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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -44話-[≪ランク8ダンジョン≫フォレストトーレ王城⑤]
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宣言後に戦闘の狼煙が上がるのは早かった。
黒紫のオーラで包まれた二人は武器をこちらに構えると問答無用で攻撃を開始する。
「キヒヒ!これは~どうかしらねぇ~」
軽い口調で放たれたのは同じく黒紫のオーラに包まれた弓矢。
同時に3本射撃する技術は体の持ち主であるヒューゴの得意とした技だが、
射速は明らかに現在の方が上だ。
先頭に立つ俺が防ごうかと思っていたけれど、
横からマクラインが大盾を構えて前に出てきて矢を受けてくれた。
ガガガンッ!!
声に出さなくとも全員がその威力に驚きを隠せない。
レベルこそ高いしスキルだって使って強い矢を射ることはヒューゴだって可能だけれど、
3射を撃つ際にスキルは[乗らない]はずだ。
しかし、今の3射は明らかにスキルありの威力ですべてに[乗っていた]。
「魔法って~尖らせるに限るわよねぇ~。《アイシクルエッジ》」
「は~い、次いくわよ~」
「ミリエステ!」
「《ブレイズダンス!》」
「《光翼斬!》」
フェリシアの方も普通のアイシクルエッジではなくフロア全体の床だけでなく、
壁や天井まですべてを凍てつかせてこちらの動きを阻害してきた。
これも良く知るフェリシアには出来なかった芸当だ。
ミリエステには必要最低限の阻害解除をお願いし、
俺は再び飛んできた黒紫の矢を浄化し威力を落とす。
「クライヴさんは手を抜いてくださいね。
さっきの女性の様に手加減無しだとまた壁のシミになっちゃいますから」
「ちっ、こりゃ骨が折れるな。
魔神族ってのはこんな厄介な能力を持ってやがんのか…」
さっき隷霊のマグニが乗っ取っていた女性に比べれば、
流石にフェリシアもヒューゴもレベルは高いしステータスだって高水準だ。
それでも後衛である事には変わらないので防御力に不安があるのも事実であって、
クレイヴさんの一撃の結果を見たあとで仲間にも同じ末路を感じるのは仕方ないことだ。
とはいえ、光属性の魔法を当てれば黒紫のオーラも祓えることは実証済み。
俺はやる事に変更はない。素早く浄化してダンジョンをクリアする。
制限時間は10分。それが彼らを[蘇生]出来るチャンスタイムとなる。
動揺はあるし、仲間に剣を向けるにしてもこれは訓練ではないから、
どこまでやっていいのかという不安もあって力加減が抜けがちになってもいけない。
「いくぞ!」
「近寄らせるわけないでしょ~」
「逃がすわけもないよなぁ!」
ヒューゴには俺とクライヴさんが、フェリシアにはマクラインとミリエステが。
ともかく手札は知っていても威力や規模や運用にここまで違いがあってはジリ貧は免れない。
先の逃げるスピードも牽制の矢も油断ならない速度と反射神経にキモが震えた。
「あら美味しい隙ありぃ~。《レイボルト》」
「があああああっ!?」
「ヒハハァ~!《強弓》」
「クライヴさん!!」
それはヒューゴだけではなくフェリシアも同様に魔法の発動が極めて早まっており、
ヒューゴへの手出しを躊躇して逃げ道を塞いだクライヴさんの刺客から一筋の雷が走り彼の体に硬直時間を与え、
その隙にヒューゴが凄まじい手さばきで矢を番えるとそのままクライヴさんを支柱のひとつに縫い合わせた。
「ヒューゴッ!!今すぐ体を取り戻せ!ヒューゴッ!!!」
「勇者って甘いわねぇ~、キヒヒ。
この男が目覚めることはないわぁ~、何故なら精神いっぱいにワタシが詰まっているんですものぉ~!
