特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -08話-[風精使い]

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「やあっ!」

 隊長が落ちてから体感的には二時間くらい経った。
 あの人何してんの?早く戻ってきて欲しいんですけど。

「ははははははっ!おらっ!」
『それはボクが通さないですっ!』
『ノイ姉様、助かりましたわー!』

 私たちが相手をしているのは[ナユタ]という名の魔神族の一人。
 確か正式名称は[イキりのナユタ]って隊長は言ってた気がする。

 戦法は基本的には格闘術。
 攻撃力自体は今のところ私よりも少し上だけど、
 ノイちゃんが[聖壁の欠片モノリス]で助けてくれている訳としては、
 攻撃速度が2倍から3倍くらい差があるから。
 こっちが攻撃したら2~3回攻撃を受ける為、
 回避と防御でどうにか時間稼ぎをしている感じだ。

「っ!逃がさないって言ってるでしょっ!!」
「お前もしつこいね。
 俺は地上の有象無象を殺して回るお役目をいただけたんだ。
 せっかくの晴れ舞台を邪魔するなよ」

 私に隙が出来るたびに逃げようとしてぇ!!
 ニルちゃんの磁界を私を中心として発生させているから、
 常に接近戦をし続けないといけないんだっての!!

 磁界の範囲内にナユタを捉える事で[アポーツ]を封じる事が出来る、らしい。
 まぁ、隊長が言ってただけだから本当の所はわからないけど、
 実際隊長に接近した際に使用してから1度たりとも使ってはいない。

 空中に居ても地上に居るかのようなキレと速度で攻撃はしてきても、
 移動自体は私とほぼ同じ速度だから、
 動きに注意さえしていれば逃げられる心配は無い。
 それにこいつの攻撃の本命は・・・。

「そらっ!」
「っぶな!」

 手のひらを無造作に私に向けて伸ばしてくる。
 何度か見ているこの動きは、
 隊長を落とす攻撃の前動作のようなものだと既に理解している。
 一度でもこの手に身体のどこだろうと捕まれば、
 手のひらの中心から雷の塊と表現するに値する棘が杭のように身体に刺さり、
 一瞬にして高威力の電撃を浴びせてくる。

 遊ぶように見せびらかすようにコイツは回避されているにも関わらずその棘を見せてはニヤリと笑うのだ。
 きもい。
 手の内を晒して余裕のつもりなんだろうけど、
 そのおかげか時間もかなり稼げたと思う。
 でも、そろそろ焦れてきたかな・・・苛立ちが見えてきた。
 攻撃も苛烈さを増してきて追った後もこちらが攻撃する前にあっちから切り返して仕掛けてくるようになってきている。

「《アスポーツ!》」

『《ハイソニック!》』
『《金剛!》』

「多連脚っ!!」

 ナユタが飛ばしてきた不可視に思える黄金のナイフを足技のみではじき飛ばす。

 アスポーツはアポーツの反対で引き離す効果がある。
 アポーツの原理は引き寄せる磁力を対象へ付与して、
 自分か対象を引き寄せるというもの。

 逆にアスポーツは引き離すという点から対象を遠くへ飛ばす効果だから、
 あのナイフを対象に直接磁力を付与しているからこちらの磁界じゃ妨害できない。

「ふぅ。ノイちゃん、どう思う?」
『あのマテリアル能力は厄介です。
 ボク達姉弟でもあそこまでの力は無いですから・・・』
『高威力の雷をナイフの形に押し固めたあれは、
 ニル達のオプションやクー姉様達が使う[虚空暗器こくうあんき]や[お魚さんソード]と同じ原理ですわー!
 それを詠唱も無しに即創り即射撃するコンボは厳しいですわねー!』

 隊長が戦わせようとしなかった理由が今ならわかる。
 地力がなんか・・・自分の知っている物差しと違うし、
 なんかわかんないけど気配が生理的に受け付けない。

「んっ!ふっ!やぁあああ!」

 あとあれだ・・・はぁ、はぁ。
 無理矢理ナユタの動きに着いて行ってる所為で体力の消耗が半端ない。
 近付かれれば警戒度がレッドアラームを鳴らして怖気が出るわ、
 離れれば磁界に納めないとと焦るわ。
 色々と気疲れする戦闘だけど、
 ニルちゃんとノイちゃんのおかげでなんとかここまで持たせられている。
 まぁ、ナユタが手を抜いている可能性は十分にあるから集中力を切れないのも疲れる一因だよね。

「打開策はない?はぁ、はぁ」
『今のところは見当たらないですわねー。
 全部で上を行かれている現状、何かで挽回したいところですけれど・・・』
『マスターが対魔神族用に創った波動ブラストであれば・・・。
 でも、マリエルも扱えないんですよね?』
「教えてもらってるけど概念の足がかりすら見えてないんだよね」

 そもそも魔力自体を攻撃に用いるとか考えがぶっ飛んでるんだよ隊長は。
 普通魔力とは魔法に変換して扱うものなのに、
 直接打ち込んで防御力を抜くってどういう思考でたどり着いたの?

