特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -09話-[精霊の呼吸]

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「先せぇ~、もういいっすかぁ~?」
「まだで~す」

 こんな身体でよく生きてましたよ、ほんとうに。
 魔力は水無月みなづきさん持ちだから私の負担が少ないのは幸いだけど、
 ここまで時間がかかる治療も私、初めてです。

「クレア様、もう3時間経ちました。
 一度休憩を入れられた方がよろしいですよ」
「1時間の時も2時間の時も伝えた通りですよ、トーニャ。
 アスペラルダの精鋭を早期復帰が今はベストなんです」

 魔神族が現れた。
 メリオ様も紅い夜とやらが発動してからすぐに動き出したのに、
 さほど時間も経たずに代わりに現れた水無月みなづきさんは死にかけだった。

 あの短時間で何があったのか。
 聞けば3発の攻撃を受けただけらしい。

「しかしっ!」
「教国はアナザー・ワンがいるからモンスターだけならいくらでも耐えられるでしょう?」
「それは・・・そうですが・・・」

 もう、集中しなきゃいけないのに。
 トーニャは五月蠅いですね。

 それにしても確かに3時間も治療をしているのに全快していないのは事実。
 それだけ重傷だったって事だけど。
 あのスキル。
 破壊された肉体の補填をスキルが行って生き残らせていた。

 辛うじて生きていたのが、今はちゃんと生きている。

「自己強化、自己回復、自己補填・・・・。
 多分ですけど水無月みなづきさんが気付いていない効果もありますよ、このスキル」
「そうかぁ?」
『そこはワタクシも思いますわ。
 精霊使い専用スキルでしょうし、詳しくはワタクシもわかりません』

 アニマ様でもわからないスキル。
 肉体損壊の回復と同時に水無月みなづきさんの体組織に高濃度魔力が編み込まれていく。

 精霊使いは精霊と人、どちらの性質も持つことが出来る存在。
 本人や精霊、文献を参考に予想は付いていましたけれど、
 魔法として使う魔力とは別に、
 いま正に肉体自体が精霊に近付く過程を目の当たりにしている。

「アニマ様、本当にこのままで水無月みなづきさんも大丈夫なんでしょうか?」
「何その質問。怖いんだが・・・」
宗八そうはちの選択ですからね、ワタクシは関知しません。
 何より、いま登場している魔神族。
 あれも似たような肉体の作りなのではないかと思っています』
「魔神族は精霊使いに近い存在なのですか?」

 だとしたら、水無月みなづきさんを参考にすれば・・・。

「ところがそう簡単じゃない」
「どこが問題になるのですか?」
「俺はあんなに頑丈じゃない」

 聞く所によれば、魔神族の耐久力は生物としては異常らしい。
 基本的には高濃度魔力を用いた攻撃で無ければまともに通らない。
 しかし、ダメージには繋がらなくてもノックバックや攻撃を当てることで時間を稼ぐことは出来るとのこと。

「勇者も同じレベルの攻撃が出来ないとなぁ・・・」
「魔神族には属性があるのでしょう?
 隷霊れいれいのマグニが闇属性なら攻撃も通るのではないですか?」
「そんな単純ならいいんだけどな」

 どうやら単純じゃないっぽい。
 振り返るとトーニャとサーニャが水無月みなづきさんを睨んでいる。
 この二人は強い部類に入るけど、
 魔法には精通していないので魔神族の時間稼ぎは出来ても倒すことは出来ないことになる。

 他のアナザー・ワンだって魔法を捨てて武力のみを鍛えてきた。
 この世界の一般的な魔物や兵士はそれだけあれば基本的には倒せる。

 魔神族と破滅ってどこから来たんだろう・・・。

「そろそろ治療も終わりそうです」
「こっちも迎えが来たな」

 水無月みなづきさんの言葉に目線を動かせば、
 天幕に小さな女の子が連れたサーニャが入ってきた。

「失礼致します。水無月みなづき様にお客様です」
『マスターがお世話になってるです』
「いらっしゃいませ」

 小さいのにちゃんとしている・・・。
 クーデルカちゃんと似た性格の娘さんですね。

『クレア、土精のノイティミルさんです』
「ハミング。意外と水無月みなづきさんの所の精霊と仲が良いですよね」
『冒険とか色んな話が聞けて面白いですし、尊敬もしていますから』

 ほぇー。
 私がアルシェから話を聞くようなものですか。
 尊敬もしているところがなんともまぁ私の契約精霊らしいですね。

『容態はどうです?』
『聖女クレアの話ではほぼ完治しているようですぅ』
「本来の治療は一度再生魔法を掛けて時間を掛け自然治癒を行うものですが、
 水無月さんに施した今回の再生魔法は今一時的に治癒異常を起こさせたものです」
『戦えるのであれば問題はないです。
 マリエルとニル、頑張ってるですよ』
「そうか」

 あら、嬉しそうな顔。
 これが噂の本当の笑顔とやらでしょうか?

