400 / 450
閑話休題 -破滅対策同盟《アルストロメリア》大報告会-
閑話休題 -109話-[世界戦力強化案、始動!]
しおりを挟む
報告会は夕方前には終わったのだが参加者の疲労が酷く溜まっていた為にその日は皆が早々に部屋に引っ込み、翌日に改めて今後の方針を決める王族会議を行う運びとなったのだ。
——翌日。
流石に兵士は参加しなかったが、王達の傍らには相談役として参加する将軍や客将の姿があった。報告会に続き精霊王やギルドマスターも参加しており、精霊と冒険者も今後の対策に参加する為の情報共有を行う予定だ。
「皆々方、疲れは取れましたか?」
ドラウグド王が席に座った王族ならびに代表と相談役の面々に問いかける。多くが苦笑いを浮かべる中で聖女クレシーダだけが元気に返事を返した。
「ドラウグド陛下のお気遣いに感謝します。私は皆様に比べて若いので随分と疲労を抜く事が出来ました。教皇様は如何ですか?」
聖女クレシーダが隣に座るこの場で一番老いている教皇オルヘルムに会話のパスを出す。
「流石に疲労の全てが抜けたわけではない。しかし、夕食と朝食が大変に美味しかったからか今はすこぶる快調ですわい」
ヴリドエンデ側がホストとして色々気遣った点は各国が理解をしていた。何より一番心労を受けているのがホスト側だったのでこれ以上話題を広げる事なくさっさと会議に移れる様に会話が回り始めた頃に宗八が到着する。
コンコンコン。
「水無月宗八殿が到着致しました!」
「入れ」
兵士が扉を開けると宗八が入室する。映像を観ただけなのにいまだに疲れが残る面々をみてニヤリと笑いながら用意された席に着いた。
「あまり王が国を空ける訳にもいかない。さっそく水無月宗八の提案を聞きたい」
ホスト国としてドラウグド王が率先して進行役を務める様だ。全員の手元にはメリーと闇精クーデルカが用意した資料が揃っていた。
「ありがとうございます。では、破滅への対抗策として私が提案するのは兵士や冒険者のステータスの底上げ方法についてです」
「それは俺達も教えてもらったダンジョンのモンスターを倒すという手段ですか?」
この度の勇者強化にも宗八が口添えしていたので勇者プルメリオは察して質問して来る。
「その通り。ただ、勇者や私達みたいに少数ではなく大勢の強化をするには色々と問題があります。特に時間関係ですね」
宗八が肩を竦めながら問題点を伝えると一様に皆が頷いた。
まず城下町にあるダンジョンであれば兵士などは休日に潜ってその日のうちに帰宅して翌日出勤出来る。しかし、遠方のダンジョンとなると移動時間に称号を獲得するまでの滞在時間などの縛りがかなりキツイ。やるにしても長期休暇を利用して仲間内でPTを組むなど細かな計画が求められる。
「先に説明しますがステータス強化方法として案内するのはモンスターや魔物の討伐系称号になります。1種類の魔物を300体倒せば2~3種類のステータスが10近く上がりますのでこれをダンジョン毎にコンプリートしていただこうと考えています」
そして、この討伐数も問題となる。
「いいだろうか?」
拳聖エゥグーリアが律義に挙手をして質問して来たので宗八は続きを促した。
「その討伐数はPTではなく一人ずつで計算されるはずだ。つまり五人PTを組んでも攻撃役に偏ってしまう。この点はどうするつもりなのだ?」
「良い質問ですね、エゥグーリア。答えはダンジョンを鍛錬用に調整する事にしました」
「ダンジョンを調整? 詳しく説明しろ」
ラフィート君さぁ……。これから説明するから慌てるなって。
「ダンジョンの最奥。人の入れないエリアにはダンジョンコアがあり、冒険者の減ったHPやMPをエネルギーに変換して魔物のリポップや宝箱の再配置を行っているんです。それを意図的に行うダンジョンマスターも居ますのでその方と交渉して調整してもらいます」