キヒヒャハハハハハ!!!!魔力が回復する隙間がないなら生き返る事も出来ないのよぉ~っ!!」
声を再び掛ける。時間もない。
しかし無情にも返事はヒューゴの声音をしてはいても中身が別人であり、
ついでに俺たちの儚い希望も否定してくる。
「メリオ!こちらもあまり保たない!!」
「魔法だけじゃないわ!
レベルに見合わない身体能力も持ってて、杖の殴打でマクラインの大盾が凹むわよ!!」
フェリシアの方は辛うじてミリエステが魔法を相殺している様だが、
相殺に見合う魔力を消費している為か顔色が先にみた時よりも幾分も悪くなっている。
マナポーションを飲む暇もないほどの攻防の隙に時折魔法がこちらに飛び、
ヒューゴもマクライン達へ向けて矢を射る。
『メリオ!』
「《クラッシュハンマー!!》」
ヒューゴの弓での殴打に盾が力負けした挙句に無防備になった俺にヒューゴが矢を番えた瞬間。
土煙の中から飛び出てきたクライヴさんの技でヒューゴは吹き飛ばされ一命を繋げることが出来た。
「クライヴさん!その腕……」
「あぁ…、使い物にならなくなったから置いてきた。
もう手加減していられるとも思わんが、勇者の判断を尊重はしたい。どうする?」
戻ってきたクライヴさんの左腕の肘から先が無くなっていた…。
後から聞いた話だけど、先の強弓を回避しようと足掻いた結果運悪く肘の骨を直撃して破砕。
衝撃も酷くて筋肉も千切れて自由に動かすことも出来なかったため、プラプラするくらいならと自身で最後の繋がりを絶ったそうだ。
「ヒューゴもフェリシアも助けたい気持ちに嘘偽りはありません。
勇者なら仲間を見捨てない。絶対に助けるまで諦めない……でも」
この世界は物語の様に都合よく展開することはない。
俺たちがモタついている間にダンジョンの外でも戦いは続いていて人々は傷付きながらもすべてを終わらせるために必死に戦って居るんだ。
俺が突然魔神族に有効な技を閃くことも、エクスが真の力を発揮することも、奇跡的に援軍が現れることもない。
これが現実。これが…俺の…勇者の物語……。
体感だけど、時間も7分くらい過ぎた頃かな…。あの強さを相手に試行錯誤するには時間が無さ過ぎた。
死者蘇生のタイムリミットまで後3分で2人から魔神族を抜いてダンジョンから脱してクレシーダ様に頼るにはどう頑張っても……。
それにクライヴさんもこのまま放っておけば出血多量でHP全損も有り得る状況だ。
すまない……。友よ…。
「最善を尽くします。連携でヒューゴを殺せますか?」
「……隙さえ作ってくれれば命を賭してでも任されてやる。
このザマじゃあ一矢報いるのが精いっぱいだからな…」
「お願いします…。 エクス!!」
『《ワイドサンクチュアリ!!》』
「マクライン!ミリエステ!全力でフェリシアを抑えてくれ!」
「「応!」」
覚悟を決めて駆け出した先から矢が複数向かってくる。
それらを冷静に見極めて必要最低限の防御と斬り払い掠る物は無視して突破する。
「やっぱりこの体じゃ出来ることも少ないわねぇ~!」
徐に上段へ上げられる弓は黒紫のオーラを強めていく。
見覚えのある構えと気配に次に起こる結果を予測して声を張り上げる。
「足元警戒!魔力をすべて持っていかれるぞ!!」
「《グラトニーソウルザッパー!!!》」
「ぐっ!おおおおおおおおおっ!!」
狙われたのはクライヴさんだった。
弱っている所を狙うのは戦闘の常とはいえその所業に不愉快になるのは仕方ない。
彼は掠りながらも足元から生えた黒紫の剣身を回避して俺の後を追ってくる。
「《輝動!》」
『《ホーリーバインド!》』
「アヒャヒャ!その程度でぇ~」
「《セイクリッドセイバー!》」
ズブリと何の抵抗もなくエクスカリバーがヒューゴの胸元へと飲み込まれた。
隷霊のマグニが精神体であればヒューゴの体を殺しても実質マグニを倒せたとは言えないだろう。
それでもマグニに蝕まれた者が助かる方法があるとすれば、肉体を滅ぼしてでも解放してあげることくらいだからこそ…っ!