『ん~?やっぱり3時間も離れると集中が切れていますね』
「ちょっと寝たからな」
『ニル達の状況は把握できてるです?』
「死にかけたお陰か。
 ここまで離れていても、なんとなくからもう少し分かるようになったぞ。
 ユニゾンを選んだな」

 水無月みなづきさんの言葉にノイちゃんがニコリと笑う。
 ユニゾンって何だろ。
 こういう精霊とわかり合ってる感じ、いいなぁ。

「ほぉ~ら、ちゅっちゅ」
『人前でっ!ぐぐぐ、そういうのはやめるですっっ!』

 そう思っていたら何故か急にノイちゃんを抱き上げて頬にキスし始める。
 ノイちゃんも恥ずかしがって全力で抗ってはいるけれど、
 如何せん身体の大きさが違うから結局ちゅっちゅされている。

『はわわ!ノイティミルさんがっ!!
 ついに、ついに水無月みなづきさんの頭がおかしくっ!?』
「ちょ、ちょっと待ってくださいハミング、落ち着いて。
 かなり失礼な事を口走っていますよ!」
『あの程度はままあるですぅ』

 えぇ!?あるの!?ままあるの!?
 こんな甘々な水無月さん初めて見たぁ~!
 というほど顔を合わせてはいないけどさ。

『厳しいけど、ああやって時々ストレス発散であやしてるですぅ』
「今、ストレスを抱えてるんですか?」
『負けず嫌いですからね。
 負ける覚悟は出来ていても負けるつもりで戦場には出ていないという事ですぅ』

 トーニャもサーニャもうんうんと頷いている。
 私は前に出て戦わないからピンと来ないけど、
 前衛にとってはそういうものなんですね。

「もうじきに治療も完了しますからね。
 おとなしくしてください」

 そう言うと水無月みなづきさんはノイちゃん抱いたまま大人しくなった。
 ノイちゃんは諦めたのかされるがままに・・・。
 ついでにアニマちゃんも抱き上げられていった。
 こちらも諦めた顔で・・・。本当にままあるんですね。


 * * * * *
 一方、その頃・・・。

「ふぅ・・っ、はぁ、はぁ」

 キツイ。
 前回出会った魔神族はよく覚えている。

 時空を超える苛烈な攻撃を繰り出し、
 辛うじて水無月みなづきさんのフォローを受けて戦えていた気になっていただけだった。

 その後襲来したもう一人。
 滅消めっしょうのマティアスに殺された。
 殺されたんだ。勇者として喚ばれた俺がだ。
 戦いもしないままに、無力に、殺された。

 水無月さんは死にかけてはいたものの生き残り、
 助かったのも魔神族のお情けだった。

「あれから方々からもかなりお小言を言われたし、
 仲間と一緒に鍛え直しをしたってのに・・はぁ、はぁ」
『流石は魔神族というべきでしょう。
 それでも私の方が武器として勝っているだけマシでしょう』