ダンジョンは管理する国の資産の扱いだ。なので、ダンジョンを管理しているつもりになっていた王族たちは寝耳に水な情報に困惑した。ダンジョンの絡繰りを知らないのだから無理も無いのだが、考えて見れば無限に資源が湧くダンジョンについて出現する魔物を調べてランク付けを行う程度で詳しい事は何も理解していない事に今更ながら思い起こす面々を眺める宗八に聖女クレシーダが問い掛ける。
「水無月さんはどこかのダンジョンを管理しているのですか? 若しくはダンジョンマスターに心当たりがあるのでしょうか?」
「私自身でダンジョンの管理はしていませんが、ダンジョンマスターの知り合いは居ます」
宗八が知るダンジョンマスターとは、闇精王アルカトラズだ。精霊王が纏まって座るエリアに白いローブを身に纏った黒いスケルトンが鎮座していた。普段はがしゃどくろの姿なのにこの度ダンジョン外に招待したらあの姿で合流して来たのだ。
「それと今回の提案はずいぶん前から草案はあったのですが実現の為に色々とギルドにも協力いただきました。その節がありがとうございました」
宗八がお礼を言うとアインス達筆頭ギルドマスターがそれぞれ手を挙げたりなど反応を返す。ギルドが把握しているダンジョン情報の確認と闇精王アルカトラズが掌握しているダンジョンのすり合わせをさせてもらう際に協力いただいた。ちなみに守護エリアを持たない闇精王がダンジョン管理の多くを担当しているのだが、他の精霊王も少数ながら守護エリア内に管理ダンジョンを所有している事が判明した為早い段階で話は通していた。
「無関係の冒険者も利用するので大きく仕様変更する事は出来ませんが、協力していただけるダンジョンマスターの計らいで一部ダンジョンを固定マップ、宝箱なし、魔物は規定数と設定いただきました。これにより実績解除の為のタイムアタックを繰り返す事が出来るようになります」
本体のダンジョンは階層ごとにマップパターンが複数存在する。
ただ、広さや宝箱設置位置の癖などがあるので慣れた冒険者であれば階段のある方向くらいは簡単に把握出来る。流石に上級ダンジョンになると癖の把握どころではないので階段捜索に時間が掛かる事になるので今回は固定マップに拘った。
宗八の説明に効率的だと納得する者が多い中で疑問を素直に口にする事を決めたラッセン第二王子が挙手した。
「何故もっと早くに実施出来なかったのかを聞きたい」
兄であるアルカイド王太子は理由に気付いている様子だが敢えて何も言わずに宗八に説明を任せた。
「今までこの世界に攻めて来ていたのは魔神族までです。この世界の人々から見て異常に強いと言っても私達が対抗出来る現実にどうしても積極性が欠けてしまいます。故に、皆さまを恐怖のどん底に落として必死に生き残る手段に縋りつく時期を見定めているうちに遅くなってしまいました」
宗八は笑みを浮かべた。楽しくて浮かべたわけではなく、予定通りに神格禍津大蛇《ウロボロス》が宗八の前に想像よりも絶望的な力を見せつけつつ姿を現し、この度の報告会で魂に刻まれるほどに恐怖心を煽る事に成功した笑みだ。世界を救う為とは言え命を天秤に掛けてどれほどのギャンブルをするのかと多くの者が別の恐怖を感じていた。
「あ、それと今回のダンジョン調整は今回だけで封印しますので参加者全員に情報を漏らせば一族郎党皆殺しにされるとお伝えください」
続けて宗八が口にした皆殺しの言葉は事も無げに発された。一瞬聞き逃した面々も二度見をする。
強くなれる方法があるのに何故積極的に行わないのかと武で鳴らしたドラウグド王が問い掛ける。
「何故秘密にするのかがわからない。強くなれるなら強くなるべきだろう?」
多くの王族や教皇はドラウグド王の言葉に同意は出来ないらしい。微妙な表情を浮かべている。それは武力で国を盛り立てる火の国は当然求めるだろうが他の国は治世を中心に盛り立てているので高ステータスは必ずしも必要では無かったからだ。
「まず、私や勇者の様な異世界人が現れる前にここまで強い者は居ましたか? 居ても拳聖や剣聖でしょう?」