『《セイクリッド・エクスプロージョン!》』
「《デモンズフィニッシャーッ!!!》」
ヒューゴが抵抗する前に突き刺した聖剣が聖なる爆発を起こして彼を守る黒紫のオーラを剝ぎ取った瞬間。
詰め寄ったクライヴさんは胸元に刺さるエクスカリバーを避けるようにして抱きしめる仕草でヒューゴの体を薙ぎ払い、
腕が通過したヒューゴの体は文字通りえぐり取られていた。
初めからそこには何もなかったかのように綺麗な断面で内臓や筋肉や骨が見え、
ヒューゴの上半身が斜めにズレ落ちていくのを俺は瞳に焼き付ける。
クライヴさんの腕からはヒューゴの一部だった物が小さく握り固められ、その手から床へと零れ落ちる音が耳の奥までこびり付いた。
込み上げる感情に呼吸が浅くなる。
それでも隷霊のマグニに肉体を奪われているのはヒューゴだけではない為、
感情をすべて無理やりに飲み込んでクライヴさんと共に踵を返す。
「《フレアーヴォム!》」
「《ホワイトフリーズ!》」
「《プラズマレイジス!》」
「《ストーンランス!》」
マクラインとミリエステの戦場は魔法の撃ち合いになっていたが、
マグニの所為でタガが外れたフェリシアの魔法は同じ中級魔法でも威力や発動が段違いな為、
ミリエステが相殺する場合も中間ではなくミリエステに近い場所で激突する。
その爆風や殺しきれなかった魔法の影響はマクラインが大盾で受けてダメージを抑えていた。
「二人とも待たせた!」
「ヒューゴを何とか出来たのか!?」
「それよりミリエステの顔色が悪い、MPが切れかけているだろ。
ここからは俺たちが前に出て対応する!」
「メリオ…。すみません……」
戦闘前にMPは全回復させてから戦いは始まったはずだけど、
相殺させるために通常よりも魔法に魔力を注いだ所為でこの短い時間で枯渇寸前まで追い込まれていた様だ。
「動きを抑える」
「お願いします。
マクラインはミリエステの守りに付いてくれ!」
「あぁ!頼むぞ!」
下がった二人はすぐにヒューゴの事に気が付くだろう。
彼らだって俺と同じ様に長い時間をヒューゴとフェリシアと過ごしてきたのだ。
もしかしたら…いや、確実に彼らには責められるけれど、
俺だって今もあの選択が正しかったのかなんてわからない。
これからフェリシアも殺すことを直視すると覚悟が揺れる。
『一緒ですから』
「ありがとう…、エクス!」
ブレた覚悟をエクスが包み込んでくれる。
一緒に背負ってくれる。味方になってくれる。
後悔は絶対にするし今後の事を考えれば鬱になってしまいそうだけど、
仲間を見殺しにするなんて納得は出来ない行為だけど…。
「貴女を倒します!フェリシア!」
「勇者に仲間を殺す覚悟があったのは想定外だったけれど~、これはこれで面白くなったかしらぁ~?」
素早く接近したクライヴさんの拳を避け杖での殴打で反撃をするけどそれは空を切り、
さらに追撃で蹴り技を連続で放つもののすべて杖で捌かれる。
「《ウインドブラスト!》」
「《光翼斬》3連!」
発生した複数の風弾は視覚的にはどこにあるか全く見えない。
しかし、各魔法の初動は対処出来るようにと覚えたので、
ある程度風弾が発生する位置に予想を付けて発射される前に破裂させた。
「《ホワイトフリーズ!》」