『ソウハチはもっと柔軟に考えろといつも言っていますわー。
 つまり、打開するなら・・・』
「固定概念に囚われてちゃダメって事?
 私はあの人みたいに異世界人じゃないんだけどなぁ・・・」

 でも、考えないと。
 私に何がある?
 勝てる場所じゃ無くて良い。
 ナユタに無くて私たちに使える手段・・・。

『ニル達なら・・・』
「私達なら・・・」

 考えながらも戦いは続く。
 掴み掛かる動作は殴打よりも緩慢だから捌くのは容易い。
 手の甲で親指の付け根辺りから押しのけ、反らす。
 まともな格闘戦ならこのまま手首を掴んで引き、肘鉄や鉄山靠てつざんこうで吹き飛ばす。
 でも、ハイソニックで差を縮めたとはいえ、
 余裕があるわけではなく接触も極力したくはない。

「そらそらそらそらそらそらっ!!」

 うるさいなぁっ!
 今色々考えてるんだから静かにしてよっ!!

 こうして楽に捌けているのも、
 ノイちゃんが聖壁の欠片モノリスで攻撃可能エリアを限定してくれているからだけど、
 多分本気で攻撃してきたら1枚程度は容易く抜けてくるのだろう。
 ノイちゃんはその辺も考えて既に2枚重ねて徹してくれている。
 私たちの閉塞感を理解して考える時間を極力作ってくれようとしているのがわかる。

 正直、私より精神面は大人だよね?

『ニルもそう思いますわー!』

 ニルちゃんは声に出さないでいいから、頭動かして!

 空中なのにアクロバティックな動きで攻撃を続けるナユタ。
 それを辛うじて躱し捌き・・・やっぱり素早さかな。
 さっきから攻撃の順番が回ってこない・・・、
 これじゃあ負けないけど勝てない。
 勝てないし、いずれ着いていけなくなって負ける。

 余裕が欲しい。
 もっと拮抗したい。
 もっと、もっと、もっと!

 必要なのは力。
 求めるは真なる加護。
 極めるは神速。

 私の結論はこれしかない。

「いいかな、ニル」
『いいと思いますわー、マリエル』

 想いは一致した。
 シンクロしているからわかる。
 そして二人のように自由というわけではない事も。

『ニルは姉様達に比べて位階が下ですからねー!仕方ないですわ-!』
「それでもっ!」

 風精セリア=シルフェイドは言った。

「大精霊テンペスト様っ!」

 この戦場は風精の守護領域であり、
 この世界にいる風精の目は大精霊テンペストへと繋がっている。

「私、マリエル=ネシンフラは力を求めますっ!」

 精霊達もこの瘴気の問題については注目している。
 そして、風精と契約して戦うマリエルの名も風精の中で知られるようになっていた。

「全てを守れなくてもかまいませんっ!
 全てを倒したいとは望みませんっ!」

 セーバーのような例もある。
 幼い頃に精霊と交流がありそのまま加護をもたらされた彼だが、
 風精と適性が高い者が産まれればテンペスト様にすぐに伝わって加護を授けるというのが賜る通常の流れだそうだ。

「時間を稼ぐだけしか出来ないかもしれません。
 でも、ニルチッイと一緒に負けたくない戦いが、今!」

 あれ程魔神族と相対するのを嫌がっていたあの人が攻撃を受ける覚悟を持って釣り上げたんだ。
 その魔神族の相手を一時的とはいえ任せられたんだ!
 絶対下手な事はしたくない!