「そうだな」
ドラウグド王の肯定を確認して宗八は話を続ける。
「本来この世界はその程度の強さで十分回っていたんです。将軍やS級冒険者が出張ればほとんどの魔物は討伐できる。冒険者や兵士も普通にLev,100になれば十分に戦える戦士になるんです。そこに私や勇者という外来種が登場した。今だけなんです。この世界に本来以上の実力が求められるのは……。魔王の件や破滅の件が過ぎれば火種にしかならないなら、この世界を乱す火種は今のうちに文字通り消しておかないといけない。ご理解いただけますか?」
もしもダンジョン周回で強くなる方法が残された場合、その一族は早い段階から計画的にダンジョンを巡って頭角を現す事に成る。それこそ誰もが相手にならない程の高ステータスを携えて。その者の性格によっては最悪、国を乱し世界を乱す可能性が出る。
自分がこの世界にその身を埋める事となった以上、子孫が苦労する様な事はあってはならない。
宗八の覚悟が決まった視線を受けたドラウグド王は顔を青くして頷くのが精いっぱいとなった。
「調整するダンジョンは事前にギルドに協力してもらいその町の冒険者に向けて声明を出してもらいます。世界各地のダンジョンに異常が発生しており宝箱が全く出ない事例が起こっている。この町のダンジョンもその例に漏れず異常が確認されたので宝を狙うなら別のダンジョンのある街へ一時的に活動場所を変更する様に……みたいな内容ですね」
これにはアインスが真っ先に反応した。
「構いません。いつからいつまでと事前に打ち合わせが必要ですがアスペラルダは問題ありません」
続いてパーシバルが同意を示す。
「フォレストトーレも問題ありません。冒険者の選定も済んでおります」
この言葉にフォレストトーレ国王でもあるラフィートは聞いていないぞと睨みを利かす。その視線を受けてもパーシバルは気にする様子を一切見せなかった。ダンジョン情報収集の際に筆頭ギルドマスター達には計画を話していたのでユレイアルドのプレイグも、アーグエングリンのリリトーナも次々と同意を宣言していく中で宗八と唯一親交の無かったヴリドエンデの筆頭ギルドマスターであるカルミオンは戸惑っていた。
「カルミオンさんもご協力をお願いします。ダンジョン情報は他のギルドから横流してもらったので既に揃っていますから後は貴方が積極的に協力いただけると助かるのですが……」
カルミオンは迷った末にドラウグド王に視線を送るが先ほどから青い顔で固まったまま反応を返してくれない。次に隣のアルカイド王太子へ視線を送るとすぐに気が付き頷いたのを見て返答する。
「私のところももちろん協力させていただきます。後程他国のギルドマスターには色々と話を聞かなければなりませんが……」
「ありがとうございます。あまり普通の冒険者や市場を乱してもいけませんので基本的に一ヵ月程度で調整を解除して次のダンジョンの調整が始まります。スケジュールはこの後詰めていただければ私から協力者に伝えておきます。移動距離を考えて自国のダンジョンを巡って頂く様にお願いします。ダンジョンのある町に各地を繋ぐゲートの設置も行います。あと、出来れば二人組でダンジョンアタックを推奨します」
ダンジョンの内部がPT毎のインスタントダンジョンとなるのか、複数PTが混在するインスタントダンジョンになるのかはダンジョンマスター次第になる。今回は各PT毎のインスタントダンジョンになるので魔物の奪い合いは起こらない。一国の軍団は複数あるので二軍団二万人ずつならなんとかなると聞いている。
二人組の部分ですぐに理解し正解に辿り着いたのは魔法使いミリエステだった。
「回転率を上げる為……でしょうか?」