『《ブレイズ・リュミエール!》』
「《ホーリーバインド!》」
「《ブリッツ!》」
大量の濃厚な冷気に対抗するための魔法をエクスが代わりに撃ってくれ、
俺はフェリシアの動きを止める魔法を発動させた。
クレイヴさんはスキルを使用して今までで一番の速度を持ってフェリシアの背後に回った様だけど、
冷気の全てを無効化出来ていない状態で突入したため、凍てついた体は動きに耐えられずに皮膚が裂け失った腕の傷が大きく広がる中、
残った腕でフェリシアの頭を固める。
「キヒヒヒヒヒヒヒ~」
「《ライト…エクスカリバー!!》」
最後に歪に笑うフェリシアの顔を見たあとは光に包まれ、
彼女とクライヴさんはエクスカリバーの奔流に飲み込まれる。
その光の向こうからは尚もフェリシアの笑い声が聞こえていたものの、
途中に「ゴキッ」と音が響いてからはその笑い声もピタリと止まった。
折れそうな心を必死に支えて周囲の警戒に意識を向け、
仲間を見殺しにした現実から少しでも目を背けたかった。
事前に使用していた[ワイドサンクチュアリ]のおかげで、
隷霊のマグニが再び仲間の身体を乗っ取る事は防げているものの本当に終わりなのか判断も付かず身動きできずに少しの間周囲を見回すが何も起きる気配はなかった。
そして、フロアの中心に黒く輝くオーブが現れた。
「終わっ…た……?」
「入口の霧も消えている。ボス戦が終了したと見て間違いないだろう」
経験豊富なクライヴさんも近くまで寄って来てそう言ってくれた。
その肩には動かなくなったフェリシアの死体が担がれている。
辛い戦いが終わった…。
そう、認識した瞬間に俺の膝から力が抜け床に倒れ込んだ。
『メリオ!もう我慢の必要ありません。良く、良く頑張りました…』
「我慢…?も…う……」
剣から人の姿に変わったエクスが俺を抱き留め優しい言葉を掛けてくれる。
その温かさと本当に戦闘が終わったことが身体と心に広がると、
俺の覚悟は呆気もなく決壊して後悔の波に押し流されるままに滂沱と共に聲が溢れ出した。
「——あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!
お”れがっ!お”れ”が~~!殺したあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」
マクラインもミリエステもエクスに縋り泣く俺の傍に戻ってきたのに俺を責めない。
代わりに寄り添い、共に涙を流してくれる。
「俺たちの力が足りないばかりに、辛い選択をさせてしまってすまなかった…」
「ぐすっ。ごめんね…、ごめん…メリオ……」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」
黒紫のオーラで包まれた二人は武器をこちらに構えると問答無用で攻撃を開始する。
「キヒヒ!これは~どうかしらねぇ~」
軽い口調で放たれたのは同じく黒紫のオーラに包まれた弓矢。
同時に3本射撃する技術は体の持ち主であるヒューゴの得意とした技だが、
射速は明らかに現在の方が上だ。
先頭に立つ俺が防ごうかと思っていたけれど、
横からマクラインが大盾を構えて前に出てきて矢を受けてくれた。
ガガガンッ!!