『ニルも!マリエルと一緒で負けたくないですわー!!
 これまでどれだけ頑張ってきたと思っていますのーーーー!!』

 ニルちゃんはちょっと不満が溜まっていたらしい。
 甘えて息抜きは出来ていても相手が強すぎて結果を実感できないもんね・・・。

『テンペスト様ぁーーーーー!!
 ニルに!ニルに力をぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!』

 ニルちゃんじゃなくて私が加護を貰いたいんだけど。
 まぁ私たちの想いが届いているなら間違えようがないと思う。

「何をごちゃごちゃと言っているんだっ!」
「うるっさいわね!今大事なところなんだから邪魔っ!しないっ!でっ!!」
『恥かきたくなかったら前屈みになっていろですわー!!』
『それは使う場面が違うですよ、ニル・・・』

 怒鳴りながら攻めてきたナユタを久しぶりにしっかりと迎撃した。
 こちらも怒鳴りながら。
 気が大きくなってしまっているのがわかるけれど、
 この流れは嫌いじゃない。

 あと、ノイちゃんの冷静なツッコミが耳に痛い。
 でも、盛り上がった私たちは止まらない。

亭々ていていたるマリエルが大精霊テンペストへ願います!!
 色々と打開したい件が多いので私は自分の進むべき道を風精ニルチッイと共に戦い抜く力をお授けください!!」
『力をぉぉぉぉー!!!』

 ・・・・。
 祝詞とは恥ずかしくて言えないレベルの願いは口にした。
 戦闘もなお継続している。
 しかし加護の付与は行われず、胸の奥には恥ずかしさだけが残った。
 セリア先生の嘘つきぃ!!!
 あとは決意を口にするだけって言ったじゃないですかぁ!!!

 ピリリリリリリリ。

 その時揺蕩う唄ウィルフラタが鳴った。
 こんなタイミングに一体誰だろう。
 私たちは今もの凄く忙しいというのに。

『セリア様から連絡が来ているようです』

 先ほどは内心とはいえ悪態をついて申し訳ありませんでした!
 こ、こここ、このタイミングという事は加護の件で間違いないんじゃないっ!?
 私は焦りながらも戦闘の隙を見てYESを押し込んだ。

〔やっと出ましたわ。
 結論だけお伝えしますが、加護の取得は受理されましたわ〕

 よしっ!

〔ですが、真なる加護の祝福は身体に馴染むまで時間が掛かりますわ〕
「あ!そういえばメリーさんが・・・」
『数日掛かると言ってましたわー・・・』

 こんなところでトンだ落とし穴が。
 どうしよぉ、やっぱり私冷静じゃありませんでしたよ隊長ぉぉ。
 先走った結果、結果が着いて来ないなんて・・・。

〔落ち込まなくてもテンペスト様は代替案を用意くださいましたわ〕

 なんですと?

〔1日だけ、24時間だけ仮の加護を祝福いたします。
 これならすぐに戦闘に用いることが出来ますが、
 時間が来れば空の上だろうと死にかけだろうと強制的に戦闘力がダウンしますわ〕
「かまいません!
 今だけ、今さえ乗り越えられれば後は隊長達がどうにかしてくれますから!!」
〔わかりました。
 《大精霊テンペストが臣、セリア=シルフェイドが名代として加護の祝福をいたします。
 次代を紡ぐ新たな担い手に風精と生きる力をもたらさん!
 風精に祝福あれ!!》〕

 途端に起こった変化は顕著だった。
 セリア先生の祝詞が終わると目の前にウインドウが出現し、
 そこには[テンペスト神の加護(仮)を取得しました]と書かれているのが読める。
 身体も緑に強く発光をし始めた。

「うわわっ!?なにナニ何!?」
『落ち着きなさいマリエル、加護を取得したのです?
 まずは戦闘に集中するです、ニルは加護で起こった変化を整理ですよ』
「わ、わかった!」
『かしこまりーですわー!』
〔制御力から戦闘力まで魔法が関係する何もかもが風雷属性限定ですけれど上昇したと思いますわ。
 落ち着いて扱ってくださいまし〕

 そう言い残すとセリア先生は通話を一方的にお切りになられた。
 聞きたいことはまだあるんですけど・・・。

 そこからは色々と違いが一気に溢れてきた。
 ナユタも私が発光し始めてからは逃走も戦闘もせず様子見に切り替わっていた。

 身体の細胞が、私の生物としての何かが、入れ替わっていくのがわかる。
 十分に扱えたとは言いがたいけれど、
 私の中に存在していた水氷属性の制御力は態を潜め、
 代わりに周囲の風の支配が進んでいく。
 身体の発光が染みこんでいくに従って、
 風の存在が手に取るように把握出来るように変化しているのが、理解が進んでいく。

『ふわぁーーー!マリエルから良い匂いがし始めましたわー!』

 に、匂い!?どういう事!?
 私臭いってこと!?

