことが、その意志の強さを証明していた。

 途端にアルカンシェの喉が鳴った。時が動き出したのだ。
 先ほどまでの激高はどこへ行ったのか、シュティーナものんびり菓子に手を伸ばしている。
 彼女の言葉を聞いたのは宗八そうはちを含んだ一部のみだが、宗八そうはちが聞けていれば仲間は納得する。

 さて……。どう動くべきか……。
 シュティーナが言う通り、異世界へ攻め込むには浄化は必須であり、戦闘力も高水準であることが求められる。
 宗八そうはちの瞳が、隣に座るサーニャを映す。
「(一人はサーニャが確定……。もう一人は……頭に浮かぶ奴は一人しかいないな……)」
 破滅ヴィネアの魔神族支配については、奴隷契約のようなものなのだろう。
 行動を監視されているのであれば、シュティーナとマティアスの心の内を知らない訳がない。片方を攻めればもう片方が確実に魔神になることは必至。となれば、が必須。

「(一人で突撃させるわけにもいかないから、戦力をまた割かなければいけない、か……)」
 黙り込んだ宗八そうはちと先ほどまでの空気が違うことで、時を止められていたメンバーは何かがあった事は察している。
 しかし、時が止められている間の会話を聞いていないからこそ、宗八そうはちの言葉を待った。

「まぁ、戦力はなんとかするさ。シュティーナは魔神族として自分の仕事をやってくれればいい」
「わかったわ。ただ……」
 宗八そうはちの言葉に頷き返事を返したシュティーナだったが、別の懸念が脳裏を過ぎる。
「貴方達は良いとして……。この世界の防衛戦力はどうなっているのかしら?」
 敵対者として相対する時には見せない彼女の妙な気遣いだったが、宗八そうはちとしては敵に気遣われるほど甘い準備を進めた覚えはない。
 鍛錬を積ませた冒険者と兵士の数は、正直に言えばまだ足りない。。
 全ての町を護れるほどの人材を育てるには、時間だけでなく色々と足りないからこそ避難なり結界なり浄化魔方陣なりを準備しているのだ。どちらにしろ、彼女に正直に答える必要性を宗八そうはちは感じなかった。

「お前は気にしなくていい。今日の話でおおよその戦力も予想が付いたからな」
 シュティーナが持つ大鎌【アムネジア】は、異世界を越えて空間を渡るチカラを持つ。
 魔神族を消費して魔神を顕現させるという言葉を考えれば、その異世界は時限式に消滅する事となる。だったら、その世界で蠢いている瘴気モンスターを使わない手は無い。
 進むごとに数万単位で集結していたあの瘴気の軍勢が、複数の世界分この大陸に流れ込んでくるとなると、正直厳しいと言わざるを得ない。
 それに倒すたびにその場に残る瘴気の浄化も手を抜けば、その辺の有機物と紐づいて新しい瘴気モンスターが生まれる原因にもなる。

 肝となる結界魔道具と浄化魔道具の進捗状況はと言えば……。
 竜魔石———結界は無属性、浄化は光属性とそれぞれ必要なのだが、これは白竜の巣でいくらでも入手出来る。
 合金———魔道具に耐え得る金属は、ドラゴドワーフが選定した金属と先の竜魔石を掛け合わせて精錬してくれた。
 形成——魔道具という形に整える作業は、先の合金に海恵丑ウミノサチボッタルガの設計図、子供達が組み上げた魔方陣の二点を反映させ、鍛冶師のマサオミ氏が仕上げてくれている。
 彫金——完成した魔道具の出力上昇や消費魔力低減をする為、装飾を施す作業はエルダードワーフが協力してくれたおかげで、すでにいくつかの魔道具は完成している。

 各国の首都には配備が完了している。
 その他大きい町から順々に配備を進める予定ではあるが、こちらの戦力を考えれば小さい町の住人は大きな町へ避難してもらい、小さな町は少数だけを残して結界と浄化魔道具で耐えてもらうべきと考えている。
 最悪突破されて壊滅するかもしれないが、それだけで済むなら安いものだとも考えていた。

 これには魔族領への配備も計画に入っている。
 顔合わせが済んでいる魔王たちには話を通してはいるものの、破滅ヴィネアの被害が禍津屍マガツカバネしかない為か、未だに半信半疑の反応しか返してくれない。
 それに大きな町が少なく集落が点在しているので、本当に色々と面倒くさい事が乱立している状況だ。

「他、詰めておく話はあるのか?」
 情報の搾取だけして自分達の事を多く語らない宗八そうはちの不遜な態度に不満そうではあるものの、シュティーナの立場が破滅ヴィネアであり、この世界の敵である事実に変わりは無い。
 逆に、敵である自分とティータイムを一緒にすることを決めた宗八そうはちとアルカンシェの判断には、この世界に住む人類の芯の強さを感じたほどだった。
 宗八そうはちばかりに目を向けていたが、実のところ宗八そうはちと共に行動する彼女たちこそに注目すべきだったのかもしれない。

 そんな反省は今更だ。
 出会った当初は宗八そうはちも含めて明確な格下で……。
 勇者よりも活きが良く、察しも良かったからこの世界での暇つぶし相手に生き残らせたつもりだったのに、まさか自分たち魔神族の命運を握る存在に成長するとは、流石に当時は見通せなかった。
 ここまでくれば自分に出来る事は本当に片手で数える程度だ。
 それこそ、宗八そうはちが言うように「」くらいなものだが、願わくば自分の運命も、破滅ヴィネアの危機に今後さらされる世界も、解放される事を願いつつシュティーナは言葉を紡ぐ。

「———イクダニムに一任するわ。精一杯足掻いて頂戴」

 最後の一杯を飲み干した後、シュティーナは姿を隠した。
 全てを宗八そうはちに賭けるような台詞。
 その言葉の重圧には魔神族だけでなく、彼らの世界の解放も含まれており、釘を刺された形となった。
 この世界だけでも大変だというのに、何故他の世界の事までお鉢が回って来るのか……。宗八そうはちは重い溜息を吐かずにはいられなかった。
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