声に出さなくとも全員がその威力に驚きを隠せない。
レベルこそ高いしスキルだって使って強い矢を射ることはヒューゴだって可能だけれど、
3射を撃つ際にスキルは[乗らない]はずだ。
しかし、今の3射は明らかにスキルありの威力ですべてに[乗っていた]。
「魔法って~尖らせるに限るわよねぇ~。《アイシクルエッジ》」
「は~い、次いくわよ~」
「ミリエステ!」
「《ブレイズダンス!》」
「《光翼斬!》」
フェリシアの方も普通のアイシクルエッジではなくフロア全体の床だけでなく、
壁や天井まですべてを凍てつかせてこちらの動きを阻害してきた。
これも良く知るフェリシアには出来なかった芸当だ。
ミリエステには必要最低限の阻害解除をお願いし、
俺は再び飛んできた黒紫の矢を浄化し威力を落とす。
「クライヴさんは手を抜いてくださいね。
さっきの女性の様に手加減無しだとまた壁のシミになっちゃいますから」
「ちっ、こりゃ骨が折れるな。
魔神族ってのはこんな厄介な能力を持ってやがんのか…」
さっき隷霊のマグニが乗っ取っていた女性に比べれば、
流石にフェリシアもヒューゴもレベルは高いしステータスだって高水準だ。
それでも後衛である事には変わらないので防御力に不安があるのも事実であって、
クレイヴさんの一撃の結果を見たあとで仲間にも同じ末路を感じるのは仕方ないことだ。
とはいえ、光属性の魔法を当てれば黒紫のオーラも祓えることは実証済み。
俺はやる事に変更はない。素早く浄化してダンジョンをクリアする。
制限時間は10分。それが彼らを[蘇生]出来るチャンスタイムとなる。
動揺はあるし、仲間に剣を向けるにしてもこれは訓練ではないから、
どこまでやっていいのかという不安もあって力加減が抜けがちになってもいけない。
「いくぞ!」
「近寄らせるわけないでしょ~」
「逃がすわけもないよなぁ!」
ヒューゴには俺とクライヴさんが、フェリシアにはマクラインとミリエステが。
ともかく手札は知っていても威力や規模や運用にここまで違いがあってはジリ貧は免れない。
先の逃げるスピードも牽制の矢も油断ならない速度と反射神経にキモが震えた。
「あら美味しい隙ありぃ~。《レイボルト》」
「があああああっ!?」
「ヒハハァ~!《強弓》」
「クライヴさん!!」
それはヒューゴだけではなくフェリシアも同様に魔法の発動が極めて早まっており、
ヒューゴへの手出しを躊躇して逃げ道を塞いだクライヴさんの刺客から一筋の雷が走り彼の体に硬直時間を与え、
その隙にヒューゴが凄まじい手さばきで矢を番えるとそのままクライヴさんを支柱のひとつに縫い合わせた。
「ヒューゴッ!!今すぐ体を取り戻せ!ヒューゴッ!!!」
「勇者って甘いわねぇ~、キヒヒ。
この男が目覚めることはないわぁ~、何故なら精神いっぱいにワタシが詰まっているんですものぉ~!
キヒヒャハハハハハ!!!!魔力が回復する隙間がないなら生き返る事も出来ないのよぉ~っ!!」
声を再び掛ける。時間もない。
しかし無情にも返事はヒューゴの声音をしてはいても中身が別人であり、
ついでに俺たちの儚い希望も否定してくる。
「メリオ!こちらもあまり保たない!!」
「魔法だけじゃないわ!
レベルに見合わない身体能力も持ってて、杖の殴打でマクラインの大盾が凹むわよ!!」
フェリシアの方は辛うじてミリエステが魔法を相殺している様だが、
相殺に見合う魔力を消費している為か顔色が先にみた時よりも幾分も悪くなっている。
マナポーションを飲む暇もないほどの攻防の隙に時折魔法がこちらに飛び、
ヒューゴもマクライン達へ向けて矢を射る。
『メリオ!』
「《クラッシュハンマー!!》」
ヒューゴの弓での殴打に盾が力負けした挙句に無防備になった俺にヒューゴが矢を番えた瞬間。
土煙の中から飛び出てきたクライヴさんの技でヒューゴは吹き飛ばされ一命を繋げることが出来た。
「クライヴさん!その腕……」
「あぁ…、使い物にならなくなったから置いてきた。
もう手加減していられるとも思わんが、勇者の判断を尊重はしたい。どうする?」
戻ってきたクライヴさんの左腕の肘から先が無くなっていた…。
後から聞いた話だけど、先の強弓を回避しようと足掻いた結果運悪く肘の骨を直撃して破砕。
