特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第01章 -王都アスペラルダ城下町編-

†第1章† -10話-[異世界人だけど、この世界が好きだから]

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「ん・・・うん・・・」

 目が覚めた。最後の記憶はアルシェに覆い被さったところだったかな?
 いやいや、それじゃロリコンだからね。
 魔力残量が少なくて安全な後方へ下がった途端に、
 力が抜けて気を失ってしまったんだったな。
 その時に支えてくれていたアルシェを巻き込んでしまっただけで、
 決して邪な意味で倒れてしまったわけではないのだよ。本当、本当。

「知らない天井だ・・・」

 こういう時は言わないといかんだろ?
 こんなセリフが吐ける場面なんてなかなか訪れないんだよ?
 人生はそんなに甘くないんだから言える時に言っておかないとね。

「起きましたか、宗八そうはち様?」
「あぁ、メリーか。
 俺の可愛い妹君いもうとぎみはちゃんと休んでいるみたいだね」
「先ほどまで居られましたよ。
 治療は致しましたのであとは自然回復で目を覚ますのを待つばかり、
 と聞いておりましたから姫様はずっと待っておられました。
 しかし、目覚める前に姫様の体力が尽きまして、
 今はお部屋でお休みになられています」
「そうか。あれからどうだった?ってか、どれくらい寝てた?」
「あの後は特に問題もなく浮遊精霊達はセリア先生が保護され、
 核に使われた珠の破片は、
 ギルドマスターのアインス様を通して魔法ギルドで研究するとの事です。
 事後処理に至っては王様と王妃様が頑張られておりますのでお気になさらず。
 倒れられてからは半日と言ったところです」

 メリーの言葉を聞いてやっと安心できた気がする。
 俺の意識が途切れた時はまだ何が起きてもおかしくは無いと、
 考えを持ったまま限界を迎えて気絶したからなぁ。
 まぁ、闘技場の戦闘は終結したということなら頑張った甲斐があったな。

「メリー。ポルトーや前衛を勤めてくれた彼らは無事か?」
「・・・・ポルトーと最後まで一緒に戦われていた戦士は無事です。
 あと、一番初めに殴り飛ばされた戦士も無事です」
「・・・あと2人居るはずだよ」
「セリア先生が言われるには、
 我々の体が負ったダメージのフィードバックに時間が掛かるのは、
 浮遊精霊の鎧が関係しているようです。
 浮遊精霊の鎧はダメージを極少量軽減する程度のものと考えられていましたが、
 実際は加護とも言うべきこの世界の住民を守るためのものだったようですね。
 その防御力を超える1撃を受けると浮遊精霊の加護を超えて、
 直接体にダメージが通ります。
 今回はその例で棍棒を正面から大盾で受けた戦士2人は、
 両手が使い物にならない重症を負われました」
「・・・回復魔法でも無理なのか?」
「はい」

 もっとやり様があったのではないか?
 彼らにタンクを任せるのはそもそもが間違っていたのは明白で、
 レベル差も敵の強さも予想の時点で次元が違った。
 アスペラルダの戦士で対応できるわけが無かったんだ。
 セリア先生が敵情報を伝えてきた時点で無理だから諦めよう、
 別の都市に居る高レベル冒険者を待とう。
 そう提案していれば、彼らの将来を奪うことは無かった。

 こんなスタート地点でドロップアウトなんて、俺には耐えられないだろう。
 冒険者を始めて、やっと初級から抜けた冒険者になり、
 いきなり降って沸いた災害級モンスターの前に立って後衛を守れと命令されて、
 挙句が・・・これか?

「あまり、ご自分を責めないでくださいませ」
「彼らに合わせる顔が無いじゃないか。無茶を強要した挙句だぞ・・・」
「それでも我等アスペラルダの臣民は宗八そうはち様に感謝しております。
 あの脅威は貴方様がいなければ倒すことは不可能だったでしょう。
 時間稼ぎにしても準備は整わず被害は今回よりも広がっていたはずです」
「被害が多いか少ないかの話じゃないんだよ!」
「多いか少ないかの話です」

 きっぱりと下す彼女に怒りが沸く。
 そうじゃないんだよ!俺は、もとは一般人なんだよ!
 死ぬとか死なないとか被害があるなしは関係ないんだよ!
 確かに死人は出なかった、でも今後も出ないわけが無い。
 この異世界は俺のいた世界よりも優しい部分もあるが、
 死が身近にあるのは確かなんだよ!俺の・・・俺は・・・・。

