特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
252 / 458
閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -56話-[|瘴鬼《デーモン》と瘴気精霊③]

しおりを挟む
 こっちに小さな娘が居ることを認識してか、
 俺の言葉通りにすぐに股間の紳士をズボンを履くことで隠したおっさん。
 自己紹介されたその名は[セプテマ=ティターン=テリマーズ]。

 土精使いって前情報だったからまさかとは思っていたけれど……。

「あんた、剣聖けんせいか?」
「おぉ!私は未だ剣聖けんせいと俗世は認識してくれているのか!」
「こんな辺鄙な島で繋がって来るとは思ってなかったけど、マジか…」

 剣聖けんせいセプテマ=マーズテリア。
 アルシェの話やギルドの話で時々伺ってはいたけれど、
 確か修行馬鹿で10年以上は姿を見ていないのでどこぞの山奥で修行中と言われていた御仁。
 年齢は52歳。この島に流れ着いた時期から考えれば計算は合うから本当の話なのだろう。
 歳の割に筋肉も付いているし何より白髪も混ざっていてもアンチエイジングされた顔つきも信ぴょう性に拍車をかける。

「さっきまで瘴気に類する生物が肉体に入り込んでいましたけど、
 今はどのような感覚ですか? 全部出ているんですか?」
「うむ。意識も久しぶりにはっきりしているし動きに関しては問題は感じられない。
 ただ、この腹に広がる皮膚の変化は自分でもわからぬな」
「セプテマ氏に現状何が起きているか私達も分かっていませんが、
 至急対処が必要ないのであれば先に土精の対応をしましょう」
「であるな…。あの小さな娘もそちらの仲間なのだろう?
 精霊共々迷惑を掛けてすまないな」

 剣聖けんせいと少々言葉を交わす間にもタルテューフォはしっかり土精を抑えて戦ってくれていた。
 瘴気混じりとはいえ、タルのステータスが極大DOWNしているとはいえ、
 精霊単体でここまで戦えるってことは水精ポシェントと同等かそれ以上の戦闘力を持っている証。

「タル!抑え込むからこっちに誘導しろ!」
「お任せ、うおっ!だよっ!」
「俺たちが抑え込んだらすぐに声掛けをお願いします」
「心得た」

 タルと戦いながらこちらに寄って来た土精だが、
 敵愾心ヘイトが完全にタルに向いていて一切俺たちに目を向けることも無かったので、
 簡単に背後に移動でき、遠慮なしに振り回されるハンマーの動きに注意しつつそのまま押し倒して捕縛に成功した。

『《タンジェリンバインド!》』
『《フレイムチェーンバインド!》』
『《ライトリングバインド!》』

 ノイとフラムとベルの3重の拘束魔法で縛り付けに成功したが、
 それでも暴れればミシミシと軋み音が聞こえる程度には子供たちと位階の差がある上位土精。
 シンクロしていようが同じ土精のノイの拘束は容易く解除されるだろうし、
 フラムとベルに至っては幼過ぎて強度は期待出来ない。

 1分留められれば良いと考え、
 指示通りに声掛けの為に相方の顔元へ移動を終えた剣聖けんせいに目を向ける。

「ファレーノ!私だ!思い出せ!自分を取り戻すんだっ!
 君は強いだろう!自分も瘴気に侵されながらも長い刻、私を繋ぎとめてくれたっ!
 私は知っているぞ、ファレーノ!今度は私が君を取り戻す番だっ!戻って来い!ファレーノッ!」

 セプテマ氏の感情の篭った声、一声一声にファレーノは反応を示す。
 獣の様な声音を上げ、狂化で暴れる体は拘束を解こうとしていたが、
 それもセプテマ氏の声が届く度に勢いは減衰していく。
 やがて、紅く光っていた瞳も明滅したあとにようやっと正常な様子に落ち付いて来た。

『セ…プ……テマ。ごめん…な…さい……、助…けにな……なれなかった……』
「十分助けてくれた。俺はもう狂っていない。
 ファレーノも救うために今は苦しいだろうけれど、なんとか踏ん張ってくれ!」

 衰弱が著しい土精ファレーノはセプテマ氏へ謝罪を口にする。
 所詮は想像の域を出てはいないものの、
 確かにあの状態の彼が島の中で暴れ回っていればエルダードワーフも混血も、
 もしくは竜にすら被害が広がっていた可能性すらある。

 まぁ、流石に竜が相手なら同じような結果になって……。
 いや、精霊にも取り付ける相手なのだから竜にも取り付けると考えるべきか?
 じゃあ本来の目的は竜? なんか考えれば考えるだけ面倒な事になりそうで嫌になって来るな。

水無月みなづき殿、これからどうすればいい?」
「セプテマ氏の内部に巣を作っていたのはおそらく精神生命体ではなかったからでしょう。
 逆に言えば精神生命体の精霊や竜には直接憑依することが出来る。
 だから彼女は内なる部分で常に瘴気と戦っており、その戦況如何によって黒化も後退させることは可能…、
 だと考えていますが正解と確約は出来ない状況です」

 一応土精ファレーノの肉体を観察してみた限りでは、
 受肉はしているけれど結局は仮初の肉体。
 その肉体の腹から下は瘴気に変換され、比率的には6割持って行かれている様に見える。

 人間側がこの状況という話なら精霊が[ユニゾン]して内なる瘴気を相手に共闘も出来るだろうが、
 人間は精霊を主に一体化をする事は難しい。
 唯一出来るのはアルシェとメリーの組だけという難易度の高いやり方だ。
 彼は精霊と共闘はしても精霊使いとして修業はせず剣士の修行だけを行ってきたらしいので、
 精霊使い関連のスキルは何も持っていなかった。

「少し試します。痛いと思いますが我慢してください」

 そう二人に伝えて取り出したるは光属性の剣クラウソラスを[武器加階ウェポンエヴォルト]させた、エクラディバインダー。
 その鋭い切っ先を本来の肉体と瘴気と化した肉体の境目に少し差し込む。

『――っ!!』

 身体を刺し貫かれる痛みに身を捩じらせ浅い声を漏らすファレーノだったが、
 未だバインドで拘束を続けているので痛みから逃げることは叶わない。

 浅く刺した切っ先をそのまま境界線に沿って斬り裂いていけばファレーノは殊更激しい痛みにさらに暴れた。
 結局、裂いた傷口はそのままの状態を維持し瘴気との結合は起こらなかったので、
 すぐにこの状態を処置をする方法の1つはこれにて確定した。

「いいですか、セプテマ氏。
 本来精霊は精神生命体なので傷を負った場合は自身の魔力によって自然治癒します。
 四肢を失ったとしても多く魔力を消費すればその場で再生することも可能なんです」
「……裂いた傷跡がくっ付かないのには理由があると?」

 脳筋は察しが悪いなぁ。

「すでに黒く染まった肉体は彼女の所有権を失っているんです。
 というか、瘴気に所有権を奪われた状態なので、
 すぐに助けるのであれば体は半分しか残りません」
「先ほどの説明の通りならば魔力を使えば再生するのでは?」
「四肢程度なら再生は可能ですが、
 肉体を大きく失って生き残った場合は加階が落ちることになります。
 残り具合を考えれば低の上か中の下ってところですかね……、
 数段ランクは落ちますので出会った頃よりも幼い彼女を保護し続ける必要が出ます」

 時間をかけて魔法ギルドなどの機関に協力を仰いで研究すれば安全な方法もきっと見つかるとは思う。
 だが、現時点で意識を保つのにギリギリで魔法ギルドの連中のほとんどは戦闘力を持たない純粋な研究員だ。
 そんな場所に長期間可能女を置いて問題が発生しないと考えるほど俺も頭お花畑ではない。

「今までとは戦闘スタイルも変えていかないといけない。
 他にも身の振り方次第で彼女がネックになる場合もある。
 そうなればセプテマ氏、貴方の判断や協力は必須でしょう」
「背負うさ、支えてくれた契約精霊の為だ。
 もう十分自分の可能性に目途も付いた。戦いから離れるのも一興というもの」

 笹階から離れられると俺が困るんだけどね。
 やっと見つけた精霊使いが加護も持って剣聖けんせいだなんて逃がすわけがないだろう。
 歳はかなり離れているけど今回の件を餌に仲間に引き入れるのは俺の中で決定事項。死ぬまで戦ってもらうぞ。

「では下半身の浄化を開始します。
 すぐ終わりますが痛いには痛いでしょうから声掛けなどお願いします。
 浄化後、おそらく彼女は一旦自身を造り変える為に卵になるでしょうから保護もそのままお願いします」
「承知した」

 そう言うとセプテマ氏は縛られて動かせなくなったファレーノの手を取り、
 大丈夫だのと優しく声を掛け始めた。

『ベルがやる?』
「この濃度をベルがやると痛みが長くなるからここは俺がやる」

 掲げるは光の剣。
 唱えるは魔法剣。

「《星光せいこうかがやけ!星光天裂破せいこうてんれつは!》」
『あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 光の柱が二人を包み、中からファレーノの悲鳴が上がるのを耳にしつつ、
 今日の残り時間をどう動くかと思考を巡らせる。
 彼らはタルや子供たちと一緒にエルダードワーフの村近くまで撤退してもらい、
 俺は一旦混血ドワーフの元へ向かったエルダードワーフ達の気配を追って山に入って視察してみようかな。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...