衝撃も酷くて筋肉も千切れて自由に動かすことも出来なかったため、プラプラするくらいならと自身で最後の繋がりを絶ったそうだ。
「ヒューゴもフェリシアも助けたい気持ちに嘘偽りはありません。
勇者なら仲間を見捨てない。絶対に助けるまで諦めない……でも」
この世界は物語の様に都合よく展開することはない。
俺たちがモタついている間にダンジョンの外でも戦いは続いていて人々は傷付きながらもすべてを終わらせるために必死に戦って居るんだ。
俺が突然魔神族に有効な技を閃くことも、エクスが真の力を発揮することも、奇跡的に援軍が現れることもない。
これが現実。これが…俺の…勇者の物語……。
体感だけど、時間も7分くらい過ぎた頃かな…。あの強さを相手に試行錯誤するには時間が無さ過ぎた。
死者蘇生のタイムリミットまで後3分で2人から魔神族を抜いてダンジョンから脱してクレシーダ様に頼るにはどう頑張っても……。
それにクライヴさんもこのまま放っておけば出血多量でHP全損も有り得る状況だ。
すまない……。友よ…。
「最善を尽くします。連携でヒューゴを殺せますか?」
「……隙さえ作ってくれれば命を賭してでも任されてやる。
このザマじゃあ一矢報いるのが精いっぱいだからな…」
「お願いします…。 エクス!!」
『《ワイドサンクチュアリ!!》』
「マクライン!ミリエステ!全力でフェリシアを抑えてくれ!」
「「応!」」
覚悟を決めて駆け出した先から矢が複数向かってくる。
それらを冷静に見極めて必要最低限の防御と斬り払い掠る物は無視して突破する。
「やっぱりこの体じゃ出来ることも少ないわねぇ~!」
徐に上段へ上げられる弓は黒紫のオーラを強めていく。
見覚えのある構えと気配に次に起こる結果を予測して声を張り上げる。
「足元警戒!魔力をすべて持っていかれるぞ!!」
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「ぐっ!おおおおおおおおおっ!!」
狙われたのはクライヴさんだった。
弱っている所を狙うのは戦闘の常とはいえその所業に不愉快になるのは仕方ない。
彼は掠りながらも足元から生えた黒紫の剣身を回避して俺の後を追ってくる。
「《輝動!》」
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「アヒャヒャ!その程度でぇ~」
「《セイクリッドセイバー!》」
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隷霊のマグニが精神体であればヒューゴの体を殺しても実質マグニを倒せたとは言えないだろう。
それでもマグニに蝕まれた者が助かる方法があるとすれば、肉体を滅ぼしてでも解放してあげることくらいだからこそ…っ!
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ヒューゴが抵抗する前に突き刺した聖剣が聖なる爆発を起こして彼を守る黒紫のオーラを剝ぎ取った瞬間。
詰め寄ったクライヴさんは胸元に刺さるエクスカリバーを避けるようにして抱きしめる仕草でヒューゴの体を薙ぎ払い、
腕が通過したヒューゴの体は文字通りえぐり取られていた。
初めからそこには何もなかったかのように綺麗な断面で内臓や筋肉や骨が見え、
ヒューゴの上半身が斜めにズレ落ちていくのを俺は瞳に焼き付ける。
クライヴさんの腕からはヒューゴの一部だった物が小さく握り固められ、その手から床へと零れ落ちる音が耳の奥までこびり付いた。
込み上げる感情に呼吸が浅くなる。
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感情をすべて無理やりに飲み込んでクライヴさんと共に踵を返す。
「《フレアーヴォム!》」
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その爆風や殺しきれなかった魔法の影響はマクラインが大盾で受けてダメージを抑えていた。
「二人とも待たせた!」
「ヒューゴを何とか出来たのか!?」
「それよりミリエステの顔色が悪い、MPが切れかけているだろ。
ここからは俺たちが前に出て対応する!」
「メリオ…。すみません……」
戦闘前にMPは全回復させてから戦いは始まったはずだけど、