 確かに。
 目の前にいる羽が生えている女。
 水無月みなづきさんを落とした男の後ろに着いていた女。
 無手に見えたけど、
 戦闘が始まれば違うとわかった。

 無手は無手だ。
 肘まである豪奢な手袋もしている。

 問題は無手でも戦える能力を有していたことだった。
 逆に言えばそれに特化しているから武器が必要ないタイプだ。

「まだ・・・やる・・の?」
「やるに決まってるだろ!」
「何も・・・出来ないの・・・に?」
「やる意味がある!倒せなくても俺が相手をするのは一番いいから!」

 無表情な女だ。
 顔立ちは綺麗なのに、その全てがどうでもいいと語る顔。
 あれが彼女の行動を読むのに邪魔になる。

「渦巻いて」

「ぐうぅぅぅ!」

 彼女が言葉と共に素手で殴りかかってくる。

 しかし、その拳も風が纏わり付いており、その威力は絶大。

 風の圧縮が過ぎて歪んで見える拳を盾で防ぐが片腕だけで支えきれずに後ろへ流される。
 衝撃の凄まじさに盾が凹んでないかと心配になるレベルだ。

「《ヘリオン・レーザー!!》」
『シフト:極光!』

 体勢を整えた俺が発射した無数のレーザーをエクスがまとめて太い放射へと変化させる。

「逆巻いて」
『っ!シフト:ペンタゴン!』

 逆巻いて。
 この言葉の意味は手を翳した方向に大型のラウンドシールドを発生させる。
 もちろん、風であり正面からでは彼女の視認が難しいほどにその範囲が歪む。

 エクスが一塊となったレーザーを再び分散させて風の盾を回避。
 レーザーは狂い無く魔神族へと五方向から向かい着弾する。

「やっぱり効いていないか?」
『風の鎧ですか。厄介な・・・』

 戦闘が始まって以来、
 盾は一度出した位置から動かした例しがない。
 その盾を回避して本体に攻撃を加えられたとしても、
 次に攻撃を防ぐのが風の鎧。

 切断、打撃は風の押し返しで攻撃力が激減。
 魔法にしても今回のように煙の向こうから無傷で出てくるのだ。
 同じく風の鎧で肉体へ届いていないのだろう。

「風の鎧を抜いたとしても、
 エクスカリバーじゃダメージは与えられないのか?」
『少なくとも普通の武器に比べれば精霊が元となる武器ですから、
 魔力が影響するようですしマシというレベルでしょうか?』
「与えられるけど、少ないって事か・・・」
『精霊使いは龍の魔石を使った一閃であればダメージは通ると言っていました。
 あんな出力を精霊が使っていてはすぐに魔力枯渇してしまいます』

 龍の魔石・・・か。
 そもそも龍なんて見たこと無かった。
 図鑑や絵本には載っていたし居るんだろう。
 その程度の認識だったけど、まさか水無月さんが連れてくるとか・・・。
 ホントはあの人が勇者なんじゃないかと心が折れ掛けたのは嫌な思い出だ。

 仲間とエクスには感謝だ。

「じゃあ方針だけど、
 倒すのは正直難しいから魔神族が撤退するのを待つってことでOK?」
『オーケーです』
「条件はどうなるかな?」

 倒せないなら時間を稼ぐしかない。
 しかし俺やあちらのマリエルさんが1日や2日戦い続けられるわけもない。

『一つ、こちらが敗北したとき。
 二つ、敵が目標を失ったとき。
 三つ、敵が動く条件を失ったとき。
 四つ、倒す』
「四つ目は無理だって・・・。
 俺、これでも全力で動き続けてるけど、
 ゆらりふわりと不思議な動きで躱されたり攻撃が届かなかったり。
 勇者として言っちゃいけないんだろうけど・・・勝つイメージが出来ない」

 この世界に来たときは全部が、まぁ、怖かった。
 一人で魔物やモンスターとの戦いがある世界に来たんだから。
 召還されてすぐの頃は記憶も混乱していて怖いよりは嬉しさの方が強く出ていたけど、
 いざ戦闘ともなれば手が震えた。

 勇者として召還されたのに手の震えを知られてはまずいと思った。
 失望されてしまうのも怖かった。
 怖い怖い怖い。恐怖ばかりが先行してきて、もう、耐えられなくなって。
 アスペラルダの王都を出た。

 1人旅も怖かった。
 でも、兵士を付けられてゆっくり鍛えるのも、
 俺が恐怖を抱えた欠陥勇者と言われるのも怖くて、
 なぁなぁでぬるま湯に慣れるのも嫌だった。

 勇者に憧れた俺が、色々と、そういうのに負けたくなかった。
 正面から戦って、勝って、自信で自分を固めたかった。

 大変だった1人旅も割と短い期間で終わりを告げた。
 すぐに勇者の噂を聞きつけたマクラインが仲間に志願してきた。
 正直、すげぇ心強かった。

 でも、今は俺だけ。
 少し道を間違えた事もあったけどこの世界に来たときとは違う。
 自信を身に纏ってこの場に赴いて、
 魔神族の前に足を震わせながら出て来たんだ。
 死にたくはないけど、精神的にトラウマを乗り越えないと。

「1の敗北は今回集まった各国の勢力が、ってことだろう?
 2の目標は人間の殲滅?
 3は指示を受けて来たっぽいから撤回されればかな」
『どれでも紅い夜が影響を及ぼしていますから、
 我々は戦闘を熟しつつ月の調査をする必要もありますね』

 そんな無茶な!?
 俺、戦闘のことしか考えてなかったよ!?