『良い匂いって言ってますわ-!加護の付与で良い感じですわよー!』

 やがて発光は終息し、全て身体に解けきった。
 真の加護。流石だと思った。
 こんな力はそうそう人が手にして良いモノじゃない。
 私が人より精霊に近い妖精だからそう思うのかもしれないけど、
 妖精が元来持つ制御力と今を比べると雲泥の差だ。

 その力を認識して尚、ナユタの方が強い。
 判断できるだけマシなのかな?

[以下のスキルが使用可能になりました。【ユニゾン】]

 ステータスや肉体に変化はない。
 でもスキルが解放されたことで心の中でカチリと解錠アンロックされたような音が聞こえた気がする。

「ニルちゃん、時間もないし行こうか」
『話は姉様達に聞いていますわー!
 少々過激になりますから気をつけるのですわよ-!』

 スゥゥゥ・・・。
 重なるブレス。重なる意思で紡ぐ言葉。



「『《ユニゾン!!》』」



 胸元に浮いたニルがそのまま後ろに下がって私の胸に触れると、
 その姿は私の中へと飲み込まれていく。
 ニルとのユニゾンの波紋は胸から広がっていき、
 やがて全身の変身が終わりを告げる。

「何だその姿は・・・。
 今まで見てきたこの世界の奴にそんな力はなかったぞっ!」

 当たり前じゃない。
 ナユタを鼻で笑う。

 私の装備は様変わりしてどこかの民族衣装のように見える。
 腰の大きなリボンはニルの元々の衣装だから隊長の趣味?
 ニルの好みでもあるんだろうけど。

 髪はどうなってんのこれ?
 姫様とメリーさんのユニゾンは見たことあるから、
 ニルの髪型基準になってると思うんだけど・・・。
 後ろ髪は自然と二つに分かれて伸びていて、
 私のツインテールがあった辺りにも髪の存在を感じる。
 というか、なんか髪全体がフワフワしてる・・・。静電気?

 背中は・・・羽があるけどこれは小さすぎて飛べないね。
 あ~なるほど、空中での姿勢制御とかで使うのか。

「無視は良くないな、クソ女っ!!」

 ナユタの素早い突喊とっかん
 身体能力が劇的に上がるわけではないけれど、
 制御力が比べものにならないくらい数段上がっている。

 風を読めば攻撃を弾くのに焦りはなかった。

「乙女になんて口を聞くのよ!
 隊長だってそんな言葉を言わないわよ!」

 続く連撃を捌く。
 こちらの3倍速いナユタを相手に今度はノイの支援がなくても凌ぎきる。
 答えは単純。追いついたわけじゃない。
 でも、身体の動きを風が読んでくれる。

「ハハハァ!言ってろ!その隊長とやらは落ちただろ!
 肉体が残ったのは驚いたが3発だ!3発入れば中身はズタボロで生き残れる奴は居ねぇ!!」
「じゃあ今にまた驚くんでしょうね!ご愁傷様!
 隊長を殺せる奴はそうそう居ないんだから!
 自分の無能さを呪いながら死ねっ!!!」
「お前が死ねぇ!!!」

 およそ乙女とは言えない言葉遣いでののしり合いながらも攻防は続く。それでもマリエルの頭は冷静だった。
 激情は胸に宿るも状況の確認は落ち着いて行っていたのだ。

 マリエル、やはりあの風使いの魔神族はニル達よりも支配力が強いですわねー。

 やっぱりか。
 翼を持つ魔神族と勇者の戦場から実のところ徐々に離してはいたのだが、
 この距離でも縮まればこちらの操れる風が減る。
 これ以上は離れたがらない様子からも、
 多分あっちが後衛でナユタが前衛みたいなツーマンセルなのかな。

「《風神脚!》韋駄天いだてんっ!!」

 足に集まる風に魔力が注がれ密度が増す。
 胸を開かせた隙を突いての超加速で蹴りつけたナユタは勢いよく吹き飛んでいったが、
 ダメージに繋がったから判らない為離されないように後を追う。

「とりあえず隊長が言ってた様に魔力は出来る限り高めてみたけど」
『今まではHITすらしなかったですから、進歩はしてるですよ。
 それにダメージには繋がっていると思うですけど、
 もうちょっと他にも気を回した方がいいですよ?』