相殺させるために通常よりも魔法に魔力を注いだ所為でこの短い時間で枯渇寸前まで追い込まれていた様だ。
「動きを抑える」
「お願いします。
マクラインはミリエステの守りに付いてくれ!」
「あぁ!頼むぞ!」
下がった二人はすぐにヒューゴの事に気が付くだろう。
彼らだって俺と同じ様に長い時間をヒューゴとフェリシアと過ごしてきたのだ。
もしかしたら…いや、確実に彼らには責められるけれど、
俺だって今もあの選択が正しかったのかなんてわからない。
これからフェリシアも殺すことを直視すると覚悟が揺れる。
『一緒ですから』
「ありがとう…、エクス!」
ブレた覚悟をエクスが包み込んでくれる。
一緒に背負ってくれる。味方になってくれる。
後悔は絶対にするし今後の事を考えれば鬱になってしまいそうだけど、
仲間を見殺しにするなんて納得は出来ない行為だけど…。
「貴女を倒します!フェリシア!」
「勇者に仲間を殺す覚悟があったのは想定外だったけれど~、これはこれで面白くなったかしらぁ~?」
素早く接近したクライヴさんの拳を避け杖での殴打で反撃をするけどそれは空を切り、
さらに追撃で蹴り技を連続で放つもののすべて杖で捌かれる。
「《ウインドブラスト!》」
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発生した複数の風弾は視覚的にはどこにあるか全く見えない。
しかし、各魔法の初動は対処出来るようにと覚えたので、
ある程度風弾が発生する位置に予想を付けて発射される前に破裂させた。
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大量の濃厚な冷気に対抗するための魔法をエクスが代わりに撃ってくれ、
俺はフェリシアの動きを止める魔法を発動させた。
クレイヴさんはスキルを使用して今までで一番の速度を持ってフェリシアの背後に回った様だけど、
冷気の全てを無効化出来ていない状態で突入したため、凍てついた体は動きに耐えられずに皮膚が裂け失った腕の傷が大きく広がる中、
残った腕でフェリシアの頭を固める。
「キヒヒヒヒヒヒヒ~」
「《ライト…エクスカリバー!!》」
最後に歪に笑うフェリシアの顔を見たあとは光に包まれ、
彼女とクライヴさんはエクスカリバーの奔流に飲み込まれる。
その光の向こうからは尚もフェリシアの笑い声が聞こえていたものの、
途中に「ゴキッ」と音が響いてからはその笑い声もピタリと止まった。
折れそうな心を必死に支えて周囲の警戒に意識を向け、
仲間を見殺しにした現実から少しでも目を背けたかった。
事前に使用していた[ワイドサンクチュアリ]のおかげで、
隷霊のマグニが再び仲間の身体を乗っ取る事は防げているものの本当に終わりなのか判断も付かず身動きできずに少しの間周囲を見回すが何も起きる気配はなかった。
そして、フロアの中心に黒く輝くオーブが現れた。
「終わっ…た……?」
「入口の霧も消えている。ボス戦が終了したと見て間違いないだろう」
経験豊富なクライヴさんも近くまで寄って来てそう言ってくれた。
その肩には動かなくなったフェリシアの死体が担がれている。
辛い戦いが終わった…。
そう、認識した瞬間に俺の膝から力が抜け床に倒れ込んだ。
『メリオ!もう我慢の必要ありません。良く、良く頑張りました…』
「我慢…?も…う……」
剣から人の姿に変わったエクスが俺を抱き留め優しい言葉を掛けてくれる。
その温かさと本当に戦闘が終わったことが身体と心に広がると、
俺の覚悟は呆気もなく決壊して後悔の波に押し流されるままに滂沱と共に聲が溢れ出した。
「——あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!
お”れがっ!お”れ”が~~!殺したあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」
マクラインもミリエステもエクスに縋り泣く俺の傍に戻ってきたのに俺を責めない。
代わりに寄り添い、共に涙を流してくれる。
「俺たちの力が足りないばかりに、辛い選択をさせてしまってすまなかった…」
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