『はぁ・・精霊使いの方がまだ先を読めていますね。
 おそらく月の調査が最優先でついでに魔神族をなんらかの方法で誘き寄せたのでしょう』
「なんで誘き寄せてんの!?」
『どこに居るかわからない不安を払拭する為。
 引いては仲間や私たち他国の為ですね』

 勇者だ!やっぱりあの人が勇者だよ!!
 と、言っても水無月みなづきさんって結構謎の人だし、
 そういうの興味なさそう。

 ともかく、やるべき事は見えたから、
 死なないように立ち回りつつ戦闘域をもっと上昇させて、
 紅い夜の打開策を見つける!

 この戦場にいる全員の為にもっ!!
 俺の為にもっ!!!











「勇者っ!!!避けてくださいっっ!!!!!」

 え?

『高魔力反応!急速接近っ!!!』

 マリエルさんの声を皮切りにエクスも慌てふためく声を発した。

 シンクロでわかるエクスの意識は俺の下方へと向かっていて、

 俺もすぐに事態を理解した。

 視線を向けた瞬間と今。

 その間に一気に迫る魔力の塊がもう目の前に迫っている。

 身体全体で感じることが出来る程に、

 この魔力の流れに飲み込まれるのは死と同義だと!

『魔神族をギリギリまで引きつけますよっ!メリオ!』

「りょ、了解っ!!」


 * * * * *
 時間は少し逆戻り・・・。

 場所は聖女クレアの天幕。

「んん~~~~~~っ!!」

 回復に集中していた所為か、
 身体の柔軟性は失われていてストレッチをするとバキボキと色んなところが音を発した。

「治療は完了しましたけど、
 想定外に水無月みなづきさんの身体はもはや人間とは別物になってしまいました」

 身体を解している俺の元へクレアが心配そうに近寄ってくる。
 今更だが、この豚がクレアなんだったな・・・。

 紅い夜の効果は聖女だろうが容赦なくオークへと姿を変え、
 そんなことは関係なく俺の治療は完了していた。

「魔力伝導率っていうのかな。
 それが段違いになっているから精霊の呼吸エレメンタルブレスが指の先々まで浸透しているし、
 筋力だけじゃなくて眼も皮膚も進んでるな」
「進んでる?」
『魔力がしっかり見えるようになったですぅ?』
「応。くっきり見えてる」

 今までは身体の中に高濃度魔力を満たして身体強化をしていただけ。
 いまは一度壊れた身体に高濃度魔力を編み込みながら治癒した箇所が【新しい何か】に作り変わっている。

「今までと何が違うんですか?」

 違いはそれなりに感じ取れた。

「魔力が見えるのはさっき言ったけど、
 生きているだけで魔力を消費し続けているな。
 多分皮膚や臓物や眼といった破損箇所はすべて魔力を消費する代償に人間よりも丈夫になったとかかな?」
『触った感じは変わらないですよ?』

 ぷにぷにと触ってくるノイにも同じように頬をぷにぷにしてやる。
 うりゃうりゃ。

『少なくとも魔法抵抗力はかなり向上しているでしょう。
 眼も魔力の伝導率が違うから魔力が見えるようになったと仮定すれば理解は出来るですぅ』
「ここに来て急激に精霊に近付いて人間から離れたな」

 魔法をより身近に感じる。
 本当に生まれ変わったような感覚だ。
 俺、人間?元の世界に戻ったらどうなんの?

「ってかさ、これ。
 精霊使いとしての質も上がってないか?」
『質は確かに上がっています。
 ただ、それも数段階一気に上がっているのがワタクシにも不思議なんですぅ』

 やっぱりそうだよな。
 落とされる前と比べてもそれぞれの契約精霊の居場所がもっとわかる。
 前は方向程度でどのくらい離れているのかは曖昧だったけど、
 今はかなり距離に関しても理解できるまでになっている。

「なんで一気に精霊使いの質が成長したんですかね?
 治療を受けただけの様な気がするんですけど」
「1度瀕死になることが条件だったとかしょうか?」
「その後身体を作り替えるのが条件だったとか?」

 クレアの疑問にトーニャとサーニャが予想として回答している。
 その言葉を聞き届けてからアニマに視線でどうなのか?と確認するが、
 こいつも首を横に振ってわからないと意思表示をする。