「その通りです。この調整ダンジョンに入ダンする人間は精鋭となる必要があります。選出されるほどなのですからLev.は当然高いので後は戦闘センスを磨くのみです。だからこそのタイムアタックです。二人で出来ることに限りはありますが連携や選択肢でいくらでも周回は早くなります。精霊契約はさせる予定なので前衛は魔法の選択肢が増えますし、後衛は囲まれた際に必然的に近接戦闘術が求められます。そして、中級や上級に上がる頃にはステータスは十分に釣り合い二人でも十分に安全マージンを保ったまま攻略を進められるでしょう」
もちろん宗八が語る言葉は理想論だ。後衛が必要に迫られたからと言って近接戦が急激に上手くなるわけはないし、前衛は魔法を当てるのも大変ですぐに剣を手に前進するだろう。だからこそ中級で挫折する。魔物が連携を取り始めるので二人では上手くやらないと戦闘毎に被害が出てしまうが、ステータス上昇の影響で耐久力が上がっているのですぐに致命的な状況にはならない。一戦すれば冷静に自分達の状況を嫌でも理解する話し合いが行われる。互いが意見を出してより慎重にダンジョンを攻略して、夜に食事をしながら別グループからどれだけ早くクリアしたのか話を聞くのだ。明らかに自分達よりも早いクリアタイムを聞いて焦らない奴はいない。何故ならタイムアタックと事前に伝えているのだから。
その早いタイムでクリア出来たグループも上級で挫折するだろう。魔物の連携練度は更に上がり攻撃も鋭く強力になり、単純に数でも負けて挫折する。そこから各グループがどの様な戦術を組んで周回出来る様になるのか……。今から楽しみだ!
その後は宗八の提案と資料を元に各国で話し合いが持たれた。
宗八は質問には答えるしゲートの設置などで協力はするが、自分達の鍛錬もあるのでいつまでも強さ下々の者に構っても居られない。各国にはアスペラルダの諜報侍女部隊の様に闇精契約者を育成して、いざという時並びに他国のダンジョン遠征などに用いて欲しい事も付け加え、数日に及ぶ破滅大報告会はこれにて閉会するのであった。
——翌日。
流石に兵士は参加しなかったが、王達の傍らには相談役として参加する将軍や客将の姿があった。報告会に続き精霊王やギルドマスターも参加しており、精霊と冒険者も今後の対策に参加する為の情報共有を行う予定だ。
「皆々方、疲れは取れましたか?」
ドラウグド王が席に座った王族ならびに代表と相談役の面々に問いかける。多くが苦笑いを浮かべる中で聖女クレシーダだけが元気に返事を返した。
「ドラウグド陛下のお気遣いに感謝します。私は皆様に比べて若いので随分と疲労を抜く事が出来ました。教皇様は如何ですか?」
聖女クレシーダが隣に座るこの場で一番老いている教皇オルヘルムに会話のパスを出す。
「流石に疲労の全てが抜けたわけではない。しかし、夕食と朝食が大変に美味しかったからか今はすこぶる快調ですわい」
ヴリドエンデ側がホストとして色々気遣った点は各国が理解をしていた。何より一番心労を受けているのがホスト側だったのでこれ以上話題を広げる事なくさっさと会議に移れる様に会話が回り始めた頃に宗八が到着する。
コンコンコン。
「水無月宗八殿が到着致しました!」
「入れ」
兵士が扉を開けると宗八が入室する。映像を観ただけなのにいまだに疲れが残る面々をみてニヤリと笑いながら用意された席に着いた。
「あまり王が国を空ける訳にもいかない。さっそく水無月宗八の提案を聞きたい」
ホスト国としてドラウグド王が率先して進行役を務める様だ。全員の手元にはメリーと闇精クーデルカが用意した資料が揃っていた。
「ありがとうございます。では、破滅への対抗策として私が提案するのは兵士や冒険者のステータスの底上げ方法についてです」
「それは俺達も教えてもらったダンジョンのモンスターを倒すという手段ですか?」
この度の勇者強化にも宗八が口添えしていたので勇者プルメリオは察して質問して来る。
「その通り。ただ、勇者や私達みたいに少数ではなく大勢の強化をするには色々と問題があります。特に時間関係ですね」
宗八が肩を竦めながら問題点を伝えると一様に皆が頷いた。