 言葉に出来ない激情が胸を駆け巡る。

「では、彼らに会いに行きましょう」
「え?」
「彼らがいま何を考え何を思っているのか、
 しっかりと聞かれたほうがよろしいかと」
「・・・無理だ」
「先ほども伝えましたが、我等は感謝しております。
 宗八そうはち様が考えられている事、傷つかれている事。
 それは貴方様が目覚める前にこうなるであろうと、
 あの戦闘に参加した全員が聞かされております」
「誰から?」
「アルシェ様と王様、セリア先生が。
 彼らには宗八そうはち様が異世界人でこの世界に慣れる為に冒険者を始めたことや、
 城で生活していた時の話、どんなことをしてどんな考え方をしているか。
 あの戦闘で被害を減らすためにどれだけの無茶をしたのか。
 そういう話をされました。
 見る人によっては一方的な戦いだったと言われるかもしれません。
 後衛にいた魔法使いの1人はもっと早く倒せていたのではないかと言われておりました」
「俺の判断ミスで犠牲が出たようなものなんだ。
 それは受け入れないといけないよ」
「しかし、それを否定したのは戦線復帰が出来ないと判断を下された戦士の方でした」
「え?」
「彼らは語っておられましたよ。
 ダンジョンに一人で潜っている冒険者の事を、どんな話で盛り上がったのかを、
 自分はどんな手助けを受けたか、話すとどんな奴なのか。
 彼らの中にはあの戦闘のことだけではなく冒険者を始めてからの宗八そうはち様がいらっしゃいました」

 涙が出ていた。
 喉が苦しくなり、鼻水も出る。
 そう、あの戦闘に参加した前衛は皆、顔見知りなのだ。
 だからこそ、苦しいのだ!嫌なんだよっ!人が傷つくのがっ!
 彼らが優しい気のいい奴らだと知っているからこそ!許すだろうからこそ!
 自分が不甲斐無くに憤りを抱くんだ!守りたかったんだよ・・・。

 滂沱のように流れてくる涙は枯れることを知らないかのようにしばらく流れ続けた。


 * * * * *
「おう、やっとお目覚めか(笑)」

 皆が集まる大広間へ入ったのは、起きてから1時間後だった。
 まだ折り合いはついてないが立ち止まっても居られない。
 話をしようと思い、こっそりと扉を開けて部屋へと入ったところでポルトーに見つかった。

「いや、結構前から起きてはいたよ。ちょっと心の準備が必要だっただけだよ」
「・・・そっか。もう大丈夫か?」
「大丈夫ではないけど、ね。
 話をした方がいいってメリーに言われてね」
「わかった。俺で良ければエスコートするぜ、どうする?」
「・・・お願いします」

 こうして、俺は戦友達と久し振りの対面を果たした。

「お前が悪いわけじゃないんだよ。
 ただでさえ強敵のキュクロプスが、
 何をするかわからない亜種だったうえに戦って生きてたんだぞっ!
 自慢にはなるが誰の所為でもないんだよ」

 腕を粉砕され冒険者を引退することになった戦士が俺に声を掛けてくる。

「・・・なんて、顔してんだよ(笑)。泣くこたぁないだろ」
「責められたかったって顔だな」

 遅れて俺達の元へやって来たのはもう1人のドロップアウトを強いられた戦士だった。

「俺らだってな、
 いまは落ち着いているが診断を下された時は騒いだもんさ。なぁ?」
「あぁ、大の男が二人して泣き喚いてな・・・そりゃ、そうだろ?
 ここはまだランク1のダンジョンがある街で、
 これから先たくさんの冒険が待っていたはずなんだ。
 悔しくないわけがないだろ?」

 足元が定まらない。怖い。
 俺ならと考えたら想像も出来ないくらい怖かった。
 俺は異世界人だけど、この世界の人と考え方とか捉え方、価値観は違うだろう。
 その俺がここまで怖いんだ、
 生活に組み込まれた冒険者という職種を閉ざされた彼らがその程度の恐怖なわけが無い。

「でもな、俺らは幸運だった!」

 顔を上げると全員が笑っていた。
 なぜ?