『一応ワタクシの知る限りの精霊使いは数名居ますが、
 精霊の呼吸エレメンタルブレスまで覚えたのは極わずか。
 その中でも高濃度魔力利用まで進めた者は、宗八そうはちだけですぅ』
「おぉ、俺って優秀なんだな」
『色々と規格外なのは確かですね。
 精霊の強制加階かかいに始まり、
 幼いとはいえ7人もの精霊と契約し・・』
「フラムはまだだぞ」
『いずれ契約するんですからマスターは黙ってるですよ』

 ノイに怒られたンゴ。
 マスターなのに。

『新しい魔法の開発、新しい技術の開発、無精王アニマの顕現、
 各精霊王との謁見など挙げればキリがありません。
 今までの精霊使いは先ほどまでの瀕死状態から復帰も出来なかったでしょうし、
 検証のしようもないですぅ』
「アニマにわからんなら誰にもわからんさ。
 とにかく今は戦線復帰が叶ったんだ。
 マリエルが落ちたって報告もないしニルの存在は上にあるから、
 俺もさっさと上がる必要がある」

 それに治療完了直前に発現したスキルに関しても気になる。
 レベルでは無くジョブレベルの上昇によって会得したスキル名は、
魔力付与ギフト】。

 会得と同時に扱い方も脳裏に焼き付いた。
 これは所謂いわゆる、【魔法使いの花嫁】なんだ。
 俺の知っている知識の方は、
 魔力過剰蓄積体質の女性が男性と性交することで魔力を分け与える特殊体質のことだ。

 これの良い所は魔法の才能がない、
 産まれた時から魔力を持てない体質の相手に才能を与える事が出来る点だ。
 さらに俺のスキルに至っては、
 問題点の「性交」を省ける点が素晴らしい。

「サーニャ、こっちに来い」
「なんで私を指名?しかも命令系だし・・・」

 モノは試し。
 剣の道一筋のアナザー・ワンは最高のモルモットだ。
 2匹いるけど、顔を合わせる機会が多いし口が悪い妹の方に付き合ってもらおう。
 もし後遺症とか残った場合を考えて片方は残しておかないとな。

 サーニャは文句を言いつつ近寄ってきた。
 何故かクレアもだ。
 君はいいんだよ。才能があるんだからね。

 なでなで。

 姉のトーニャも付いてきた。
 君もいいんだよ。1匹でいいんだ。

「自分のステータスを見て居てくれ。
 今から新しいスキルの実験を行うから」
「淡々と言っている所申し訳ありませんが、
 私がそれに付き合う必要性も義務もありません」
「クレア」

 パッチン。

『そんな、犬猫じゃないんですから・・・』

 指パッチンひとつでクレアはサーニャの前にズイズイと出て来て見上げる。

「サーニャ、付き合ってあげましょうよ。
 水無月みなづきさんが不利益な事をするわけないじゃないですか」
『はぁ、尻尾が見えるようですぅ』
「ぐっ・・!汚いですよ!水無月みなづき様っ!」

 使えるモノは親でも使え。
 俺の場合は、店長でも社長でも使えるなら使う。
 校長でもだ。
 今回は聖女クレア様を使わせていただいたに過ぎない。

「仲間にすぐ使えるか試せる貴重な時間だ、無駄にするんじゃないよ。
 ほら、背中向いて自分のステータス観察してろ」
「何かあったらタダじゃ置きませんからねっ!?」
「サーニャ、私にもステータス見せてください」
「クレア様ぁ~・・・」

 泣き言をぐちぐち言ってたけど、
 最終的には後ろを向いてステータスの観察を始めたサーニャの両隣には、
 クレアとトーニャが興味深げに並んだ。

「いくぞ」
「ご自由にど~ぞ~」

 投げやりな返事だけど返事は返事だ。
 発動には接触が必要なようだから背中に手を当てる。

「《魔力付与ギフト》」
「ふあっ!?」

 おぉ!?俺の中の魔力が接触している右手に集中していくのがわかる。
 接触面から魔力光が溢れている。
 白い光だ。
 その光がサーニャの身体に広がっていき輪郭がくっきり光で浮き彫りになった。

 これ、アレだな。
 亜神の加護の祝福と似ているな。
 光は終息を見せ、サーニャの身体へと吸い込まれていった。

「あ、INTとMENが30も上がってますよ!」
「称号に魔力付与が追記されましたね」
「確かにこれだけステータスが上がれば中級のいくつかまでの魔法が扱えます」

 やっぱり称号に繋がったか。
 時間制限もないしこれはひたすらに使いまくった方がいいスキルだな。
 ってか自分には流石に使えないだろうから、
 俺のスキルなのに俺だけ恩恵がないって有りかよ・・・。トホホ。