まず城下町にあるダンジョンであれば兵士などは休日に潜ってその日のうちに帰宅して翌日出勤出来る。しかし、遠方のダンジョンとなると移動時間に称号を獲得するまでの滞在時間などの縛りがかなりキツイ。やるにしても長期休暇を利用して仲間内でPTを組むなど細かな計画が求められる。
「先に説明しますがステータス強化方法として案内するのはモンスターや魔物の討伐系称号になります。1種類の魔物を300体倒せば2~3種類のステータスが10近く上がりますのでこれをダンジョン毎にコンプリートしていただこうと考えています」
そして、この討伐数も問題となる。
「いいだろうか?」
拳聖エゥグーリアが律義に挙手をして質問して来たので宗八は続きを促した。
「その討伐数はPTではなく一人ずつで計算されるはずだ。つまり五人PTを組んでも攻撃役に偏ってしまう。この点はどうするつもりなのだ?」
「良い質問ですね、エゥグーリア。答えはダンジョンを鍛錬用に調整する事にしました」
「ダンジョンを調整? 詳しく説明しろ」
ラフィート君さぁ……。これから説明するから慌てるなって。
「ダンジョンの最奥。人の入れないエリアにはダンジョンコアがあり、冒険者の減ったHPやMPをエネルギーに変換して魔物のリポップや宝箱の再配置を行っているんです。それを意図的に行うダンジョンマスターも居ますのでその方と交渉して調整してもらいます」
ダンジョンは管理する国の資産の扱いだ。なので、ダンジョンを管理しているつもりになっていた王族たちは寝耳に水な情報に困惑した。ダンジョンの絡繰りを知らないのだから無理も無いのだが、考えて見れば無限に資源が湧くダンジョンについて出現する魔物を調べてランク付けを行う程度で詳しい事は何も理解していない事に今更ながら思い起こす面々を眺める宗八に聖女クレシーダが問い掛ける。
「水無月さんはどこかのダンジョンを管理しているのですか? 若しくはダンジョンマスターに心当たりがあるのでしょうか?」
「私自身でダンジョンの管理はしていませんが、ダンジョンマスターの知り合いは居ます」
宗八が知るダンジョンマスターとは、闇精王アルカトラズだ。精霊王が纏まって座るエリアに白いローブを身に纏った黒いスケルトンが鎮座していた。普段はがしゃどくろの姿なのにこの度ダンジョン外に招待したらあの姿で合流して来たのだ。
「それと今回の提案はずいぶん前から草案はあったのですが実現の為に色々とギルドにも協力いただきました。その節がありがとうございました」
宗八がお礼を言うとアインス達筆頭ギルドマスターがそれぞれ手を挙げたりなど反応を返す。ギルドが把握しているダンジョン情報の確認と闇精王アルカトラズが掌握しているダンジョンのすり合わせをさせてもらう際に協力いただいた。ちなみに守護エリアを持たない闇精王がダンジョン管理の多くを担当しているのだが、他の精霊王も少数ながら守護エリア内に管理ダンジョンを所有している事が判明した為早い段階で話は通していた。
「無関係の冒険者も利用するので大きく仕様変更する事は出来ませんが、協力していただけるダンジョンマスターの計らいで一部ダンジョンを固定マップ、宝箱なし、魔物は規定数と設定いただきました。これにより実績解除の為のタイムアタックを繰り返す事が出来るようになります」
本体のダンジョンは階層ごとにマップパターンが複数存在する。
ただ、広さや宝箱設置位置の癖などがあるので慣れた冒険者であれば階段のある方向くらいは簡単に把握出来る。流石に上級ダンジョンになると癖の把握どころではないので階段捜索に時間が掛かる事になるので今回は固定マップに拘った。
宗八の説明に効率的だと納得する者が多い中で疑問を素直に口にする事を決めたラッセン第二王子が挙手した。
「何故もっと早くに実施出来なかったのかを聞きたい」
兄であるアルカイド王太子は理由に気付いている様子だが敢えて何も言わずに宗八に説明を任せた。