 ノイちゃんの指摘はもっともだ。
 私たちがユニゾンをしたのは今日が初めてだし調整もクソも出来ていない。
 それに時間制限もある。
 隊長がいつ戻ってくるかわからないのが不安だけど、
 その辺はノイちゃんが気を利かせて容態の確認はしてくれている事だろう。
 龍の魔石も無いから自前の魔力を練りに練って濃度をできる限りあげて、
 それを全て足に集中させた蹴りだ。

 多少はダメージに繋がっていてくれないと困る。

「なるぅ~。見た目だけじゃないんだな。
 こりゃこっちも真面目にやらないとか・・・」

 まぁそうだよね。
 無傷っぽい。
 これも聞いてはいたけど、
 見た目でダメージを負わせたという判断が出来ないのは精神的にキツイ。

 魔神族は倒せない相手じゃ無い。
 それは隊長と姫様両方の見解だ。
 ダメージは通るけど高濃度魔力でなければまともに入らないし、
 ステータスだけ見てもおそらくレベル100の人間を大きく超えている。

 以前のフォレストトーレでは運が良かっただけ。
 龍の巣では相手は後衛だったから近接戦が出来ただけ。
 今回で言えば、近接高速戦闘型ってところかな?

「来い!ミョルニル!!」

 ナユタが手を掲げて叫ぶと、天から一際鋭い雷がその手に落ちる。
 目映い光とそれを手にするまでは一瞬で邪魔すら出来ない早業でナユタは得物を手に入れた。

まずいです・・・。
 あれは雷という概念を鎚の形にあつらえた代物ですよ』
「ユニゾンしててもあれはヤバいってヒシヒシと肌と気持ちが言ってるよ」

 胸がゾワゾワする。
 あれはノイちゃんの防御も私達の雷耐性も何もかもをブチ抜くほどの威力を持つ。
 大きさはそれほどでもないのに武器自体が覇気を放っているなんてあり得なくない?

「行くぞ」

 来ないで。

 制御力をノックバックに極振りしますわー!!

 ニルの機転で足を包むつま先からの逆巻きの風が性質変化する。
 次の瞬間には高速で迫る黄金の鎚と私の蹴りが衝突した。

 本来であれば数mは吹き飛ばすであろう威力の蹴りから追加効果でさらにノックバックが発生する・・・。
 はず・・であったが、
 ナユタにはほとんど効果が見えず精々が1m程度しか下がらない。

「風の膜で直接触れないようにしたのは正解だなっ!
 でもそれはいつまで持つのかな!?
 《アスポーツ!!》」
「やっぱりどっちも使えるよねっ!」

 そう、いくら制御力が強力になったところで、
 倒す方向に使用出来なければジリ貧でいずれ押し巻けてしまう可能性は十分にある。
 それでもナユタが言うとおり直接触れるのは拙い代物なのだ。

 ズグンッ!
 左右の手に周囲の空気を集約すると拳に小さな嵐が宿る。
 風はその辺にいっぱいあるから魔力で生み出さなくても集めれば威力が出るからいいよね。

 得物はかなりデカイ。
 こういう時の対処方法はセーバーさんやリッカさんを相手に訓練で教わった!