『実験は成功ですね、マスター』
「そうだな。
 一応デメリットがないかの確認も必要だし、
 トーニャとクレアには止めておこうな」
「ですね」
「同意します」
「クレア様っ!?姉さんっ!?」

 初めて会った時に比べてずいぶんと表情も豊かになったな、この姉妹は。
 クレアとの関係も前よりフランクになってる。

 さてと、そろそろ俺も動き始めましょうかね。

「高濃度魔力の補充も終わった。俺達は戦場に戻るよ。
 治療してくれてありがとうな」
「いえ、聖女として当然ですよ!
 でも、皆さん心配するのでもう来ないでくれると嬉しいです」
「ははは、俺もそうそう聖女のお世話にはなりたくはねぇよ。
 サーニャは体調とかステータスとか注意深く観察しといてくれな」
「次に会ったら一発殴らせてくださいね」

 ははは、またまたぁ~冗談ばっかりぃ~・・・。
 おっとぉ、アレは本気の顔だ。
 次に顔を出すときに忘れないでおかないと普通に防御も取れずに殴られてしまうな・・・。

「ノイ」
『はい』

「『《土精霊纏エレメンタライズ!》』」

 いつもの感じでノイを纏う。
 しかし、つい数時間前とは明らかに違う点が感じ取れる。

「マジか、ここまで違うんか・・・」
『密着度が違うですね。
 無意識に逃げていた力も今後は寸分の目減りもなく伝わると思うです』

 服で言えばブランドによって大きさが同じS・M・Lでも違いがある。
 いままではその若干の違いがあったけど、
 今は本当にぴったりのサイズにブチ当たったような感じだ。

 無意識に逃がしていた力は物理だけではなく、
 魔法も同じく無駄遣いのムラが発生していたらしい。
 それがいまヒシヒシと理解が進む。
 今までは自分は現状ベストだと思っていたけれど、
 実際のところは無駄やムラも多かったんだな。

「天幕の前の開けたところ使わせてもらうな」
「何をするんですか?」
「これから空に上がるのは面倒だし、
 ここから直接月を攻撃してみるよ」
「え?すごく高高度だからって話でしたよね?」

 結構飛んだのに全然着かないって話は治療の暇な時間を使って伝えていたので、
 クレアも事情について少し理解している。

「今ならやれそうな気がするんだ」
「楽しそうですね」
「不謹慎です」

 姉妹はうるせぇよ。

「危ないから天幕に引っ込んでるんだぞぉ~。じゃあな」
水無月みなづきさん!お気を付けて!」

 クレアとクルルクス姉弟に見送られて、
 俺はユレイアルド神聖教国サイドの開けた場所に陣取った。

高濃度魔力砲ドルオーラ、行くぞ!」
『溜め込んだ魔力は水氷属性ですけど、問題はなさそうですね』

 属性違いのノイからもお墨付きが出た。
 狙いは紅い夜の発生と共に現れた月の魔道具の破壊。
 ついでに気を利かせたマリエルとメリオが魔神族を魔力砲に落としてくれると助かるな。フヒヒ。

 指は全てコの字に折り曲げ、右手は下に。
 左手を上へと重ねそれぞれを噛み合わせて魔力のチャージを開始する。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。

 以前よりもさらに熟達した制御力をフルに使い、
 急速に魔力は高まっていき両手で作った顎もまた魔力に押し上げられて自然と開いていった。

『ん?クレア達が天幕から覗いてるですよ?』
「地響きは伝わるからな。
 それにハミングも一緒なんだ。魔力の高まりとか情報を伝えて興味をひかれたんだろ」

 危なくはないけど何かあれば姉妹が身を盾にして守るだろうし、
 俺は気にせずチャージを続ける。
 地面は何カ所か盛り上がりを見せ、
 様々な断層を形成し始めている。

 開いた顎の中央部には蒼天そうてんの輝きを宿した魔力球が出来ていた。
 これこそが今回の砲弾だ!

『チャージ完了!』
「《高濃度魔力砲ドルオーラ!!》」

 月を目指して撃ち放たれた蒼天そうてん色の砲撃は、
 ユレイアルド陣営の上空を切り裂き、
 廃都の空を高く高く伸び上がっていった。
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