「今までこの世界に攻めて来ていたのは魔神族までです。この世界の人々から見て異常に強いと言っても私達が対抗出来る現実にどうしても積極性が欠けてしまいます。故に、皆さまを恐怖のどん底に落として必死に生き残る手段に縋りつく時期を見定めているうちに遅くなってしまいました」
宗八は笑みを浮かべた。楽しくて浮かべたわけではなく、予定通りに神格禍津大蛇《ウロボロス》が宗八の前に想像よりも絶望的な力を見せつけつつ姿を現し、この度の報告会で魂に刻まれるほどに恐怖心を煽る事に成功した笑みだ。世界を救う為とは言え命を天秤に掛けてどれほどのギャンブルをするのかと多くの者が別の恐怖を感じていた。
「あ、それと今回のダンジョン調整は今回だけで封印しますので参加者全員に情報を漏らせば一族郎党皆殺しにされるとお伝えください」
続けて宗八が口にした皆殺しの言葉は事も無げに発された。一瞬聞き逃した面々も二度見をする。
強くなれる方法があるのに何故積極的に行わないのかと武で鳴らしたドラウグド王が問い掛ける。
「何故秘密にするのかがわからない。強くなれるなら強くなるべきだろう?」
多くの王族や教皇はドラウグド王の言葉に同意は出来ないらしい。微妙な表情を浮かべている。それは武力で国を盛り立てる火の国は当然求めるだろうが他の国は治世を中心に盛り立てているので高ステータスは必ずしも必要では無かったからだ。
「まず、私や勇者の様な異世界人が現れる前にここまで強い者は居ましたか? 居ても拳聖や剣聖でしょう?」
「そうだな」
ドラウグド王の肯定を確認して宗八は話を続ける。
「本来この世界はその程度の強さで十分回っていたんです。将軍やS級冒険者が出張ればほとんどの魔物は討伐できる。冒険者や兵士も普通にLev,100になれば十分に戦える戦士になるんです。そこに私や勇者という外来種が登場した。今だけなんです。この世界に本来以上の実力が求められるのは……。魔王の件や破滅の件が過ぎれば火種にしかならないなら、この世界を乱す火種は今のうちに文字通り消しておかないといけない。ご理解いただけますか?」
もしもダンジョン周回で強くなる方法が残された場合、その一族は早い段階から計画的にダンジョンを巡って頭角を現す事に成る。それこそ誰もが相手にならない程の高ステータスを携えて。その者の性格によっては最悪、国を乱し世界を乱す可能性が出る。
自分がこの世界にその身を埋める事となった以上、子孫が苦労する様な事はあってはならない。
宗八の覚悟が決まった視線を受けたドラウグド王は顔を青くして頷くのが精いっぱいとなった。
「調整するダンジョンは事前にギルドに協力してもらいその町の冒険者に向けて声明を出してもらいます。世界各地のダンジョンに異常が発生しており宝箱が全く出ない事例が起こっている。この町のダンジョンもその例に漏れず異常が確認されたので宝を狙うなら別のダンジョンのある街へ一時的に活動場所を変更する様に……みたいな内容ですね」
これにはアインスが真っ先に反応した。
「構いません。いつからいつまでと事前に打ち合わせが必要ですがアスペラルダは問題ありません」
続いてパーシバルが同意を示す。
「フォレストトーレも問題ありません。冒険者の選定も済んでおります」
この言葉にフォレストトーレ国王でもあるラフィートは聞いていないぞと睨みを利かす。その視線を受けてもパーシバルは気にする様子を一切見せなかった。ダンジョン情報収集の際に筆頭ギルドマスター達には計画を話していたのでユレイアルドのプレイグも、アーグエングリンのリリトーナも次々と同意を宣言していく中で宗八と唯一親交の無かったヴリドエンデの筆頭ギルドマスターであるカルミオンは戸惑っていた。
「カルミオンさんもご協力をお願いします。ダンジョン情報は他のギルドから横流してもらったので既に揃っていますから後は貴方が積極的に協力いただけると助かるのですが……」