『ハンマーと聖壁の欠片モノリスがぶつかったらすぐに動き出すのですよ』
「『はい!』」

 正面切ってのぶつかり合い。
 振りかぶる鎚の流れ、腕の振り、筋肉の動き。

「焦げ落ちろ!」

 ナユタには私が無策に突っ込んできたように見えるだろう。
 何故なら無造作過ぎるから。

 視界外でパリン!と何かが割れる音が連なり5つ。
 もう1秒もあれば残る3つの聖壁の欠片モノリスも破壊されて私たちはナユタの宣言通りに焦げ落ちるだろうけど。

「《風神脚》断頭嵐だんとうらん!!」

 実際の1秒後には、ナユタの背後に私たちは現れた。

「っ!?な!!ぐ、ああああああああああああああああ!!」

 かかと落としと共に魔力マシマシの風の斧がナユタの肩へと振り下ろされ、
 遙か低空まで落ちていった。

「おっと、大丈夫?ノイちゃん」
『事前に何が起こるか教えてもらって無いと死んでたです』

 落下を始めたノイちゃんをキャッチ。
 全て破壊された聖壁の欠片モノリスを再び呼び出しながらノイちゃんは息を吐いている。

 何が起こったのか。
 簡単に言えば支配している磁界内での瞬間移動。

 アポーツと同じ原理で自分自身を電子に分解し、
 ナユタの背後で再構築しただけ。
 言葉で言うのは簡単だけど、
 私は生きた心地がしていない。

 だって、現実に私という存在は一瞬だけど居なくなったんだもん。

 アポーツのようにもの凄く遠くからの移動は出来ないけれど、
 近接戦闘中に一瞬のうちに移動出来る上に再構築時にはすでに攻撃態勢に入れている。

「追撃に入ります!」

『あまり下に落としすぎてはダメですよ!
 彼は初めに兵士達を殺すような事を言ってたですからね!』

「了解!《解除パージ!》」

 両手に圧縮した風を解放して落下速度にブーストを掛ける。

 磁界内に再び捕らえましたわ-!

「ちっ!《ライトニング・フリーゲン!!》」

 まだ距離があるにも関わらず振るわれたミョルニル。

 しかし、今回は打撃の為ではなく溜めるように振り抜かれた先から、
 雷球がいくつも発生し急加速をして私たちに向かってきた。

『そのまま進むです!』

「了解!」

 ノイちゃんは宣言通り雷球を聖壁の欠片モノリスで受け止め、
 あるいは受け流してすべてを置き去りにする。

「死ねぇええええええええっ!!」

「《アスポーツ!》」

 もう加速は十分だ。

 叫びながらナユタの意識を自分に集中させながら、

 両腕を引き絞る。

 《転送テレポート!》

 ナユタの放ったナイフ群は先に使った電子化で回避。

 これ本当に一瞬だから視界が少し先にいきなり進むからちょっと怖いよね。

 あ!ノイちゃん!

『ボクより先にやることをやるです!!』

 また落下しているノイちゃんの声は怒気を孕んでいた。

 そりゃ何の打ち合わせも無く足場が無くなって、
 ナユタのナイフが襲いかかるんだもんね・・・。

 ちゃんと自分の身を守れるノイちゃんじゃ無かったら隊長に殺される事態に発展している所だ。

 ズグンッ!!

 今度は両手と腰のリボン。

「《風神双衝ふうじんそうしょうおおぉぉぉぉ!!」

「なめんなよおおおおお!!!!」

 それはこっちの台詞!!

 《転送テレポート!》

 次の瞬間の視界は数cm先を金の鎚が通り過ぎるところだった。
 背後取れてるけど、きわ過ぎるってニル!

 《解除パージ!》

 ニル!容赦ねぇ!!

 リボンはマテリアルでこしらえたものだったらしく、
 途端に硬直して加速を手助けしてくれる。

「ぐっ!?」

 殺す殺す殺す殺すコロス!!
 魔力!全開!!

「はああああああ・・」

 打ち込むは腰。
 私の動きにちゃんと反応して空振ったのに切り返してきたその鎚は、
 再び私の鼻先を掠めていった。

 吹き飛ばしが間に合って良かった・・・。

 ズグンッ!

「次!」

 《転送テレポート!》

 私が妖精で人間の成分は半分だけの所為か、
 雷を操るよりも風からプラズマを作った方が操りやすい!

「《雷神衝らいじんしょうおおぉぉぉぉ!!》」

 即転送テレポートで上に先回りしての追撃。

「がっ!?」

 追撃。追撃。追撃。追撃。

 追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。

 追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。

 追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。

 追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。追撃。

「・・・・っはあああああああああああああああ~~~~」

 無酸素連撃キッツゥ~~~!!

「あ、ノイちゃん!」

 転送テレポートで放り出したままだった!

『ボクのことなら気にしなくても良いです』
「うわっ!?そっか、いつもソレ浮いてるもんね」

 思い出したばかりのノイちゃんはすぐ近くまで来ていた。
 なんと聖壁の欠片モノリスに乗って。
 便利ぃ~。

『ここは二人に任せても良さそうなので、
 ボクはマスターと合流するです』
「わかった。隊長には私が頑張っているってちゃんと伝えてよね!」
『マスターならちゃんとわかってるですよ。
 守りが弱くなるけど避ければ関係ないです、気をつけて』

 b!

 d!

 ノイちゃんはぴゅーんとユレイアルド神聖教国の方へと降りていった。
 やっぱりクールだけどニルちゃんと同じ姉弟だね。
 隊長が大好きで心配だったんだね。

「さってと、こっちも、もうひと頑張りしましょうか」

 視線の先。
 首を回してやっと身体がほぐれてきたかのように。
 無傷のナユタが私に震えるほどの殺気を放っていた。
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ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

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