「俺らにはお前がいた!そのお陰で助かった命がある!
 その命のいくつかは俺が大切にしている人だろう!
 その先、未来を守ったあのレイドに参加出来た!
 街に被害を出さずに倒すことが出来た!
 倒した奴は俺らのダチで、努力家で、優しいやつだ!」
「そのお前になら、俺達の夢を託せると思えた。
 いや、託したいと思った!」
「俺達自身では見られない夢をお前を通して見せてくれ!
 俺達の友人はこんな立派な奴なんだと自慢させてくれ!」

 また泣いていた。
 ムキムキの戦士達が交代で俺を抱き締めて言葉を残していく。

「お前はまだまだこれから強くなるだろう、
 活躍はしっかりと拝見させてもらうぜ」
「俺達の夢を託したんだ。
 ちょっとやそっとで足を止めるな前を向いて歩き続けろ」
「俺は現役で続けるけど、今回の戦いで理解出来た部分も多い。
 手が必要になったら声を掛けてくれ」
「あの戦いを最後まで見届けられなくて悪かった!
 お前と交代した途端に気が緩んでな(笑)」
「お前は俺達を救世主と呼んだが俺達にとっての救世主は間違いなくお前だ。
 感謝をする人がいる事を忘れるなよ」

 戦士の抱擁が終わった後にその後ろから近づいてくる人がいた。

「体は大丈夫?」
「はい、お世話をかけました」
「じゃあ、良いわね」
「・・・はい」

 パンッ!!
 広場に響くのは俺の頬を叩いた女魔法使いの放つ音だった。
 目が覚めた部屋で聞かされた話に出てきた魔法使いとはこの人なのだろうと、直感でわかった。

 目に色んな感情が浮かんでは消えていく。
 そんな迷いを持ちつつも俺を叩いて来た。
 誰もが、俺が叩かれることを受け入れていた。
 それは理解や納得は出来てはいても、
 俺に中る事が出来ない部分を彼女が代表として叩いているからだと思う。
 前衛は皆、納得はしていたと思う。
 けれど、彼らのパーティメンバーが納得しているという話でもない。
 彼らには彼らで仲間が取り返しのつかない怪我を負った事に対して、
 ぶつけようの無い想いがあるのだ。
 敵は強大で誰が死んでもおかしくなかった、怪我で済んだのは不幸中の幸いだ。
 でも、なんで俺達のメンバーが怪我をしなくちゃならないんだ!
 なんで貧乏くじを引かされたんだ!と。
 仲間想いならばなおさら感情は高ぶり行き場の無い怒りが胸を満たす。

「これでチャラよ!!!!!」

 後ろを振り返りながら魔法使いの女性は全員に聞こえる声ではっきりと言葉にした。
 今度は彼女が貧乏くじを引いて、皆が納得できるように仕向けたのだ。
 叩かれた頬はジンジンと痛みが広がるが、
 感謝こそすれ何をするんだ!と怒り出すことじゃない。

「(ありがとうございました)」
「(別に。私は思い切り引っ叩けてスッキリさせてもらっただけよ)」

 俺から離れる前に感謝を伝えると、悪女のような顔を作って答えをくれた。
 この後は、戦友たちと祝賀会を開いて俺の気持ちの切り替えも手伝ってもらい、
 話し合いを積極的にして和解をすることも出来た。

 終了時にアルシェが起きたと報告があり、アルシェとも半日ぶりの再会を果たした。
 祝賀会に呼ばれなかった事と、
 ビンタ騒動に介入できなかった事の2点でいじけたが謝罪と撫で撫で、
 アルシェが居て心強かったと言葉と行動を重ねてなんとか許してもらえた。


 * * * * *
 翌日、時間をいただいているので起きてすぐに、
 アルシェとメリーを伴って王様と王妃様に謁見する。
 戦後報告とか色々話もしたいので時間を確保してもらった。

「・・・おぉ、来たかね」
「・・・おはよう、3人とも。
 報告では無事と聞いていましたが、
 ようやくこの目で確認が出来て安心しましたよ」

 謁見の間で1日ぶりに会った王様と王妃様はひどく疲れた顔をしていた。
 声をかけてすぐに娘を抱き締める王妃様。
 アルシェで癒され始めた王妃様は生気がグングン戻っているが、
 王様は本当にお疲れの顔をしている。

「おはよう・・「お母様っ!人前で抱きしめないでくださいっ!」・・ございます。王様、王妃様」
「まぁ、これが後処理を託された私達に出来る戦いだからね。
 頑張っているよ、ははは・・」

 空元気ここに極まれり。

「お疲れならば、時間や日を改めてからでよかったのでは?」
「いや、あまり時間を置かずに新鮮な情報が欲しかったからね。
 報告は受けているが、本人達からも聞きたいのだよ」

 聞く態勢に入った王様へ模擬戦後から気絶までの報告をする。
 王妃様もアルシェを抱きしめながらこちらの声に耳を傾けている。

「ふむ、君の新しいエンチャントは他の者でも使えるのかね?」
「うーん。使えるとは思いますけど、
 せめて精霊を認識できるようにならないと浮遊精霊の制御が出来ませんから、
 そこはセリア先生にお任せします。
 ついでに言いますが、俺が目指していたのは魔法を切るという現象であって、
 炎や氷で攻撃する技ではないんです。
 あれは制御しきれないが故の失敗作なんです」
「あれが失敗作か(笑)」
「お城からも宗八そうはちが放った炎や氷の一閃は見えていましたよ」
「失敗作とはいえ、範囲攻撃が出来て個人が運用するには威力も申し分ない。
 できれば、兵士や冒険者へ下位互換のような技が使えれば良かったんだがな」

 俺も今のままの使い方をし続けるのは反対だな。
 ただ制御が出来ていないだけで、
 魔力も無駄遣いしている部分があるし、
 範囲が広過ぎて対象以外にもダメージが発生してしまう。
 集団レイド戦になればなかなか使いどころが難しくて役立たずになってしまう。
 そういえば、兵士で思い出したことがあったな。

「俺も質問がありまして。
 この城の兵士がほとんど新兵しかいないのは何か意味があるんでしょうか?
 ずっと気にはなっていたんですが聞くタイミングが無くて・・・」
「そうだね。
 ここまでアスペラルダに関与してしまった君ならば、
 隠している訳でもないし話してしまっても構わないだろう。
 お前はどう思う?」
「私もかまわないかと」
「うむ。実はな宗八そうはち君・・・」

 俺がこのとき聞いた話はこの世界は着実に破滅へ向かっており、
 各国の領地で異変が起こり始めていること。
 アスペラルダでは純純種のキュクロプスが郊外で確認され、
 その討伐の為に兵士の上位陣のほとんどは出払っていると説明してくれ、
 各国の王達が世界存続の為に勇者召喚を敢行した事も合わせて教えてくれた。

 俺に関して勇者召喚以降は、
 魔法陣に魔力を注いでいないから召喚されるはずが無かった。
 本物のイレギュラーだという事を改めて説明された。
 本当に帰れるのかねぇ。
 異世界に到着してすぐに聞かされた話はずいぶんとオブラートに包まれた話だった。
 二人の気遣いを感じて嬉しく思うと同時に危機意識が起き上がる。
 俺はこの異世界が気に入っているし、
 この国に住む人々は皆暖かくとても居心地がいい。
 だが、闘技場での戦闘が脳裏をよぎる。

「そういえば、
 先の模擬戦でアルシェを連れてダンジョン攻略の準備が整ったわけだが、
 いつから始めるんだい?」
「数日はセリア先生と今回の騒動で保護した土属性の浮遊精霊関係で、
 滞在することになっていますので、
 それが済み次第すぐにでも潜ろうと思います。
 格上過ぎる敵と相対した感覚をもとに戻さないと、
 過剰攻撃や過剰行動で探索になりませんからね」
「あいわかった。そちらも準備が出来次第好きに城を出なさい。
 ただまぁ、一言あれば嬉しいがね」
「はい、かならず」

 そのまま謁見を終えて、
 そろそろお暇しようかと思った矢先にストップを掛けられた。

「申し訳ございませんが、遅ればせながら私からも報告がございます」
「おや、メリーが報告を遅らせるなど珍しいな」
「今回は宗八そうはち様からの命令で動きましたので、
 初めに報告がしたかったもので」
「え?何か頼んだっけ?」
「キュクロプス戦前に怪しい者の捜索を、と」
「あぁ、そうだった!
 で、どうだった?怪我とかしなかった?」

 すっかり忘れていた。
 戦闘がすぐに激化した事で完全に意識から外れていた。

「お気遣い痛み入ります。
 見ての通り、見えないところに怪我を負いましたが無事です」
「見てもわからんよ」
「それで?宗八そうはち君からどんな命令をされたんだい?」
「はい。私が宗八そうはち様から受けたのは、
 先も申し上げたとおり今回の騒動の首謀者捜索。
 他5名の足が速い者と分散して周囲の捜索をいたしまして、
 1名フードを被った不審な者を発見。
 そのまま捕縛に乗り出しましたが失敗。
 そのまま逃走されてしまいました」
「計6名で逃がした?そんなに厄介な相手だったのか?」

 戦闘前に指示していたとは言え完全に失念していた索敵。
 身体能力がステータスで高くなるとはいえっても、
 所詮は身軽になる程度の恩恵しか無い。
 それでも6人構成が追いかけて逃げられるって・・・。

「まず、動きが人間離れしておりましたので、
 攻撃を回避しつつ私は相手に尋ねました。「貴方は魔族なのか?」と。
 念のため尋ねた言葉なので返答は期待していませんでしたが、
 驚くことに答えは返ってきました。「我々は魔神族だ」と」
「魔神族?魔族と違う存在なのか?」
「ふむ。私も聞き覚えがないな」
「私も図書館の種族分布で魔神族という種はいませんでした」

 誰も心当たりがない?
 この世界の住人の記憶に無いなんてあるのか?

「他には何か言ってましたか?」
「はい。キュクリプス・・・私が最後に確認したのは岩山になったそれでしたが、
 あれについて確認をしました。
 回答は「実験体の処理」だそうです。
 捨て場を探したら丁度人が集まっていたから捨てただけだと」
「・・・ほう」
「・・・なるほどね」
「・・・そうですか」

 捨て場ねぇ。じゃあ何か?俺たちが対処に失敗していた場合、
 国に多大な被害を出すほどの失敗作をぽいっと捨てただけだと?
 大事な物を軽視された。そんな気分だ。
 王様もアルシェも同じ感情を抱いたようだ。

「そのまま、
 逃げて行ったので我々は城へ帰還しメイドとして尽力して今に至ります」
「わかった。報告ありがとう」

 俺の頭の中で今まで読んだ異世界物や、
 ファンタジーの違和感が次々とアラートを鳴らし始める。
 この世界も例に漏れずに破滅を抱えており、
 今ここで[魔神族]という単語が現れた。
 危機意識は王様方も感じているようだが俺の方が高いだろう。
 バットエンドを幾つも読めばそれだけの可能性がこの世界にだって起こり得るのだから。

「・・・・・」

  やっぱり、勇者じゃないからとか望まれた異世界人じゃないからとか、
 そんな小さい事に拘らずに最前線まで出て自分の目で真実を確認して来よう。
 杞憂ならいいさ。
 だが、今動かなくて後々にアルシェや、
 この国の人々を失うような状況になったらと思うと動かないわけには行かなかった。

「王様、王妃様、アルシェ。
 私は[死霊王の呼び声]を攻略した後は、
 すぐにでも次ランクのダンジョンを保有している国、
[フォレストトーレ]へ向かおうと思います」

  だから、決意した。

「メリーの報告から、
 この世界は何か得体の知れない者に脅かされている可能性を感じました。
 俺の世界の創作物ではいくらでもその手の話はありまして、
 黒幕と呼ばれています」
「黒幕?それが世界異変の背後に居るかもしれないと?」
「はい。これから俺は、
 異世界人の視点から情報を集める諜報員として動いていこうと思います。
 このまま勇者だけに期待して待つよりもこの世界のためにも、
 俺が帰るためにも出来ることがしたいと愚考致します。
 それに、戦友から託された夢もありますので」
「・・・わかりました」
「お前・・・」
「お母様・・・」
「王妃様・・・」

 一番に許可をくれたのは王妃様だった。

「報われる事が無いかも知れませんし、誰も評価をしてくれないかも知れません。
 それでも世界の為に動いてくれますか?」
「はい。ただ、待っているだけでは駄目なのだと。
 この世界を全く知らない俺の感覚に引っかかる何かから守りきる可能性に繋がるのであれば構いません。評価はしないでくれた方が心持ちが楽なので平気ですよ」

 許可をした本人がそんな顔をしないで頂きたい・・。
 複雑な内心を表したかのような顔で見つめてくる王妃様に対し、
 俺は真っ直ぐに視線を返す。

「・・・・」
「・・・わかった。
 こちらからも協力者が増えたことを各国の王へ伝えておこう」
「助かります。では、この場は失礼致します」

 そうだ、俺一人で出来ることは少ない。
 チートも持ってない異世界で小さくとも出来ることをしなければ、
 今回の騒動で得た答えが無駄になってしまう。
 皆とはなかなか会えなくなるだろうけど、
 それでもこの異世界が持ち得なかった角度の視点で異物を見つけよう。
 宗八そうはちが謁見の間を出るまで声を発さなかった少女が己の家族へ声を掛ける。

「お父様、お母様。一生のお願いが御座います」
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