カルミオンは迷った末にドラウグド王に視線を送るが先ほどから青い顔で固まったまま反応を返してくれない。次に隣のアルカイド王太子へ視線を送るとすぐに気が付き頷いたのを見て返答する。
「私のところももちろん協力させていただきます。後程他国のギルドマスターには色々と話を聞かなければなりませんが……」
「ありがとうございます。あまり普通の冒険者や市場を乱してもいけませんので基本的に一ヵ月程度で調整を解除して次のダンジョンの調整が始まります。スケジュールはこの後詰めていただければ私から協力者に伝えておきます。移動距離を考えて自国のダンジョンを巡って頂く様にお願いします。ダンジョンのある町に各地を繋ぐゲートの設置も行います。あと、出来れば二人組でダンジョンアタックを推奨します」
ダンジョンの内部がPT毎のインスタントダンジョンとなるのか、複数PTが混在するインスタントダンジョンになるのかはダンジョンマスター次第になる。今回は各PT毎のインスタントダンジョンになるので魔物の奪い合いは起こらない。一国の軍団は複数あるので二軍団二万人ずつならなんとかなると聞いている。
二人組の部分ですぐに理解し正解に辿り着いたのは魔法使いミリエステだった。
「回転率を上げる為……でしょうか?」
「その通りです。この調整ダンジョンに入ダンする人間は精鋭となる必要があります。選出されるほどなのですからLev.は当然高いので後は戦闘センスを磨くのみです。だからこそのタイムアタックです。二人で出来ることに限りはありますが連携や選択肢でいくらでも周回は早くなります。精霊契約はさせる予定なので前衛は魔法の選択肢が増えますし、後衛は囲まれた際に必然的に近接戦闘術が求められます。そして、中級や上級に上がる頃にはステータスは十分に釣り合い二人でも十分に安全マージンを保ったまま攻略を進められるでしょう」
もちろん宗八が語る言葉は理想論だ。後衛が必要に迫られたからと言って近接戦が急激に上手くなるわけはないし、前衛は魔法を当てるのも大変ですぐに剣を手に前進するだろう。だからこそ中級で挫折する。魔物が連携を取り始めるので二人では上手くやらないと戦闘毎に被害が出てしまうが、ステータス上昇の影響で耐久力が上がっているのですぐに致命的な状況にはならない。一戦すれば冷静に自分達の状況を嫌でも理解する話し合いが行われる。互いが意見を出してより慎重にダンジョンを攻略して、夜に食事をしながら別グループからどれだけ早くクリアしたのか話を聞くのだ。明らかに自分達よりも早いクリアタイムを聞いて焦らない奴はいない。何故ならタイムアタックと事前に伝えているのだから。
その早いタイムでクリア出来たグループも上級で挫折するだろう。魔物の連携練度は更に上がり攻撃も鋭く強力になり、単純に数でも負けて挫折する。そこから各グループがどの様な戦術を組んで周回出来る様になるのか……。今から楽しみだ!
その後は宗八の提案と資料を元に各国で話し合いが持たれた。
宗八は質問には答えるしゲートの設置などで協力はするが、自分達の鍛錬もあるのでいつまでも強さ下々の者に構っても居られない。各国にはアスペラルダの諜報侍女部隊の様に闇精契約者を育成して、いざという時並びに他国のダンジョン遠征などに用いて欲しい事も付け加え、数日に及ぶ破滅大報告会はこれにて閉会するのであった。
11
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。
「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。
転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが
迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる